ハリー・ポッターとオリーブの杖   作:Tohka.A

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先生、なんで

 

洗濯物をとりこむ主婦みたいに、マクゴナガルはひょいとガラハッドをソファに放った。

母猫に咥えられた子猫みたいな状態で、ぶらーんと吊るされてきたガラハッドは抵抗する気力もない。

仰向けに転がされて視界の正面となった天井の飾りを、ただ力なく見上げていた。

 

体に力は入らないけれど、頭はまだちゃんと動いていて――――状況ならばおおよそわかっている。

何度も通過した階段、複雑な曲がり角、静かすぎる環境。すなわちここは医務室ではない。

スネイプとの決闘後、ガラハッドは、ダンブルドアの部屋に運びこまれていた。

 

細い息をするマクゴナガルは、杖を仕舞うやいなや、両手でガラハッドの煤けた頬に触れた。

 

「 さぞ痛いことでしょう 」

 

 

彼女は、グスンと鼻を突き上げるようにして言った。

 

 

「 フォークスを呼びましょうね 」

 

途端にきびきびとどこかに行ったので、腑抜けたガラハッドはマクゴナガルの表情を確かめられなかった。

次に彼女が帰ってきたとき、彼女はダンブルドアと一緒だった。

ぼんやりと仰向けのままのガラハッドを、二人して覗き込んできたとき、ダンブルドアは金色の止まり木を持ち、むしられた七面鳥のようなヨボヨボの鳥を携えていた。

 

「 ゲッ、ゲッ 」

 

「 燃焼日が近くてのう… 」

 

彼は低い声で言った。

その立派な杖材さんは、ダンブルドアよりもはるかに長生きだろうに。

なに飼い主づらしてるんだろうとガラハッドは思った。

フォークスは自分の息をするのにすら精一杯の様子だったので、マクゴナガルは「ならば傷薬を持ってきましょう」とだけ短く言った。そのマクゴナガルの声を聞いて、ガラハッドが体を起こしてみると、もう彼女は室内のどこにもいなかった。

 

見回して気づくが、ダンブルドアの部屋は、こんな状況ではなければ眺めるにあたって非常に面白い。

 

歴代校長の肖像画は、今はみんな眠っているが、起きていたら誰と話したって面白いだろう。

ガラハッドは、どうして並みいる怪我人のなかひとり、自分が選ばれて校長室に連れ込まれたやら、大体わかるような気もするが、いまいち確信が持てなかった。

 

「 …なにか? 」

 

間近に立っている長身のダンブルドアを、掬い上げるようにして見上げて言った。

すると彼はこう答えた。

 

 

「 すまなかった 」

 

潔くも深い一言。

ダンブルドアは、スネイプはガラハッドがスリザリンの継承者ではないことを確かめようとしたのだと―――自分はこのことに責任を持つ者であり、重傷の彼の代理だと名乗って、重々しく言った。

ガラハッドはそれに穏やかに対応した。

 

 

「 へえ…。 」

 

ガラハッドはそれなりに微笑んでいたけれども、今のダンブルドア先生の一言には、なんだか却ってグサッときていた。そこは「スネイプはイカレた教師だから」とか、そんな理由のほうが、自分は嬉しかった――――自分には、都合がよかったのに。

 

「 僕はスリザリンの継承者ではありません 」

 

抑揚のない口ぶり。

ガラハッドの声は、自然と硬いものになっていった。

 

ああ見えてまともな教師であるスネイプが、手を出してきた理由は、考えてみればそれしかない。

それに、別にガラハッドはダンブルドアに信頼していて欲しかったわけじゃない。

けれど、またしても教師たちから疑われていたと思うと、どうにも気持ちがぐしゃぐしゃになって、心なしか背中の傷が痛みだすのだった。

 

最も偉大なる魔法使いは、悲しそうな目で猫足のテーブルに、不死鳥の止まり木を置いた。

 

「 ――――言いたいことがあるようじゃな? 」

 

陰鬱な顔でダンブルドアは言った。

同じくらい暗い目つきで、老いた不死鳥は「ゲッ、ゲッ」と言い続けた。

 

「 僕はスリザリンの継承者じゃない。嘘だと思うなら――――いいですよ。先生がたお得意の開心術で、また確かめてみればいいじゃないですか。 」

 

「 その必要はない 」

 

「 必要があったから、スネイプは()()んでしょう?いいですよ、貴方がやればいい。今度は浴びてあげます、おとなしくね。 」

 

「 その必要はないと言っておる。おぬしは、スリザリンの継承者ではなかろう。セブルスは不安によって誤ったが、わしは不安を抱くこともない。わしは誓って、この件でおぬしを疑ったことはないからじゃ。おぬしは絶対に、ちがう。じゃが―――― 」

 

青い瞳は、きらめかない。

 

「 ――――世間は、そうは判断せんことじゃろう 」

 

厳かな声でダンブルドアは言った。

ガラハッドは、このとき不意に「どうして俺にだけ」と、子供でもないのに、思ってしまった。

 

「 …そうですか 」

 

 

寂しい声が響いた。

ひどいな、絵に描いた神様みたいなあの表情で、俺にだって少しは、優しくしてくれたっていいのに…。

疑われる理由も突き放される理由も、生憎腐るほどあると自分でもわかっているのに、怪我をしているからか疲れているからか、このとき気弱になっていたので、ガラハッドは、咄嗟にそう感じてしまった。すぐに自覚した甘えは、火のような自己嫌悪になって身を焼いた。歯を食いしばりながらガラハッドは、おとなしくダンブルドアの言葉を聞いていた。

 

 

「 この魔法界には、杖授けの(わざ)を継承するオリバンダー家に、過激な純血主義者であってほしいと願う者が、昔から多くいる。おぬしは、そのような魔女と魔法使いたちから担がれて、恭しく戴かれてはならぬ―――――おぬしの母親のようにな。 」

 

「 母親? 」

 

「 左様。おぬしは、なぜ自分の組分けがああだったかわかるかね? 」

 

豊かな口髭がピタリと止まった。喉に竹刀を添えられたようだと、目を離せずにガラハッドは感じた。

 

「 …わかりません。それは、ずっと気になっていました。どうして僕だけ避けられたんだろうって。 」

 

ずきりと背中の傷が痛む。どうして、自分だけは、帽子になんの声掛けもされないままレイブンクロー寮となったのか。

そういえば自分は一年生の頃から、格別に冷遇されてきたんだという自覚が湧いてきた。

 

「 グレイスの息子だからじゃよ。おぬしの母親は、幼いうちに苦労してのう―――――ギャリック翁のもとに引き取られる前に。それで、ほんの幼い頃から、自分に寄せられる期待をよく察して、それに応えるのがとても巧かった。彼女は入学式で宣言したのじゃよ。『帽子よ、わたしをスリザリンに迎えなさい』とな。ブラック家と縁談のあった子じゃ。スリザリンに入れば、大人に褒められると思ったのじゃろう。観衆を味方につけて組分け帽子を脅した生徒は、ホグワーツ史上ただ一人。これからも、一人であってほしいものじゃが――――そのやり方自体、実にスリザリンらしい。彼女は、さみしさゆえにみずから純血主義者に抱き込まれにいったのじゃ。おぬしは、そうあってはならぬ。 」

 

言いたいことは言いきったらしい。ダンブルドアは、それきり動かなくなった。

 

「 ―――…? 」

 

 

ダンブルドアは、きっとこちらがうんともすんとも言わないことを目にとめて、観察しているが、ガラハッドは単に今の説明があまりに「とんちんかん」という意味で「予想外」だったので、ちょっと返事ができなかったのにすぎない。

なんで俺の組み分けの話だったのに、母親の話になるのか?

組み分け帽子って、個人の資質や才能を見るんじゃないのかよ。

その建前は結構あやしいと前から思っていたけれど、今の話じゃ理由は「血筋」ですらなくて、()()()()()()帽子による八つ当たりと因縁じゃないか――――ガラハッドは、ちらりと机の向こうへと鋭く目をやった。そこにはボロボロの棚があって、入学式のときに使われるあの帽子が収まっている。

 

ダンブルドアの目は真剣そのものだ。

 

ガラハッドは、母親の話題には返事をしたくなかった。

また、母親への愛を期待されているのだろうか?

ひどい、母さんは悪くないもん、母さんと一緒がよかったよとかナントカ、並の子供らしくしたら、この教師は満足するのか?

昨年「生みの母親に興味はない」と素直に言ったら、否定された。

今、こいつからの期待に応えて、「そんなあ、母さんがそんな人だったなんて。でも僕はそうなりません!」みたいな返答をしてやったら、それは、「母親そっくり」ということになるんじゃないのか?

何を言わせたいんだこの男は?

俺を否定したいだけではないのか?

 

ガラハッドは、一切が面倒くさくなってきていた。

 

「 僕の組み分けの話なんですが? 」

 

ガラハッドは苛立ちを隠さずぶつけた。ヴォルデモートを倒すためにおのれを遣うと明言する男に、何の情けが要るだろうか。怒りで、体に力が湧いてくるのを感じた。

 

 

「 僕がスリザリンに組み分けされると、困りましたか?そんなに、僕が怖いんですか?さてはあんた、アラベールのことも怖いな?まあな、歳だもんな?自分が先に死ぬからって―――――…で、僕はここで、『生涯純血主義者にはなりません』と誓約でもして帰ればいいんですかね?ああご立派な“教育”だ!最高の学校ですね、ホグワーツ!? 」

 

「 儂はおぬしを信じておる 」

 

巌のようにダンブルドアは唸る。ガラハッドは相当に気が立ってきて、右手の扉の向こうに、ぱたぱたと人の気配が戻ったのにまで気づいた。

入室の機会を得られずにマクゴナガルが、廊下から聞き耳を立てている。

ダンブルドアの声は震えていた。

 

「 ながらく、惑いながら這ってきた。儂は愚かな男じゃ。寄せ来る波に棹はさせまい。この老骨にできることはもう、“信じること”しかない。愛じゃ。愛は、すべての呪いに打ち勝つ。 」

 

「 何言ってんだあんた 」

 

「 信じる。儂は、おぬしを何によっても縛るまい。いかにもおぬしの所属寮は、“さる筋”からの意向を受けたものじゃ。そして今年、秘密の部屋が再び開かれた。じきに儂は、このホグワーツを去ることになるじゃろう。その前に、どうか今みずからの意志で、組み分け帽子を被っておくれ。去り行く校長として、儂は、おぬしに与えられなかった機会を公正に与えたい。おぬしの、本当の力を帽子が語ることじゃろう。 」

 

「 ――――!? 」

 

“本当の自分”を知りたい。

自分には、なにやら秘めた才能があって、それを知ることで劇的に道がひらける。

 

その甘美な幻想に、自意識への誘惑に―――揺らがない者はいるのだろうか?

 

愛がどうとか気持ち悪いと思うけれど、再び失語してガラハッドは、ダンブルドアの行動をじっと見つめていた。

彼は棚から組み分け帽子をとって、それを両手で持ち、ガラハッドの両手にそっと乗せて言った。

 

「 いま、初めて、被ってごらん 」

 

優しい声色だった。もう二度と、与えられないような気がしていた柔らかい微笑み。

皺くちゃの手。波のような髭。サンタクロースのような笑顔と、青い瞳――――眩暈のするような魔力がそのすべてにあって、気づくと目の前の膝の上に、組み分け帽子は置かれていた。

ガラハッドは五感を吸い込まれていた。この帽子の言葉以外、もう聞こえない。

 

本当のことを知りたい。

 

このヨレヨレの帽子は千年前、どんな姿だったのだろう?

 

 

五十年は経っていなさそうな胸花だって、あんなに褪せていたのに――――そう思うことでガラハッドは、ふと現実に帰ってこられた。

 

「 …先生 」

 

思わず口をついた言葉が、よりによって「先生」であったうえに、心細そうな感じで響いたのが癪だった。ガラハッドは強く唇を噛んで、「なんでもありません」と告げてから黙った。

自分は、本当は子供なんかじゃない。誰に頼れなくたって、やっていける年嵩なんだ。

 

組み分け帽子の権威は絶対的だ。

 

さっきは、とっさに嫌な想像をして、「先生、もしもレイブンクロー以外を言われたら、僕はどうなりますか」と危うく質問してしまうところだった。

落ち着け、これは罠である。

たとえどこに転寮となったって、通常ではありえない措置の対象となるのは、今の自分にとっては良くないことだから――――絶対にまた陰で何かを言われて、ますます立場が危うくなるから、今被れば必ず心のどこかでは、「頼むレイブンクローであってくれ」と、少なからず念じてしまう。

それが自分の意志だったということにされて、事実上、大人の期待どおりの道を選ぶ誓いを立てさせられてしまうわけだ。ガラハッドは、顔を歪めて大きく舌打ちをした。

 

 

「 ―――チッ 」

 

 

ダンブルドアめ!余裕がないらしいな?

“追い込み”のやり口が露骨だ。

ハハッ畜生、下手くそめ、貴様はいかにも、スリザリンには入れんだろうよ!

 

そんな思いでガラハッドは帽子を見つめていた。

その唇は自然と、挑戦的な笑みで彩られていた。

子供のなりゆえに、甘く見やがって。

俺を転がそうなんて百年早い。

貴様みたいな脳足りんが校長をやってるから、この学校じゃいまだにパワーゲームが続いてるんだと、なじり倒してやりたいがこの狸爺には、ろくに響かないだろうからむなしくなってくる。

 

いつまで、創設者どうしの禍根を引きずる気だ?

 

そんなの現代世代には何の関係もないのに、無理やり関係させられてるんだ、自分たちは――――こんな襤褸帽子のせいで!

ていねいな口ぶりでガラハッドは話しかけた。

 

 

「 やあ、帽子さん 」

 

剣呑な声色。けれど穏やかに帽子は返事をした。木偶の坊だからだとガラハッドは思った。

 

「 千年物ですもんね。あんた元々は、真っ赤な色だったりして 」

 

「 おおう…よくわかったね 」

 

「 へえ!ねえあんた、その声はゴドリック・グリフィンドールの声? 」

 

「 そうじゃよ。――――面白い子だ。どれどれ決め甲斐がありそうじゃ。わたしを被ってごらん。 」

 

「 ははは、ばーか。千年、子供ばっかり相手にしてさ?感覚狂ってんじゃないの。あんた、たかが死人の帽子のくせに、生きている僕に何を言おうっていうんですか。いくつか、質問してもいいですか? 」

 

ひくりと帽子は蠢いた。同意もくそもないまま、むなしいから止しておくつもりだったが、ガラハッドの怒りの堰は決壊しつつあった。

 

「 これまでで一番長いハットストールって何分? 」

 

はてどれほどだったか。千年分の生徒を振り返れば、すぐには答えられない。逡巡した帽子は、暴走し始めたガラハッドに畳みかけられてしまった。

 

「 入学式が一年続いたことってある? 」

 

「 そんな年があったら、さぞ愉快なことだろう 」

 

「 真面目に訊いてんだよこっちは!なあ、さすがに帽子でも、この世には魔力のない子供もいるのは知ってるよな?その子たちは、正しいかどうかわからないけれど自分が何を大事にして生きていくか悩んで決めるのに、学校に通いながら、相場何年かけてると思う?おたくは、その子たちの日々を無駄だと思う?千年の間に、そのことを考えたことはある?――――ないとしたら何やってきた?空っぽ帽子、あんたが、数分でお手軽に済ませてきたものは何?否定してきたものは何だ? 」

 

帽子は答えなくなった。ガラハッドは、はなから帽子になんか話しかけているつもりはなかった。

 

ずっと近くで黙りこくっている、卑怯な卑怯なダンブルドアに聞かせてやっているつもりだった。

 

いいだろう、貴様が口先だけで俺を信じるとほざくならば、俺はとことん貴様を困らせてやる。

そんな思いと前世の恨みとが、ガラハッドのなかで炎となっていた。磔刑のように老魔法使いは、ずっと俯いて立ち尽くしていた。

 

「 いいか僕は、一生あんたを被らない。あんたの指図なんか受けない。まだ何にも取り組んでないうちから、才能がどうだのとか言い合って、千年も前の創設者の諍いに巻き込まれながら、あんたの示してくる姿こそ本当の自分だってみんな信じ込んでるこの国この世界、僕からしてみればおかしい!おかしい!異常だ!どうかしてる。みんな可哀相に―――――お前のせいで! 」

 

「 ―――…。 」

 

「 おかしいんだ!僕はハロウィンの夜に生まれたから、わかるんだよ。異世界から来てるから、よくわかる。お前が偉そうにしてるこの世の中は、イカレてる。―――初めの杖遣いガンダルフだって、そう言っただろうよ!! 」

 

 

かの始祖もまた異界から来たという。その末裔の修羅は、暴れきった。

 

 

 

斯くして、12月17日は終わった。

 

半端にかけられた開心術の影響で、ガラハッドは最後には泣いてしまった。

 

 

 

 

昨晩は勢いに任せすぎたなと、翌朝になってガラハッドは、医務室のベッドで目覚めた瞬間から、すっかり冷静な心地で多少は後悔したが、謝りに行こうとは思わなかった。

これでサヨナラだ。毎度毎度ダンブルドアにはひどいところを見られていて、親子ともども、そりゃあ目をつけられていたって仕方がないとは思う。

 

“さる筋”って、やっぱり魔法省なのかな。

 

政治的な問題であるから、冷静な頭でならば組分けの処遇は引き受けられる。

けれど、それはそれとしてガラハッドは、あの男のことは知るほどに嫌悪感がつのった。

 

『 生徒を守ってくれない教師だから 』

 

 

その一言で、彼のことがいけ好かない理由は説明しつくせる。

 

あのあと帽子は黙りこんでしまい、ダンブルドアも動かなかったので、ガラハッドは最後には「僕なんかのためには泣きやしないんだな」と、彼に聞かせたいがために不死鳥のことまでもきつくなじってしまった。

 

不死鳥はたまたま老いていただけで、老いて惨めになることは悪ではないのに。

 

冬至迫る日々は憂鬱だ。くそったれダンブルドア。彼は繰り返し、近々みずからは去るだろうと言っていた。

 

つまり、近々また誰かが石にされる。

 

ダンブルドアはそれを防ごうとせず、ただ管理者としての咎を引き受けようという。

どうせ、そういう策謀であるのだろう。

どこかにひそむ真犯人が、強大な彼が去ったと思い込んで、馬脚をあらわす機会を待っているのだ。

 

けれどガラハッドは思うのである。そんな作戦を立てるダンブルドアは、「偉大だ」とか大層にいわれているが、全然人々から頼られるべき智慧者なんかじゃない。別にスリザリンの継承者に標的にされたところで、人は石にされるだけで、命を落とすわけじゃないけれど。けれど、だからといって――――みすみす生徒が襲われるのを、ああして黙って待つ教師があるだろうか。

 

 

学徒は、ひとりでも生き残れば、それでいいとする教師があるだろうか。

 

 

その点『死んでくれ』とはっきり言ってくれた上官のほうが、ダンブルドアよりも、あの先生よりも、目下の者に対してずっと誠実だった。

 

だから自分は、人のことを恨んだことはなかったんだ。

 

誰をも恨まないで死んだつもりだったのに、近頃はこう思うのだ。

でもあの隊長さんだって、部下としてつかっていたのが“子供”だったら、黙って死なせたんだろうなあって。そうか先生の地位からしてみれば、我々はほんの小僧だったのかなあって…。

 

 

 

僕たちの扱いは半人前。

幽霊には子供と女が多い理由が、今になって、よくわかる気がするのである。

 

 

 




主人公は「大学生」かつ戦死しているので、学徒出陣世代。三島由紀夫と同級生です。
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