ハリー・ポッターとオリーブの杖   作:Tohka.A

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魔法の孤城

 

翌朝ガラハッドはいつも通りの時間に起き出して、日課の勤行でロジャーをおおいに苦しめた。めちゃくちゃ文句を言う割にロジャーは、マーカスのように耳栓をして寝ないのである。曰く目覚まし時計の音まで聞き流して、マーカスのようなモサい恰好で出ていきたくない、と。知ったことではない顔で朝から我を貫ききったものの、ガラハッドの気分は奇妙に晴れなかった。

 

 

 

昨晩もまた、寂しい夢を見ていた気がする。

不思議な欠落感がずっと続いている。

 

 

 

今年のホグワーツは、何かが決定的に変なのではないか。

「あるはずのものがないが、それを思い出せない」みたいな感情。

閉塞感にも似たもどかしさだが、焦燥感というのはない。

むしろずっと、ずっと浸かっていられそうな奇妙さだ。

取り壊された建物の跡地には、何が建っていたかを思い出せないが、ずっとそこにはいられるみたいな感じ…。

 

 

その日のホグワーツ城は深い霧に包まれ、レイブンクロー塔からの眺めは牛乳瓶の中に等しかった。音まで吸い込んでいくような朝靄のなかで、第四学年の授業は粛々と始まった。

 

 

「 みなさま、ごきげんよう 」

 

 

一時間目はルーン文字学で、二時間目は占い学。今日のような日は、晴れ上がった日よりもいっそう神秘性を演出できて、北塔のトレローニーは絶好調みたいだ。彼女は昨年“あの落書き”があったときから、ガラハッドの顔を見るたびに嬉しそうにこれを言うのだ。

 

 

「 おぉぉぉぅ恐ろしい。呪われたひと、あたくしには視えますわ。絡みつく蛇…! 」

 

「 ごきげんようMissトレローニー 」

 

 

まったく動じずにガラハッドは挨拶をした。いましがたトレローニー先生の言ったことは、去年からの職員であればおおむね誰でも言えることだった。ましてや、レイブンクロー所属の教員であるならば。

 

ガラハッドは、あのキョロキョロ・クィレルとウザイ・ロックハート、マジキチ・フリーザ(彼は数学修行の旅に出たらしい)とトンデモ・トレローニーって、かつて同じ時期に寮生活をしたんだよなと思うと、我らがレイブンクロー寮のポテンシャルには苦笑いを禁じ得ない。朝食の席にて今年の時間割を確認しながら、「絶対、このなかの誰とも同居したくないよなあ」「わかる~!」などと語り合うとき、互いに多少の難は度外視して、ロジャーとの友情は最高にたかまるというものである。集団生活というものに関して、我らが先輩たちは徹底的に向いていないように思える。

 

 

始業のベルを過ぎても、少数ずつ生徒らは入室し続けた。一時間目も選択科目である関係で、去年までとは違うルートでこの場所を目指さねばならず、少なくない生徒たちが道に迷い、あてにならない肖像画たちに惑わされたようなのだ。

授業を始める前にトレローニー先生は、突然立ち上がって生徒たちを驚かせた。彼女はたおやかにショールを纏ったままの仕草で、棚から陶器の箱を取り出してきて、音もなく蓋を持ち上げた。

 

 

「 運命の知らせを聞きまして?あたくしどもには、今、香が必要ですわ 」

 

 

いちいち一大事のように彼女は言う。

 

 

「 あなた――――あああ可哀想に、これ以上ない苦しみのなかで死ぬことになりますのよ。せめて、生きているうちにお好きなものをお選びなさい 」

 

「 そりゃどうも、有難く遠慮なく 」

 

 

しゃあしゃあとガラハッドは言ってのけた。トレローニーの香箱はきっと学校一充実していて、丁子に沈香、白檀、伽羅―――――それらの良質なもののチップが小分けにされて納められていた。元からいた生徒たちは凍りついていた。今やってきたばかりのゼノンが、目元にハンカチを添えるトレローニーと鉄面皮を決め込んでいるガラハッド、それに生唾をのむ受講生たちを見比べ、怪訝そうに顔を歪めた。

 

 

「 おはよう、ガラハッド卿。今年も履修したんだね。死因まで詳しく知りたいのか?夏休みは、大丈夫だった? 」

 

「 いやあ大丈夫じゃなかった。心配だから、叶うことなら僕の死体が発見される場所や第一発見者まで知りたくて、このとおり今年も受講している。 」

 

 

香炉を扱いながらガラハッドは答えた。彼がブレンドして焚き始めた香のせいで、教室中はにわかに仏教寺院かインドである。

 

 

「 相変わらずイカレてる… 」

 

「 そう褒めるなよ 」

 

 

ゼノンは最後の遅刻者だった。

霧の向こうから囁きかけるような声で、トレローニー先生は講義をはじめた。

ガラハッドは心底、トレローニーの死相宣告癖は、声が細くて小さい彼女なりの「みなさん、静かにしなさい!」だと思っている。この科目の受講者は女子が多く、さっきはみんなきゃあきゃあ「やばいやばい」とか言いながら遅れて入って来て、夏休み明けだというのもあって、知り合いを見かけるなり手を振ったりしていたのだ。死に関する漠然とした予言なんていうものは、当たる確率を最大化してある放言で、人間みないつかは死ぬものの、死にたくないと思っていること前提の、己の言葉を聞かせるためのスパイスである。

 

その日の授業内容は「聖アランの力を借りて、自分に想いを寄せる運命の人を探す」というもので、お通夜のような空気で始まったのが嘘のように、女子たちは大盛り上がりだった。背を向けてえいやっと肩越しに皮を放り投げるべく、誰もがいそいそとナイフで林檎の皮を剥き、教科書に従って儀式をして、銀盥に聖水を張った。

 

ガラハッドはつくづく不思議だった。林檎の皮は一本の帯になるので、どう投げたって特定のイニシャルにしかならないのではないか、と。

昔は、名前のパターンが少なかったのだろうか?

たとえばフレッド(Fred )ウィーズリー(Weasley)なんかは気の毒だ。剥いている途中で林檎が爆発しない限り、FもWも結果になるわけがない。

 

 

「 そうかい?わからないよ、水の上に放るんだもの 」

 

 

きったねえ剥きかたをした皮をゼノンは握っていた。あ、そっちのほうがスタンダードですか、と…つい抜けきらない日本人習性で完璧に美しい帯状にしてしまったガラハッドは、水盤に放り投げる前に自分の林檎の皮をわざと引き千切るべきか、真剣に悩んだ。

 

 

「 このままじゃCかGにしかならないよな? 」

 

 

確率1/2である。

占いといえるのだろうか、それは?

 

 

「 先生、小文字も含みますか?それならCとGと…eもあるよな。ファーストネームですか? 」

 

 

つまりチャン(Chang)グレンジャー(Granger)エッジコム(edgecombe)、日頃呼びあっているファーストネームだと、該当者はもはやチョウ(Cho)しかいないじゃん!あいつは、とてつもないじゃじゃ馬ではあるが、やんぬるかな認めざるを得ない程度には可愛い。「マジかぁ…」とガラハッドが呟きつつ顔を引き締めようとしていると、最高に嘆かわしいといった様子で、トレローニーはムンクの叫びの物真似をした。

 

 

「 おお、おおおなんとゲスで打算的な質問!あたくしの心眼が濁ってしまいます…! 」

 

「 あ、ハイそうですよね… 」

 

 

おっと今の想像はかなり恥ずかしいぞ。ガラハッドは真面目に深呼吸をして、心を無にしてみた――――つもりだった。

そうして「えいっ」と肩越しに林檎の皮を放り投げたら、水盤のうえのその形は解釈の余地もなく――――Cだった。うーんこれ、占いって言えるのかなあ?占いを好むようなお嬢さんたちの集まりとあって、同じように皮をていねいに剥く失敗(?)をした子は他にもいるらしい。ガラハッドが読み解きに悩んでいると、別の班からはこんな会話が聞こえてきた。

 

 

「 絶対セドリック(Cedric)!Cだもん、C 」

 

「 私もCだったもん! 」

 

「 あんたのそれはG! 」 

 

 

ジョージ(George)じゃない?」「ちがうもんセドリックよ」だそうだ。聞いてはいけないものを聞いたような気がして、ガラハッドはそそくさと自分の取り組みと結果をレポートにまとめた。

 

 

「 …ん? 」

 

 

んん?いや、待て待て、Gといえばこの俺、ガラハッド(Galahad)も該当するわけですが!?俺に好かれたくはないのかよ!!!

セドリックにはそりゃあ敵わないとして、そうか、俺、ジョージにも負けたか…――――それにつけてもフレッドの気の毒さよ。

 

大騒ぎの女子たちが互いを小突きあうので、トレローニーはガラハッドの水盆を覗きに来て、ご丁寧にも二回目の死の宣告をした。さしものガラハッド卿といえども、このときは大変しょっぱい気分であり、混ぜっ返しもせず沈痛な面差しだった。それを見た者たちはいずれも息を呑み、たちまち教室は静まりかえったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「 …と、いうわけなんだよ 」

 

 

大広間に向かう途中で、二時間目に数占いを受講していた者たちと鉢合わせたので、ガラハッドは今しがたあった出来事をあっけらかんと報告した。どうせ噂が出回るだろうから、こういうのは鮮度のいいうちに“使って”おいたほうがいい。それに、自虐ネタはおいしい。案の定廊下は爆笑の渦となり、マーカスはしゃっくりをはじめ、ケイティは笑いすぎて床に蹲った。

ガラハッドは、そんな友達を介抱するでもなく、チョウが肩掛け鞄の紐を握りしめて、真っ赤になって立ち止まったのを見逃さなかった。――――おっと、これは“脈アリ”なのでは!?ガラハッドが努めて平静に「どうかしたの」という感じで目を向けると、彼女は恥ずかしそうに微笑んで少し俯いた。

 

 

「 と、いうわけでマクラーゲン、君だけだよ僕のこと好きでいてくれるのは 」

 

「 好きなわけないだろ? 」

 

「 コーマック(Cormac)って呼んだほうがいいか? 」

 

 

クソ真顔でガラハッドは言った。「ば~~~かッ」とコーマック・マクラーゲンは顔を真っ赤にした。これにはとうとうロジャーまで噴き出し、アンドリューは笑いすぎて死にそうだ。

大笑いの一団は中央階段まで来て、南から来た対照的なお通夜集団とぶつかった。階段待ちのあいだに自然と観察することになるが、葬列みたいな彼らはグリフィンドールの三年生だった。ガラハッドはその子たちのあいだに、一際顔色の悪いハリーを見つけた。

 

 

「 よっ! 」

 

 

ロンが最初にこちらに気づいた。彼は肘でハリーをつついて、どんよりとした彼に顔をあげさせた。ハーマイオニーはいかにもこちらと話をしたそうに、伸びあがって授業中にぴんと挙手するかのようにした。

 

 

「 それじゃ、俺たちはランチミーティングがあるから。また午後にな! 」

 

 

ロジャーとチョウは別の階段に乗った。例年どおり二週間後となる選手選考会を前に、チームの要となりつつある彼らはキャプテンと準備をするらしいのだ。別れるために彼らと手を振り合っていると、例の三年生三人組はすぐ近くまで寄ってきた。大広間の入り口で別れるまで、彼らはガラハッドを囲むように歩いた。

 

 

「 ねえ、占い学とってる? 」

 

 

出し抜けにロンが言った。「とってる」とガラハッドは、ロンの顔色があまりよくないのを気にしつつ答えた。

 

「 いま受講してきたところ。君たちは?一時間目に受講したのか? 」

 

「 ええそうよ!あのねわたし、あの教科にはとーっても失望したわ。なぁにあれ?あれじゃマグル界によくあるインチキと変わらないじゃない!もっと違うものを想像してたのに。 」

 

「 君、僕と黒い犬を見たよね? 」

 

 

ハーマイオニーとハリーも喋った。それぞれが重ねるように全然違うことを言ったので、当然ながらガラハッドは困惑した。

とりあえず先に、答えやすいほうに答えた。

 

 

「 ああ、見たな。グリンゴッツ前の広場で。それがどうかした? 」

 

 

近くにいた知らない女の子までもが、この発言をうけて悲鳴をあげた。ガラハッドには意味がわからなかった。震えあがったロンとその女の子に、ハーマイオニーは心底呆れたような目線をぶつけた。

 

 

「 そう。じゃあ、わたしも聞かせてもらうわ。ガラハッド、あなたって死んでる? 」

 

「 え、生きてるけど?何それどういう意味? 」

 

「 ほーらご覧なさいよロン!賢い魔法使いはね、たかが黒い犬を死神犬(グリム)なんて呼んで、見かけたって『死んだも同然だ』って思わないの。だからこうして元気に生きてるの! 」

 

 

ロンは何かを言い返そうとしていたが、言葉が出ないらしく口をパクパクさせていた。ハーマイオニーは嬉々として数占いの話をしたがったが、事情のわからない喧嘩に巻き込まれそうで、ガラハッドはこの場を逃げ出したくなっていた。

しかし、人混みがそれを許さない。

グリフィンドール三年生たちのすぐそばで、ガラハッド、マーカス、マリエッタの三人が黙って視線を交わしていたそのとき、とうとうロンが鋭い一撃をハーマイオニーにくらわせた。

 

 

「 トレローニー先生は君にまともなオーラがないって言った!君ったら、たった一つでも自分がクズに見えることが気に入らないんだ! 」

 

「 占い学で優秀だってことが、お茶の葉の塊に死の予兆を読むふりをすることなんだったら、わたし、この教科といつまでお付き合いできるか自信がないわ!あの授業は数占いのクラスに比べたら、まったくのクズよ!! 」

 

 

ぎゃんぎゃんと三年生たちの口喧嘩は続く。無事に彼らと離れてレイブンクロー席についたとき、ガラハッド、マーカス、マリエッタの三人は、どっと疲れて溜め息をつき、全員昼食はスープから摂り始めた。ややあって、気だるそうに丸パンをちぎりながら、マーカスは眉をあげてぽつりと言った。

 

 

「 占いって、当たると思う? 」

 

「「 うーん… 」」

 

 

ガラハッドもマリエッタも、それぞれ悩んで返事ができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

さて午後一番の“闇の魔術に対する防衛術”の授業は過去最高にまともで、新任のルーピンは自己紹介もそこそこに、とある問題について生徒たちに議論をさせた。

 

 

「 普通ではない本があるとしよう。とある本が安全かどうか確認するために、我々は何をするべきかな? 」

 

 

ガラハッドは、この問題には昨年のうちに、ホグワーツ生全員が取り組んでおくべきだったなと思った。昨年の授業は全時間がロックハートの自己紹介だったようなものであり、多分我々は、歴代の四年生に比べてアホである。早速グリフィンドールのアンドリューが、「そんなの見た目でわかるじゃん」と堂々と言った。

 

 

「 『怪物的な怪物の教科書』を見た?あれ、やばいよな。履修してない子も見てみなよ! 」

 

 

すかさずルーピン先生は全体に言った。

 

 

「 “普通ではない”と判断する基準を何にするべきかな?見た目かな?本当にそれでいいんだろうか?本当に危険なものほど、一見すると安全を装うよ。さあ考えて。君たちの意見を聞きたい―――…Miss 」

 

「 はい、エッジコムです!“禁書の棚”にあるものは危険です! 」

 

「 そのとおりだね。素晴らしい。マダム・ピンスへの信頼を感じる答えだ。だが、誰かが本を並べかえたらどうしよう?ホグワーツの外には、“マダム・ピンスが管理してくれている本棚”はないんだよ。 」

 

 

マリエッタは頬を張られたような顔をした。「騙された!」とでもいうかのような反応だが、ルーピン先生の言うことは尤もである。

挙手制の議論は捗らなかった。

ルーピン先生は、それぞれ好きなもの同士で別れて全員が意見を言いあい、あとで挙手をして議論のあらましを発表するようにと言った。ふぅん…とガラハッドは思った。

 

 

「 え~?わっかんないよなあ! 」

 

 

たちまちワイワイやりはじめたグリフィンドール組と違って、チーム青ネクタイたちはこぞって“絶対間違った答えは言いたくない病”である。ルーピン先生が合図をした途端、鈴生りになってブルーマフィアを囲み始め、出来っ子たちならばこんなときに何を言うか、意欲的に議論に臨むふりをして“正解”を引き出しにかかった。その筆頭が小狡いエルビスである。

 

 

「 まずはどう見分けるかだよね。時計回りで、順番に意見を言っていこうか。ガラハッド、どう思う? 」

 

 

ほらほら来ると思った!

ガラハッドは、あまりにもこれが思った通りの展開だったので、つい笑ってしまって、その続きでみんなに聞こえるように言った。

 

 

「 まずは普通の本について、マダム・ピンスのお膝元で成り立ちまで考慮に入れて知っておくべきだと思うね。普通じゃない素材、普通じゃないインク、普通じゃない呪い――――“普通”をよく知っておかないと、おかしいことに気づけないから。 」

 

 

「わかっとけよお前ら?」という意味を込めて、言い聞かせるようにガラハッドは言った。

グループワークの時間が終わると、いそいそとライアンが得意気にこれを発表していた。彼はルーピン先生に褒められていた。

 

ニールは脇からガラハッドを小突いて、ライアンの振舞いについてひそひそと文句を言った。ガラハッドはこれまた笑うしかなかった。だってルーピン先生は、もうずっと誰によるどんな発表もにこにこと穏やかに褒めているが、誰が粗忽で誰の受け売りをしているかくらい、全部わかっていそうなんだもの。にこにこしている先生の背後では、さっきから自動速記羽根ペンが踊り続けていた。彼は、どの生徒がどういう性格か、どの生徒が順序だてて話すか、どの生徒が人気か仲間を得られないか、自分について生徒に伝えるよりも、自分が生徒たちのことを知ろうとし、それを調べて記録しているように見えた。ガラハッドは、なんだか侮れないものを感じると同時に、だんだんこの教師のことが好きになってきていた。

 

極めつけはこれだ。

ルーピンは、かなり和やかになってきた教室で生徒がふざけはじめたとき、頭ごなしにそれを叱ったり、恐怖によって支配しようとしなかった。「危険とわかった本への対処法」について、ケイティは手を挙げてこのように言った。

 

 

「 はい。セクシーに触ります! 」

 

 

ドカンと笑いが教室に満ちた。ガラハッドはつられて笑ったが、ちょっと元ネタがわからなかった。にこっとしてルーピン先生は、人差し指を立てて言った。

 

 

「 Sirが言うなら、そうかもね? 」

 

 

またしても笑いの渦だ。リーマス・ルーピン教授による授業は、これから楽しいものになりそうだ。

 

 

「 と、いうわけで意見を聞いてもいいかなMr.オリバンダー?危険とわかっている本に対しては、どのように臨む? 」

 

「 へ!?え、えっと、防衛術によって遠ざけます 」

 

「 そうとも。みんな、防衛術をよく学んでいこう! 」

 

 

時間ぴったりに授業は終わった。

 

 

 

 

 

 

四時間目は薬草学で、今年は用意された苗の植え付けではなく、一から苗床をつくるところから始まった。「あなたたちの育てた苗を一年生が植えるのですよ!」とスプラウト先生は、巨体を揺すって温室を歩き、明るい声で言って回った。ガラハッドは、こういうときに作業のペアを組むならやっぱりロジャーだなと思っていた。一年のときはそうでもなかったが、なにぶん要領の良い奴なので、四年生ともなると彼には一緒に作業する過程で「あのさあ、こうすればこぼれないだろ?」などなど言う必要がなく、見ていてイラつかずに作業が進められる。多少雑なところがあるが、しょうもないことでモタモタされるよりもずっと良かった。教科書に書いてある通りに五種類の土を重ね終わり、ふたりはのんびりと雑談をした。――――あっちに麻袋ごと培養土をぶちまけて転んだ間抜けがいるが、我々の知ったことではなかった。

ニヤッとしてロジャーは言った。

 

 

「 俺さ、チョウと付き合うことになったんだよね 」

 

「 へ!!? 」

 

「 いやあ、あの後、あいつ『占いって、当たると思う?』って訊いてきたんだ! 」

 

「 へえ…。へえ…いや、アレが当たっているかどうかは、彼女が一番よく知ってるんじゃないのか?彼女の心なんだから。 」

 

「 だよなあ?でも『当たってるかどうか、わかんない』って相談されたからさ、『じゃあ、一緒にあの占いをやってみよう。君が同じことやってみて、Rって出たらその占いは信用できる。出なかったら、その占いはインチキ。』って言った。 」

 

「 くっっっっさ! 」

 

 

ガラハッドは頬を染めながら叫んだ。今の気障ったらしいセリフは、聞いていてこっちが恥ずかしくなった。くそっ、チクショウこいつこの野郎、その勇気は一体どこから湧いてくるんだよ!?「へへへっ」と笑ってロジャーは、鼻の下を擦ったあと格好つけたウィンクをした。音を立てそうな完璧なウィンクだ。

 

 

「 お膳立てサンキュー☆ 」

 

「 どういたしまして!これはライスシャワー 」

 

 

「オメデトーウ!!」とヤケクソにガラハッドは叫んで、手に握りこんだ土をロジャーへと投げつけた。有頂天のロジャーは、ガラハッドからであれば負け惜しみをぶつけられるのも嬉しい。あまりに彼が嫌がらないので、土を投げていたのはガラハッドばかりであるのに、「ふたりともが授業中に遊んだ」とされて彼らは、それぞれ10点ずつ減点された。明日には取り返せる程度の減点なので、どちらも全然気にしなかったが。

 

事情が事情なので、マリエッタのお小言もいつもほど冴えなかった。薬草学の授業が終わろうというとき、彼女は真っ赤でおとなしいチョウの隣で微笑んで、ガラハッドたちには悪戯っぽく「そんなのじゃ監督生になれないわよ」と言っただけだった。「はいはい」とガラハッドはそれを受け流した。

 

 

 

 

薬草学の温室から校庭へと出たとき、霧のなかを歩いてガラハッドは、次第に自分が冷えていくのを感じた。何でもいいから浮足立ってはしゃごうとして、何をやっているんだろうな、自分は…。

 

 

 

本当は、チョウの件なんか格別悔しいわけじゃない。まあ付き合えたなら当然嬉しい美少女だけど、日頃から近い距離にいすぎるので、付き合って別れたら後が面倒だ。そもそも共通の友人が近くにいすぎて、「二人の関係」もクソもないだろうし…。

それでもロジャーはずっと彼女が好きだったから、「報われてよかったじゃん」と心から思うのだ。

 

このあとはもう放課後なので、ガラハッドはあてもなくそのまま歩き、ひとりで湖を見に行った。濃い霧は湖面を覆い尽くしており、どこに水際があるかも定かではなかった。何を考えるというわけでもなく、ガラハッドは樹の下でそれを眺めた。

 




聖アランの林檎占いはウェールズの風習です。『イギリス植物民俗事典』より。
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