監督生の説明によると、ホグワーツ城には142もの階段があって、木の階段は基本的に動くし、なかには金曜日にはいつもと違うところに繋がったりするものもある。
少し考えたら、わかることだと思う。―――絵や調度品はいずれも動くのだから、そういうものを目印にするのはよくない。
なのに、馬鹿なのかそういう趣味であるのか知らないけれど、ガラハッドから見て、多くの新入生たちは自分からみすみす失敗をしてまわった。「もう勝手にしろ」という心境のときは木材による構ってちょうだいサインすら、ほんのりと鬱陶しく感じられる。「妖精の呪文学」の教室から「魔法薬学」の教室に行くとき、ガラハッドはムスッとして扉にデコピンし、石の壁のように化けるのをやめさせた。
「 なんでわざわざ遠回りさせんの? 」
背後にどよめき声がつきまとってくる。
次の授業は、魔法薬学。先生が怖いから、遅れるわけにはいかない――――そんな生徒たちが必死に、ガラハッドの後ろに連なっていた。そうして行きついた場所は、いつもの陰気な地下室であったが、今日に限ってはかすかな歓声があがった。地下階段を降りると、そこには立派な大鍋が30個あまり並べられていたのである。ねっとりした黒髪、鉤鼻、土気色の顔――――みんなの恐れるスネイプ教授はまだ来ておらず、子供たちはひととき色めき立つことができた。今日は実習をするに違いない。それも大鍋の数からして、二人一組で行う実習に違いない。そう見抜いた女子たちが、たちまち囁き声で互いを誘い始めた。
( こういうところだけは小賢しいんだよなあ… )
こういうところだけは。
ガラハッドがそれを冷ややかな気持ちで眺めていると、のそのそと団子になって少年らが、こぞって教室の奥側へと移った。どうもレイブンクローの男子たちは視線を交わしあい、暗黙のうちに互いのペアを決めたようだ―――――ピープズ避けには便利だが、口やかましくて煙たい存在である、俺を除いて。さっきから同寮生は誰もこちらを見ようとせず、グリフィンドールのヤンチャ坊主からは、ざまあみろという顔でニヤニヤと見られていた。ガラハッドは笑ってしまった。除け者にされて傷つく? まさか! むしろ最高にホッとしている!!!
ガラハッドは、やっと落ち着いて魔法を学ぶことができそうで、心底喜びながら、特に熱心にこちらをねめつけているコーマック少年に、手を振ってにこにこと愛想をおくってやった。
「 ~~~ッ何だよあいつ! 」
すかさずそっぽを向かれた。
はっはあ、可愛いじゃないですか。そうそう、そうやってぷりぷり機嫌を悪くして、できる限り俺から離れたところに居ておいてくれ。そうしたらがむしゃらに刃物を振り回し、間違いなく煮えている鍋に固形物をぼちゃぼちゃ入れて汁を飛び散らせるであろう彼の被害を、少なくとも俺は被らずに済む。
バーンという音で子供たちは飛び上がった。真っ黒のローブを翻らせて、奥の小部屋から先生が出てきたのだ。スネイプ先生は、「ようこそ」や「ごきげんよう」の一言もいわずに、そのまま暗くて虚ろな目で出席をとりはじめた。自分の名前が呼ばれたついでに、ガラハッドは背伸びと挙手をして、スネイプ先生にこう進言した。
「 先生、本日はおでき治療薬の製造ですね?全体は奇数です。僕はひとりでやらせてください 」
「 いいだろう。Mr.オリバンダーならば、心配はない。今回の実技について、心配するべきは… 」
じろりとスネイプ先生に睨みつけられて、グリフィンドール生たちは震えあがった。
ガラハッドは「ん゛っ」という声を漏らした。笑いながら頷くのをこらえたつもりだったけど、あんまり上手くできたとはいえない。―――わかるわかるとてもわかる!心配だよな、このメンバー!?この場の責任者であるスネイプ先生は、特に落ち着きのない生徒の一群を憎むような目つきで聳え立ち、鉤鼻を突き上げるようにねっとりと、朗々とした演説の声で言った。
「 …厳密なる芸術を解さぬ野蛮人、繊細さと縁のないウスノロ、物事の後先を考えず、勢いで何とかなると思い込んでいる連中だ。早速とりかかる。二人組をつくれ―――――カーク!誰がもう鍋を触ってよいと言った?グリフィンドール1点減点。デイビース!貴様もだ、レイブンクロー1点減点 」
学校の先生って大変だ。竦み上がることでようやく大人しくなる子らを見て、ガラハッドはつくづくそう思った。
その日の実習は初めての実技ということで、魔法薬づくりとは言えないような簡易な内容であった。おできを治療する薬なんか、魔女でも何でもない田舎のばあちゃんだって普通にこしらえている。スネイプ先生は子供たちに二人一組で火を焚かせ、水を汲ませ、湯が沸くようすを横目に見ながら干イラクサの計量をさせた――――こう言うと誰でもできるような内容であるが、案の定この世界の子供たちにやらせると、ありとあらゆるものが悲惨なことになった。
「 きゃあ! 」
「 うわあ!? 」
「 袖が燃えた!! 」
馬鹿なのか?火種を手よりも下のほうにやっていれば、火は上に向かって燃え移るから、袖が燃えるに決まっている。
乳鉢でヘビの牙を砕きながら、ガラハッドはありとあらゆるものを無視した。
この教科の教師はしっかりしているので、立ち止まる暇もなく熱心に馬鹿どもの面倒を見て回っている。ここは安全圏だ。
「 なんでガラハッド卿は出来てるの~!? 」
「 ん~…天才だから? 」
もう「そういうこと」でよくないか、俺?
ガラハッドは適当なことを言って、ぼやきながら寄ってきたチョウをいなした。もう僕は天才ということにしていきますので、君たちには構いません。そういうような境地に来ている。
ところがちょっと顔をあげたとき、生来の気質に火がついてしまった。チョウの背後を見てガラハッドは、無言だったが、こっそり内なる老婆心と戦い始めた。「おい君、こっちに来る暇があるなら、炭を蹴って火力を弱めろよ。そのうち噴きこぼれるぞそれ。」と、彼女たちが使っている炉と鍋に対して言おうか言うまいか…。火ひとつ満足に点けられなくて嫌気がさし、文句を言ってはスネイプ先生に絞られている生徒が多い中、彼女たちは他のペアと真逆の強火力だ。
「 ねえ、ちょっと見せて 」
チョウもその自覚があるようだ。「この子は馬鹿ではないな」とガラハッドは、自分たちの火とこちらのを見比べるチョウを見て思った。
チョウ・チャンは鍋の周囲を回ってガラハッドの隣に並び、しゃがみこんで炉中での炭の組み方を見ようとした。彼女に偵察を頼んでいるのだろう。ふたりよりも一列教壇側に近いところの炉では、チョウの相方である同寮生マリエッタ・エッジコムが、ハラハラと自分たちの鍋の沸騰を見守っている。
「 おかしいな。同じようにやったのに 」
「 …最初はあれでいい。途中からは、適度に炭を崩すんだよ 」
根負けしてガラハッドはしゃがみこんだ。
「 もしかして、ずっと僕の真似してた? 」
「 うん。手際良かったから 」
熱心にチョウは炉の中を見ていた。脈打つようにじんわりと赤く光る炭が、不規則にチョウのおでこを照らしていた。
「 どうして組んだり崩したりするの? 」
老婆心の勝ったガラハッドは、迷ったけど、やっぱりぐちゃぐちゃと喋ってしまった。
「 初めに炭を組んでいたのは、息を吹き込んだときに内部にも空気を送るためだ。何であれ、酸素がないと燃焼しない。逆に、こうやって炭を寝かせると―――― 」
「 イチャイチャすんなよ! 」
いきなり誰かの声が飛んだ。
すると途端にチョウは立ち上がって、見回して声の主を探し始めた。今のガラハッドの説明は、完全に無視された形だ。我が善意まさに灰燼に帰す…と、しゃがんだまま崩れ炭を見てガラハッドは呻いた。ちっくしょ~~~~これだからガキは!!
「 うっさいわね!イチャイチャなんかしてないもん! 」
ポン!
…というべきかボムゥというべきかドカンというべきか、奇天烈な音と共に湯気がたちのぼり、ドンガラガッシャンと何かが続いた。
「「「 きゃああああ!!! 」」」
複数の悲鳴が重なった。とっさに頭を抱えて伏せていたガラハッドが立ち上がると、鍋にはほとんど湯が残っていなかった。
「 ふぁ!? 」
爆竹の残骸が浮いている。誰だこんなことをした奴は!!!と、見回す暇もなくガラハッドは跳びあがった。
「 あっっっつ!? 」
熱っ!!熱い!!!いつの間にか床は熱湯のたまり場になっており、着地してはまた熱湯を踏むの繰り返しだった。
「 熱ッ!!」
ガラハッドだけではない。少し傾斜になっている地下教室の後方一帯では、生徒たちは打ち上げられた海老みたいにぴょんぴょん跳ね回り、次々にいろんなものにぶつかり盛大にひっくり返していった。何がどうなったやら自分の鍋を傾けて、間近でたっぷりと熱湯を浴びたマリエッタは泣き叫び、痛みで動けなくなっていた。
「 みんな浮遊呪文を使え! 」
咄嗟にガラハッドは叫んだ。それとスネイプの処置が同時だった。スネイプの杖の一振りで、何名もが同時にぶわっと空中に浮かされるやいなや、跳ねながらげほんげほん言っていたチョウが、いよいよ癇癪を爆発させた。
「 アイツよ!!! 」
チョウは泳ぐように空中で進もうとしている。
おたふくみたいな有様になったチョウが、怒り心頭でジタバタしてつかみかかろうとしているのは、めっちゃ見たことある奴――――グリフィンドールのコーマック・マクラーゲンだった。彼は安全なあたりの地上にいて、自分の引き起こしたことにちょっと呆然としていた。
成程こいつか、俺が火加減を見るためにしゃがみこんだ隙に、鍋のなかに花火を入れたのは。
その思いでガラハッドも憤然と息巻いた。さっきは不意打ちゆえに跳びあがってしまったが、覚悟があればどうということはない。
ガラハッドはみずから杖に頼んで床に降り立つと、熱い湯を踏み越えてマクラーゲンの襟首をつかんだ。蹲ってスネイプは、マリエッタの傷のようすを見ていた。
「 ガラハッド!? 」
同室の少年が遠くから叫んだ。
バキッ
問答無用!ガラハッドは、度を超えた悪ガキの横っ面を躊躇わずこぶしで張り飛ばすと、引っぱり戻して頭頂部の髪をつかみ、わずかに液体の残る鍋に頬を押しつけてやった。
「 あ゛っっっつ!!! 」
諭してわからぬならば、鉄拳制裁あるのみ。
「 痛い痛い!やめてお願い痛い! 」
子供には必要なしつけだ。俺だってこうされて育った!
戦前の躾と軍国教育を受けて、それを反復している側のガラハッドは、平然としていた。髪を握りこまれたまま、もう一度頭を引っ張り上げられたコーマックには、ガラハッドの銀色に光る目が刃物みたいで、怖かった。彼は大人のように言った。
「 そうだ、わかるか?湯は熱いものだ。お前は、それを撒き散らし人に浴びせた。自分のしたことがわかるか?悔いたら、次にするべきことがわかるか。 」
「 …ひぃッ 」
「 オリバンダー! 」
早歩きにスネイプがやってきた。ガラハッドが思うに、この男に限らず、ホグワーツの教師は軟派で調練が足りていない。
スネイプは、蒼白な唇をわなわなと震わせて目をひん剥いていた。
「 何をしている…なぜ手を離さない? 」
「 まったく親の顔が見たい――――教授、これは必要な指導であります。 」
「 手を離せオリバンダー!!! 」
「 では教授は、この者の性根には改善が必要ないと? 」
凛然としてガラハッドは言い放った。元はといえば、貴様の監督不行き届きだろうが。もとよりとろ火だった俺の鍋くらいじゃあ、根性焼きをするにはぬるいもんだ・・・と、心底彼は思っている。
スネイプは黙って憤怒の形相で、鍋のなかのネズミ花火を睨みつけていた。
コーマックは怯えて、震えて言葉にならない声を垂れ流していた。
スネイプは、いまやみずからは般若のごとき形相だという自覚があるが、“この生徒”だけは平然として怯える様子を見せない。
「 減点すれば、馬鹿が利口になるわけじゃないでしょう 」
そして理にかなったことを言う。
震える頬を引きつらせて、セブルス・スネイプは言った。
「 その通りだオリバンダー。マクラーゲンは――――愚かしい。あまりに嘆かわしい。これほどの愚か者には、鞭しかない。だが、オリバンダー、それは貴様の役割ではない。ガラハッド・オリバンダー、貴様の名において、レイブンクロー50点減点! 」
「 ―――… 」
“少しは教師らしい大音声だな?”
そんな目で見られたと、このときスネイプは直感した。
ガラハッドは、忌々しくもスネイプの言うこともその通りだと思った。舌打ちしたい気持ちを噛み殺して、そっとマクラーゲンの髪から手を離した。
「 ひどい 」
さざ波のような嘆きが、レイブンクロー生の群れを震わせていった。
「 やったのはあっちなのに。グリフィンドールがやったのに! 」
「 こっちは怪我人がいるのに 」
子供たちの不平など雑音でしかない。地下教室での権力者として、巌のようにスネイプは聳え立った。
彼らを一喝してスネイプは、悠々と教壇へとあがった。
「 マクラーゲンは授業後、ここに残るように 」
嘆きをもらすレイブンクロー生たちとは反対に、グリフィンドール生たちはずっと静かだった。半分はスネイプの威容を恐れて黙りこみ、のこり半分はマクラーゲンを批難の目で睨んでいた。
さてセブルス・スネイプから見て、減点された本人であるガラハッド・オリバンダーは、母親そっくりの顔立ちでいま、多少は悔しそうにしている。
彼は軽く腕を組んで、「ふーん」という顔で瞼を半分閉じて、あの灰色の瞳を下弦の月のようにしていた。
馬鹿を減点しても利口にはならないのに、この僕を減点して何になると思ってんの?と――――そういう色合いがあの目つきにはこもっているし、「あんたは、見せしめを行う教師なんだな」という品評眼が、じりじりとスネイプの神経を削っていった。
心乱される子供だった。たとえ100点減点されたって、そのうち悔しい顔のひとつもしなくなるタマであることが、十分、十二分に見て取れる新入生だった。
この子は、いまに同寮生たちをまとめあげて、レイブンクローをホグワーツに冠たる存在へと押し上げるだろう。きっと母親そっくりに、無比の帝王となるにちがいない。
「貴様の役割ではない」と言い放ってやった自分に、かの子供は一丁前に嫌味を言ってきた。
「 教授、僕はあなたが“役割”を全うされることを、強く期待いたしますよ 」
生意気を咎めずスネイプは黙っていた。
壁を築く石のひとつのような、重苦しい沈黙がしばしあった。
「 …オリバンダー。貴様はエッジコムを医務室に連れていきたまえ 」
“指導”の役割は引き受ける。その意を汲んだ少年は、おとなしく踵を返していった。
蜂の巣をつついたような騒ぎ方で子供たちは地上にあがった。
ガラハッドは、怪我をした少女へ自分のローブを被せてやって、浮遊呪文で引き回すのは悪いし、しゃがみこんで背中に背負いあげてやった。ところが医務室の場所がわからない。これまでのところ怪我のひとつもしてこなかったので、医務室がどこにあるやら、ガラハッドはそもそも知らなかった。看板などあるわけのない城内だが、そういうとき、ガラハッドはついキョロキョロしてしまった――――その首振りが奇妙に見えたのであろう、とある少年が
「 医務室探してる?俺、知ってる 」
と、案内を買って出てくれた。
見てみるとその子は、ガラハッドとは同寮同室の男子生徒だった。
彼に示されるままに歩き出すと、招いていないのに、レイブンクロー軍団が後ろにぞろぞろと続いた。
マーカスではないほうのこの同室の少年は、名をロジャー・デイビースという。
熱に浮かされたようにロジャーは、道中大きな声で喋りまくった。
「 もう一発やってやればよかったのに! 」
金曜日の午後は授業がない。吹き抜けになっている中央階段に、ロジャー・デイビースの声が高々とのぼっていく。
「 俺ならやってるね。マリエッタのぶんで一発、チョウのぶんで一発!なあ、びっくりだぜ。案外、やるじゃないかガラハッド卿 」
お調子者のロジャーは、シュッシュッと口で言いながら拳で空を殴っていった。
付き合っていられないガラハッドは、前半のほうは無視した。
「 案外って?俺は鉄血男児だぞ 」
貴様らと違って、と言いたいところだが無駄に喧嘩を売ることはない。風呂も焚けないだろう奴らと、これから七年間関わりあっていくのか俺は…。そう思うと溜息で、雲ができそうであった。
「 やめて、減点が100点になっちゃう! 」
もちょもちょとチョウが言った。
チョウは、自分もまた熱い蒸気を浴びて顔面がぱんぱんに腫れあがっているくせに、恥じらうどころか肩をいからせてガラハッドと共に先頭を歩いている。
彼女に対してもガラハッドは胸やけがしていた。さっきからこの子は、周囲を巻き込んで何回も何回も同じ話ばかりを繰り返していて、聞きたくなくても聞こえてくるし、いい加減にしてくれと思っていたのだ。その話というのは、こうだ。
「 どうしよう、大量失点だなんて!先輩たちに何を言われるか… 」
「 スネイプがおかしい!スネイプがおかしいんだ 」
「 でもどうしよう、50点も! 」
「 ガラハッドは悪くない。 」
「 でも、50点はどうするの。先輩たちもう気づいたかな? 」
「 50点は大きいよね 」
「 でも、悪いのはスネイプだもん 」
「 ああもう、うるさいな! 」
むしゃくしゃとガラハッドは声をあげた。立ち止まってセーターのなかに右手をつっこみ、胸ポケットから手帳を取り出すと、みんなして立ち止まって円陣のように囲いこんできた。
手帳を開きながらガラハッドは言った。
「 一回の挙手で、1点から5点貰えるだろう?――――変身術なら、最大20点までとれる! 」
何を言いたいかがわかったらしいマーカスが、肩を跳ねさせてあっと声をあげた。
特に活発なチョウとロジャーは、ぐいぐい寄ってきて時間割を覗きこんだ。
「 来週の授業でどんどん、挙手して点をもらえばいいんだ。日に4科目あるんだから、3日もあれば50点稼いでやるさ。それで帳消しだ。それでいいだろ? 」
憮然としてガラハッドは言った。引かれたぶんは取り返してチャラにするから、もうぐちゃぐちゃがたがたと口を出してこないで欲しかった。馬鹿みたいにマーカスが目を丸くした。
「 そうだねえ、失点したぶんは、取り返せばいいんだ! 」
「 はあ?―――当たり前だろ? 」
「 ガラハッド卿なら、できるよなあ 」
「 来週のうちに取り返せそう? 」
「 そうだな―――見込みとしては、返済完了は水曜の午後か木曜の午前中になる。月・水にも魔法薬学があるが、スネイプ相手にはやりづら…あー…あ゛~~~ 」
見通しが甘かったかもしれない。
ガラハッドは思わず呻いた。 目白押しのようにガラハッドを囲んでいた輪が、いっそう前のめりになって縮まった。
ガラハッドは、水曜1限のところまで時間割をなぞったところで、ぱたんと手帳を閉じて再びポケットに戻した。
「 くっそ! 」
そう、見た目は子供、頭脳は大人、結果的に優秀ということになるガラハッド・オリバンダーにも、目下のところ強烈な苦手科目がある。
苦手科目というか、嫌われ科目というか。
毎回授業開始前から並べてある魔法道具に、寄ってたかって砂を掃きかけられて、これまでのところ一度として授業らしい取り組みができたためしのない分野が、あるのだ。
「 飛行術 」
ずっと黙っていたマリエッタが、ぽつりとその言葉を口にした。
「 水曜1限は、飛行術よね 」
「 …ああ 」
ニヤァ…という笑顔がここそこで花開いた。優越感の塊みたいになっているチョウが、ぱんぱんの顔で高らかに手を掲げた。
「 飛行術!任せて!私がガラハッド卿のぶんも点をとってあげる 」
「 俺も!俺も点をとってガラハッド卿の穴を埋める! 」
ロジャーがバシバシと肩を叩いてきた。いつから俺とお前は、そんなに親しいんだっけと、苦々しく思いつつもガラハッドはそれを受け入れた。受け入れるしかない立場だ。
「 お前そのうち箒折るだろ? 」
そんなことを嬉しそうにガキから言われるのは、結構腹が立つ。
「 折らないよ」
「 大丈夫!俺がいれば、あと30点は追加で取り返せるから、安心して折っていい! 」
「 だから折らないって 」
「 あのパンチ出しといてそれはないだろ? 」
「 ねえみんな、頑張ろう?みんなで10点ずつ稼げば、100点なんかすぐよ!ガラハッドが今度は箒を折っても、私たちでチャラにしてあげるの 」
「 だから折らないって言ってるだろ!? 」
時すでに遅しである。ガラハッドがロジャーに捕まっているうちに、どこまでも快活で気おくれしないチョウは、中庭に飛び跳ねていって陽光に杖を翳した。
「 一緒に100点とる人、この杖と~まれ! 」
そんな誓い遊びに使われて、次々に掲げられ立てられ陽の光に輝く子供たちの杖々は、どうもオリバンダーの店にあったそれとは思えない。どれも磨いたことがあるはずのものなのに、見たことがない杖に見えて、ガラハッドは息をついた。
「「「「 賛成~! 」」」」
―――――あれが持ち主たちの力か。
侮ってはならぬ子供たちを、黄金の陽ざしがきらきらと輝かせていた。