ハリー・ポッターとオリーブの杖   作:Tohka.A

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ふりかかった火の粉を無事払うことができたと思ったものの、ガラハッドを囲む状況は依然として厳しかった。

 

考えてみればそれもそのはずで、この自分ことガラハッド・オリバンダーが、世界的杖職人の弟子で、最古の純血魔法使いで――――いくらマグル生まれや半純血が狙われたところで、とことん他人事面していられる優雅なご身分であることは、ほとんどすべての魔女と魔法使いによくよく知られている。

 

ドラコ・マルフォイがスリザリンの中のスリザリンで、闇の魔法に詳しい一族の子であることも、ホグワーツの生徒は全員知っている。

 

一時間目の天文学、二時間目のルーン文字…いずれの科目でもガラハッドは、他の受講生からそっと逃げられ、二三席ほど離れて座られてしまった。

 

( え…っ )

 

え、これってアレですよね。イジメってやつですよね。

 

ガラハッドは二時間目にして、避けられているのは偶然ではないと確信したけれども、ルーン文字の受講者は大抵気が弱そうな子たちで、なんだか逃げさせている自分のほうが悪いみたいな気がした。別に「来るな」とか「キモい」とか、そういうひどいことは一言も言われていないので、今、自分は何かされているかというと、客観的にはそんなことはない。けれども嫌な気分にはなっていて、授業が終わるベルが鳴ったとき、ガラハッドは彼ら彼女らを追いかけたくないと思った。

 

このあとは昼食だからみんな大広間に行くわけだが、前方に同級生の群れを見ながら自分はぽつねんと歩き、時折チラチラ振り返られるなんて、そんなのは想像するだけでみじめだ。

 

 

「 ―――ふん 」

 

ガラハッドは鞄に綴り帳を仕舞った。今しがた全員で練習していたルーン文字のGが、代々のオリバンダー家当主のサインであることなんか、魔法界じゃ常識である。

知らんふりなんかしてても、どうせ全員こちらのことを意識しているんだ。

ガラハッドはさも普通そうに教室を出たあと、内心イライラして、一目散に踊り場の鏡へと飛び込んだ。ガラハッドを気にする子がこわごわと背後を振り返ったとき、忽然と彼はいなくなっていた。

 

その事実に息を呑んで、顔を見合わせたりするのは他寮生ばかりだ。レイブンクロー生はもう誰も、ガラハッドが鏡を使うことに驚いたりなんかしない。

 

目指せ奇人ウリック!

自分はスリザリン生じゃない。変人扱いされるの、上等!上等!上等だよチクショウ!

こういうことをするほど、「あいつはレイブンクローらしい」と人から思われるはずだ。

 

 

 

 

 

幸か不幸か三年生にとって、月曜日の午後は必修教科の時間帯だった。鏡を経由して三時間目の教室に行ったとき、ガラハッドはそこをオアシスだと感じた。

 

「 あ、いたガラハッド。どこ行ってたの?おひる食べた? 」

 

マーカスの笑顔は屈託がない。魔法史が開講される教室は広いが、そこにはいつものメンバーがいた。

 

彼ら彼女らは、改めてガラハッドを遠巻きになんかしなかった。それどころかすっかり朝のことなんか忘れたような顔で、二時間目の魔法動物飼育学がいかに刺激的だったか、ケトルバーン先生がいかにぶっとんでいるか、始業ベルの鳴るギリギリまで話をしてくれて、ガラハッドはそれに救われ、いつもよりノリよく大笑いした。なんだか、温泉にでも浸かるような心地だった。格別寂しがりやのつもりはなかったけれど、たくさんの友達に囲まれるのって、いいな。特に親しい面々が本当にいつもどおりなので、他の子たちの気配もなんとなく、朝よりは和らいだ気がした。

 

ところが、この日の講義内容はよりによってこの話題だったのである。

 

「 みなさんも知ってのとおり、ホグワーツは一千年以上も前に、偉大なる四人の魔女と魔法使いによって創設されたのであります。創設の正確な年号は不明ながら、複数史料の照合によって、一定の期間に推定できるものであります。まず手がかりとして挙げられるのが、当時の―――10世紀から11世紀にかけての、オリバンダー杖店の台帳であります。第二に、ホグワーツ城の各所に残されている、生徒の遺物や壁画の調査であります。同様に、創設者自身が遺したとされる各種の宝物も、本来であれば年代特定調査の対象とすべきなのであります。ゴドリック・グリフィンドールの剣、サラザール・スリザリンのロケット――――― 」

 

「 …ッッッ 」

 

なんで!?なんでよりによって今日!?

空気読んでくれよ!!!――――と、思うがよりによってビンズにそんなことを期待するだけ無駄であろう。彼は自分が死んでいることにすら気づいていないし、毎時間一定の速度で、一体何時代に完成させたんだかしれない自分の講義ノートを、口から催眠ガスを吐きつつ読みあげているだけにすぎない。

魔法史の授業は人気がない。ところが今日に限っては、腹一杯で気持ちのよい時間帯であるにも関わらず、かつてなくみんな授業を聞いていた。

誰もが息をひそめて、もにゃもにゃとしたビンズの声を聞き逃すまいとした。

該当の箇所が終了したとき、みんないきなり騒がしくなった。

 

 

「 っうわ~~~ 」

 

 

どっと息を吐きもどすマーカス。

ガラハッドにとっては、“これから”こそ恐怖の瞬間である。俯いたまま四方に注意をめぐらせて、毛も逆立つ勢いであちこちに聞き耳を立てていた。

 

さあ、どいつがまた俺をスリザリンの継承者へと仕立てあげる!?

頼むって、見ろよ俺のこのネクタイの色を!青いだろ!?俺ってレイブンクローっぽいだろ!?みんなの知ってる”変わり者”じゃないか!

 

「 ねえ、今のってさ 」

 

「 あの血文字の… 」

 

「 やっぱりあるのかな、秘密の部屋―――… 」

 

「 継承者の敵って、半純血も含む? 」

 

「 それよりスクイブでしょ 」

 

そのとき、ガラハッドは誰かに後ろからこつんと小突かれた。

 

「 !? 」

 

 

ケイティ・ベルだ。グリフィンドールの女子で、明るい子みたいだけど、一対一でしゃべったことはない子…。いったい、何の用だかわからず咄嗟に恐怖したガラハッドだが、彼女の口ぶりはしおらしいものだった。眉尻を垂れ下げてケイティは言った。

 

 

「 ねえお願い、次の決闘、期待してるからね?ぺちゃんこにしちゃってよ、スリザリンの継承者なんか。 」

 

「 は? 」

 

「 お願いガラハッド卿 」

 

いやそんなこと言われても…。

ところが気がつくとまるで同意するように、何人もの生徒がこちらを振り向いていた。

隣のロジャーも間近に迫って、大真面目にこんなことを言った。

 

「 そうだぜ。ガラハッド、そろそろ本気だせ。今年の“お仕置き”相手は決まりだろ?ぶっとばしてやれ。 」

 

「 え…。 」

 

「 暴れだすんだよ! 」

 

彼は無責任な割に真剣な表情だ。今ばかりはチャラいそぶりをせず、どうにも本気のようだった。

ガラハッドはうろたえた。

た、たしかに――――昨年はクィレルと、その前はマクラーゲンとみんなの前でやりあったが――――――なんで俺が連続石化犯に挑まないといけないのか意味不明だし、普通に弱いからそういうの困る。

え、もしかして俺の評判って、“変わり者”というよりは“暴れん坊”?

“ガラハッド卿”なんていじられて久しいけれども、別に自分は騎士でも決闘士でもない。

ただ代々G始まりの家に生まれちゃって、確実に迫るネタ切れのせいで英雄の名前をつけられちゃっただけの、一介の魔法使いの子供だ。

体格には恵まれていないから、腕相撲をしたらチョウにさえも負けそう。

なのにみんな好き勝手言ってくれるよなあと、良いように思われているのに気分は晴れなかった。

 

「 ちぇッ 」

 

 

ガラハッドは唇を尖らせた。

“スリザリンの継承者”にしろ“年イチ鉄拳制裁野郎”にしろ、そんなのは勝手な願望の投影じゃないか。

誰も正確にこちらを見ようとはせず、こちらの心情なんて気にしちゃいない。

見て、気にしてくれというのは甘えだろうか? 

“俺”としては少々おとなげないけれども、“ガラハッド”はこの子たちにとってはただの同級生だ。

同級生への扱い方として、どうかと思う。

 

「 なに人になすりつけてるんだ? 」

 

「 え? 」

 

ガラハッドは言ってやった。

ケイティは、ぽかんと口を開けっぱなしにした。

不思議そうだった。

 

「 クリービーのかたきをとりたいっていうなら、自分からまず証になる行動をしなよベル。僕に頼りきりじゃなくて。 」

 

「 …そうね。そうよね。もちろん、私も自分に出来ることをする――――ゴメンただあなたが純血主義者じゃなくて、ハーマイオニーとも親しいってこと、心強いなって思っただけ。夏休みの話、私聞いたから。 」

 

「 そう。あの子にとっては、日頃遠くの僕よりも、近くの君の関わりのほうが重要だと思うよ。 」

 

この憂鬱は次の授業でも続いた。

 

防衛術の教室に入ると、ケイティ・ベルとのやりとりを聞きつけたらしいグリフィンドールの面々が、アンドリュー・カークを筆頭に口々に勝手なことを言って、風呂敷を広げてまくっていた。

彼らはお祭り好きなので、ガラハッドはすっかり同志をあつめてケイティと一緒にコリン・クリービーのかたきを討つことになっていた。また、あるところではすっかり本題がどこかに行って、浮わついた女子たちが「ガラハッド卿とロックハート先生、どっちがより推せるか十番勝負~♪」みたいなことをしていた。「そのいち~顔面!」「そのに~身長!」みたいなやつだ。その口縫いつけんかいクソガキどもと、ガラハッドは震えるこぶしを握りしめて耐えた。

内心ブチギレていた。

その形相に隣のマーカスは生唾を呑んだ。彼にこんな顔をさせる猛者はレイブンクローにはいない。

 

「 しばく…女子じゃなかったらしばいてるッッッ! 」

 

「 うーん君のそういうとこ、余計に人気なんだろうね 」

 

疲れたようにマーカスは言った。

教室に来たロックハートは、そんなきゃぴきゃぴしたグリフィンドール女子たちを止めるどころか、さすがにネタ切れになりつつあった十番勝負のお題を、みずからノリノリで提供し始めた。不細工ではないけど身長低い、運動できないのはチョットネーなどと、公然と好き勝手言われるがあまり青筋をたてすぎて頭痛に苦しむガラハッドの上を、くそみたいなやりとりと黄色い歓声が飛び越えていった。

 

 

「 “笑顔”で勝負したら? 」

 

「「「「「「 ロックハート先生~~~♡ 」」」」」」

 

意外と近くからも歓声が聞こえた。

ガラハッドがぎょっとしてそちらを見ると、すっかりジルまでもが教壇から放たれる笑顔に蕩けきっていた。いつまで続くんだこれとげっそり眺めていたら、妙なところで律儀にお題はちゃんと十で終わった。

 

ロックハートに相手にされていい気になっているらしく、グリフィンドールのアネッサ・ベインが、いそいそと周りを取り仕切って叫んだ。

 

 

「 じゃあ!じゃあ、“決闘”で勝負したら!? 」

 

「「「「「「「「 ロッガックラハント先卿生!!! 」」」」」」」」

 

 

真っ二つに意見が割れた。“弁論術”の授業だったのかここはというほど、馬鹿騒ぎはもはや教室中を巻き込んでいた。

日頃は、「あの子たち“軽い”のよね」などとベインたちのことをぼやいているマリエッタが、優等生らしく立ち上がって論陣を張った。そんな勇ましさは要らないのだが…。

 

「 先生!先生には申し訳ありませんが、私は、そもそもお題の設定それ自体に問題があると考えます。決闘は一対一です!ガラハッドの凄さは、私たちを守りながら戦ったところなんです!クィレル事件のとき彼は―――― 」

 

「 エッジコム!きゃははあんた、ガリ勉なのに『トロールとのトロい旅』を読み込んでないのね!湖を渡る前の回想のシーンで、ロックハート先生は村人をトロールから守ってるのよ! 」

 

「 あいつトロールより手強かったわ。教師よ? 」

 

「 嘘。ただの“ニンニク”だったじゃない! 」

 

「 …ッ 」

 

真っ赤になったマリエッタは自滅である。

ガラハッドは呆れていた―――――絵に描いたようなキャットファイトだが、第二のハリーとドラコですか君たちはと。

話題なんて本当は何でもいいのだろう。左翼からとんでくる宿敵からの屈辱的罵りに、マリエッタはお高くとまれないでいた。ロイとフリントの言い合いも根が深そうだったし、まこと子供社会ってさわがしい。

味わうようにロックハートは顔を揺らしていた。高く眉をあげて、小刻みに左右に首を振っていた。彼に限ってはこの喧騒を、美味しく楽しく味わっているのかもしれなかった。

 

「 ミス・ベイン 」

 

ロックハートスマイルで彼は語りかけた。

 

「 私のために争うのはいけないな――――ふふん仕方ない。魔法戦士として数々の冒険をしてきた私と違って、リトル・ガラハッドはただの生徒だからね。いくら彼が決闘に興味を持っていたって、私のほうが優れているのはもちろんだ。だが私は、ミス・エッジコムの涙も見たくはない。 」

 

「 え、かっこいい!? 」

 

驚いたようにチョウが呟いた。「よもやそこらへんの毛虫よりも、ロックハートのことをかっこよく思う日が来るとは」みたいな顔だ。救われたようにマリエッタは少し微笑んだ。すとんと腰を落として、彼女はじっとこちらを見てきた。

 

「 へ? 」

 

 

ガラハッドは、嫌な予感がした。

 

「 そういうわけで、マイリトル、ガラハッド 」

 

「 げっ!!! 」

 

嫌な予感ほど的中するもので、壇上からにこやかにロックハートが話しかけてきた。

 

「 物騒な事件が続いて、後悔していないかい?私に弟子入りしておけばよかった、とね!今からでも遅くない、ぜひ君を鍛えてあげよう!―――――私と並んで表紙を飾れる存在に近づけるように、特別にね! 」

 

「 え!?いやいやいや結構です眩しいつらい畏れ多い 」

 

「 私と君の仲だ! 」

 

「 ちょっ――――ちょ、えっまさかサシで!?無理無理無理せめてみんなで!みんなでやりましょうよこれは授業なんだから! 」

 

 

「そうでしょう!?」とガラハッドは必死に主張した。意味不明。先月ああやって断ったのに、もう忘れたのかよこの鳥頭野郎!

絶対セクハラされるので、是が非でも二人きりにはなりたくない。

ガラハッドは助けを求めて、四方八方へと首を巡らせた。さいわい「みんなで」への賛同者は、すこぶる多いようだ。

 

肩を竦めてロックハートは言った。

 

「 ホグワーツの規則でね、あいにく授業で決闘は教えられないんだ。私という最高の指導者がいるのにね!けれど、放課後であれば―――― 」

 

「 あ゛~~~マクラーゲン!マクラーゲンお前も決闘習いたいよな!?ほら見てあの顔!俺だけなんてズルいですよ先生!!先生は大人気なんですからええ、ええ!!! 」

 

「 ではこうしよう!《決闘クラブ》結成だ!私から学びたい者はみんな来るといい! 」

 

「 …あ、はい 」

 

あ、はい、たしかに、それはいいかもな。ワァッと歓声が教室を揺らすなか、いきなりまともな提案が降ってきて、すとんと受容できてしまい、ガラハッドは空回りした気分だった。

 

「 ――――決闘クラブ? 」

 

ガラハッドは小さく呟いた。やがて、ぱちぱちと拍手で賛同を示した。

またたくまに拍手は教室全体に広がり、ロックハートは満足げだった。彼は片手をあげて次々にウィンクを飛ばし、鳴りやまない拍手をあちこちで波立たせていた。

 

( いいじゃん、決闘クラブ! )

 

ガラハッドは笑みを溢していた。そうそう、自分は、ずっと前から思っていたのだ――――――なぜ、この魔法界ときたら変なところで貧しくて、スポーツといえばクィディッチばかりなのか、と!ホグワーツは、教科のひとつに体育を取り入れ、もっと少年少女の心身を鍛え、精神力をつけさせるべきだ!自分がかつてそのように育てられたので、ガラハッドは、積年この学校のカリキュラムに違和感を覚えていた。

ひとしきりファンサービスを終えたロックハートに、ガラハッドは初めて期待を寄せた。―――――率直に本心を語るときの彼は、傍目には明朗快活な少年に見えた。「おおぉぉぉう」とロックハートは、ガラハッドと目が合うだけで勝手に悦び悶えた。ちなみにガラハッドは、前世では中学・高校ともに剣道部だった。

 

「 いいですね。交剣知愛!この境地を目指して、一意専心し克己心を修養するクラブにしましょう! 」

 

「 ???もちろんだとも! 」

 

斯くしてクラブは発足したのだった。

 

 

 

 

放課後、中庭に集まってある限りの破片をつないだ杖を渡してやると、ロンはこれで自分も決闘クラブに行けると飛び上がって喜んだ。もう知っているのかと問うと、貼り紙を見たのだと言う。ハリーとハーマイオニーも頷いて、「面白そう」と決闘クラブについて笑いあっていた。ロックハートの仕事は早く、フレッドとジョージ、セドリックも新クラブのことをもう知っていた。

 

したり顔でガラハッドは頷いた。

 

うんうん、わかるわかる、やっぱり良いよな運動部って!

 

ロックハートはすべての意欲ある者を受け入れると言っていたので、彼らのクィディッチとの兼部も可能な筈だ。よきよきと得心しつつもガラハッドには、少々不安なこともあった。

 

「 あー…ロン、悪いけど、欠片の足りないところはどうしようもないから、あんまり振り回さず無茶させないでやって? 」

 

 

つまり、その杖を竹刀にしたらまた折れる。

わかっているのかいないのか、ロンたちは調子よく明るい返事をして嬉しげに去っていった。

「悪いな」と苦笑しながらも、兄たちはロンを止める気がないようだった。

 

「 ま、次折ったらテープででも止めさせとこう 」

 

「 今度は完全に自業自得だしぃ? 」

 

「 まあ、そうだよね 」

 

「 いやいやテープは嫌がると思うが!?杖は 」

 

「せめて木工ボンド」とぶちぶち言うガラハッドとは違って、四年生三人はおおらかだった。それぞれがポケットに手を突っ込んでゆったりと、改めてガラハッドに繋ぎ作業への礼を言い、新クラブや既存のクラブについて話をし始めた。

ガラハッドはなんだか気恥ずかしくなって、杖の代弁者となることをやめた。

 

ハッフルパフ生たちが通り過ぎていった。

 

あの夜の冒険は四人の秘密。彼らは、セドリックがどうしてこの三人と意気投合しているやら、わからなくって不思議だという顔をしていた。

学校のスターであるウィーズリーズに、ぱりっとした襟も凛々しいセドリック。

ああ早く、身長伸びないかなとガラハッドは思った。彼らとつるんでいて、つりあうと思われる自分でいたい。どうせ今通り過ぎていった者たちにも、「一人だけちんちくりんがいる」と思われたんだろう。

セドリックが小首を傾げた。

 

「 コーラスクラブは? 」

 

「 あれは解散したらしい 」

 

「 歌なんかひとりで歌えるよな 」

 

「 前にあった百味マイムクラブは面白かったよね 」

 

「 トランプクラブってどうなったんだ? 」

 

「 ああ、それなら入ってる 」

 

遅ればせながらの参陣だ。苦笑いでガラハッドは言った。

 

「 テレンスもダニエルも卒業したから、残りのメンバーはみんなレイブンクローなんだ。だから最近は、談話室でやってる。 」

 

「 ああ、それでこの頃貼り紙を見ないんだね 」

 

「 やっぱレイブンクローのやつって、テーブルゲームが好きだよな 」

 

「 まあな。ハッフルパフのピクニック好きと似たようなもんかな、これは。 」

 

「 あははそうだね。でも良いだろう?ピクニックって飽きないよ。君たちも週末おいで!みんな歓迎するよ。 」

 

「 いいね。じゃあカードを持っていくから、一緒にやる? 」

 

「「 えー、勝てる気がしない 」」

 

珍しくセドリックとフレッドがハモった。ハモると笑いが止まらなくなる年頃だ。

小突きあいをはじめた二人をよそに、出し抜けにジョージが言った。

 

 

「 なあ、ポーカーといえばさ、アンドリューから聞いたんだけど、ガラハッド、スリザリンの継承者に決闘挑むってマジ? 」

 

「 いや…いやいや、そんなわけないだろ。それに、なんで『ポーカーといえば』? 」

 

「 だよなあ、スリザリンの継承者は、誰なのかもわからないのに!――――いやポーカーっていうのは、“勝負”と“隠し手”つながりさ。君って、あのマスタングにも認められた腕だって聞いてるから。 」

 

「 スリザリンの継承者が誰か、僕はわかってたら尚更挑まないよ。なんでわざわざ、ヤバいってわかってる奴と関わらないといけないんだ?それにさジョージ、テキサスホールデムポーカーって、決闘と違って『逃げてなんぼ』なんだ。ここぞという大一番のために、掛け金の低い勝負は負けとくのが大事。 」

 

「 そういうのがよくワカンネ。 」

 

「 やっぱり俺らはカードより決闘だわ。 」

 

「 行くよな決闘クラブ?また夜に会おうぜ! 」

 

最後のほうの二人は早口だった。校庭のほうから黒人の女子が、大きく手を降って双子たちを呼んでいたのだ。

彼女は何人ぶんもの箒を担いでいて、この寒いのに今から飛びにいくところのようだ。

「行く行く!」と叫んで、双子はこちらに手を振りながらも走り去っていった。

残されたガラハッドとセドリックだけでは、中庭は広かった。

四角く切り取られた空を、それぞれがぽつねんと眺めることになった。

にぎやかな双子と話すのは楽しいけど――――ふたりだと、元々我々はこんな感じだ。これが別に、お互いにとって苦痛ではないのだ。

 

「 あの、これは僕の考えすぎかもしれないんだけど 」

 

しばらくぼーっとしたあと、不意にセドリックが話を始めた。低い雲のそのうえにまた雲があり、冬の始めの空は多重構造で輝いている。

霜を浴びて変わった植物の香りを吸っていたガラハッドは、「ん」と生返事をした。もう、去りゆく渡り鳥さえいなかった。

クリスマスが近づいている。

 

「 その決闘の話、さっき僕も小耳に挟んだんだ。ねえ、これだけ噂になったんじゃ、犯人のほうから狙ってこられそうじゃない? 」

 

「 …というと? 」

 

「 気を悪くしないでね。君って、もしも僕が犯人だったら、邪魔になる前に消しておく存在になったと思うんだよ。ほらクラブ小説によくあるだろ。定番のストーリーで――――本人なりの思想に基づく連続犯が、予定外の犯行をおこなっちゃう展開。 」

 

「 ああ、あるある…大体そこから足がつくんだよな。 」

 

「 そうそう――――あるだろうこういうお約束展開?謎解きの定石とは別にね。あるあるだけど、笑えないなあと思って。 」

 

「 あるあるなだけにな。この場合、探偵役って君? 」

 

「 あはは、おかしいかな?ハッフルパフから探偵役が現れたら―――――ねえ僕は、“あの地図”は今後君が持っておくべきだと思うよ。自衛のためにね。今はフレッドとジョージ、どちらが持っているのか… 」

 

「 フレッドじゃないか?あの二人は、きっと交代で持つだろう。あの日ポケットに仕舞ってたのがジョージ、あれから奇数日経ってるから、今日はフレッド。 」

 

「 そういう勘が働かないんだよねえ僕は。やっぱり、君って勝負師だよ。 」

 

「 逃げ師なんだってば 」

 

「 同じだよ。一局の価値を狙ってつりあげて、最後には総取りを目指すんだろ? 」

 

「 ―――…。 」

 

…あっ!?とガラハッドは、頭の中で錠前がカチリとはまったようだった。

今、自分は初めて、本日初めてようやく落ち着いてちゃんと地面に立てていると感じる。

あらゆる物事について、「何かがちがうよな?」という感覚がずっとあったのだが、それがひとつも具体的にまとまらないうちに、今日という日は目まぐるしく過ぎていった。

 

ガラハッドは深く息を吸って、ははあと神妙な横顔のセドリックを見上げた。

 

彼は得難い人物だ。

 

目の前のことにとらわれて物が見えなくなり、呆けきった自分の隣に現れて落ち着かせてくれる。

クリスマスのたびに我々は、同じコンパートメントに乗って帰省している。あの室内のような空気を、もっと学校内でも味わえたら。

自分はもう少し、ほんの少し日頃から、使い物になるかもしれない。

 

 

目の覚めたような心地で、ただの大学生だった俺は立っている。ごく普通の学生だったからこそ、わかることがある。

この先は、誰にも言わないでおこう。恐怖は混乱を生み、恐慌は人々を狂わせるから。

我々はいま、壮大なゲームのなかにいる。生まれ落ちたときから、人はカードである定めを逃れられないのだ。

 




■「アネッサ・ベイン」は原作にはいないキャラです。ロミルダ・ベインの姉ということにしておきます。
■『指輪物語』のガンダルフはルーン文字のGを自分のサインとしました。またガンダルフは火の指輪ナルヤを持っており、これは「冷えゆく時代にあって、人々の心を再び燃え立たせ、古の世の武勇を点火せしめる指輪」です。「心を燃やせ」と炎属性はガンダルフ発祥。
■長谷雄卿草紙では「すごろく」でしたが、主人公が名手とみなされ異界の者から試されているのは、ポーカーの腕前のようです。
■かつてトランプクラブに入っていたとされるテレンス&ダニエルの苗字はダービー。ジョジョ3部からのご登場です。3人目のオリバンダーである主人公の元になっている承太郎&花京院と賭けゲームをします。「魂を賭けよう」「グッド」は名場面。
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