ハリー・ポッターとオリーブの杖   作:Tohka.A

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秘密

 

今度やられた者たちにはほとんど首なしニックも含まれているというニュースに、理屈屋のガラハッドは大いに困惑した。

 

「 え…どういうこと?ニックってマグル生まれ?ゴーストも石になるんだ? 」

 

その日は前夜からの大雪で薬草学が休講になり、一部の生徒たちは空き時間を手に入れていた。

「え~いいなあ」の声が、朝から三年生のあいだでは満ち満ちていた。

ハッフルパフ二年のジャスティン・フィッチ・フレッチリ―と一緒にグリフィンドールつきゴーストのほとんど首なしニックが石にされたのは、そんな日の一時間目のことであった。

朝に彼らのことを見かけた人々がいるのだから、そうなのだ。

時間割の都合で生憎余暇が発生せず、寮を出て大広間で食事をして、「いいなあ休講」の合唱をしながらぞろぞろと授業に行って、呪文学の授業のあいだじゅう、フリットウィック先生の隣に立たされて模範役をつとめさせられ、対象に向ける杖の角度から足と足の間隔まで解説されていたガラハッドは、みずから思うに「アリバイじゅうぶん」だった。

にもかかわらず、その日以降に校内で他寮生に会うと、高い確率で散々な目に遭った。

 

ニックが石にされたことで、どうやら巷では「オリバンダーこそスリザリンの継承者」という説が、再び力を持ったらしい。

 

ガラハッドは、またしてもみずから墓穴を掘ったといえる。

いかにもレイブンクローっぽい生徒だとみなされたいあまり、近頃奇抜に振舞いすぎた。

ガラハッドは、日頃自分がいかに無事変人として全校に知ってもらえており、「ゴーストに絡む奴といえばオリバンダー」と理解されているか、この機会に思い知らされた。

“嘆きのマートル”との噂を流したことについて、ロジャーには死ぬほど謝られたけれども、一度広まってしまった評判というのは、最早どうしようもない。

その償いになのか何なのか、翌日ニールがマクラーゲンたちと喧嘩して、肩まで垂れ下がるほど頬っぺたを腫らして帰ってくると、ロジャーはチョウともども怒ってやり返しにいった。

彼らがくらってくるはずの失点を取り返さんと、マリエッタは目を血走らせながら算数ドリルにかじりついた。

 

マーカスは談話室で一大演説をぶった。

 

「 みんな犯人は自分の寮にはいないって思いたいわけだよ 」

 

ガラハッドは、ことの収拾のつかなさに頭痛を覚えた。

壁際の机に肘をつくガラハッドを尻目に、握りこぶしをふりあげてマーカスは声を張り上げていった。

 

「 グリフィンドールには“蛇舌”のハリー・ポッターがいる!グリフィンドールの奴ら、寮内じゃハリー・ポッターに頭が上がらないからって、ガラハッドを犯人に仕立てあげようとしてる。僕たちそれに負けるものか! 」

 

 

ぱらぱらと拍手が集まった。

マーカスの主張は、しっかりと的を射ているからこそたちが悪かった。

慌ててガラハッドは彼を制止した。

 

 

「 もういい。誰にでも好きに言わせておこう。 」

 

 

日本では、「人の噂も七十五日」と云う。英国では、「驚きが続くのは九日間のみ」と云う。そのあいだをとって「ひとつきと十日」くらいで、どうせみんな忘れるんだとガラハッドは主張した。

実際そういうものだと思うし、そう思わないとやっていられない。

マーカスは、ガラハッドのためならハリーを悪く言うのに躊躇いがなかった。

 

「 なんで?君は、悔しくないっていうの?図書室でまで、あんなこと言われてさ! 」

 

「 『なんでアイツを退学にしないんだ』って言われた話か?まあな、ばっちり聞こえたし、ちょっと背後から“舌縛りの呪い”でもかけてやろうかと思ったけど――――いいんだ。ほらあいつら、僕が名前を訊ねただけで、すぐにチビってただろ? 」

 

極力明るく笑って、ガラハッドは席を立った。

周りが解散しないのならば、自分が部屋に引っ込むまでだ。

 

「 弱い者いじめは趣味じゃないよ 」

 

強がりを言っているうちに強くなれる筈だ。

 

 

 

 

 

 

自室に戻ると、ボサボサの羽毛ボールが床に落ちていて、ガラハッドは危うくそれを踏みそうになった。よく見るとそれは変な形で着地した老フクロウで、ウィーズリーのところのエロールだった。

校内の距離での配達なのに、この体たらくなんて大丈夫なのだろうか、こいつは…。

受け取った紙切れは二枚とも、一見するとただの白紙だった。なるほどあれを唱えろということらしい。

 

「 我ら悪戯仕掛人 」

 

杖で叩いて合言葉を言う。

すると片方は例の地図へ。もう片方に現れた字はとんでもなく汚かったが、ささくれだった気分を慰めてくれるものだった。素晴らしい手紙だった。

 

 

兄弟、元気か? ふさいだら自慢のおつむが鈍るぜ。 この一枚は君のもの! 俺たちは、石にされたニックの療養(?)保管(?)場所を突き止めた。 今夜()()()()で会おう!

 

 

 

微笑んでガラハッドはそれを畳んだ。

 

一面に降り積もった雪が月光を浴びて光るので、消灯と同時に寮を抜け出すことは簡単だった。

その夜は満月だった。

ガラハッドは、窓を開け放って清浄な冷気を浴びると、塔から飛び降りて空中で鷲に姿を変えた。

明るい雪原のすれすれを飛んで、暴れ柳のもとへと向かった。

人と見れば猛烈にぶん殴ってくる柳も、鳥には優しいことを知って驚きだ。

ガラハッドは、これまでで一番苦労せずに瘤をつつくことができて、一番乗りで叫びの屋敷へと乗り込んだ。

寮から瘤をつつくまでは、ものの五分もかからない移動だったから、双子たちはまだ着いているわけがない。

外には雪が積もっているから、一時間以上は待つことになるかもしれなかった。

少し早く来すぎた。

入って右のホールにある階段のところで、ガラハッドは膝を抱えて座り込み、暗い屋敷で壁の傷を眺めて時間を潰した。

 

( ―――勇気あるよな、あいつら )

 

マーカスには強がりを言ったけど、あのとき図書室で負った精神的傷は無視できない。

あの幻との対比はすさまじくて、この屋敷の家具という家具は、みんな壊されている。

こんな陰惨な場所でスリザリンの継承者かもしれない俺と会おうだなんて、フレッド・ウィーズリーとジョージ・ウィーズリー…彼らの勇気そしてこちらへの信用はいかほどであろう。

寒さは、浮かれていた自分を客観視させてくれた。

ガラハッドは、彼らには疑われていないらしいことが嬉しかった。

 

( あいつらは、誰がスリザリンの継承者だと思っているんだろう? )

 

暇にあかして一段と抉れた爪痕を撫でていると、なかには爪の断片が刺さっているところがあるのに気がついた。

熊にしては小さくて、猫のような爪ではない。蹄のように硬くて黒く、しなやかさはないが猛禽類のように鋭い。

ここは、ハグリッドが三頭犬を殖やすための場所なのだろうか?

彼ではあの穴を通れそうにないので、思いついたものの可能性は低いが…。

落ち着かない気分のガラハッドは、つれづれと別のことを考えて気をまぎらわせていた。

やがて鏡枠だった穴から物音をさせて、のそのそとやってきたのは双子ではなかった。

 

「 セドリック!? 」 

 

「 やあ 」

 

彼は暴れ柳にやられたのか、まっすぐな黒髪にあちこち雪の塊をくっつけて、後生大事そうに箒を抱えている。

 

「 僕が来たのは意外だったかい?ごめんよ。今ハッフルパフでは、みんな過敏になっていて…本当に、ごめんよ。 」

 

セドリックは力なく言った。彼とは昼間変身術からの帰りにすれ違ったので、謝るのは、むしろこちらのほうだった。

昼間セドリックは、ガラハッドが図書室で『名前を伺っても?』と絡むことで泣かせた生徒たちと一緒にいたので、クソ気まずくてガラハッドは、セドリック共々全員を無視し、クールぶって前だけを見て歩き去ったのだ。

セドリックが、彼らから何を耳に入れているかは、だいたい想像がつく。

その想像をガラハッドはしたくなかった。

 

「 いや、別に…。 」

 

 

彼にはあわせる顔がない。

ぶっきらぼうな返事をしてしまって、ガラハッドはただちにこれを悔いた。

 

「 ひとりで僕に会いにきて、君も、勇気があるよな 」

 

「 どうして?絶対大丈夫なことをする勢いを、勇気とは言わないよ。僕が勇気を出すべきなのは、寮で――――寮の友人の、君への誤解をとくべき時だ。 」

 

イライラとセドリックは箒を壁に立て掛けた。その箒は、雪原に足跡を残さないために使ったのだろう。

不機嫌なときこそ彼はハンサムに見えた。

唸るように彼は言った。

 

「 僕は臆病さ。嗤えばいい!ううんごめんね、僕が嗤われて、済まされることじゃないのに。“偽善者”って君は思ってるだろう!僕は、僕は決してそんなつもりじゃ――― 」

 

「 セドリック 」

 

「 怒ってるんだろう? 」

 

このままでは喧嘩になりそうだ。

ガラハッドはセドリックとの会話を打ち切ると、忍びの地図を使って双子の現在地を探した。

 

言い出しっぺの自分たちよりも速く巧いことここへやってきたセドリックに、このあと双子は悔しがるに違いない。

ガラハッドが返事をしないのを受けて、セドリックは悔しげに話題を変えた。

 

「 さすがだよね。あの二人に出来ないことなんてないんだ。 」

 

彼もまた地図を持っている。セドリックは四ツ折りを広げていた。

 

「 それは複製? 」

 

「 君のもね。僕ばっかりさ、なんにもできないのは 」

 

 

 

なぜそうも悲観的なのか。

案外双子たちはすぐ近くまで来ていて、今まさに暴れ柳と格闘し、この館へ至ろうとしているところだった。

二人は彼らを迎えにいった。

ぽっかり空いた穴に急いですべりこんで、乱れてしまった雪原にジョージは杖を向けた。

 

「 スコージファイ! 」

 

彼らは代わる代わるお互いを背負い、足跡を消しながら雪のなかを歩いてきたらしかった。

 

「「 ほげぇ疲れた~!! 」」

 

フレッドとジョージが来たことで、荒れた屋敷の空気はなんだかいっきに明るくなった。

 

 

 

 

 

 

別に喧嘩したかったわけではないガラハッドとセドリックは、多少の気まずさを味わいつつも隣同士で座った。四人はホールの階段をのぼり二階に寝室を見つけ、ズタボロのベッドのうえで魔法の焚き火をおこない、胡坐をかいて持ち寄ったものを広げた。

フレッドとジョージは板チョコと百味ビーンズを、セドリックは箒の他には魔法の時計を、ガラハッドはいつもの手帳と三色ボールペンを持ってきていた。

 

「 食べながら話そうぜ。長くなる。今夜は円卓会議だよ。 」

 

チョコを割りながらフレッドが言った。

すかさかずガラハッドはニコッと笑った。

 

 

「 OK、じゃあ此処が“呪われた椅子” 」

 

「 自虐冴えてんなあ 」

 

「 大丈夫だよガラハッド卿。君は呪いに勝つからさ… 」 

 

「 ふん。元はといえばマーリン―――マーリン勲章持ってる奴が悪いと思わないか?こんな事件が続いているのに、校長はなぜ闇祓いに捜査させないんだろう! 」

 

今宵ガラハッドの舌はキレキレだ。

ご尤もなご意見に、セドリックは深く頷いた。

 

 

「 捜査が行われてないことはない筈だよ 」

 

彼は憂鬱そうに眉根を寄せた。

 

「 こんな事件が続いてるんだもの。なんでも秘密裏に行われているだけだと思う。下手に疑われないように、僕たちも用心しなくちゃ。 」

 

「 犯人は子供だ。気の毒な子だが――――闇祓いの手が迫ってきても逃げようがないんだから、公然と捜査すればいいのに。捕まったほうがその子のためになる。 」

 

「 なんでわかるんだい? 」

 

「 ちょい待ち!ここで俺たちの意見ですよ! 」

 

「 聞いてくれ。俺たち、ダンブルドアは生徒を守るために、敢えて闇祓いを招いていないんだと思うんだ! 」

 

「 どういうこと? 」

 

「 俺たちの親父は、魔法省で働いてる。たまに話してるんだよ。たとえばスタロボーフェアの魔女は“危険な手袋”をはめたばっかりに強盗を始めて、自分ではやめられなくなっちゃったんだって! 」

 

「 ああ、その話なら僕も父さんから聞いたことがある。僕の父さんも魔法省勤めだから――――今、まだ裁判中なんだよね?可哀想なおばあさん、裁判してるうちに死んじゃいそうな再逮捕数だって。 」

 

「 悪いのは手袋なのに、闇祓い局の手にかかったらそういうことになるんだ。本来は道具局が管轄すべき分野なのにって、うちの父親は言ってる。だからダンブルドアは、悪い道具にうっかり引っ掛かった生徒を、守ろうとしてくれてるんじゃないかな?俺たち“犯人探し”じゃなくて、人を狂わせる“危険な道具探し”をするべきなんだ! 」

 

「 ――――! 」

 

フレッドとジョージの考えは斬新だった。

ガラハッドは目をまん丸くした。

セドリックは、諸手をあげて二人に賛同する勢いだ。

 

「 そう…なのか? 」

 

 

ガラハッドは、一瞬そのまま頷きそうになったが、いやいやと大きく首を横に振った。

 

 

「 待て、その推理はおかしい。だって事件は無差別じゃなくて、周到にマグル生まれを狙って起こされているじゃないか。犯人には思想があるよ。ただ道具に操られただけの人間に、主義や信条はないはずだ。 」

 

「 うぐぐ、確かに 」

 

「 でも、校内に危険な道具があるっていう説には、全面的に同意する。犯人は元々思想を持っていて、道具が犯行を可能にさせてしまっているんだと思う。石化は杖によるものじゃないかもしれない。 」

 

「 うむ―――“石化は杖によるものじゃないかも”には、我々もナットク! 」 

 

「 だとしてもどんな魔法が使われたか、調べることはできるよね?実は、ふたりをスプラウト先生の部屋に招き入れたのは僕なんだ。先生の手伝いをしたとき、マンドレイクのための備品が置いてある倉庫に、ニックも置いてあるのがチラッと見えたからね――――事件の解決のために、ちょっと 」

 

 

セドリックがそんなことを言い出した。クスッと笑う優等生は、だいぶ双子に毒されてきている。

やることはしっかりやっているが、みずから手紙を書いてアピールせず、謙虚なだけだったセドリックに、「えええ…」とガラハッドは後ろ手をついた。

 

 

「 じゃあ僕だけじゃん、この一週間何もできてないのは…えええ 」

 

「 まあまあ、たまには四年生を崇めなって! 」

 

「 ゴーストって面白いね。もやしみたい。基本は冷暗所保存なんだね。 」

 

「 ニックのやつ気の毒に、黒くなって透けなくなって、全然動かなかった。 」

 

「 へえ! 」

 

「 どう思う?悪い意味じゃないよ。ただ僕たち、これに関しては君が学校一詳しいと思ってるんだ。生身の人間とゴーストでは、どんなふうに魔法の作用が違うのか 」

 

気遣わしげにセドリックは言った。

前のめりでフレッドは頷いた。

まったく嫌味ではないので、ガラハッドは気分を害さなかった。

もちゃもちゃとチョコレートを食みながらジョージも聞いている。深夜なのによく食う奴だ。

腕組みしてガラハッドは考え込んでしまった。

 

「 そうだな… 」

 

「 ひるがえって一体、彼らは何の呪いを浴びたのか。僕はそれを知りたいと思ってるんだ。調べたけれど、あれって変身術の一種とは違うと思う。それに、ダンブルドア先生にも解けない呪いなんだよ? 」

 

セドリックまでダンブルドアに好意的なのが悔しい。

ガラハッドは、さっきのよりむしろ今のに気分を害してしまった。

かの魔法使いの偉大さが話題にのぼるたび、ガラハッドはその彼を評価できない自分のほうが悪いような気分になる。たしかに何かの呪いを解くことに関して、彼よりもよく知っている人物はいないと思うけれど―――彼ならば、知っていたうえで敢えてやらないこともあると思う。

 

 

「 触ることはできた? 」

 

不機嫌を噛み殺すように、ガラハッドはジョージのチョコレートを貰った。

 

「 うんにゃ、その辺はいつも通り。手を突っ込んでもスッカスカ。違うことといえば、ヒヤッとしなかったことだな。 」

 

「 そうか。じゃあ僕は、やっぱりダンブルドアは校長としてどうかしていると思うよ――――それは、“魂”を金縛りにする呪いだ。俗に“たましい”とまとめられるものには、“精・魂・魄”の三種類がある。これらは本来別のもので、完全な偶然によってひととき一致しているにすぎないんだ。塵だったものが塵に還るとき、通常、それらは散り散りになる。奪鬼縛鬼というはたらきがあって、それぞれ精と魄を持ち去っていく。残った魂が死出の旅に出るわけだが、たまに動き出すまでに時間のかかる奴がいて、それがゴーストと呼ばれている。肉体に向けての呪いなら、ニックは今頃ピンピンしているはず。彼らが魔法を使えないのは、“魂”はあっても“精”がないからで―――“魂”を縛られても“魄”はちゃんとあるから、“石にされた者”は息をしていないのに腐らない! 」

 

チッとガラハッドは舌打ちした。呑み込むつもりでいたが、アウトプットしているうちに頭が回り、この焦りと苛立ちは御しようがなかった。

ぽかんとしてセドリックが言った。

 

 

「 つまり、“死の呪い”ってこと? 」

 

「 “禁じられた呪文”の使い手がこの学校にいるっていうのか?変だぜ。なんで既に死んでるニックをもう一度殺すんだよ! 」

 

「 動機のことはわからない。けども、ニックが浴びたのは一般的な“死の呪い”とは違うと思う。しかし、変だな…。 」

 

 

ガラハッドは呻吟した。

精魂魄というのは結ばれているのがむしろ珍しい状態であって、ひととき宙を漂っているシャボン玉に近い。一瞬ごとにきらめきの変わらないシャボン玉のないように、精はいつでも変化し続けている。風に消えないシャボン玉のないように、その形や大きさを定める魄も、その所在を定める魂も。

どれかを静止させるためにはすべてを静止させないといけないし、どれかひとつだけ動かないようにしようというのは、無理だ。

それを行おうとしたら、どうなるのであろうか?ガラハッドが考え込んでいると、聞かなくてもわかっていそうな顔でジョージが呻いた。

 

「 そいつを生きてる人間に浴びせたらどうなる? 」

 

「 死ぬんじゃないか?結果的に。よくわかんないけど、まあ破綻するだろ。 」

 

「 さらっと言うなあ…。 」

 

三人はそのあと黙りこんで、それぞれの膝を抱えていた。

セドリックの持ち込んだ懐中時計が、床に転がったまま真夜中を告げた。

ガラハッドは忙しくしていた。

なんだか動けない気分に取り憑かれた三人とは対照的に、彼だけはひとり手帳に今聞いた話を書いたり過去のページを繰ったりして、頭を働かせていた。

こういうところに精神年齢が出る。

ちょっと覗きこむことでセドリックには、ガラハッドが鏡面反射の計算をしていることがわかった。

図まで描かれていたからだ。

 

 

「 何してるの 」

 

「 そっちこそ 」

 

「 僕はね…ええと、最初にこの場所に集まっていたあのマローダーズたちは、どうして人目を避けないといけなかったのかなあって、なんとなく考えてた 」

 

「 へ? 」

 

「 だって隠れ家じゃないか、ここって。どうして、何から隠れたんだろう? 」

 

ロマンを追ったにしてはボロボロの秘密基地。今は焚火に照らされて、ぼんやりゆらゆらと天蓋が見えた。

セドリックの言うことはもっともだった。

ガラハッドは手帳から顔をあげたし、双子はお互いに顔を見合わせていた。

 

「 くそうセドリックめ 」

 

フレッドが臭いビーンズを投げつけて言った。

 

「 そいつは俺が先に思いつきたかった!―――で、何なわけ? 」

 

「 それがわからないんじゃないか。ただ、寂しいなあって思ったんだよ。何年も前にも今の僕たちみたいに、ちょっと堂々とは会えない四人がいたのかなあって。近頃は、よく言われるから―――『他寮生とつるむな』って。 」

 

「 『純血ばっかでつるむな』の間違いだろ 」

 

冷ややかにジョージが言った。

 

「 俺たちも言われてるぜ。うざいよな。実際そんなことしてないっての!俺たちハジメマシテのとき、おたくのご両親のこと聞いたかあ?スリザリン生じゃないんだからさ!誰がそんなことするかよ。 」

 

「 違うだろ。『ガラハッド・オリバンダーとつるむな』だ。 」

 

「 はいはい拗ねないのよ坊っちゃん 」

 

「 昼の三年生たちのやりあい、まさかのいきなりグーだったんだけど~? 」

 

「 何なの?レイブンクローってみんなゴリラ? 」

 

「 アハハあいつら拳骨でいったの? 」

 

主犯はチョウだろう。容易に想像がついてガラハッドは笑った。

こうなってくると「マクラーゲンにパンチめり込ませて減点」は、レイブンクローのお家芸みたいなものだ。その後の始末も含めて。

 

「 僕がけしかけたんじゃないけど…どうせマクラーゲンが風向き見て手のひら返したんだろ?あいつ、そういうところあるよな。だ~いじょうぶ。減点ぶんはすぐに取り返すから! 」

 

「 うわ出た。ブルーマフィア。 」

 

「 セドリック、君の気持ちは嬉しい。でもそっちの寮の奴だって、自分のとこの子を守ろうと結束しようとしてるんだろ?いいんだ。心配してくれて有難う。 」

 

やっとガラハッドはこれを言えた。

 

「 …うん。 」

 

セドリックは、なんと返事したものかわからないらしかった。

複雑そうなのは双子も同じだ。

そういえば本日初めて、揃って二人は同じことを言った。

 

 

「「 ホグワーツは閉鎖されるのかな? 」」

 

フィルチに罰則をくらうときだって、彼らはこんなに暗い顔をしていない。

 

「 そうだね。このまま事件が起き続けるなら、そうなるよね。 」

 

「 なるほど。犯人はそうなると困るから、継承者の敵殺しは代々()()()()でおさまってるのかもな。学校史年鑑で調べたよ。五十年前のときは、一人死んだだけ。 」

 

「 一人死んだだけって…。 」

 

「 言葉が悪かったな。さっきから考えてたんだ。部分的に金縛りをかけるっていうのは、“精”・“魂”・“魄”いずれに対するものでも、手間の割に効果がよくわからない変な手口だよ。三つをバラバラにするほうがずっと簡単で、それができる人物じゃないとやれない高度な技術だろう。犯人は、スリザリンの継承者として本来人を殺せる力を――――三つをバラバラにするだけの力を受け継ぎながら、今回は敢えて努力して、石化に留めているんじゃないか?即刻ホグワーツを閉鎖されないためにだよ。今の話で、そう思った。 」

 

「 生かさず殺さずのほうがエグい 」

 

きっぱりとフレッドが言った。ガラハッドからすると、そこは話の本筋ではない。

ガラハッドは双子からも作業がよく見えるように、手帳をかざして作図を見せつけた。

 

「 鏡は肉体を持つ者のための道具。ということは、鏡面反射を経ると“たましい”に関わる呪いは――――あ~…ほら、鏡に向かって呪いを放っても、威力そのままでは跳ね返ってこないだろ?そういうことを今考えている。 」

 

「 いや、やったことないから知らないけどな?言い忘れたよ。君って、ホグワーツいちのゴーストマニアで鏡マニア! 」

 

「 とにかく、ようは奴さんなりに手加減して、犠牲者の数を稼いでるってことだな?胸糞悪いけど、そうかもしれないよな。俺たちは、単にホグワーツでの暮らしが終わるのは嫌だなあと思って言っただけだ――――なあ、そうだよなジョージ? 」

 

「 そうとも、鏡マニアくん 」

 

「 皮肉だね。こんな事件を起こしている犯人まで、ホグワーツのことは大好きなんだ?今回の継承者は前回のと血縁? 」

 

「 さあ、それはどうだろう 」

 

「 僕は二人の危険道具説を推したいなあ。誰かが、道具のせいで狂っちゃったんだよ。その道具っていうのが、秘密の部屋を()()()()で… 」

 

疲れたようにセドリックは首を振った。

ガラハッドは、「え」と呟いて手帳を仕舞った。

今のには、なんだかいきなり恥ずかしさを覚えさせられた。

 

なんて頭が固いんだろうか、自分は!?

 

 

「 ―――そうきたか!僕は、危険な道具っていうのは、秘密の部屋の()()()()()ものだとばかり思っていた! 」

 

「 あはは僕たち、さっきから全然意見が一致しないねえ。―――それというのはねガラハッド。僕はただ、現実の世界で人を疑いたくないだけなんだ。事件が起きてお互いに疑い合って。そういうのは、フィクションの世界だけだとずっと思ってた。馬鹿みたいな話だけどさ、もういっそ全部怪物のせいだったらいいのにって思ってる。危険な道具があって、何も知らない子がそれに狂わされて秘密の部屋を開けちゃったんだ。それでなかの怪物が暴れだしたんだよ。誰も悪くないんだ。そうであったならいいのに。ねえ、これも怪物の爪痕だよね? 」

 

 

セドリックは壁を指さした。

言うまでもなくこの建物の内側には、おどろおどろしい傷がおびたたしい数ある。

 

苦笑いしながらセドリックは、何も恐れずにそれを指差して言った。

 

「 でも、悪い怪物じゃないよね、“忍びの地図”は此処にあったんだから。生徒が四人食べられちゃったなんて記録、ホグワーツにはないだろう? 」

 

「 まあ、確かにな 」

 

「 この怪物はどこに行ったのかな 」

 

 

セドリックの想像力には感嘆するしかない。

これが魔法の才能を持つということなのだと、ガラハッドは見せつけられる思いだ。

つまらなそうに双子は黙って、お互いに凭れかかっていた。

 

 

「 帰ってきたらいいのに 」

 

祈るようにセドリックは言った。

もう大概眠いのか、折り曲げた膝にごつんと額をのせている。

 

「 帰ってきたらいいのに、この屋敷の怪物。―――秘密の部屋の怪物と戦って、蹴散らしてくれたらいいのに。そうしたら僕たち、また元に戻れるよね。 」

 

どんな目にも怯えず、誰も失わず、屈託なく学園生活の永遠を信じられる。

今日楽しかったのと同じくらいに、明日も楽しいだろうと期待して布団に入れる。

一月の夜の寒さは堪えたが、なんとなくガラハッドは帰りたくなかった。

夜明けまで四人は叫びの屋敷にいた。

 




たましいを三種の結びつきとする考えと三種の鬼のくだりは、地蔵菩薩発心十王経の内容を使っていますが、解釈自体は独自です。
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