ハリー・ポッターとオリーブの杖   作:Tohka.A

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オリバンダー家へようこそ

 

居間でハリーから家出の顛末を聞かされたとき、ガラハッドが一番興味を惹かれたのは微に入り細を穿って語られたマージおばさんの憎たらしさよりも、北国訛りの者が操り、街路樹やポストのほうが避けていくという夜の騎士バスのことだった。そんなものがあるとは知らなかったガラハッドは、正直なところかなり、それに乗ってみたくなって、今すぐおもてに出て杖を掲げて試してみたい欲求と戦った。

 

素敵だ、夜空を駆ける乗り物なんて。

絶対退校になると思って、悲愴な思いで乗っていたらしいハリーには悪いから言わないけれど…。

 

呑気な夢想に耽るガラハッドをよそに、ハリーは落ち着きなく爪を噛んでいた。

 

ハリーは、魔法省の対応について疑問に思う――――というか、率直に言えば「思うところある」ようで、イライラと情緒不安定だった。彼は暖炉のなかの火の精にすら怯えて、警戒するフクロウみたいに細くなり、もぞもぞと居心地悪そうにソファーに尻をつけつつ、ガラハッドの出したクランペット菓子をむさぼった。ハリーは、昨年自分がドビーのせいで受けた『警告』に対して、今年のこれは『処分』が軽すぎると言った。ガラハッドは、「昨年お前に『警告』がいったのは、あのドビーとやらの主人だったマルフォイ氏の意向が入ってんじゃないの」と内心思ったが――――とはいえそれは完全に憶測なので、あんまり下手なことは言えず…―――こいつ、夜中に転がり込んできたくせに我が家への逗留を以て『処分』とのたまうとは、大概失礼な奴だなと思った。とはいえハリーはただただ自分のことだけに必死なのであって、家主を目の前にして今の発言に悪気はないのだ。タチの悪い幼稚さだが、まだそれを責められるような年齢でもないだろう。

ガラハッドが心配して目をやると、ギャリックは不機嫌そうに何かを言いかけていた。「やめろよ」とガラハッドは、口パクでギャリックを制した。

 

 

「 ―――フン! 」

 

 

ギャリックは鼻を鳴らすだけにとどめた。彼はグラスに残っていたシェリー酒を飲み干すと、どすどすと寝室に去っていった。そんな曾祖父の良識に、ガラハッドは胸を撫で下ろした。

万が一今夜いきなりギャリックに怒鳴りつけられたら、ハリーはまた夜の街に飛び出していくだろう。さっき鼻血を出したところだけど、ハリー・ポッターという奴はそれくらいのことはする。

カチカチという音がしたので、ガラハッドは水晶玉の上のほうを見た。雪のように白いフクロウが、なかに入れてほしそうに採光窓からこちらを見ていた。

 

 

「 ヘドウィグ! 」

 

 

ハリーの声が跳ねた。そこの窓は開かないので、ガラハッドが工房のほうに回ってそちらの鎧戸を開けると、呼びかけたり餌で釣ったりするまでもなくヘドウィグはスゥーッとなかに入ってきた。

 

 

「 かしこいフクロウだな 」

 

 

嬉しげにハリーは頷いた。彼はヘドウィグを自分の腕にとまらせて、心底愛しそうに何度も撫でた。座ったまま死んでいるようだったハリーの顔色は、ヘドウィグのおかげで随分良くなったみたいだ。

 

ガラハッドはハリーを寝室に誘った。おっかなびっくりという感じで、ボストンバッグを抱えてハリーは階段をついてきた。

ガラハッドは、ハリーがボストンバッグと一緒に、後生大事そうに箒を携えているのが気に入らなかったが、ヘドウィグ同様ニンバス2000は躾が行き届いていて、ここがどこであるかを(杖と箒、どっちのほうが偉いかを)ちゃんとわきまえているようだった。

自室のドアを開けるとき、ガラハッドはパチンと指を鳴らした。すぐさま手の中に舞い込んできた、話のわかる杖を右手に構え左手でひと撫ですると、ハリーの寝床を用意するため、ガラハッドはわざと大きめに杖をふるった。

杖にとりなしを頼まずとも、ベッドは木製だから呼んだら来てくれるけど。

せっかくお客さんが来たんだし、杖だって良いところを見せたいはずだ。

ハリーはびっくりして、ぎょっとする顔のままで固まっていた。

 

 

「 “魔法不適正使用取締局” 」

 

 

言いながらも、ガラハッドにはその組織を一切おそれる思いはない。

 

 

「 たしかに、そういう機関はあるみたいだけど、何事にも執行の限界と匙加減とがある。まあこんなもんだろ。 」

 

「 ねえ、今の大丈夫なの!? 」

 

「 ああ。あのなハリー、考えてもみろ。魔法省だって万能じゃない。人間が運営している組織なんだから、時にはしくじることもある。例えば、よりによって“うち”のなかで起こることに関しては、魔法省は昔から、このとおり監督しきれないみたいなんだよな。今のは、あくまで製造中の杖の試し振り。 」

 

 

ニヤッとしてガラハッドは相棒を翳した。またたくまに調えられていく寝具一式を見ながらハリーは、「さすが、ガラハッドって、やっぱりガラハッドだよな」と思っていた。あらゆる枠組みから超越していて、今に始まったことではないが、自分が悩むことについてなんて彼は、毎度歯牙にもかけないでいる。恨めしいときもあるが、今はそれに救われる心地だ。

 

 

「 寝ちゃいなハリー。おばさんの件でお咎めなしだったのは、儲けたと思っておけばいいよ。 」

 

 

優しくそう告げるのはズルい。抗えない疲労感により、崩れるようにハリーは眠っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝ハリーはひとりきりで目覚め、自然光に包まれてしばらくぼうっとした。

知らないところで起きた?いいやここはオリバンダー杖店の二階だ…。

 

昨晩はとっても、変な夜だった。

 

朝の明るさのなかで見ると、今日から暮らすことになったこの家は、どこもかしこも木でできていて、よく磨かれた深い色をしている。ウィーズリー家のような複雑な形ではないし、面白いものが置いてあったりはしないが、街中なのにまるで森のなかにいるようで、いかにも魔法使いや精霊の家らしい。とても静かで、不思議な清さと威厳に満ち溢れている。ハリーは部屋を出る前に鏡を覗き込んで、寝癖だらけだった髪の毛をかなう限りていねいに撫でつけておいた。

ここはダーズリー家ではないのに、しみついている習慣でハリーは壁づたいに歩いてこっそりと一階に降り、匂いにつられてキッチンにまで行った。

静かに現れたハリーにガラハッドは驚いて、ものを言う前にちょっと何拍かおいた。そしてついつい苦笑した。そんなに身構えたような顔で起きてこなくても、いくら生粋の魔法族だといったって、我々は別におたくを切り刻んで鍋で煮たりなどしない。

 

 

「 困るよな。年寄りは朝が早くて 」

 

「 へっ、小僧は寝言が多くて困る 」

 

「 お前も一杯どうだ? 」

 

 

広くはないキッチンで、オリバンダー家のふたりは立ったままコーヒーを飲んでいた。

ハリーは面食らった。このギャリック翁は案外、店頭で見るときよりもこうしていると俗っぽいのだ。頑固なおじいさんという感じで、口の立つ曾孫相手に、くだらない会話も丁々発止であった。彼は自分の言いたいことだけ言いきると、飲み干したカップをそこらへんに置いて、さっさと工房に向かっていった。ガラハッドはそれには顔もあげずに、相変わらず、異常な器用さで日刊予言者新聞を片手で畳んで熟読していた。それぞれがちょっと粗野で、それぞれがかなりマイペースだった。

 

 

「 寝癖を直せよ 」

 

 

ガラハッドがずばりと言った。「直してコレなんだけど」と恥ずかしくなってハリーは、またしても前髪を押さえつけた。

 

 

「 洗面所は左。顔を洗って、タオルはクリーム色のを使え。使ったらカゴの中に入れといて。 」

 

 

ガラハッドは新品の歯ブラシを出してきた。

あらゆることが彼のペースで進み、ハリーは親切にされつつも振り回されている心地だった。この家の洗面台には蛇口がなくて、どのように使うべきなのか考え込まされるばかり。突き放されたハリーは、朝から試行錯誤でどうにか水を手に入れた。

どうも「ダッダーちゃん、チュウ♡」みたいな雰囲気は、このオリバンダー家には一切ないようだ。

洗顔などをおこない、用意されていた服にぎこちなくハリーが着替える(だってこれもしかしてガラハッドの服では?)あいだ、キッチンにてガラハッドは、非常に手際よく調理をすすめていた。彼という人の軽快さは、よく出来たドミノを見ているかのようだった。手品にしか見えないやり方で、ガラハッドは調理器具を扱っていた。

ちょうどいい頃合いになったころ、ハリーはダイニングテーブルを指さされ、ガラハッドから座るように言われた。ハリーが座ると、たちまち皿が目の前にやってきた。フライパン片手に近づいてきたガラハッドが、フライ返しでぽいっと厚切りのトーストをそこに置いた。カリカリの焼き目の上へフライパンから豪快にハムエッグを流し乗せられ、思わずハリーは喉を鳴らした。――――多少はみだしているけれど、それがまたとっても美味しそう。そのうえガラハッドはどんと音を立てて冷たいミルク瓶を出してきて、ハリーにナイフを渡し、好きなだけチーズをとっていいと言った。

 

ハリーはがっついてしまった。とろけていくチーズと共に手をべたべたにしながら食べるトーストは、格別に美味しかったのだ。その食べっぷりにガラハッドは、なんとなく感じるものがあった。半熟の黄身を啜りながらもハリーは、ベーコンの赤身を残そうとしていた。

 

 

「 そういうことはしなくていい。あのフクロウのぶんも切り出すから 」

 

「 有難う 」

 

「 もしかして、このところ食べてなかったのか? 」

 

「 缶詰のスープは最高だったよ。おばさんちの日常、聞く? 」

 

「 極力短くまとめてくれ 」

 

「 クソッタレ 」

 

 

苦笑いでガラハッドはもう一枚パンを焼いた。

 

 

 

 

はてさてそんなガラハッド曰く、人間の食べ物は塩分が高いので、ヘドウィグの身体にとってはよくないらしい。無二の相棒を大切にしていないと言われた気がして、ハリーは恥ずかしくなった。

ふたりでイーロップの店に専用餌を飼いにいくことになり、途中でフローリッシュ・アンド・ブロッツ書店にも寄った。

 

夢のような展開だった。昼のダイアゴン横丁を歩くのは、とてもとても楽しいことなのだ。マグノリア・クレセント通りで途方にくれていた、たった12時間ほど前が嘘みたいだ。

浮足立ってついていくハリーとは違って、住民であるガラハッドは慣れた様子だ。フローリッシュ・アンド・ブロッツ書店の店先で、陳列してある『変身現代』を冷やかしてガラハッドは、「今月のは“買い”だな」とニヤニヤした。威厳ある魔法戦士たちがそんな彼を見て微笑んでいき、「杖店の子だ」と囁きあっていた。狭い店内ですれ違うとき、彼らはハリーには見向きもしなかった。

ハリーは、ガラハッドの顔の広さにもまた驚いた。一緒にダイアゴン横丁を歩くと、彼はどこの店の主人とも親しげだったのだ。

 

 

「 さてはお父さんが帰ってくるね? 」

 

 

フローリッシュ・アンド・ブロッツ書店の店員は、会計のときにっこりとガラハッドに微笑んだ。彼がいかにも難しそうな雑誌と一緒に、やさしい料理本を選んで代金を支払ったからである。ハリーは、あのガラハッドが気恥ずかしそうにしているところを、このときに生まれて初めて見た。

彼らが会話を切り上げると、すかさずハリーはガラハッドに囁いた。

 

 

「 義理のお父さん? 」

 

「 ああ、今年は帰ってくるとか。今朝急に爺さんから言われて… 」

 

 

ガラハッドの返事はそっけない。

困ったというような口振りだが、ハリーは、ガラハッドは本気で困っているわけじゃないと思った。ガラハッドの養父に会えることは、ハリーにとっては純粋に楽しみだった。

蛙チョコレートでもほとんど見たことがないのだ。

ガラハッドの養父は、第一回ダンスマラソン(というスポーツがあるらしい!)優勝者で、“超☆元気爆発薬”の発明者。まさにそれらしく、ハリーの見る限り、いつも全然紹介カードの中にいない。

 

 

「 バーノンおじさんの百倍素敵だろうね 」

 

 

ハリーがそう言うと、ガラハッドはそれを皮肉だと受け取ったらしく、ますます苦い顔つきをした。

 

 

「 そりゃあ、お前んとこと比べられてもな 」

 

 

歩きながら、ガラハッドは買ったばかりの料理本を強引にハリーへと押しつけてきた。

 

 

「 親父を迎える準備をしないといけない。ウィーズリー家じゃ庭小人を駆除したって?うちに小人は出ないから、精々料理番をしてもらうぞ。 」

 

「 それは無理だって。ごめんよ。他に僕に出来ることはない? 」

 

「 一緒にやってやるから、経験しておいたほうがいい。いずれおばさんちを出るとき、しっかり一人立ちできるように。――――遅くなったけど、そいつは誕生日プレゼントだ 」

 

「 !? 」

 

 

ハリーは目を真ん丸にした。

 

ややあって、ハリーは、押し付けられた本をぎゅっと抱き締めて、とても小さな声で「ありがとう」を言えた。どこからかわからない暖かいものが、全身を包んで心臓を揺らしていた。

ああそうだ。ロンからの“かくれん防止器(スニーコスコープ)”に、ハーマイオニーからの“箒磨きセット”――――今年初めてハリーが誕生日を嬉しいと思えたのは、彼らの贈り物が、心底こちらを思ってくれるものだったからだ。ひいきのチームのグッズやぶあついフランス呪文集など、「彼ららしいがハリーのためにはならないもの」だったら、それはそれで孤独が癒されて嬉しかったけど、そのうちに自分は、彼らへの羨ましさで狂ってしまったかもしれない。ガラハッドの贈り物はなんの変哲もない本だけど、直球でハリーの願望を見抜いたものであった。

昨夜から苦労しっぱなしのとおり、魔法界での自活方法をハリーは知らない。

 

 

「 17になった日に乗る夜の騎士バスは最高だろうな。いいや敢えて箒で、ヘドウィグと一緒に飛び去ってやるといい。『自由!』って感じがするじゃないか?その日までに、火の精くらいは扱えるようになっとかないとな。 」

 

 

夜の街並みを見下ろす想像をして、ハリーは胸をときめかせた。

 

 

 

 

 

その夜、アラベールは煙突飛行でオリバンダー家へと帰ってきた。エプロン姿の子供たちと漏れ鍋のテイクアウトよりは不格好に焼かれたキドニーパイが、一見いかめしい男をご機嫌にさせた。にこにこと愛想よくアラベールは手を振った。相変わらず後ろでひとつに結わえているが、その黒髪はガラハッドの記憶よりも短く白っぽくなっていた。

 

 

「 やあハリー君!はじめまして 」

 

 

機敏な握手にハリーははにかんだ。マグル風ファッションを白い目で見るハリーではない。

ガラハッドの見たところ、この初対面の印象は最高だったろうに、タンゴみたいな動きでアラベールは自分からそれをぶち壊していった。「ああ…」とガラハッドは、早速肩を落とした。

 

 

「 いやあシリウス・ブラック様様だ!無能な看守諸君、ありがとう!ブラックに震え上がる腰抜けども、ありがとう!お陰さまでこの役所下僕妖精アラベール、ここに見参だ。ふははガラハッド、また大きくなったな! 」

 

「 よさんかアラベール。ハリーは何も知らん。ガラハッドもな。 」

 

「 ああ、そうなのです?とにかくだ、すまんが今回お土産がない。突然帰れることになったのでね。 」

 

 

またしてもひらひらとアラベールは片手を振った。「いいよ全然」と笑いながらもガラハッドは、てのひらの入れ墨が丸見えなので、傍らのハリーの反応が気になって仕方なかった。ぽかんとしてハリーは、いつもにまして威勢のいいアラベールを見上げているのだ。悪いがうちの親はいわゆる“紳士”ではない。

 

 

「 まあ座れ 」

 

 

ギャリックがその場を取り仕切った。

 

 

「 よう帰ったな。なんでもいい、帰ったのはいいことだ。願わくは、次は無事にUKを出られるといいんだが 」

 

「 もちろん、大丈夫でしょう。私の役割は、ようは釣り餌になることと時間稼ぎでしょう?捜査網を広げたがらないなんて、魔法省も人手がないようだ。 」

 

「 シリウス・ブラックだって馬鹿じゃねえ。お前さんが待ち構えているところに、みすみすやってくるもんかい。こいつは、魔法省がうちへの見張りを強化する理由づくりよ。やれるもんならやってみろってんだい。 」

 

「 はいはいちょっとストップ! 」

 

 

ガラハッドの手刀が空を切った。たまらないという面差しで、すべてを忘れたようにアラベールが向き直って言った。

 

 

「 声変わりを迎えているなガラハッド!?実に、実に感慨深い。あとで身長を測ろう! 」

 

「 うーんちょっとそれやめて?ハリーもいるしさ…。ねえ、父さんが今年帰って来たのって、シリウス・ブラックと関係があるの? 」

 

「 グレイスは奴の婚約者だったのだ。だが知っての通り、グレイスはオリバンダーとしてこの家で死んだ―――そういうことだよガラハッド。シリウスという男は、グレイスの婚約者としては相応しくなかったんでな。弟のほうと…という話もあったが、お嬢さん自身が強情を張ったんで、解消というわけにはいかなかった。その果てに、強硬な措置が必要だった。私が、お義父さんの指示によって彼女をこの家に連れ帰った。あのときはダンブルドアにミネルヴァ、マエストロ・フリットウィックもいたな。 」

 

「 腕っこきを頼んだんじゃ 」

 

 

唸るようにギャリックは言った。臭いものを嗅いだ猫のように、ハリーはますますぽかんとしていた。反面、ガラハッドは顔が強張っていた。

 

 

「 え? 」

 

 

目が皿のようになってしまう。えっ、つまり―――つまり、それって“そういうこと”だよな?ガラハッドは、咄嗟に凍りつくような心地で自室のトランクにしまいこんである、リドルの日記のことを思い出した。

 

 

「 ―――ッ!? 」

 

 

昨年あれで引き起こされた事件は、被害者のことを思うと到底許されるものではない。

だがその上でガラハッドは、やっぱりルシウス・マルフォイ氏こそが、自分の本当の父親なんだろうと思っていた。慕わないと決めたけれど、そう思っていた。彼こそが実父なのだろうと、これまで思っていたのに…。

 

…彼であってほしいと思っていたわけではないが、そうであったほうがまだいくらかマシと言えた。

 

 

( シリウス・ブラックの子供だったのか俺は! )

 

 

よりによって凶悪犯の子だったとは!!!

組分け帽子を脅すだけに飽きたらず、親に逆らって悪人と一緒になるなんて、とことんなんて女だよあんたって奴はよ!?

と、ガラハッドは、咄嗟に暖炉の上の写真立てを睨みつけてしまった。素知らぬ顔でグレイスは、この瞬間も扇子をもてあそびお高くとまっている。

とはいえ写真のなかの死人に悪態をついても、まったく栓のないことなので…。

 

 

「 ――――へえ、そうだったんだ 」

 

 

表面上クールに応答したガラハッドに、アラベールはじっと視線を注いでいた。

何を思ったかハリーは、淀みない口調で言った。

 

 

「 博士は、ダンブルドア先生たちとお知り合いだったんですね。シリウス・ブラックよりもお強いんだ? 」

 

「 さて?別に直接一戦交えたことはない。だが負ける気はせんね。 」

 

「 へえ…! 」

 

「 私は日頃、ボーバトン魔法魔術アカデミーで教鞭をとっている。担当は錬金術。託された言葉に火の息を吹き込み、流れる血に鋼の姿与える学問だ。そういうわけで、ハリー、私はこの夏ここにいるし、君はここにいる限り安全なんだよ。どうぞよろしく。 」

 

 

教育者の笑顔でアラベールは言った。

 

 

 

 

深夜、自室のベッドに転がってガラハッドは、シリウス・ブラックについての記憶をさらっていた。脱獄騒ぎで知った名前なのだけれど、そもそもどういう罪状での囚人だったっけ…?

 

連日新聞に載っているから、顔のほうはよく覚えている――――こけた頬、死人のような肌、落ち窪んで陰になっている瞳――――モノクロ印刷では黒く見えているのだけれど、あのもつれた長い髪はもともと何色なのだろう?雑巾のような衣服同様、大変汚れているのであろうから判別がつかない。

シリウス・ブラックという男は、たしか、ハリーの両親とも関係があった気がするのだ。彼は十二年前に、マグル虐殺事件を起こした。全盛期のヴォルデモート卿の一の子分として、彼はそれ以前にもいくつも事件を起こしており、そのなかのひとつがハリーとも関係するはずだ。

それらは、たかだか十余年前の出来事である。

ギャリックなんかからしてみれば「最近」の範疇なので、訊けばすぐわかることなのだが、自分でも驚くほど受けた傷が深くて、どうも改めて質問しづらかった。

 

あまりにも、幸せに育てられすぎてきたから…。

ほとんど話題にされないスリザリン卒の母親と誰だか明らかにされない父が、後ろ暗い人たちであることなんて、当然想定し得たことだったのに。

 

ずっと考えてこなかった。

 

前世の父母はともかく、現世での父母なんて気持ちの上じゃ他人だ。子供として期待しているものはないと、自分では思ってきたのに…。

 

 

「 はあ… 」

 

 

ガラハッドは、寝苦しさに何度もごろごろと転がった。夏らしい夏が短いのがこの国の寂しいところで、開け放した窓から入ってくる空気は涼しく、日本の思い出は冷やかに消えていってしまう。

この社会で生きることについて、「ここは夢の国じゃないよ」と少女に言い聞かせたのは自分で、他でもない自分が逃げるわけにいかない。これからのことについてだけでも、考えたいことは山ほどあって、明日までの夜が足りなかった。

なのに、最早独りではない寝室では、隣のベッドからハリーが腹這いになって絶え間なく話しかけてくるのだ。ここは寮の部屋よりも狭いから、ハリーとガラハッドは手の届く距離にいた。

 

 

「 複雑だろうね 」

 

 

ハリーが言った。彼は眼鏡を外してベッドサイドに置いており、その顔つきはなんだか見慣れなかった。

 

 

「 けれどさ、君のお母さんはそれだけ素敵な人だったってことだろう?ブラックだけじゃないよ。僕のお母さんやマートルも、君のお母さんのこと好きだった。 」

 

「 どうなんだろうな 」

 

「 君と似てるんだ。君も、本当に誰からでも好かれる。―――あの、リドルからでさえも。 」

 

 

「苦々しい」という顔でハリーは嘆息した。

そんなことはないだろうとガラハッドは思った。

人はみんな、杖のつくり手を抱き込みたいだけ。大人はみんな本当の俺の血統を知っているけれど、公然と杖業の跡継ぎを謗ってみすみす損をするほど、馬鹿じゃないだけだ。あの子は、あまりに孤独だったから、浅はかな夢にすがってしまっただけ。けれどもハリーは囁いてくる。その緑の目は清らかで、きっと彼こそ母親によく似ている。

 

 

「 僕も君のことが好き。悩まないで。誕生日プレゼントを有難う。 」

 

 

俺は凶悪犯の子だと知ったのに。この子は、一体いくつまで純真なのだろう?

 

 




2巻に引き続き勘違いです。オリバンダー家はジョースター家のパロディなので、ギャリックは波紋をつかい、主人公はスタンドを使います。ジョジョ原作設定だと、スタンドの強さは思い込みの強さ。
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