ハリー・ポッターとオリーブの杖   作:Tohka.A

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組み分け

 

それは、胸を打たれる光景だった。

ビロードのような黒い空に向けて、何千という蝋燭が空中に浮かび、ゆらゆらと静かに瞬いていた。

総じて見ればまばゆいほどであるのに、一つ一つの灯は寂しくて、天空を透かし暖かく宿っていた。――――御燈明だ!とガラハッドは、ハッとして息を呑んだ。

すると歓声はどこか遠くに聞こえて、地上のことどもを観察するとき、不思議に冷静な気分になった。

四つの長テーブルには上級生たちが着席し、ずらりとどこまでも金色の皿とゴブレットが置いてあった。

上座には横向きの長テーブルがあって、姿勢正しく教師たちが座っていた。

その前にまで誘導されて、教師たちに背を向けて今入ってきた扉のほうを見ると、それぞれの長テーブルの向こうには、荘厳な寮旗が垂れ下げてあるのがよく見えた。

 

 

否応なく胸が高鳴ってきた。

 

 

自分は、四寮のうちどれだろうか?どれになったとしても、あの寮旗はどれもそれぞれ美しくて、我が目指すところとして掲げるに恥じない。

 

 

( まあ、俺はスリザリンだろうけどな )

 

 

下手に思いめぐらすのは怖いから、ガラハッドは、できればさっさと名前を呼んでほしかった。

 

とはいえO始まりの苗字だから、順番は当分回ってきそうにない。

 

ガラハッドはもやもや考えた。せっかく知り合ったチャーリーとは気まずくなりたくないけど、たぶん俺は、スリザリンだよ。母親はスリザリンだったそうだし――――俺自身、生きるためには手段を選ばなかった。

 

 

四色のなかで、緑は格別に見慣れた色でもあった。

オリバンダー家はカーテンも絨毯も、翡翠色の下地に金の刺繍が這っているもので、どこでも色調が統一されている。

とはいえ、あの蛇の寮旗は俺には立派すぎる。道中フローリアンたちからも聞いたし読んで得た知識として知っているが、スリザリンは狡知と臨機の才の寮である。

 

 

( …姑息と幸運なら当てはまるんだがなあ )

 

 

帽子による歌が始まった。なんだか、どこの寮もずいぶん立派な徳目を求めてくるけれど、これといって取柄のない奴はどうなるんですか。。。薄暗い目つきでガラハッドは思った。

 

 

「 アクロイド・フローラ! 」

 

 

自らを思うと恥が多い――――伝法灌頂を受けてから召集されたから、一応はこれでも一人前の僧侶というわけであるが、諸欲は捨てられなかったし戦地では人を殺した。死にたくなかったんだよなあと、今となっては夢のように思い出される。

 

 

「 バーク・ジャン! 」

 

 

戦地は嫌なところだった。茹だるほどに暑くて、一切合切が蜃気楼のようにゆらぎ、昼も夜もわからなくて、轟音も無音も変わりなく、身体にはたちまちウジが湧いた。

やがてそれが嬉しくなった。

啜って食うと、旨かったのだ。

俺は、広島の市内でぬくぬくと育ち、その罰が当たって戦地で散々足掻き人を殺すうちに、どうもオカシクなっていき、最後には狂っていたのだと思う。 それでまあ、いろいろあって、気がついたらこのとおり死んで転生しており、三千世界のどこともつかないところにいるが、寺のほうは妹が婿をとって継いで、どうにかやっていたらいいなあと思う。共に死んだ仲間は、今頃みんなそれぞれ転生して、別世界で幸せになっているといい。

 

 

「 カドガン・カイン! 」

 

 

―――――あの帽子にはどこまで俺の中身が見えるのだろう?被りたくないな…と思っているのは、俺だけなのか。

 

 

転生しているのも、俺だけなのか?どうかな。

 

 

次々と組み分けがなされていく。待っているあいだにガラハッドは、きょろきょろと他の新入生たちを見回した。

 

これまであまりギャリック以外と話をする機会がなく、曾孫がいきなりこんなことを聞けば不気味がるだろうと思って、「あのさ俺、気づいたらなぜかこの世界に来てた元死人なんだよね」とは、言わずにきた。けれどももしかしたら、決して忘れられない死にざまのあの夫人もあの兵士たちも、今ではこちらの世界で幸せな子供になって、どこかそこらへんにいるのかもしれない。

あの食卓を見ろ!山ほどに菓子が置いてある!ここは夢の国だ。報われた夢の国だ。

そう感じながらガラハッドは、今度は広間じゅうを見回した。いつの間にか結構順番は近づいていて、今呼ばれた子は、N始まりだった。

 

 

「 ニコルズ・メアリー・アン! 」

 

 

不意に、猛烈な不安に襲われた。

 

 

もし…もしもだ。

俺だけが、このなかに紛れ込んだ人殺しだったら?

 

 

心臓が怯えすぎて、息をするのもつらい。ガラハッドがぎゅっと服を握りしめて痛むほどの動悸に耐えていると、いよいよマクゴナガル先生が大声でその名前を呼んだ。

 

 

「 オリバンダー・ガラハッド! 」

 

 

ああダメだ、進まざるを得ない!

逃げたいけど、ここで逃げ出したら俺が殺した人々の恨みは増し増すだろう。

蒼ざめたガラハッドが幽鬼のように前へと進み出ると、“組み分け帽子”が、ひくりと怯えるようにからの椅子のうえで大きく動いた。そして裂け目のような口で叫んだ。

 

 

「 レイブンクロー!!!! 」

 

「 …え? 」

 

 

まだ被ってもいないんだが?

理解の追いつかないガラハッドを尻目に、右方向から大歓声と拍手が聞こえた。

 

 

「 え…こんなのアリ? 」

 

 

「なるほど」とでも言うかのようにマクゴナガルは頷きつつ眉を上げて、次の生徒を呼び出してしまった。

何かのしくじりでなければいいのだが、こういうこともあるのだろうか?

 

ともあれ、「助かった」という思いでガラハッドは、それ以上組み分け帽子には近づかずに段上から降りた。ホッとすると逆にこう思えた。

 

 

( …なんで俺だけ中身を見てくれないんだ? )

 

 

え、だって、まあ、これ、決めつけですよね?いやいや中身見られると困るからちょうど良かったけども!!!

教職員席では小男と呼ぶにも小さすぎる男が、甲高い声で椅子のうえに立って叫んでいた。

 

 

「 当然です!当然です! 」

 

 

青のネクタイを締めた生徒たちが、雪崩れるように立ち上がってあちこちの椅子をすすめてくれた。

その顔はどれも笑顔で、誇らしげだった。

ずっと小男の声が響いていた。何やら泣き出したらしく、すっかりしゃくり声であった。

 

 

「 杖もてる賢者レイブンクロー!レイブンクロー万歳!!! 」

 

 




Aアクロイド・フローラ…アガサ・クリスティの名作『アクロイド殺し』に出てくるキャラクター。『世界探偵小説全集』(1929年)収録。一つ前の話で主人公が英国の汽車について知識を持っていたのは、図書室でこういう本を借りる子供だったからだ。

Bバーク・ジャン…米国のエドガー賞受賞作家。エラリー・クイーン・リーダー賞も受賞している。代表作は『汚れた翼』『少年たちの沈黙』

Cカドガン・カイン…英国のミステリー専門出版社

Nニコルズ・メアリー・アン…切り裂きジャックに殺された娼婦のひとり

主人公の母親の名前「グレイス」は漫画『悪役令嬢転生おじさん』から

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