ハリー・ポッターとオリーブの杖   作:Tohka.A

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いきなり!スネイプ先生

 

 

くさくさした気分で授業に行ったら、待ち構えていたのはルーピン先生ではなくスネイプだった。

 

“闇の魔術に対する防衛術”の教室に入室した生徒たちはとてもぎょっとした後、のそのそとその場で後ずさり、自分たちが間違えて別の教室に入っていないか、廊下で表札を確かめて口々に嘆きを漏らした。

みんな、目に見えてとてもがっかりした。みんなの大好きなルーピン先生は、本日は病気でお休みだというのだ。

壇上のスネイプが教科書を持っているのを見て、おそれ知らずのガラハッドは挙手をした。

 

 

「 自習じゃないんですか 」

 

「 黙れオリバンダー。学業への怠惰な姿勢に、レイブンクローから10点減点。本日は――――そう本日は、我輩がルーピン先生に代わって授業をおこなう。 」

 

「 今の理不尽じゃない? 」

 

「 シーッ 」

 

 

マーカスは必死で指を立てているが、ガラハッドはわざとスネイプに聞こえるように言っていた。スネイプはそんなガラハッドのことをにらみつけて、長い指で見せつけるように教科書を開いた。

 

 

「 本日は、『人狼』について講義をおこなう。さあさっさと教科書を開け! 」

 

「 ねえ、これだけぶんもとばすの? 」

 

 

付箋つきの教科書を手に持ちながら、チョウが小さく不安げにぼやいた。今年の四年生の指定教科書は二冊あって、人狼の章は一冊目の最終章だ。「私たち遅れてるのよ」と硬い声色で、すかさずマリエッタがそれに返した。

 

 

「 先生、あたしたちまだそんなとこまで進んでませんよ! 」

 

 

とケイティ・ベルが、馬鹿正直にスネイプに進言して案の定ネチネチと寮ごと見下されていた。噛みついたアンドリュー・カークもまた減点された。

ああはなりたくないレイブンクロー組は、ぶーぶー言うグリフィンドール組の隣で、そそくさと教科書の記述に目を通した。

 

 

「 ―――…? 」

 

 

ガラハッドは不思議に思った。セブルス・スネイプがこの授業を担当するということは、この時間の魔法薬学は誰が開講しているんだろうか?さっき別れたドラコは、他の三年生と一緒に地下教室のほうに向かっていったのに。

 

おとなしく教科書を開きながら、仕方なく目を通した文の内容よりも、ガラハッドはそちらの考えのほうに関心をひかれていた。うざったらしいけどスネイプは、魔法薬学に関しては一流だと思う。その彼を押し退けて代打ですぐ教壇に立てる、魔法薬づくりの名手って誰だろうか?

 

とりあえず椅子に座り続けて一時間の授業を受け終わったあと、それについてガラハッドがスネイプにたずねると、スネイプはばしばしと教科書で教卓を叩いて、怒りによって唇をわなわな震わせた。

 

 

「 ッ…貴様は、この我輩よりも“魔法薬学”を受け持つに相応しい者が学内にいると?是非とも紹介していただきたいものだなオリバンダー!? 」

 

「 いないと思ってるから聞いてるんじゃないですか 」

 

「 この世には、“生み出してはならなかった発明品”があるのだ!親子共々、知恵づくならば後先を考えろ!レイブンクロー50点減点! 」

 

「 はああああ?理不尽!! 」

 

「 嫌なら親にチクれ! 」

 

「 誰がチクるか! 」

 

「 チクれと言っとろうが!! 」

 

 

クスリの勢いでスネイプは叫んでいた。

ガラハッドは知らなかったが、他でもないスネイプはよく知っている。時を同じくしてドラコたち三年生は、すったもんだしながら“縮み薬”を完成させた。教職って、ただでさえブラック。しかも魔法の世界には、労働基準法なんてない。

誰にも同情されないが、“働き盛り”と見なされる年頃の独身男スネイプは、少なくともこの瞬間、ホグワーツで一番気の毒な人物なのであった。

 

一方合計60点も引かれてしまったガラハッドもまた、いくら理不尽な目に遭っていても同情されない生徒だった。同級生たちはそそくさと立ち去りながら、「今度は60点かあ」「ああやっとスイッチが入ったね」などと噂をして、なんとも冷ややかな目をその背中に浴びせかけた。

 

彼らは、そして暴れだしたガラハッド・オリバンダーを、ずっと遠巻きにして眺めていた。ガラハッドはばーんと扉を鳴らして廊下に出て、勢いよくローブを翻してむしゃくしゃずかずか歩いた。「あれは名物なんだ」とジルとニールは、そのまま図書室に向かっていくガラハッドの背を指さして新入生に教えてやった。

 

 

「 ぜぇ~ったい圧巻のレポート書いてやる! 」

 

 

そうわめきながらガラハッドは、片っ端から人狼に関する書籍に目を通した。

 

 

「 マーカス、君のおじさん紹介して!ボク学生ですって言ったら、脱狼薬開発段階の試案とか見せてもらえないかな!?スネイプを唸らせたいんだよな!!! 」

 

「 手紙書いてみるよ… 」

 

 

マーカスは力なくぼやいた。羊皮紙二巻きぶんもの宿題を出されて、こんなに元気なのは彼くらいだとマーカスは思っていた。

 

 

 

 

 

 

はてさてそれとは全然関係ないのだが、マーカスの叔父に手紙を出したとき、フクロウ棟のところでガラハッドは、久しぶりにセドリック・ディゴリーのことを見かけた。彼は、いまや誰も知らない者はいない「イニシャルCの男」である。四年生ではコーマック・マクラーゲンがからかわれているが、セドリックこそ「本家」という感じだった。

マーカスは、セドリックの顔を見るなりクスクスと笑いだした。「いきなり悪いだろ」と制しつつも、ガラハッドもついつい笑ってしまった。というのもセドリックの監督生バッチは――――監督生バッチのあるべき場所についていたのは、監督生バッヂと同じ大きさで似たような丸さの、ぺかぺかしたフンコロガシのブローチだったのだ。ガラハッドが思うに、あれはモテない男フレッドの仕業(エジプト旅行みやげ!)である。

 

セドリックは、バッヂをスカラベに取り替えられていることには気づいていない顔で、とても爽やかに「やあ」と言った。からかうようにマーカスが応えた。

 

 

「 やあセドリック!君、ずいぶんと気が多いみたいじゃない? 」

 

「 僕、そんなことないよ 」

 

 

そんなのみんなわかってるのに。

「モテてモテて困る」みたいに、適当にボケておどけておけばいいのに、セドリックはマーカスへと言い聞かせるようにゆっくりと、あくまで真面目な顔で訂正した。それがなおさら面白くて、きっと彼は連日冷やかされ続けているのだろう。今のでセドリックはちょっと不機嫌そうになり、堅い顔つきになった。ガラハッドは、「なんかコイツ、また男前をあげたなあ」とそんなセドリックを観察しながら思った。同じホグワーツで生活しているはずなのに、何を食べたらそんなふうに育つんだか…。ジョージに対しては悔しさを感じたが、セドリック様にはひれ伏すしかない。

 

 

「 本当に。気が多くなんかないんだから。自分で言うのも何だけど、僕は、結構一途なほうだと思うんだ。 」

 

「 へえ、君好きな子いるのか 」

 

 

ニヤリとガラハッドは笑った。からかいとして言ったけれども、セドリックは縮んでいく茹で蛸みたいになったので、これ以上の追撃はナシとしてやろう。

 

 

「 そのバッヂ、イカすよ。キャプテン就任おめでとう! 」

 

「 え?うわ!?うわああああやられた…! 」

 

「 あっはっは、じゃあな! 」

 

 

減点の件は愚痴らずにガラハッドは立ち去った。「はぁぁあ首洗って待ってろスネイプ!あっっっのクソ教師!耳の穴に指つっこんで奥歯ガタガタいわす!」とは、セドリックの手前下品かつダサいので、ガラハッドは(さっきロジャー相手には言っていたけど)この場では言葉にしなかった。

 

夏休みのことを思い出していた。

 

今年OWL試験を控えるセドリックは、夏休みのうちから、少しずつ勉強を始めたと言っていた。なんだか彼の制服姿を見て、こちらまで背筋が伸びる心地がした。隣を歩くマーカスに対してというよりも、独り言としてガラハッドは、寮に戻りながらこう述べて、向学の決意を新たにした。

 

 

「 よーし僕も今年は真剣に勉強しよ 」

 

「 マジで?今まで真剣じゃなくて一位? 」

 

 

「化け物ォ…」とマーカスは、不気味なものを避けるふりをして笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

さてダモクレス・ベルビィ氏は、かつて自身も所属したレイブンクロー寮でちょっと要領の悪い甥っ子が向学の意気に刺激されていることを喜び、大きなワシミミズクによって、翌日にはもう色よい返事をくれた。「マーカス・ベルビィ様様~!」とガラハッドとマリエッタは、寮の談話室でサバトを開いて彼を讃えた。チョウとロジャーはクィディッチの練習に忙しく、土日は全然校内にいなかった。週明け月曜二時間目、ドヤ顔で闇の魔術に対する防衛術の教室に入ったガラハッドは、そこにいたのがルーピン先生だったので、逆に物凄くがっかりした。

 

 

「 えええええ 」

 

「 すまない。お陰様で、このとおり復帰したよ。 」

 

 

困ったようにルーピン先生は微笑んでいた。

約70人の受講生のなかで、こんなふうに肩を落としているのはガラハッドただ一人だった。他の生徒たちはみんな、着席せずに教卓を囲んで、ルーピン先生の復帰を口々に喜んだ。

しかし彼はまだ本調子ではなさそうだった。ルーピン先生は、いつもよりさらに疲れたような雰囲気を纏っていて、目の下には青い隈があった。

 

 

「 ありがとう。ありがとう。こんなに迎えてもらえて、私は幸せ者だね。さあみんな椅子にお座り。 」

 

 

ガラハッドは、この本当にヨロヨロしているルーピン先生に比べたら、不健康そうに見えるだけでスネイプの野郎は、クソ元気だよなと思った。ルーピン先生の声は張りがなくて、それがいっそう彼をしょぼくれて見せていた。

 

 

「 スネイプ先生が課題を出したそうだね 」

 

 

ルーピン先生の言葉に、多くの生徒がこくりと頷いた。ガラハッドは――――それはみんなもだったが――――溜め息をつきながら鞄からレポートをとりだし、いざ提出のときを迎えた。

 

 

「 はぁ… 」

 

 

ガラハッドはこの土日のあいだに、スネイプのプライドに訴えかけるため、『人狼』という題に対してそれが感染症に近い側面を持つことを指摘し、敢えて魔法薬学の観点から、未感染者への防疫の必要性を指摘したり、脱狼薬の改良可能性を論じるレポートを書いた。「砂糖を入れると効果がなくなる」という性質に注目して、マグル界の化学的見地から、「この場合に砂糖を、以下に例示する非糖質系人工甘味料に置き換えると~」と、ベルビィ氏からの資料に対し、綿密に考察を書きつらねたのだ。アラベールにも恥じずに見せられる力作だったのに、このレポートはルーピン先生宛に提出したところで、防衛術の課題にしては変にズレているし、よろしさのほどを十分わかってもらえまい。深々と嘆息するガラハッドとは対照的に、マリエッタはとても自信ありげだった。

 

ルーピン先生が教師として見事なのは、ちょっとした身ぶりを加えて、一人一人にそれぞれ異なる褒め言葉を贈ることだ。ガラハッドのレポートを回収していくとき、彼は次のように言った。病み上がりの顔を明るく綻ばせて、彼は、拝むような目つきでその羊皮紙を見て、「今すぐこの場で巻き紐を解いて、読み始めたい!」というような素振りをした。

 

 

「 良いタイトルだ―――素晴らしい内容である予感がするね! 」

 

 

ガラハッドは微苦笑した。骨折り損でも、そんな笑顔でねぎらわれたら、「まあいいか」と思ってしまうものである。

 

 

 




■スカラベ…太陽神ケプリの象徴。古代エジプトの「死者の護符」で、オスしか存在しないと考えられていた。
■ここまでにスネイプ先生と同じようなことをしていた人はあと二人います。
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