ハリー・ポッターとオリーブの杖   作:Tohka.A

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リドルの日記

 

お前ってゴーストにガチ恋されてんのなとロジャーに言われて、ガラハッドは鼻からパンプキンスープを噴き出した。

 

「 っ、ぐ、…!?!? 」

 

ずびずばの一段落を終えたあとは、自分の制服のびしょびしょ具合に、絶望した。

待て待て、こんなダサくて汚い奴、俺なら絶対お断りだ!

「何言ってんの!?」とガラハッドは、日頃自分が向けられている目つきで、とんでもないことを言い出したロジャーをまじまじと見つめた。ロジャーは、すっかりロックハートをライバル視した髪型で、彼のように小さく顔を振りながら歌うように言った。

 

 

「 酷くした?めっちゃ泣かせてるじゃん。駄目駄目、女の子にそんなことしちゃあ 」

 

「 うぇっぷ 」

 

「 会いにいってやれよ。かわいそうだろ、あんなに泣かせちゃ。 」

 

「 待って?待って、いや、あのさあ?たぶんそのゴースト、年から年中泣いてる奴だろ?“嘆きのマートル”だ。 」

 

「 それって失礼だよ。まずはさ、Missウォーレンって呼んであげなきゃ。 」

 

「 へえ、あいつそんな苗字なんだ 」

 

「 キミへの苦しい想いいっぱい聞いた。赤毛の女の子と三角関係だって? 」

 

「 え、何それ初耳 」

 

「 隠すなよ―――へへへ、うっひぇ、げっほ!おおお俺と、お前との仲じゃん?ぷ、は…ッ 」

 

「 ぐあああああクッソお前しこたま面白がってるな!?絶対俺に会う前に、もう誰かに言っただろ!チクショ~~~このお喋り軟派野郎ッ 」

 

めちゃめちゃ光るピアスつけてる奴とめちゃめちゃ服にオレンジの染みつけてる奴。

そんな二人の乱闘は大広間でもよく目立ち、グリフィンドール席でも何人もが振り向き首を伸ばした。

くっきりとした大きな目を輝かせながら、パーバティ・パチルがラベンダー・ブラウンに囁いた。

 

 

「 見て!――――素敵でしょ。二人ともあれで、勉強ができるの。できるけど格好つけないの。 」

 

「 もう!それはフレッドとジョージも一緒だってば。それに、私はロックハート先生一筋! 」

 

「 ちがうの!わざとふざけるのとは、またちがうの!わからないんだからあ。 」

 

「 ロックハート先生もチャーミングよ!写真集見る? 」

 

 

彼女たちは永遠にこの手の会話を繰り返している。

 

ハリーは、レイブンクロー席の騒ぎを見ていたことがバレないように、うつむきがちに急いでチキンをもぐもぐやって、静かに寮へと帰った。ずっと隣にいたロンも同じように静かに腹を満たし、黙って寮に帰り、明日からの授業に備えて部屋で勉強すると宣言した。

ヒキガエルのようにネビル・ロングボトムが、「うぇっ」と仰け反ってそんなロンとハリーを見た。

 

 

「 どうしちゃったの急に…君たち、ハーマイオニーの生き霊がとりついてるの? 」

 

「 そっとしといてよね 」

 

「 僕たち集中するんだ 」

 

そうして二人は筆談した。

相談の内容は、こうだ。ハリーは、こんなに長い文章をレポート以外で書いたのは初めてだと思いながら、ロンに頑張って自分の考えを伝えた。

 

食事のあいだずっと考えていた。

 

 

ハリーは思う。この日記帳は、マルフォイより先じて新たにガラハッドの手下になりたいと思っている子が、マルフォイが苦戦していた謎を解いて、ガラハッドに見せるか渡すために持ってきて、彼の目につくように置き去ったものではないか?

 

何か決まった意味があって、このような学習ノートにはならない、ポケットにおさまるサイズの帳面を持つことが、ガラハッドが率いる一党の一員である証であり、帳面を取り出す仕草や開く仕草などが、互いへのサインとなっている。

 

さっき見ていて気づいたのだ。

 

悠然と歩く五年生。ガラハッドの協力者の一人は、同じレイブンクローのロイ・マスタングだろう。彼はガラハッドをめぐって、ある時あのマーカス・フリントをこてんぱんにしたそうである。マスタングは、誰も表立って悪口など言わないものの、大抵ひとりでおり、それが平気そうで、よく立ったまま手帳を開いて気障っぽく顎をさすっている。

 

さっきもそうしていた。

 

滅法駆け引きに強い者らしく、「持ち物全部むしられた」「彼女をとられた」などと、彼が絶対に現れないグリフィンドールのクィディッチチームロッカーで、ハリーはあのオリバー・ウッドが嘆くのをよく聞いている。

ガラハッドも、あのクィレルとヴォルデモートを翻弄した知恵者だ。きっと彼らはウマが合うだろう。

ガラハッドも時々、手帳を取り出して開いている。

 

ハリーは前から不思議だった。

 

だってあんなものは学生生活には要らない。

なのに彼といいマスタングといい、手慣れた仕草でなにやら格好よく、あれを扱っているのは一体何のためなのか。

するとロンが重大なことを書いた。

 

 

生徒の閻魔帳かも。ガラハッドの手帳は店の帳面の写し

 

マスタングのは?

 

わからない。普通の帳面じゃないかも。一見違うことが書いてあるやつ。その日記も調べなきゃ。よくパパが、そういうものはざらにあるから、気をつけろって言ってる

 

 

「 …はぁ 」

 

そうか~~~。本当に、魔法界っていろんなものがあるなあ!

すっかり疲れてきたハリーの代わりに、ロンが羽ペンとインクつぼを用意した。

もはや順序も何もない書きなぐり合戦になっている紙をどけて、拾ってきて乾かした日記帳を机に置いた。

準備だけしてロンは、ぐったり腰かけているハリーをせっついた。

 

「 なあ、杖で叩いて 」

 

そうやって読み始める本もあるらしい。

言われた通りに杖を構えながら、叩く前にハリーはロンに尋ねた。

 

「 決まった呪文はないの? 」 

 

「 ん~、なんかある 」

 

「 調べようか 」

 

ああハーマイオニーがいないのって不便だ。

妖精の呪文学の教科書のさくいんを引いて、ハリーは使うべき呪文をみつけた。

 

 

「 アパレシウム現れよ! 」

 

何も起こらなかった。

 

 

「 あれ? 」

 

 

「おっかしいな~」と言いながらロンは、今度はインクつぼをひっつかんで逆さまにし、日記にどばっとインクを浴びせかけた。

ハリーはただ、目を白黒させてそれを眺めていた。

こういう魔法界暮らしの勘どころが、ハリーにはまだ全然わからない。

 

「 はじくかな?おっ、吸ってく吸ってく。わかったハリー、これは書いた字が消えるノートだよ! 」

 

「 それって、ノートの意味ある? 」

 

「 あるんじゃない?スカッとしたくて、読み返す気もないようなこと書くときとかさ。ほらこれって、日記帳だろ? 」

 

得意げにロンは笑った。

そのときにハリーは見た。

じわりじわりとインクを吸い込んで、すっかり元の白紙に戻りそうだった日記帳の、わずかに最後まで残ったインクの染みが、ロンの笑顔の向こうで生き物のように蠢き、光りながら形を変えていくのを。

 

「 あっ―――! 」

 

『 こんにちは 』

 

「 ・・・・! 」

 

ロンもそれを見つけた。ハリーとロンは、二人して日記帳を覗きこんで、肩を押しあってどちらがこれに返事をするかを譲り合った。

結局頼まれたロンが、蚯蚓の這ったような字で一言、大急ぎで返事を書いた。

 

『 こんにちは! 』

 

文字は消えていった。

ハリーは、どうしてこんな大きさの本が選ばれているのか、今になって()()()()()()()

 

「 いいか、ハリー。こういうのってさ、本名を教えちゃいけないんだ。身元のわからない名前を名乗らなきゃ! 」

 

「 へえ… 」

 

『 私はトム・マールヴォロ・リドル 』

 

新たにじわじわとインクが浮かび上がって、そんな文の形になった。

ロンは勢いに乗ったように、舌舐りして魔法のインクつぼをさすり、インクを湧かせて羽根ペンにたっぷりつけた。

ハリーは言わないけれど思っていた――――なるほどマグル界と一緒だなと。

少々危険であることは否めないが、こういうのは使いようだと、ロンもハリーもよくわかっていた。ロンは世間知らずのハリーに、ここは良いところを見せたくなっていた。彼のほうもマグル界のことについてはよく知らない。ロンは大きな字で、次のように書いた。

 

『 僕はガラハッド・オリバンダー 』

 

 

すると、こてんとしてロンは机へと突っ伏してしまった。

 

「 え!? 」

 

横で見ていたハリーは何が起きたかわからず、驚いて気絶したロンの肩を揺すった。

一切反応がなく、ロンは目覚めなかった。

 

「 ど、どうしよう!? 」

 

もしかして・・・とハリーは、突っ伏しているロンの手をこじ開けて、力任せに羽ペンをもぎりとった。

そのまま日記に殴り書いた。

 

『 本の中にいる!? 』

 

あっ…とハリーは紙の表面をみつめた。

じんわりとインクが滲んで、すぐに返信が帰ってきたのだ。

少し待ってください』と、美しくて細い文字で。

ハリーは、そういえばその字はよくあるフォントの字とは違って、誰かの手書き文字だなあと思って、妙な感覚になってきた。

メールやチャットとはちょっと、違う感じだ。

姿の見えない誰かと、今、自分は筆談をしている―――――。

 

 

びくんっとロンが動いて、むっくりと起き上がった。

目をぱちぱちさせて息を吐くロンに、とりあえず安堵感一入だ。

 

「 よかった!ロン、どうしたの?何があったの!? 」

 

「 えっっっと、よくわかんない! 」

 

ロンは、体験したことをうまく言えないらしい。

じっと日記帳を見て、口をぱくぱくさせていた。

我慢できなくなったハリーは、羽根ペンにインクをつけるともう一度日記帳に書き込んだ。

 

『 僕はガラハッド・オリバンダー 』

 

そう書き綴りながら、書き終わらないうちに、さあ来い、さあ来い…と念じてハリーは深い息をしはじめた。

案の定日記が光り始めて、ハリーの視界は、一瞬で白い日記の表面に飲み込まれた。

「よし来た!」とこぶしを握ったことで気づいたのだが、手の中には、もうさっきの羽ペンがない。

この白い空間にはペンも机もなく、自分ひとり――――本当に、ひとりだった。

奥行きも何もわからない白さに、ハリーはしばし呆然とした。

 

 

「 こんにちは! 」

 

 

何もない白へと向かって叫ぶ。

反響もなくて――――声は、放たれ続けない限り即座に消えていく。

完全防音の部屋に入れられたような焦燥感で、ハリーは、ぐるぐる身体の向きを変えつつ何度も名乗りをあげた。

 

「 こんにちは!僕はガラハッド・オリバンダー! 」

 

「 こんにちは!僕はガラハッド・オリバンダー! 」

 

「 こんにちは!僕はガラハッド・オリバ…ああ… 」

 

言いながらようやく気がついたのだった。

ああそうか、この日記帳は、他でもないガラハッドとコンタクトをとるための道具である可能性が高いわけだから、つくったのはガラハッド本人だろう。だからこんな名乗り、嘘だと最初からバレきっていて、意味がないんだ――――。

 

ハリーは、恥ずかしくなったのと虚しさとで、立てているのかもわからない真っ白のなか、言葉を失って、自分の足のほうを見つめた。

 

 

「 …ああ 」

 

 

この発信はガラハッドヘは筒抜けか?

 

きっと今まさにガラハッドは、どこかであの仕草で流暢に手帳を開いて、あの銀色の目で冷ややかに、浮かび上がってくる迷惑な文字列を見つめている。

いきなり「何なんだ?」とは言わない彼だから、きっと「君は誰だ」なんて返事は寄越さず、ぱたんとあの仕草で手帳を閉じ、悠然とポケットにしまう―――――そして忘れ去ってしまう。

彼は、よく出入りする図書室にこれらの帳面を隠しておき、彼を信奉する者にヒントを与えて、あの書林からこれらを見つけ出した者を“特別な友人”として、迎え入れているのかな?

「何のために?」という考えのほうはもう、ハリーには気にならなかった。

 

「 ~~~~ッ 」

 

彼に認められたい。

彼が、コリン石化事件の犯人なわけがないんだ。

彼はコリンのことを、坊や以外の何者でもないと思っているだろうし、“スリザリンの継承者”なんて肩書は、しょうもなくてちんけだと心底思っていそうだもの。

 

人を石にするなんかよりもずっと楽しいことに、毎日、忙しく興じていて。

 

ロンがこだわる「ホグワーツで一番生徒の家系に詳しい立場」も、ガラハッド本人はきっと「お世辞の引き出し」くらいにしか思っていない。だからこそ日頃自分のことを含めて気にもしていないくせに、讃えるとなればポンポン讃えられるのだ。

 

何一つ本音じゃないんだ、あんなのは。

 

ハリーは、ガラハッドの好奇心を憎んでいた。

 

両親が歯医者であるハーマイオニーほど、自分はマグル界育ちとして注目もされない――――それは、ずっとダーズリー家にいたからだ。あの狭い部屋で、何にもさせてもらえなくて、どこにも自由なんてなかった僕には、ハーマイオニーのように彼の耳を驚かせる面白い話ができない。

魔法族生まれ魔法界育ちのロンのような、連帯感も持たれない。

もちろん、マルフォイのような家ぐるみの付き合いはできない。

ハリーは、白い闇に侵されだんだんと息があがっていった。少し目に浮かんだ涙が、睫毛の影を反射して初めて少し視界を翳らせてくれる。ぎゅっとハリーは目を瞑った。

 

「 僕はハリー・ポッター!!! 」

 

浮かび上がれ、どうか、僕の声よ。

彼の手帳に。

あの白い指よ、どうか、この声を拾ってくれ。

 

全身でハリーは叫んだ。

 

「 ごめんよガラハッド!君を疑ったりしない!僕の声届いてるなら、返事してよ!!! 」

 

その声は、かすかに音が消えるまでの時間がこれまでより長かった。

 

ハッとしてハリーが目を開くと、目の前にはひとりの、困ったように笑う少年がいた。

ハリーよりずっと背が高くて、ハンサムだった。

黒い髪に、赤い目をしていて、夏ローブに緑のネクタイだった。

 

「 あっ―――!? 」

 

「 ごめんね、人違いだよ。初めに名乗ったと思うけど、僕はトム・マールヴォロ・リドル 」

 

「 あ、ああ!そうだった…ごめんなさい。僕は、ハリー・ポッター 」

 

「 そうみたいだね。悪いけれど、ここはどことも繋がっていないんだ。人には語れないことを、ひとりで眠らせるための場所だから。日記って、そういう物だろう?ガラハッド・オリバンダーに何かを言いたいなら、手紙でも書いて送ったらどうかな? 」

 

「 …。…いや、いや、それは 」

 

「 そう?―――なんだか、複雑な関係なんだね、君たち 」

 

「 いや、そんなこともないんだけど 」

 

「 僕でよかったら、いろいろ話を聞くよ。ここは閉じた世界で、僕は日記帳そのものだし――――それくらいしかできないんだ。あはは、ごめんね 」

 

頬をかきながらリドルは微笑んだ。

つられてハリーもホロッと微笑んだ。

リドルは、少し気弱でとても良い人そうに見えた。

 

「 君はずっとここにいるの? 」

 

「 うん、そうなんだ。正直に言うと、ここは少し寂しいから、君みたいな人が何かを書き込んでくれるのは大歓迎。 」

 

「 なんて書き出せばいいの?“こんにちは、トム・マールヴォロ・リドルさん?” 」

 

「 やだなあ。そんな書き出しで日記を書く人はいないよ。なにか適当に――――日付とかから?ああそうだ、天気を書いてくれると嬉しいな。外について想像できるから。ねえ、明日もよろしくね。 」

 

にっこりとリドルは笑った。

 

意識を取り戻したハリーはいつの間にかベッドに転がっていて、心配そうなロンに見下ろされていた。

さっきの逆の関係だとすると、ハリーは立ったまま机につっぷしてしまって、椅子から立ったロンがハリーをベッドになぎ倒してくれたものらしい。

まごついて礼を言うハリーに、「長かったなあ」とロンはこたえた。

 

「 なんか――――変なところじゃなかった?本のなかって、何にもない以上に何かがないっていうか。 」

 

「 わかる… 」

 

「 あんなところで長いこと何してたワケ? 」

 

「 ロンは出会ってない?黒髪の日記の人。本名を名乗らないと出てこないのかも。 」

 

「 ええ~っ出会ってない!どんなやつ?いかつい!? 」

 

「 良い人そうだったよ。ちょっと話し込んでたんだ。ずっとひとりでいて、寂しいみたい。外のこと知りたがってた。せめて教えてあげなきゃね。リドルは、知ってるのかな?今は新年だって―――― 」

 

 

言いながら自然とハリーは微笑んでいた。

 

あんまりきちんとは整理されていないハリーのベットサイドチェストには、クリスマスプレゼントの包み紙がまだわんさか重なっている。

明日から新学期だというのに、まだまだ休暇気分だ。

緋色のカーテンに囲まれたこの場所は、見回してみるとそんなものばかり。

片付けたくない、とハリーは思っているのだ。

ずっと幸せな気分でいたいから、明日の日記にはクリスマスのことを書き留めよう。

 

そして朝が来て夜が来た。また朝が来て夜が来た。数日が経った頃、ハッフルパフのジャスティン・フィッチ・フレッチリーが廊下で石にされた。

 

 

 

 

 

誰が、それをやったと思う?

 




■最後の一文はマザーグースです。
■本来の主人公&親友コンビであるハリー&ロン。ジョジョ3部では承太郎と花京院が阿吽の呼吸で宿帳に偽名を書きます。花京院のほうは偽名だったのかそれもまた本名の一つだったのか、それを偽名ということにしたとき何かが変わったのか…という感じです。
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