ハリー・ポッターとオリーブの杖   作:Tohka.A

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第一の事件

 

帰寮すると後にいう「第一の事件」が起きていて、パーティーのあとのはずなのに、談話室は変な空気だった。

 

ガラハッドは、以前に“嘆きのマートル”から習ったテイクアウトの方法を三人に教えて、特にフレッドとジョージから言葉を尽くして絶賛されたあと、三人とは別れてサンドイッチを抱えてレイブンクロー塔に戻っていった。するとそこはなんだかいつもと違っていて、談話室にはけっこう人がいたけれど、これから何かゲームが催されるという雰囲気ではなく、ガラハッドは怪訝に思いながら自分の部屋に入った。

 

途端に七年生のロバート・ヒリアードが呼びに来た。

 

ガラハッドはひどくがっかりした。

せっかく開いた包みのなかの晩御飯を、一口も腹に入れる暇がなかったのだ。

 

「 すぐに集まれ。すぐに。――――すぐにという言葉は、ただちにという意味だ。 」

 

「 えー… 」

 

自分だけが呼ばれたんじゃないだけマシか。

 

ガラハッドはよくわからないまま、空きっ腹を抱えてまた談話室に戻り、ヒリアードに言われた通りに整列しにいった。部屋にはいなかったマーカスとロジャーもそこにはいて、彼らはたった今階段を上ってきたところのようだった。三人は黙って顔を見合わせると、先輩の指示に従い、揃っておとなしく前を向いた。

成人している七年生は、文字通りの大人だ。

七年監督生のヒリアードは、こうして低学年生たちを集め終えると、「姿勢を正すように」と言って、自分はさっさと忙しく男子寮へと戻っていった。

そして始まったフリットウィック先生によるご説諭は、いかにも小さな子供向けで、なんだか眠くなるような内容だった。

 

 

「 決して茶化してはならない出来事が起こりました 」

 

 

具体的には、何なのだろうか…。

 

フリットウィック先生は、「やった人は名乗り出なさい」と厳しい声で言いながら、「あなたたちの中にはいないと信じています」と繰り返し、どうも我々のなかにホシはいないらしい(こういうのは全校一斉指導だろう)のに、「一人ひとりが我がことと思って」と何度も言い、そして最終的に、「もしも今回の件で、せっかくのハロウィンパーティーの楽しい気分がいっき吹き飛ばなかった人がいたら、先生はそれがとても悲しいです。どうか自分自身を見つめ、心を改めましょう」と締めくくった。

 

ガラハッドは、とりあえず神妙にしておくが吉と理解して以降、中盤からはほとんど話を聞き流していた。

 

それというのも今のおはなしは、真面目に聞けば聞くほどイライラしてくるものだと感じたからだ。

これは、別に、「自分は心までは13ではないから」という理由では、ないような気がする。

本当に13だったときにこんなご説諭を聞かされたって、うまく言えなかっただけで、モヤモヤしたような気がする。

だってフリットウィック先生の言うことには、事実上の圧力だけが歴然とあって、結局何ひとつ具体的な情報がないからだ。

 

「 今の話を聞いて、どう思いますか、ガラハッド? 」

 

「 え? 」

 

自分は、案外顔に出るほうなのだろうか?神妙にしていたつもりだが、フリットウィック先生は名指しでこちらに話をさせた。

とても小さい声でガラハッドは言った。

 

 

「 ――――大変なことが起きたということがわかりました。 」

 

 

これ以外に他に何を言えというのか。

じぃっとフリットウィック先生が黙って続きを促してくるので、しかたなくガラハッドはぼやいた。

 

「 杖調べをしてはどうでしょうか? 」

 

「 ええっ 」

 

 

後ろから息をのむ音がした。

それも一人や二人ではなく、多くの子がこれには焦っているらしい。

するとフリットウィック先生が、たっぷりと息を吸いこんで身体を膨らませた。

 

 

「 !? 」

 

ガラハッドはこちらのほうに焦った。いつも温厚なフリットウィック先生が、今の発言に怒りを覚えたのは火を見るよりも明らかだ。まったく何が悪かったのかわからず、焦ってガラハッドは余計なことを言った。

 

「 えっっっと、何か、大きめの――――よろしくない落書きがあったんでしょう?手で描いたわけでは、ないんでしょうから 」

 

「 “落書き”では済まされません! 」

 

フリットウィック先生は短く言った。

早期解決のために協力を申し出たのにと、ガラハッドは、だんだん腹が立ってきた。

 

「 わたしは、そのようなことをする必要はないと信じています――――今の時点では! 」

 

最悪の空気でご説諭は終わった。

自室に帰っても、ガラハッドは本気で何が悪かったんだかわからなかった。フリットウィック先生は、いかにも教師っぽくて鬱陶しい。さすがに杖調べはプライバシーが赤裸々になるので、嫌な人には嫌であろうが、あんなふうに疑われつつクドクド道徳を説かれるより、さっさと疑いが晴れるほうがいいじゃないかとガラハッドは思うのだ。

モヤモヤしてしまって、いつになく雑に服を脱ぎ散らかしながら、ため息をついてガラハッドは言った。

 

「 僕、何かまずいこと言った? 」

 

「「 ――――…。 」」

 

 

同室の二人は、どちらもすぐには答えなかった。

 

ガラハッドはますます困惑した。

勢い自慢のロジャーまで慎重になるなんて、一体、本当に何があったんだろう?

 

 

「 なんか嫌な雰囲気だったよな?あの説明じゃ意味がわからないよ。誰かが、ハメを外しすぎたんだろう?いったい、何があったんだ?どうして、誰もはっきり言わないんだ? 」

 

「 なあガラハッド、お前、パーティーのあいだはどこに行ってたんだよ。お前の誕生日を祝いたくて仕方ない子たちが、ずっとお前を探してたのに。 」

 

「 そうなのか?それは悪いことをしたな。フレッドとジョージとセドリックといたんだ。ロンの杖を直すための材料を集めに。 」

 

「 へえ…。 」

 

それ以上ロジャーは何も言わなかった。サラツヤの髪を目指すべく、近頃の彼はシルクのナイトキャップにはまっている。

 

 

「 ハッピーバースデー 」

 

 

疲れたようにマーカスがそう言った。

 

「 たしかに、パーティーにはあの双子もいなかったよ。僕たち、どうせ君のことだから、きっとゴーストたちと冬の始まりでも祝ってるんだと思ってた。 」

 

「 はあ…? 」

 

「ごめんよ」と先に言われて、ガラハッドは「いいよ」としか言えなかった。

 

 

 

 

 

 

翌朝まだ寝ていたところを誰かに起こされて、薄目を開けたガラハッドはびっくりした。

頬っぺたをつついてきたのは、男子寮には居るはずのないペネロピー・クリアウォーターだったのだ。

彼女は、まだ寝間着姿で薄いピンクのガウンを着ており、四方八方に向かう巻き毛を必死で抑えていた。けれど、隠すべきところはそこじゃなかった。彼女は上から覗き込んでくるので、寝転んでいるガラハッドからは、襟ぐりからほんのり産毛のある肌と白いレースの下着がちらちら見え隠れしていた。―――いっきに目が覚めてしまった。

 

 

「 えっ!? 」

 

「 来て…ねえ、来て 」

 

 

時刻はまだ6時前だった。

 

週末のこの時間に起きてくる奴なんて、ガラハッドは精々がところ気が向いたときの自分くらいだと思っていた。

ところが談話室では今年入ってきた一年生が、耳の上に杖をひっかけ、ロバートが見たら叱りそうな場所に腰かけてお気に入りの大理石像を撫でまわしていた。

ペネロピーは、寝ぐせなんて気にする必要がない。その子の銀髪こそ四方八方にふよふよしており、銀の目はメンフクロウみたいにぎょろぎょろしている。

彼女の名は、ルーナ・ラグブット。

ガラハッドは、なんで俺と同じ目と髪の色をした朝型生活仲間が、よりによってこいつなんだろうなと思っていた。面白がったチョウによって、この子はすでに「ガラハッドの妹分」とか何とか、一部から呼ばれてネタにされている。

 

「 おはよォございまあ~~~す 」

 

ガラハッドが一応挨拶を返したのに対して、ペネロピーはルーナを無視した。

ペネロピーが急いでいた理由は、寮の入り口の扉を開けるなりすぐにわかった。

ぼさぼさヘアー界の女王ハーマイオニーが、いかにも蒼白な顔色で、ブロンズの鷲のすぐ外まで、長い螺旋階段をあがってやってきていたのだ。

野次馬するルーナを遮って周囲を穿ちながら、ペネロピーは小声で囁いた。俺だってまだ寝間着なのに、この命令はひどい。

 

「 行って。すぐによ―――監督生の言うこと聞きなさい! 」

 

「 待ってこれどういう状況? 」

 

「 知恵を貸してほしいの 」

 

と、震える声でハーマイオニー。

別に要らないのにへらへらとルーナが、自分の着ていたローブを脱いで、寝間着姿のガラハッドに着せてくれた。「これでよし」みたいな顔で、ガラハッドはペネロピーにますますせっつかれた。

 

「 え?なんて? 」

 

「 助けて。私、わたし…。ううんこのままじゃ、ハリーが、犯人にされちゃうから。来て。 」

 

なんで俺の背の丈でぴったりなんだろう?

よく見ていなかったけど、ルーナのやつ、ここまでローブの裾を引きずってきたのか?

わけがわからないままガラハッドは、ハーマイオニー手を引かれて寮を出た。早朝のレイブンクロー塔に、重厚な扉の閉まる音が不思議に反響した。

 

 

昨夜の事件のことを知ったのは、訪ねないでおこうと昨年のうちに決めていた、森番のハグリッドの小屋でのことだった。ガラハッドは顔も洗っていないのに、噂のロニー坊やと初対面してしまった。

しかもハリーとも再会した。

ハリーは、ずっと年上の子を見てくるような顔で、どちらかといかいうと気まずそうに、去年のようにこっちに馴れ馴れしくはしてこない。

勝手に敬遠していて申し訳なかったほど、ルビウス・ハグリッド氏は実によい人物で、こんな時間の訪問なのに嫌な顔ひとつせず、いかにも寝起きで引きずり出されてきたガラハッドに、冷水で濡らしたタオルでシャキッとするように気遣い、目の覚める紅茶を淹れてくれた。

おしぼりで顔を拭きながら、ガラハッドはハーマイオニーの話を聞いた。

 

「 継承者の敵…!? 」

 

語り終えてハーマイオニーは疲れたようだ。「うんうん」と何度も赤べこのように頷いて、ハリーとロンの首だってきっと疲れたに違いない。

 

「 そ、それは…随分と過激な落書きだったんだな?ああいや、落書きでは済まされないって、昨日フリットウィック先生が言ってたよ。今のは、口の誤り。それは多分、“スリザリンの継承者”という意味だよな。思想上の…。 」

 

「 思想上のって? 」

 

「 血統上の継承者というと、ゴーント家だろ?もう断絶してる。 」

 

「 そうなの!? 」

 

 

「そういう情報が欲しかった!」とばかりにハーマイオニーは、俄然勢いを手に入れテーブルを叩いた。

ハグリッド氏からとてつもないボリュームで提供されたロックケーキは、この程度の衝撃ではびくともしない。

 

 

「 それって、いつくらいの出来事?こういうのって、どう調べたらいいのかしら? 」

 

「 ―――いや、家格ではなく純粋に血筋を追うなら、逆に結構、そこらじゅうにいるかもしれない。調べるといっても、役所に戸籍謄本があるわけじゃない。あれ、イギリスってマグル界でも、戸籍ないんだっけ? 」

 

巫覡というのは女系継承だよな。

戸籍謄本にしろ家系図にしろ、女系って追いづらいから実際調べるとなるとかなり厄介だ。

いけない脱線してしまう。要は、真犯人は“自称・スリザリンの継承者”ってだけだろう。

別にスリザリンの系譜を調べる必要はない。

だって本当に犯人がサラザール・スリザリンの子孫だったら、こっそりやりとげた犯行の現場に、わざわざ身元をバラすようなことを書くまい。

「ぼくの考えたカッコイイふたつ名」的なやつでは?

ガラハッドは、ロックケーキを紅茶でふやかしながら言った。

 

「 真犯人を探したいわけだよな?イキった落書きの内容なんて、いちいち真に受けることないよ。単純に考えたら今年赴任したロックハートか、新入生のなかに犯人はいる。でもまあ、仮にも教師だしロックハートは、“そういう趣味”でもないだろうな。 」

 

「 そう!そう、そうなのよ。ロックハート先生に限って有り得ないわ!私が思うのはねガラハッド、たとえスリザリンの継承者といえども、秘密の部屋を探し当てたり開けたりするには、苦労が要るんじゃないかしらってこと。入学以来こそこそして、今年になってやっとやりおおせたのよ継承者は―――秘密の部屋の発見とその開放をね!だとしたら条件は五分よね?私たちだってそこには踏み込めるはずよ!それでね、部屋を探す手がかりは 」

 

「 君、グリフィンドールだなあ 」

 

 

フレッドとジョージみたいだ。穴を見つければ入っていきそうなハーマイオニーは、女の子でありながら勇猛果敢である。

ガラハッドは、ハリーにだけ聞こえた声の話を聞いたし、その先の蜘蛛の話も聞いた。

 

「 蜘蛛! 」

 

 

ハグリッド氏はすべてが大きい。彼はちょっと相槌をうっただけかもしれないが、慣れないガラハッドはその大声にびくっとしてしまった。

豪快にハグリッド氏は言った。

 

「 おっとすまねえ、オリバンダーの若!俺は、元気のいい生き物が好きでなあ。なかでも蜘蛛は好きなんだ。 」

 

「 左様ですか。蜘蛛ねえ…。 」

 

絶命日パーティーに謎の声、水たまり、不敵な文字、石になった猫、列になる蜘蛛・・・それがどういうことかはさっぱりわからなかったが、すがるような後輩三人の目にガラハッドは、何かを言わねばならない気がした。

 

 

「 広大な城で声と蜘蛛を手がかりに“秘密の部屋”を探すよりは、千人程度の中からその声を放てる人間を探すほうが早いんじゃない? 」

 

ハーマイオニーの頭脳には敵わない。自分に出来ることは、いま、乱読よりも早く彼女に知識を与えることか。

眉間をもみながらガラハッドは、ハグリッドの淹れた二杯目の紅茶を美味しくいただいた。

 

「 ハリーにだけ聞こえたんだろ、その声は?どういう声だったか、詳しく教えてくれるか。 」

 

「 えっ…と!ご、ごめん、うまく言えない。 」

 

「 ――――そうか。まあなんだ、言語って、普通はどう足掻いても遺伝するもんじゃない。だから、この件に関しては関係ないよ君の両親は。 」

 

「 へっ!? 」

 

「 育ちの問題。なあ君って、何の動物と話せるの? 」

 

びっくりですよね魔法界。

ダイアゴン横丁で商売をしている、イーロップふくろう百貨店の店主クラバートは、カラスというカラスと話ができるらしい。まるで“カエルの王子様”みたいな経験もあるんだそうで、そこは“鶴の恩返し”じゃないんだなあと幼いころガラハッドは、彼から話を聞いて思った覚えがある。

蛇と話せる能力だけは遺伝するらしいけど、そういえば昔話の登場人物って、大抵は魔法使いだから、誰でも普通に動物と話をする。

 

 

「 人間以外と、話をしようと思ったことは?その心を知りたいと思ったこと、共感したり助けてやろうとしたりしたことは、あるか? 」

 

「 えっ… 」

 

「 あるよな?その相手は、誰なんだハリー? 」

 

「 えっっっ、ないよ。多分ない! 」

 

「 ない?じゃあ逆に、そこらの人間とは会話したくない気分だったとかは? 」

 

おかしいな。浦島太郎は亀と話せるのに。

あれとそっくりな話が、七つの海を越えて此処イギリスにもある。

その生き物は、誰かにとっては格別の獲物だったろうに、人よりも動物の側に立って動物を助けた者は、以来異種族の声が同族のそれに聞こえて、契約等々交わすわけだ。だが、覚えていないならば仕方ない。この子は、結構日常的に誰かを心配したり強く思い入れたり助けを買って出たりしていそうだし、いちいち覚えていられないんだろう。縮みあがるハリーをじっと見つめつつ、手詰まりになってガラハッドは肘をついた。同じことをハグリッドも考えたようだ。

 

「 ハリーは優しいからなあ! 」

 

 

ビリビリと空気が震えた。

ずっと黙っていたロンが、兄からは想像できない謙虚さで言った。

 

 

「 あの…言語は遺伝しないっていうけど、昔から“蛇舌”で知られている連中はいるじゃん。それに、杖だって個人が選ばれるっていうけど、実際は継承されてる。大抵のことは、血筋で決まってるよ。 」

 

そこは、気を遣って言わなかったのに…。

どうやらロナルド・ウィーズリーは良い奴っぽいが、双子の兄たちほどの利発さはないらしい。ガラハッドはつとめて平気そうな顔で、この子の言い出したことを最後まで聞いた。

 

 

「 僕は自分の杖、使いにくいと思ったことはないけど、あれはチャーリーのおさがりなんだ。チャーリーの前は、きっとパパが使ってた。 」

 

「 そりゃあおたくが、今でも赤毛の仲良しウィーズリーズだからだよ。あの杖、たぶん君のお祖父さんが作ったものだろ?地元の森の樹で… 」

 

「 そうだよ。うちは貧乏だから、君んとこで何本も杖を買えないんだよ。 」

 

「 違うよ、トネリコはウィーズリーの守護聖樹だ。守護聖樹に育てられる子ってのは、いいんだ。芯がしっかりして、どんな樹ともうまくやってける子になるって謂われてる。 」

 

「 へええ!? 」

 

「 ――――…。 」

 

うん――――そうか。そうか、知らないのか、君は…。

君は、今時珍しく古典的な育てられ方をしている、生粋のケルトの土着魔法族なんだがなあ。

ガラハッドが思うに、そりゃあ「継承者の敵」すなわち「マグル」を廃する主張は、単純でわかりやすいけれども、諸々の面から考えて一切現実的ではないし、正直純血かどうかよりも、こういった文化的背景がどうであるか、同じ魔法族といえどもいろんなルーツがあることのほうが、この魔法界をちょっぴり複雑にさせている。

 

たとえばマルフォイ家はノルマンディーから渡ってきた貴族なので、間違いなく純血名家だが土着のウィーズリー家が遠慮するかというとそんなことはなく。

ノット家やシャフィク家なんかは、いまだにデーン人の末裔であることを誇り、北欧系とばかり結婚しているという。

その点うちなんかは古いのは名ばかりだと、地中海系なのに店主みずから銀色に目を光らせて宣伝している。

ところがそれを悪く言う人はいないから、とすると結局「良いもの」とされるのは、由緒に関係なく白人的ないでたちなんじゃないかと思う。日本人の心を捨てきれないガラハッドは、正直それが面白くない。この国の価値や美的感覚について、いまだに馴染みきれていない自覚がある。キツくってかなわないタイプが美女とされていたりするし、セクシーとされる男は大体だらしなく見える。だがこんなのは、子供に聞かせる話じゃない。それも真正面にいるハーマイオニーには、特別関係のない話だ。

彼女こそが、この集まりのホスト。ガラハッドはいろいろ思ったが、一切を黙っていた。

 

ハーマイオニーもここまで黙っていた。

 

「 部屋よりも人間、ね… 」

 

深く考え込んだあと、まるで神経質のように少女は言った。彼女はこれからその才覚ひとつで、魔法界を渡っていかなければならない。

 

「 継承者様とやらが誰かは大体わかってるの。わたし、少し前にドラコ・マルフォイに“穢れた血”って言われたわ――――あとは、犯行の証拠をつかんでやりたいだけよ! 」

 

「 えっっっ、あの子、そういうこと言う!?それも面と向かって? 」

 

「 許せないよね、あいつ 」

 

顔を歪めてハリーがテーブルを叩いた。さっきからロックケーキの重量は減っていないのに、今度の衝撃では少し崩れた。

初めて見せつけられた後輩たちの暗黒面に、ガラハッドは、イメージを壊されてちょっと硬直した。

 

 

「 …あ~ 」

 

ちょっぴりこちらに夢を見ている、セドリックのことは言えないかもしれない。

そういえばハリドラって、随分と仲が悪いんだっけ。たしかにドラコもさらっと毒を吐いていたなあと、今になってじわじわと汽車でのことを思い出した。あの笑顔に絆されてしまって、ハリーについて話をしたことは、すっかり忘れていた。知られた二年生どうし、いくら仲が悪くてもまあ勝手にしろという感じだが、今のは、年長者として黙っていられない。

 

「 ッ…君たち、日頃からそんな言葉使って罵りあってるのか?ハーマイオニー、君は 」

 

「 いいの!パパとママには言わないでね?わたし、自分で言い張ってホグワーツに来たんだもの。目一杯言い張ったのよね、ひとりで大丈夫よって―――だから、言わないでね?こんなの、解決しちゃうんだから! 」

 

「ふふ~ん」と、鼻息荒く笑っているハーマイオニー様だが、早朝のレイブンクロー塔では蒼白な顔色をしていた。

きっと、昨夜あんまりよく眠れていない。

そういうことは、白目を見ればわかる。

何と声をかけたらいいものかわからず、ガラハッドは少し黙りこんだ。

 

「 …えーっと 」

 

所在なくしていると、ハグリッド氏が控えめに身じろぎした。

黄金虫のような目と目が合って、頷かれた。

どうもこの森番はひとりの大人として、既に彼らを諭したことがあるようだ。

ガラハッドは言う言葉を決めた。

 

 

「 君とつるんでるからって、罪を着せられたわけじゃないと思うよ、ハリーは。 」

 

 

自分が新たに言えるのはこれだけだ。

すると賢いハーマイオニーは、すぐさまガラハッドの意を汲んで、ぎゅっと唇を噛み締めた。

 

「 …そうかしら? 」

 

「 そうだよ。だから、気に病むな。むしろ犯人は、君とロンの仲を裂いたうえでフィルチにハリーを目の敵にさせて、今後動きのつかない状態にしたかったんじゃないか?ロンは杖が折れてるし、君がいないんじゃハリーは木偶の坊だ。 」

 

「 ちょっと! 」

 

頬を膨らませてハリーは前のめりになった。

 

「 前から思ってたけど、君ってさ、僕のこと下に見すぎじゃない?僕だってねえ! 」

 

「 友だちを大事にしろって言いたいんだよ僕は。犯人はお前らをバラバラにしたいんだから。 」

 

ガラハッドが「黙ってろ」の意味を込めた目線を送ると、ハリーはたじろいで座りなおした。

「逆に団結してやれってこった」と、適切な声量でハグリッドが続きを繋いでくれた。

 

「 良いこと言う~! 」

 

 

と、明るい声でロン。

彼はフレジョそっくりの仕草で親指を立てた。

ハリーはまじまじと黙りこんで、ハーマイオニーは「チッ」と舌打ちだ。

 

「 マルフォイのくせにやるじゃない―――やり口が狡猾ね。負けないわ! 」

 

「 その意気その意気 」

 

冷やかしながらガラハッドは思った。

 

なるほどこいつは子供の喧嘩だな。だが魔法使いの子供って、できちゃうことがダイナミックで怖い。

やんちゃ盛りの12才たち。せいぜい俺がガキだった頃みたいに、通学路で草をちぎって、ひっつき虫投げ合っとけばいいのに。

 

人生二回目の者として、鷹揚に肘をついて苦笑いしていた。

 




■『クラバート』では魔法使いの弟子はカラスに変えられてしまいます。青春ファンタジー監獄系サンペンスみたいな話です。千と千尋の神隠しなどでもオマージュされています。
■「蛇舌」…この語や能力はハリー・ポッターシリーズオリジナルではなく、『指輪物語』からの引用でしょう。よってハリポタ世界は指輪物語世界と繋がっているということにします。
■「浦島太郎そっくりな話」…「常若の国のアシーン」です。こういった民話の「型」を「マレビト(訪問者)」や「異界」概念を語ったのが研究者としての折口信夫の功績かと思います。
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