ハリー・ポッターとオリーブの杖   作:Tohka.A

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第二の事件

 

二回目の事件が起きたのはその数週間後だった。

今度は石にされたのが人間だと聞いて、「えっ」とガラハッドは失語した。

 

 

「 ええ…っ!? 」

 

 

つい辺りを見回してしまうほどびっくりした。

レイブンクローの談話室は、いつもと同じ朝を迎えようとしているように見えた。

その朝ルーナは、大きな目を皿のように掬い上げて、出会い頭にいきなりこう言ってきた。―――聞いてよ!お兄ちゃん、友だちが石になっちゃったよう、と。

その目は、間違いなく一晩泣き続けたあとだった。別に自分は、おたくの兄貴なんかじゃないけどなと思いつつも、嘘を言っているようには見えなくて、ガラハッドはこれにどうしたものかと思った。でもこの子って、いつもよくわからないことで一人で泣いたり笑ったりしているし、この子の言うことは、どこまで真に受けるべきなのか…。

 

しかしルーナ・ラグブット曰く、このたび石化されたのはグリフィンドールのコリン・クリービーだそうで、彼は特に熱心なハリー・ポッターファンとして知られる、マグル生まれの一年生なのだ。

 

すると俄然ありそうな話だった。

クリービーはロックハートとハリーのツーショットを配っている子で、ドラコたちによく思われている筈がない。昨日ハリーとドラコが、寮対抗クィディッチで激戦を繰り広げたことは、観戦に行っていたロジャーとマーカスの口からいろいろ聞いている。

暗い想像をしてガラハッドはゾッとした。

 

 

「 …ルーナ、顔を洗っておいで 」

 

 

シーカー対決のほうは、試合としての勝者はハリーだったものの、ブラッジャーの直撃で右腕の骨を粉々にしたうえでの勝利だったらしい。

スリザリンのドラコときたら、ハリーたちグリフィンドールに勝つためなら文字通り手段を選ばなかったらしくて、一体何がお前らをそこまでさせるんだというような戦いのあと、負けた悔しさのあまりドラコは一線を越えたのだろうか?

 

いや別に、先般のように猫相手ならば、何をしてもいいと思っていたわけではないのだが…

 

さすがに、さすがに人間を対象にするのは、度を超しているんじゃないか?

 

そんなことを考えながら朝食をとりにいった。

 

 

 

 

全校生の集まる大広間の雰囲気は、たしかにいつもとはどこか違っていた。

特に出入り口から見て右端のグリフィンドール席は、いつもと違ってうるさくはないのに、いつもよりもなにか慌ただしそうに見えた。

レイブンクローの食卓は、大広間の入り口を背に左から二番目だ。

つまりスリザリンの席の隣である。

ガラハッドは、あまり出入り口でもたもたすると通行の邪魔になるので、グリフィンドールのちびっこいのの中に本当に例のカメラ小僧がいないのか確認できなかったが、ひとまずハッフルパフ生ではなくスリザリン生と背中合わせになる席を求めて、自寮の列へと向かった。

じっくりと、銀の目を走らせながら歩いた。

 

スリザリン寮の雰囲気も、今日に至ってはいつもと違う。

普段どおり落ち着いた雰囲気だが、何がどう違うとは言い表せない程度に、なにかが、昨日までとは異なっている。

今はざっと二百名ほどが皿の前に座り、白磁の器にあたたかなスープが湧きだすのを待っているが、あのプラチナブロンドは遠目にもよく目立った。ガラハッドが自寮の空き席に至るまで、歩きがてら目当ての子供をじっと観察していると、その子は、いつもどおり級友と談笑していたところをこちらの視線に気づいて、やはり天使のように目を輝かせ、腰をあげて丁寧に会釈した。

 

 

「 オリバンダー先輩、おはようございます! 」

 

「 …ああ 」

 

 

うわ~~~今は関わりたくないかも!

この子は全然、人を石に変えても悪びれていないらしいことが、熱っぽく弛緩した表情からよくわかる。

ドラコお前、マジでマジでやっちゃったのにそれかよ。諌めたいような関わりを避けたいような…。

 

…あっ、でも、この状況ってすでに、はたから見たら蛇ッ子たちによるちーっすオリバンダーぱいせんお通りでーす!?

マルフォイ家のドラコがそうしているので、周りの子も続々と腰をあげこちらへ振り向きはじめていた。

 

スリザリンの子は総じて行儀がいい。女の子たちは左右にローブを広げ、大人の真似事の会釈をした。

会話する気はないので、ガラハッドは冷淡な会釈だけして、彼らに背を向けて座った。

 

 

( …どうかしてるよな。 )

 

 

子供なのに家格を気にして、純血主義ってやつ。

その思想が、彼らをいまマトモな感覚の子たちから浮いている存在にさせ、勧善懲悪に沸き立つ鬼畜にさせている。

 

彼らは、それがマグル生まれ相手であれば、どんな加害でもとことん肯定できるらしい――――自分が、実のところ猫相手ならばかなり冷淡だったと思い知らされたように、だ。こういうのは自然と染み付いていて、なかなか自覚する機会がない感覚だ。

 

なんだかなあと思っていると、だんだん、神経が昂ってきた。

 

会話する気がないから背を向けてやったスリザリンの子供たちが、隠しもせずにこちらのことを話題にしているのだ。もしかしたら気を引きたいのかもしれないくらい、ドラコの声は大きく明瞭に響いてきた。

 

 

「 オリバンダー先輩は立派な方さ 」

 

 

本日のロジャーは無口だ。くだらない会話を求めてガラハッドが注視しても、彼は黙って大皿からポテトをとり、フォークでそれをぐちゃぐちゃにしていった。

聞き耳を立てるまでもなく、ドラコたちの会話はしっかりと聞こえ続けた。

 

 

「 最も古い家系の純血だ。スリザリンの継承者に、なるべくしてなられたと言えるよ。血統だけじゃなくて――――本当に、素敵な方なんだ!君たちはよく知らないだろうがね。僕は、あの方が次代の帝王におなりになるためなら、なんだってしようと思っている。 」

 

 

!!!?

いやいやいやいや…。

 

お前がスリザリンの継承者ちゃうんかい!!

逆にスリザリンの継承者だと名指しされて、ガラハッドは石にされた気分だった。

 

 

「 ―――!? 」

 

 

え?え?どういうこと?

動転してまったく動けないうちに、レイブンクロー席では静かな驚嘆が広がっていく。

ガタリと椅子の脚を蹴っ飛ばし、露骨な軽蔑と恐怖が混ざった目でこちらを見る者がいた。

ガラハッドは渾身の顔芸で、「ちがうちがう、ちがう」と辺りに訴えかけた。

マリエッタは、紙のように白くなっていた。

ロジャーは、ますます荒っぽくポテトを潰し続けていた。

 

 

「 そんなに?ドラコがそこまで言うなんて凄い! 」

 

 

甲高い声が響いてくる―――この声はパンジー・パーキンソン。

そう、他でもないドラコ・マルフォイが言うことだから、この話はいやに真実味が高く、信憑性がありそうに聞こえるのである!

しかもドラコのこの様子は―――つんと澄まして話すのではなく、くしゃくしゃにはにかみながら熱っぽく語る様子は――――いかにも珍しくて、誰にとっても演技だとは思えないものだった。「いつの間にお近づきになったの?」というパンジーの問いかけにはドラコは、いつもどおり「決まってるだろ?僕はマルフォイ家だ」とせせら笑った。

 

 

「 彼はレイブンクローだぞ。スリザリンの継承者が他寮生だなんてことは、あり得るか? 」

 

 

この声は誰だろう?最早耳を塞ぎたくなっているガラハッドは、意地でも振り向かないことにしているから、気になるけども知る手立てがない。

そうだそうだ俺はスリザリンじゃない!どこからどう見たってレイブンクローだぞ!

ハッフルパフ側に座っているマーカスが、猫背になりながらも目だけをぎょろぎょろ動かして、背後に来た人物を確認していた。

 

 

「 ん…、 」

 

 

するとロジャーが軽くガラハッドをつつき、ちょっとフォークで向かいにいるマーカスを示して、自分の皿に乗っているポテトの山にFと刻んだ。

マーカスも頷いた。

なるほどとガラハッドは頷いた。

マーカスとは同名であるマーカス・フリントが、スリザリンクィディッチチームのメンバーを引き連れて、ドラコたちの会話に参入したようである。話題への参加者が増えて、スリザリンテーブルはいつになく賑やかになっていった。

 

 

「 フフン―――だからこそ、ですよ。“杖持つガンダルフ”の系譜が再び世の在り方を語るには、今のレイブンクローは穢れた血が混じっていて、堕落している。選ばれし者だけによる、秘密の部屋が必要でしょう? 」

 

「 うひゃあ、たしかに! 」

 

「 “炎の継ぎ手”でもあるんですよ、あのかたは。ロックハートなんか、あのかたの足元にも及ばない! 」

 

「 わかるわドラコ。天才。天才なのよね彼って!数占いの話、聞いたことある?彼なら秘密の部屋を開けるくらい、造作もないと思うわ。 」

 

 

…あ、これは完全に自滅だな。

ガラハッドは、その事実に気づくや否や、痛烈な自己嫌悪で目の前がチカチカした。

 

た、たしかに俺はオリバンダー家のボンボンだし、先日はフラメルの名前を利用した!わざと奇抜に振舞って、自分から天才キャラを演じてきた――――だってくだらない絡まれ方をしたくないから!!!四六時中同年代と関わり続けるのは疲れるガラハッドにとって、何をしていようと 「天災」として受け流される立場は、一度経験してみるとやめられないほどに心地良い。ガラハッドは人嫌いではないけれど、しょうもない八つ当たりの対象とか、妥協としての話相手とか、ままごとみたいな恋愛の対象には、選ばれたくはない。

胸中何を思っているやら、同室生の二人は、気まずそうに黙ってスープを啜っていた。

この状況で声を出してガラハッドに話しかけてくれたのは、やはりというか、勝気なチョウだけだった。

けれども、彼女の表情は嫌悪に歪んでいた。

 

 

「 おはようガラハッド。ねえ、あなた以前数占いに苦戦する子は、マグルの問題集をやるといいって言ってたわよね? 」

 

「 あ、ああ 」

 

 

苦々しくガラハッドは眉間を指で押した。

 

言った。言った、言いました。ええそれが何か!?

九九があやしいのにいきなり魔法陣の問題に取り組もうとする子が多いから、まずは四則計算の定着を図るべきだと思って、ガラハッドはたしかにそれを言った。しかも図書室横の談話スペースで、宿題に苦しむ子たちに囲まれたときにそう言ったから、自寮生以外の子もそれを聞いていた――――血の気がひいていくのがわかった。

 

最悪だ。すっかり俺まで純血主義者だと思われていそう。

貴様ら愚鈍な者はマグル扱いがふさわしいとか、そういう意味じゃないのに。

 

「念のために訊くけれど」と、嫌味っぽく眉をあげてチョウは言った。

 

 

「 “そういう意味”だったわけ? 」

 

「 ち、違う! 」

 

「 じゃあ、お見せしておきますね? 」

 

 

彼女は足元をごそごそやり始めた。椅子の下の鞄からチョウが取り出したのは、つやつやした表紙の質からすぐにマグル製だとわかる、薄っぺらい二冊の問題集だった。

数学のワークと、漢字ドリルだ。

ガラハッドはドキッとした。チョウのこの振る舞いは、スリザリン席の奴らだってきっと見ている!チョウはそれを顔の横にかざすと、じっとガラハッドだけを見据えて挑戦的に言った。

 

 

「 私、これを気に入ってる 」

 

「 そ、そう 」

 

「 喜んでよ。あなたのオススメに従ったんだからね。いずれ星宿をやるなら―――こちらの問題集、あなたにもオススメよ。 」

 

 

ぷいっと彼女はそれを仕舞った。

つまらなそうな顔をしているけれど、耳まで赤くなっていた。

後になってガラハッドは、自分の背後から彼女が、スリザリン生たちに浴びせられていた視線に思い至った――――毅然と自分自身が振り返って彼らに対峙することが、勇気を出してくれた彼女を守る振る舞いだったのに。“その声”が上から降ってくるまで、ガラハッドは動けずにいた。

 

 

「 おい、オリバンダーがスリザリンの継承者であるわけがないだろう 」

 

「 えっ――― 」

 

 

意外な人物の介入だ。助けてくれたのはなんと、同寮五年のロイ・マスタングだった。

彼は、いま大広間に来たのだろうか。スリザリンとレイブンクローの狭間の通路に立っており、ポケットに手をつっこんでフリントたちを見下ろしていた。

ガラハッドは歓声をあげそうになった。

現金なことに、たった今初めて気がついたのだが―――――彼のローブには、ぞんざいに監督生バッヂがひっかけてあったのだ!正直これは意外だった。だって彼は昨年、監督生のロバート・ヒリアードから、談話室でよくクドクド言われていたので。

自身も監督生になったのに、マスタングの態度は相変わらず斜に構えていた。

スリザリンの席からマーカス・フリントが、椅子を突き飛ばす音を立てて胸をそりながら立ち上がった。

そのままフリントは顎をあげてマスタングを睨みまわしたので、遠くからも人目が集まった。

ガラハッドは直感した。これはいかにも相性の悪そうな二人だ。

フリントのほうが一つ上だけど、そんなことにひるむマスタングとは思えない。

それは、この少年も同じだった。優雅に着席したまま、眉を上げてドラコ・マルフォイは言った。

 

 

「 黙っていろ乞食 」

 

「 それがどうかしたか? 」

 

「 はあ? 」

 

「 おたくのなかでは、どうかせねばならんようだな?まったく、どうかしている! 」

 

 

誰も笑わなかった。ひとりでジョークを言って、マスタングはニヤリと笑った。

 

 

「 昨日オリバンダーにはアリバイがある。世の中、箒ごときに浮かれる奴ばかりだと思うなよ。こいつは昨日ずっと部屋でウィーズリーの杖をつないで、そのあと俺とポーカーをしていた。一歩も寮から出ていない。 」

 

 

そう。その通りだ。そういえばそうだった。そうそうそうそう!

首がもげるほどガラハッドは頷いた。

「ああっ」と近場の三年生たちは、みんな揃って息をついた。たしかにみんなの知る限り、寮対抗クィディッチにガラハッドが来たことはない。

高踏的な声でドラコが、マスタングの言い分を鼻で嗤った。

 

 

「 下賤め。先輩はポーカーなど―――― 」

 

「 でも、飛べるだろう?マクゴナガルにへつらってるからな! 」

 

 

マーカス・フリントが重ねて叫んだ。アニメ―ガスであるガラハッドに限っては身一つで、塔の高みからでも出入りできると言いたいわけだ。ガラハッドは一瞬ドキリとしたが、マスタングは一切たじろがなかった。

 

 

「 俺とポーカーしていたと言っているだろう?馬鹿か貴様は 」

「 なんだと! 」

 

 

この口喧嘩の勝敗は見えている。同じ出っ歯でもフリントは、ハーマイオニーとは大違いなのだ。

トロールの血が入っていそうな挙動の彼にとって、このたびは相手が悪すぎた。

 

 

「 なあフリント、“継承者”は一人だと誰が言った?犯行は単独とは限らない。だが… 」

 

 

マスタングは、高慢な笑顔でフリントの神経を逆撫でしていく。物騒な話をし始めたマスタングに、ざわ…とハッフルパフ生たちまでもがどよめいて振り返った。

 

 

「 …だが、姿だけオリバンダーに似せた何者かにアリバイをつくらせたところで、俺のポーカーの相手は務まらなかっただろうさ。知っているか?木偶では、満足に騙しあえないんだ。“ナニやら”と違ってポーカーは、お行儀を競うゲームじゃないもんでな。 」

 

 

どよめきは止まらなかった。初めから座って成り行きを注視している二寮の生徒たちはもちろん、雪崩れるように黄色ネクタイたちが立ち上がり、固唾をのんで続きを待ちはじめた。

 

「犯行」「アリバイ」という言葉は刺激的だ。

けれど、これって過剰な挑発ではない。

そうだこれは「事件」なのだ!生徒ひとりが石にされていて、犯人はどこかで平然としているのだから。

もしも「名探偵」が現れるとしたら、それは当然、レイブンクローからだ。その了解はホグワーツ中にある。

 

 

「 それって、彼は実行犯ではないという証拠にしかならないわよね 」

 

 

憤死しそうなマーカス・フリントに代わって、スリザリンから女子生徒が立ち上がった。

彼女の名前はジェマ・ファーレイ。

彼女は、マスタングよりも余程きちんとしている監督生で、後輩に優しく、決して馬鹿ではない。この状況への参戦―――他寮生からまで慕われている、彼女もまた純血主義者だったなんて!そうではないと思っていたので、ガラハッドはショックだった。

顔を歪めながらもドラコ・マルフォイはそっぽを向き、それ以上マスタングに向けて話しかけなかった。「見れば目が腐る」みたいな顔だ。

マスタングはこれにもひるまなかった。

 

 

「 そうですね。先輩は下手人に、心当たりがおありですか? 」

 

「 ないわ。そっちの言いだしたことでしょう? 」

 

「 自動泡立ち布巾を怖れる羽目になるな―――俺は、杖屋の信奉者は“洗い”甲斐があると思っていますよ。 」

 

「 あんたに何の権限があるの!? 」

 

「 ああ、麗しき同胞愛。さすがスリザリンチームは、みんなお揃いの箒を持つだけある! 」

 

「 ――――ッ 」

 

 

やっぱり、マスタングは滅法強い。

ニンバス2001の件をあてこすられて、ファーレイは顔を赤黒くした。火を噴きそうな彼女に睨まれたことで、クィディッチチームの面々―――フリントとドラコも居心地悪そうにした。それを見てやっとガラハッドは口を利けた。緊張で、喉が渇いていて、これを言うのが精いっぱいだったが。

 

 

「 僕が教唆犯だっていう証拠もないよね? 」

 

 

水を打ったような静寂のあと、洒脱にマスタングが首を竦めた。

 

 

「 そうさ。それがスリザリンの皆さんは、“スリザリンの継承者”はスリザリンの外にいるということにしたいらしいんだ!いやはやまったく、不思議なことだよ。さすが”狡猾”の寮は、目的のためならプライドをも捨てる。 」

 

「 ッッッレイブンクロー生にしては仲良しこよしじゃない!あんたたち、どうせグルなんでしょう!? 」

 

「 ほうほう。それは光栄だな?ここにおはするはあんたらの崇めるオリバンダー、ご存知の通り俺はソーホーの――― 」

 

「 ッ…犯人は単独犯だ! 」

 

 

ガラハッドは声を張り上げた。マスタングの出自の噂は聞いたことがあるけれど、助けてくれたのに言わせるわけにいかない。

ファーレイに向けて手のひらを突き出し、勢いづいて立ち上がったものの、緊張のあまり誰がどんな顔で聞いていたやら、後になってもガラハッドは全然わからなかった。ただ、このときは一生懸命に言った。

 

 

「 犯人は単独犯で、特に孤立している人だ。なぜならこれはテロリズムだから!犯人は、犯行やアリバイづくりを任せられるようなお仲間がいたら、しっぽりそいつらと秘密の部屋を秘密のままにして楽しんでるはずだろ!?それをわざわざあんな、おどろおどろしい予告をしてるってことは!!―――あー… 」

 

 

あー…えーっと、えっと、ああ、うまく言えない!

ガラハッドはぎゅっと目を瞑ってしまったが、案外ファーレイは言い返してこなかった。

 

 

「 なるほど。実際はやりあったら負けるような奴だから、正体を隠して我々を脅しているのだな?そして自分を立派に見せている、と。 」

 

 

返事をしたのはマスタングのほうだった。彼は顎をさすって、黒い目を真ん丸にしていた。

虚を突かれていたファーレイは、マスタングのほうに大きく腕を広げた。

 

 

「 まさか!人を石に変えられるのよ?犯人は絶対に上級生の、それも成績の良い人物よ!高度な魔法を使っているんだから!出会ったら私たちのほうがやられてしまうわ。 」

 

「 だが、問題は数だろう?面と向かってやりあわず、大勢でじわじわ囲めばいいのさ。いいや奴さん、既に囲まれている自覚があるわけだよ。―――こいつは面白いぞ! 」

 

 

明るい声でマスタングは言った。「ゾッとする」みたいな顔で、ファーレイはようやくガラハッドのほうを向いた。

後輩にとっては無害だが、見ての通りマスタングはこんな感じなので、大抵の同級生には手に負えないだろう。

 

 

「 キモすぎ、ゲームオタク 」

 

 

ファーレイはマスタングより二学年も上だが、その辺りの事情は変わらないらしかった。

どストレートに罵られても、彼は飄々として意に介さなかった。

 

 

「 賭けるかい?スリザリンの継承者を当てよう!近頃は、相手になる奴が少なくてな。 」

 

「 オリバンダー、あなた冴えてるわ。上級生のなかで、”ヤバいぼっち”といえばこいつ! 」

 

「 ええっと… 」

 

「 もちろん冗談よ。こんな奴がスリザリンの継承者だったら、私たち年に300日はお通夜!! 」

 

 

彼女はとうに朝食を終えていたのだろう。学生ローブを翻して、ファーレイは大広間から出ていってしまった。

ガラハッドは席に戻ったけれども、キリキリと胃が痛んで、改めて朝食をとることはできなかった。

せっかく黄金にきらめいていたのに、ビールスープは冷めきっていて、あたりはもう食事をする雰囲気の場ではなかった。

再びドラコとフリントが騒ぎ始めないのは、シミュレーションに夢中のマスタングがいつまでも背後にいるからだ。彼はガラハッドたちの頭越しに眼鏡のハッフルパフ生に賭けを持ちかけて、ヒリアードに不謹慎だと叱られていた。所属三年目にしてつくづく思うけど、レイブンクロー寮って変人が多いよな…。

 

 

「 お前がそれを言う? 」

 

 

大広間を出てすぐガラハッドがそうぼやくと、困ったような顔でロジャーはそう返してきた。

 




■「ロイ・マスタング」…漫画『鋼の錬金術師』のキャラクターです。生きて大人になれば炎の錬金術師になります。ハリポタシリーズの上級生たちは象徴的な名前が揃っているので、彼には青の似合う「野良馬・王」としてたまに登場してもらいます。前回登場した「ケルト版浦島太郎」こと「常若の国のアシーン」では、アシーンは妖精界の馬から降りた途端に老いてしまいます。他方シェイクスピアの『リチャード三世』の結末では、かつての王は死にゆきながら馬を求めますが、手に入れられた様子はありません。彼はあまりにも罪に狂っていて、“あの世”にも行けないのでしょう。
■『指輪物語』といえば灰色のガンダルフ。ガンダルフは組分け帽子みたいな帽子を被っていて、杖を持っており、ゴドリックの剣みたいな剣も持っており、ダンブルドアに似た容姿をしていて、エルフから“放浪者”と呼ばれる。彼はホビットたちが「身につけると透明になれるが、手にしたからにはエルフたちとともに不死の国アマンへ渡航するほかなくなる指輪」を手放す旅を支援する。
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