ハリー・ポッターとオリーブの杖   作:Tohka.A

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クリスマス大作戦

 

ガラハッドが「あれ?あのメモどこ行った?」と思ったのは、明日からクリスマス休暇というときだった。大変惜しまれてならないのだけども、この冬の繁忙期をギャリックひとりに働かせるわけにもいかないし、ガラハッドは明日にはダイアゴン横丁に帰る。

 

まとまった休みは調べものに最適だ。

 

スネイプと決闘した夜から、恥ずかしながらガラハッドはゆっくり調べものどころではなかった。熱烈なファンが現れて、ガラハッドが一人になるやいなや、くっそ長い話やぶあつい手紙を携えて、学校中のどこででも誰かが迫ってきたからだ。

それは、単にスネイプに不満を持つ生徒だったり、恍惚とした表情で見てくる女子だったりしたのだが、どちらにしろ厄介なことには違いなく―――――不慣れな出来事に動転して、近頃のガラハッドはロジャーにくっついてまわり、おちおち図書室にも行けていなかった。

 

チクショウあのくそダンブルドアめの首が、本人の狙いどおりに理事会でとぶ前に、どうにか真犯人を突き止めてやろうと思ってるのに!

 

で、本物のスリザリンの継承者探しといえば、たった今受け取った手紙によると、ハリー、ロン、ハーマイオニーは休暇中ホグワーツに残るのだという。ガラハッドは利口なハーマイオニーに、あのメモを見せて意見を求めようかと思ったが、肝心のメモをどういうわけかみつけられなかった。

そんなに、散らかしているつもりはない部屋なのにだ。

腕組みをしてガラハッドは、フクロウのように何度も首を傾げた。

 

 

「 うーん? 」

 

 

レイブンクロー寮の天蓋内の個人スペースは広く、ただベッドがあるだけでなく、学習机と自在棚を備えている。それに加えてロジャーは服箪笥や姿見、観葉植物などを置いているし、マーカスは鳥籠を吊るしカナリアを飼っている。借りてきた本を毎度雑然と棚に並べて、他には何もないガラハッドのところが一番シンプルだ。それは、狙ってそうしているのである。

ガラハッドは日頃、プリントの類いはたちまち捨ててしまう。

雑貨は置かない。

ロジャーはセンスがあって上手にやっているけれど、自分は最低限以上の物を持ったら、マーカスのように散らかしてしまうと思っている。

だから、あのメモを書いた九九一覧表も、誤って自分が捨てたんだろうと思った。

たった今受け取った手紙も捨てて、ガラハッドは

 

 

「 まあいっか 」

 

と呑気に独りごちた。

さいわい中身は覚えている。そのモノが残っていなくても、書き出す試み自体が自分をちゃんと刺激したから。

ガラハッドは手ぶらでレイブンクロー塔を出た。といっても、一人では外を歩きたくないから、鏡のなかを通った。目指すは手紙で指定された場所。三階のマートルのトイレである。

 

「 よお姐さん 」

 

「よっこいしょ」と屈んで鏡から洗面台に踏み出していきつつ、「久しぶり」とガラハッドが手を挙げると、マートルはくらげみたいにぽよぽよとして、彼女なりには精一杯喜んで飛び跳ねた。

 

「 グレイスの子~!大きくなったじゃない! 」

 

「 そう?ところで変わった二年生いる? 」

 

「 あんたほどじゃないのが三人いるわよ。本当に、困るのよね、あたしの居場所奪われて――――あ、あたしったら幽霊になってまで、いつも追い出されて居場所がないんだわ!うぇぇ、うぇぇぇーん 」

 

「 やあハリー、ハーマイオニー、ロン 」

 

マートルを無視してガラハッドは洗面台から飛び降りた。

とんでもないところから現れたうえに、手慣れたゴーストあしらいを見せつけられ、みずから呼び寄せた相手ながら三人は、それぞれの仕草でおおいにたじろいだ。

ヘドウィグに手紙を持たせて、ガラハッドにこの場所を伝えたのは三人のうちハリーだ。

「決行」を前に事前情報を得るため、彼と話したいと言いだしたのは三人のうち、ハーマイオニーだ。

彼女は、この二ヶ月のあいだ、このトイレの個室を使ってポリジュース薬を製作していた。

彼女の招きに応じて、ガラハッドもその個室に入った。

 

 

「 いやいやいや、無理だって! 」

 

 

ロンの言うことは尤もだ。

四人だと、個室は狭くてぎっちぎちになった。あまりに場所がないので、ハーマイオニーは便座の上の上――――枯れた手洗いのところに腰かけるはめになった。「なかなか良いわよ」と彼女は言った。

ガラハッドはドアノブを後ろ手に掴んで個室を閉め、「VIP席だね」と高い椅子を褒めた。

 

「 やあ白の女王 」

 

「 便座だけどな? 」

 

本日のロナルド・ウィーズリーは冴えている。

ハーマイオニーは、いきいきと前のめりで喋りまくった。計画のこと、作戦のこと、薬をつくるうえでのこれまでの工夫のこと―――――猛烈な勢いのときのハーマイオニーにも、ガラハッドは平然と返事をしていた。

ハリーは、黙ったままロンと目配せしあった。二人から見てガラハッドは、あの決闘の夜以来ますます飄々としている。

 

「 へえー、よく頑張ったなあ 」

 

相変わらず何学年上のつもりだかしらない口ぶりだが、不思議と彼はそれが板についているのである。

大人みたいな口ぶりで、ガラハッドはハーマイオニーのポリジュース薬づくりを褒めた。

 

 

「 二年生でポリジュース薬自作は凄いよ。ああそうか君は、マグル式料理の経験がある? 」

 

「 ええ多少は!――――ふふふ違うのはね、“ちょっと途中で味見”というわけにはいかないところね。でもうまく出来たと思うわ。 」

 

「 材料は君たちが巧いことやったのか?まったく、透明マントさまさまだな。 」

 

突然こっちに矛先が向いた。

ハリーはドキッとした。ガラハッドはニヤッと笑って、ハーマイオニーの左右を見たのだ。

便座の脇をかためて、ハリーとロンは向かいあわせで立っていた。

ハリーは、ちょっと怖くてガラハッドにうまく笑い返せなかった。

あの夜伝説的大立ち回りをしていた彼は、知っているのだろうか―――――自分は、あのときちょうどマルフォイとやりあっていて、スネイプがぶっとんで会場大興奮のとき、みんなの前でパーセルタングを披露してしまった。マクゴナガルが”終了呪文”を唱えてくれるまで、マルフォイの放った蛇は大広間を這いまわっており、誰彼構わず人を襲おうとしていた。自分はそれを止めようとした!!!けれど、そんなのは蛇語を知らない子たちにとってはわからないことだし、サラザール・スリザリンがパーセルマウスだったことを、知らない人はいないし…。

 

…行く先々で「ポッターがスリザリンの継承者」と噂されて、このところのハリーはすっかり参っていた。

ニヤニヤ笑いを深めるガラハッドは、案の定すべてを見透かしていたようだった。

 

「 なんだよ――――元気ないなあ二人目!『ドラコこそスリザリンの継承者』じゃなかったのか?あ、そうかじゃあ僕が二人目で、お前が三人目だ。 」

 

「 えっ、君もスリザリンの継承者だって噂されたの? 」

 

「 知らないのか?なんだ、じゃあ大した噂じゃなかったんだな。焦って損したよ――――他ならぬドラコにそう言われたんだ。一度ならず二度までも。でも、こっちを貶めてやろうっていう感じではなかった。どこまで本気だかわからないから、君たちの調査助かるよ。僕は、逆にスリザリンの生徒は、継承者じゃないだろうと思ってるから、あの子こそが継承者だとは思わないけど…。なんであの子があんなに僕のこと、継承者だと思いこんでるのか、気持ち悪いから知りたい。 」

 

するとロンがちょっと首を傾けて、訳知り顔で言った。

 

「 君が最も古い血筋だからだろ?スリザリンの奴らって、“古さ”に凄く弱いんだよ。 」

 

「 そうかな。それだけだと思う? 」

 

「 単にあなたのカリスマだと思うわ 」

 

「 そんなわけないじゃん 」

 

「 うわあ…ガラハッドって、それでマルフォイの奴から付きまとわれてるの? 」

 

「 んーっとまあ、そういうこと 」

 

ガラハッドは苦笑した。こちらにだけ歯切れ悪く返事をされて、ハリーにはそれが不満だった。

 

ああ、またこの眼差しだ!

ハリーから見て、ガラハッドは同世代なのにパーシーよりもさらに落ち着いており、摩訶不思議な気配がする。

彼こそ、この魔法の世界を代表するように思うのだ。

彼は突き抜けて大人っぽいから、ウザい奴に絡まれても初回から明確に拒否をしない。

ざまあみろマルフォイ、あしらわれてのぼせやがって!

昨年の自分もそうだったことを棚にあげて、すっかりハリーはそう思っていた。

 

いまに本性を見せられて痛い目に遭って、布団のなかでボロ泣きすればいいのに!!!

 

一見人形のような端正さを脱ぎ捨てて、ニヤッと悪どく目を輝かすようなガラハッドを、マルフォイはまだ知らないに違いない。

 

 

「 さてと―――で、君たちは誰に化けるんだ? 」

 

ポケットに手をつっこんでガラハッドは目を細めていた。

うぬぼれかもしれないけれど、この表情を見せられているからには「友達」だと思っていて、いいのだろうか…。

 

「 わたしはミリセント・ブルストロード 」

 

「 僕はクラッブ 」

 

「 僕はゴイル 」

 

「 はっはあ、ゾッとしないな!君たち良い度胸してるよ。あの子らの毛か何か飲むんだろ? 」

 

ハーマイオニーは難しい顔だ。

 

「 嫌だけど――――仕方がないじゃない。あいつらになら、じゅうぶん化けられると思わない? 」

 

「 くくく。いいよ?僕に成り代わって、レイブンクロー寮に来ても。 」

 

「 たちまちバレそうだわ――――うすのろ相手だから使える手よ! 」

 

「 ドラコは偏ってるけど、そこまで馬鹿じゃないと思うな。 」

 

「 そうよね。賢くはないけど、クラッブとゴイルほどじゃないわ。私たちスリザリン寮の場所も知らないから、このままだと怪しまれちゃう。 」

 

「 うん。そこでこれ。これをあげよう。君たち、めいっぱい使うといい。 」

 

先生みたいな口を利きながら、ガラハッドは胸ポケットから手帳を取り出した。

そこに挟んであった紙はとてつもなく精確に、だがしかし変な形で畳まれていて、彼の几帳面さと奇天烈さをビシバシと感じさせた。風車みたいな形だったが、開かれると、それはちゃんと四角くて、地図だった。

 

「「「 ――――!? 」」」

 

これは一年前、ガラハッドが賢者の石をどこに隠すか考えるために、ダンブルドアがオリバンダー家に置いていった地図だ。

しかしハリー、ロン、ハーマイオニーは、そんなことは知らない。

これは、忍びの地図のような仕掛けや秘密の道の記載をもたなかったが、教師用地図なだけあって、四寮の出入り口や寝室配置などが緻密に筆写されていた。

 

「 わあ~お! 」

 

ロンが目を丸くして叫んだ。

ハリーもハーマイオニーも似たような息を吐いて、ぱちぱちといくらかまばたきをした。

 

 

「 くれるの? 」

 

「 いいの? 」

 

「 すっごく役に立つわ! 」

 

「 うん、これは複製だし、本物のほうは帰省すればあるから、あげるよ 」

 

「 すっごいな!オリバンダー家って、こんなものまで所有してるんだ!? 」

 

「 創設にも関わってるの!? 」

 

「 実は、元の城の持ち主だったり!? 」

 

「 いや、いや、そんなわけないじゃん 」

 

ガラハッドは手を振って苦笑いし、「知らんけど…」と冗談っぽくつけたした。

創設者時代よりも古い家系だというのに、彼は、全然自分の家柄に興味がないようだ。そのようにハリーからは見えて、マルフォイとは大違いだと思った。

 

興味がないというか、誇る気がないというか。

 

でもフランスのお城がどうのこうのと、ハーマイオニーがしつこく尋ねたので、ガラハッドはなんだか他人事みたいに、理屈っぽく持論を語った。

 

「 ホグワーツ城の話だよな?こんな寒いところ、うちの先祖は住まなかっただろうよ。ローマ人が奴隷を連れてきたのは、ハドリアヌス城壁より南なんだから。 」

 

「 どういうこと?―――どうして奴隷が関係あるの? 」

 

「 どうしてって…。だって奴隷にでもされてないと、ギリシャからわざわざブリテン島にまで来ないだろ?創業の紀元前382年っていうのは、スパルタからテーベを解放するためにアテネ市民が決起した年だ。オリーブは女神アーテナーが生み出し、死すべき人の子に授けた樹。トネリコやニレの一族と違って、オリーブ杖の一族が、元々こんな寒いところにいたわけない。この国オリーブ生えないのに。 」

 

ハーマイオニーは深く納得したようだったが、ハリーはオリーブを知らないので、「そうなんだ」としか言えなかった。ロンは格別驚いていなかった。

 

さて、大体どこでクラッブとゴイルを待ち構えるべきか、しばらくはどちらでその二人にはお眠りいただくか、そのあとどう行って…どこらへんで他のスリザリン生と合流して、寮に入るための合言葉を言わせるか。マルフォイへのかまのかけ方は―――――などなど、ガラハッドとハーマイオニーを中心に打ち合わせはてきぱきと進み、ハリーとロンはそのうちもげるほどに首を縦に振りまくり、作戦を頭に叩き込んだ。ひととおりのことが済むと、オリバー・ウッドみたいにガラハッドは三人を励ました。本当に彼は大人っぽいのだ。

 

「 がんばれ。健闘を祈るよ――――実は、僕からもハーマイオニーには頼みたいことがあったんだけど、ちょっと準備がな。あんまり、いっきには出来ないだろう。まずはこいつを是非成功させてくれ。 」

 

「 ええ、任されたわ! 」

 

「 なんで君は学校に残らないの? 」

 

「 商戦だよ。君たちも、誰かしらと贈りあうだろ、杖磨きセットを? 」

 

「 …ああ~ 」

 

「 マダム・マルキンの店とのコラボにより、今年は磨き布に限定刺繍入り追加。すみれ色は廃版になりました。 」

 

「ご贔屓に!」と言い残してガラハッドは去っていった。またしても洗面台に乗り上げて、頭から鏡につっこんでいくのは奇妙だった。

手洗い台の下で泣きじゃくっていたマートルは、彼が自分にだけはほとんど話しかけなかったと言って、また泣きわめいた。

 

「 びえぇぇぇぇええん 」

 

「 うわっ 」

 

結構見慣れてきたはずだが、今日のマートルは一段とよく泣き、霊体ならではの涙が暴れスライムみたいになっている。

呆れる思いが溢れて、ハリーはついつい質問してしまった。

 

「 マートル。ねえもしかして、好きなの?ガラハッドのこと… 」

 

「 うえええええん、うええん、あっち行きなさいよポッター!グレイスの子に関わらないで!あなたの父親、どれだけ―――――ひっく、うえええええん、うええん 」

 

「 ええっ僕の父さんのことを知ってるの? 」

 

「 酷いやつ!あんたの母さんのことだって、あたし大嫌いよ!あの女、あたしのグレイスとっちゃったあ…うえええええん、うええん 」

 

「 トイレまで迎えに来たっていう意味? 」

 

「 え、マートルって、何歳? 」

 

「 そっかゴーストって、結構昔のことまで知ってるわよね… 」

 

「 あ、あたしはぁ、死んでから初めてお友達ができたの!そこ…っ、そこの、あんたたちが散らかしたところにティーセットを置いて、お茶会だってしたわ!なのに、なのにふええええぇ…リリーのせいで、あたしまた独りぼっち!うえええええん、うえええええん 」

 

「 それって、“お茶会”じゃなくて、“ゴーストと便所飯”じゃん 」

 

容赦ないロンの一言だった。女子トイレから撤収しても、三人のなかでこの話題はずっと続いた。

 

母親同士が友人だったようであるのは、ハリーにとってはなかなか嬉しいことだった。

リリーの情報は貴重だし、オリバンダー家は先代からマグル生まれを差別しなかったのだとわかる。

とはいえ正直、複雑な気持ちだった。

 

「 ガラハッドって、親もかなりの変人だったんだな 」

 

言葉を選ばずにロンが言った。あの数々の“伝説”持ち息子の母親だ。相当トチ狂った、残念な美人であったのだろうと見解を述べた。

 

ハリーとハーマイオニーにも、その想像は容易くついてしまった。

 

だってガラハッドって、去年は灰色のレディを口説いてて、時々躍りながら数の宇宙と交信するらしいし…不思議な形の地図の折り畳まれ方も、ちょっと尋常じゃない感じだったし…。王子様みたいな容姿でスネイプをぶっとばす実力を持ちながら、彼に本気で恋する子は見たことがなかった。

 

「 きつかったわよね絶命日パーティー 」

 

「 あれを便所でやるんだ? 」

 

「 そりゃハリーのママも止めに入るよ 」

 

「 母さんって、ガラハッドの親とどんな会話してたのかなあ 」

 

It's Greek to me!(まったく意味がわからん)

この表現を英語にうみだしたのって、昔のオリバンダーたちかもしれない。

アテネから来た智慧と戦いの一族は、中つ国にはちょっと刺激的すぎたんじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

はてさて後輩たちから失礼なことを考えられているとはつゆ知らず、帰寮したガラハッドは段取りよく年末の準備に取り組んでいた。今年は随分と深く関わる子が増えたので、クリスマスプレゼントを個別にちゃんと贈ろうとしていた。そうはいっても帰省したら店の手伝いで手一杯なので、ホグワーツにいるうちに通販カタログを見て申し込んでおくのだ。

ダイアゴン商会カタログのクィディッチ用品の章を捲りながら、ガラハッドはベッドに胡座をかいて言った。

 

 

「 マーカス、お前、どれがいい? 」

 

「 え~、ええ、えええそういうの、普通本人にズバッと訊く? 」

 

「 杖磨きセットよりいいだろ 」

 

「 えええ、でもぉ!いや、うん、いいんだ、ガラハッドが、ようやく真人間っぽくなろうとしてるのには、凄く賛成。 」

 

「 なんだよ、要らないのかよ。折角人に何か贈るなら、まずはいつも世話になってるお前らにだなあって思ったのに。 」

 

「 その気持ちはとっても感動的 」

 

「あのねえ」と横着なマーカスは、人のベッドに無断で乗り上げてきて、懇切丁寧に教えてくれた。

どうも彼は常識人代表として、こちらに人心を説く使命を感じているらしい。

長い話だったが、要するに結論はこうだった。

 

「 冬至の日を祝うものなんだよ?魔法が込められてて、あなたのこと想って用意しましたよ~感が大事だから。その結果が杖磨きセットでもいいから。 」

 

「 でもさ、僕が贈ると完全に“売れ残り在庫処分”だろ? 」

 

「 う、うーん。そんなことは… 」

 

「 本当か?じゃあいっそお前、業務用布巾を贈っても文句言うなよ。悪いもんじゃないんだからな――――リンゴの木8番! 」

 

「 えっオリバンダーの店って、材質ごとに別の布巾で磨いてるの? 」

 

「 そりゃそうだよ。まだ杖になる気のない木材のご機嫌とるところから、スタートなんだからな。“何でも用”じゃ拗ねられる。 」

 

「 そうなんだ。え、えええじゃあ、僕の杖に本来ぴったりな杖磨き布、欲しいなあ。――――僕のはそれでお願い。 」

 

えへへと現金にマーカスは約束をとりつけていった。

ガラハッドは「ふーん」とその表情を眺めた。

それなら悩まなくてもよくて自宅内で調達が可能なので、却って助かるくらいだ。

記憶を洗い出そうと思って、いつもの手帳を胸ポケットから取り出した。

ちまちまとリストを書きつけて、作業メモをつくっていった。

 

「 えーっとお前はリンゴのユニコーンだから8番、ロジャーはウォルナットの不死鳥だから53番―――――チョウとマリエッタって何持ってたっけ? 」

 

「 それは質問したらいいんだよ。あとになって、ああ、あれはプレゼントを準備するために訊かれたんだなあってわかって、ちょっと幸せになるんだから。もちろん、黙って贈られたら『覚えててもらえたんだ』って倍嬉しいけど。 」

 

「 よーし大丈夫、家で販売記録見ればわかる 」

 

「 そういうこと言わなくていいよ。もう! 」

 

「愛がわかってないなあ!」とマーカスは、ぺしぺしとクッションを叩いてむくれた。

いくらパドマと付き合っているといったって、13才が何を言うかとガラハッドは笑った。

 

「 こないだは交剣知愛?鍛えて競うことで愛を知るとか言ってたじゃない! 」

 

「 あれは“惜しむを知る”愛なんだよ。一期一会の世に在って、再び剣を交わしたいと願われる人物になれっていうこと。 」

 

 

雨に降られて地に落ちて、風に崩れる花びらも、桜花でなくては惜しまれない。人は名もなき草踏んで、桜を愛でるものだから。

そういう意味だとガラハッドは苦笑した。

 

 

 

 

 

すっかり毎年恒例みたいになっていて、特に約束もないがガラハッドはまたセドリックと一緒に汽車に乗った。この頃の彼らとウィーズリーの双子がよくつるむのは、互いの身辺でおおよそ知られていることなので、駅でずんぐりと着込んだふわもこカナリアイエロー集団を見かけると、チョウが「ねえ、あそこにセドリックがいるよ」などと言って、ガラハッドのコートをつついてくれたのだ。

 

ホグスミード駅のホームは混んでいた。今年は随分と、短期休暇に帰省する生徒が多い。

 

そりゃあそうだよなあ。こんな危険な学校、休暇にまで居ていられない。

マグル生まれの生徒はこの機会に帰宅して、しばらくは就学を控えたほうがいいんじゃなかろうか。

 

いやはや、純血主義者の思うツボだな…と、どんよりとした冬空の下でガラハッドは、雪に煙るホグワーツ城を憂鬱に眺めていた。残してきたハリー、ロン、ハーマイオニーのことが、どうも気がかりだった。

 

 

「 ――――どうしたの? 」

 

セドリックが話しかけてきた。彼もまた、「ねえ、あそこにオリバンダーがいるよ」とか言われて、ハッフルパフ軍団から送り出されてきたのかもしれない。

連れはおらず、ひとりだった。

青と黄色の群れの交流を生み出しながら、ホームの端っこでふたりは雑談を始めた。

これでいつものクリスマスだ。

 

 

「 いや…この休暇中に帰らないマグル生まれの子は、勇敢だなあと思って。 」

 

「 うーんそれは、勇敢なのかな。帰れないだけかもよ。うちの寮の三年生の子は、そう。 」

 

 

「残してきちゃった」とセドリックは、心底申し訳なさそうに靴先を見下ろした。

ここにまで降り始めた雪は、ホームではたちまち夢のように消えていく。

けれど、冷えた鉄のうえでは消えていかずに、しんしんと線路を覆い隠していく。

ふわりと毛羽立っている結晶が綺麗で、セドリックが見ているのはそっちのほうかも。

ポケットに手を突っ込んで、ガラハッドはセドリックが言いたいことを言い出せるのを待った。

待つのは嫌いじゃなかった。

 

 

「 あのこは、きっと寂しくて、心細いだろうに…父さんが僕に、しつこく帰ってこいってさ。 」

 

「 心配なんだろ、君のことが。 」

 

「 僕は純血だから、どうせ狙われないのに。あの子のほうが、ずっと危険なのに。 」

 

「 君だって、好きで純血に生まれたわけじゃない。生まれの因業は代わってやれないよ。だから気に病むな。 」

 

 

ガラハッドは雪を見て念じた。

救済を願ってやるしかないんだ、異なる業を背負って生きている者のことは。キリストを知らない彼はそう思う。

あいにく地球は丸いもんでして、西方浄土は行方不明。

いよいよせかせかと汽車が近づいてきて、そう遠くないところから蒸気音が聞こえた。

ポケットから手を抜き出して、ガラハッドは白い指同士を絡めた。

この寒いのに素手であることを見咎めたセドリックも、その動きにはしばし目を奪われた。

糸でも紡ぐかのように、指と指は互いに繋がりあい離れあい交差しあい、ひととき美しい動きをしていたのだ。

セドリックは笑って質問した。

 

「 なあにそれ? 」

 

 

訊ねながらちょっと思っていた。抜群に器用なガラハッドの指は特別で、杖を生み宇宙を解き、つっつくだけでキツい子を笑わせるらしい。

全部噂で“伝説”だけど、この指なら納得しちゃうなあ、と。

ガラハッドは、思い詰めたような顔でホグワーツ城を眺めて手遊びをしていたが、手をしまうと悪戯っぽく笑った。

 

「 ははは、案外、覚えてるもんだなあって―――――今のは、前世のおまじない。“みんな救われますように”って。 」

 

「 へええ。手の動きで?いいね、口にはしないんだ? 」

 

「 することもあるよ。オン・アビラウンケン・バサラ・ダトバン―――――指の形が文字と対応しててさ、唱えながら印を結ぶのが正式かな。 」

 

「 ちょ、めちゃめちゃ速いね!? 」

 

「 やってみる?基本中の基本だぞ、これ。ファイト! 」

 

この年の帰省汽車内は賑やかだった。

 

宇宙から電波を受信したガラハッド卿のやりだした超絶技巧手遊びが、二両目の全体で流行って挑戦者が続出し、みんなコンパートメントを開け放して廊下に乗り出して遊んでいた。

「本年の奇天烈納め!」と難しすぎる動きに、リー・ジョーダンはげらげら大笑いだ。

早々に諦めたケイティやリーアン、チョウは、全然違うリズムゲームで踊って遊んでいたが、三人とも可愛いのでオリバーは大絶賛していた。

スポーツマンの意地を見せたセドリックが、五十回目くらいの挑戦でなんとかやりおおせて、参加者はみんな沸いた。

おめでとう二人目の変態的指くねくねマン。これで残念なイケメンが二人になった。

 

「 あーッ!できた!今できたよね!?ねえ! 」

 

「 OK!やるなあセドリック!よっしゃそれじゃあスピードアップ! 」

 

「 待って待って鬼畜ぅ! 」

 

 

 

 

四魔よ降伏せよ六趣解脱せん一切衆生の希願を満足せしめよ

 

 

 

 

 

そんな意味のある印だったが、さて効果のほどは、さだかではない。

 




セドリック&汽車登場回に雪が多いのは、『太平記』「俊基朝臣再び関東下向の事」のパロディです。「落花の雪に踏み惑ふ…」から始まる名文は死を覚悟する旅の叙述になっており、七五調で美しく、諳んじると超カッコいい。旧国鉄の昇給試験に出たくらい有名な一節ですから、主人公は当然ノリノリで暗唱できます。PAZZLE編では日野資朝を紹介していますが、こちらは日野俊基のほう。
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