ハリー・ポッターとオリーブの杖   作:Tohka.A

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クィディッチ!クィディッチ!クィディッチ!

 

 

レイブンクロー寮に戻ると、談話室ではロジャーとロイが熱心に話し込んでいた。

 

 

「 ―――この動きは反則のわけだな? 」

 

 

模型を動かしながらロイは言った。『クィディッチ今昔』を片手に、ロイは模型を手離したあとはしきりに顎を撫でた。

 

 

「 思ったよりも難しい…では有効な戦術というのは、全部この本に載っている通りなんじゃないか。去年結果が奮わなかったのは、単にお前らの練習不足だ。 」

 

「 何だとォ!? 」

 

「 去年はうまく連携ができなかったんだよな。戦術の切り替えどきが難しいんだろ?みんな飛び回ってて、お互いにサインが届かないからさ。 」

 

 

ガラハッドは急いで割り込んでいった。同室のロジャーにロイと喧嘩されると、最悪DOMITORYDIRTYROOMにされてしまうので。誰にとっても有難くないことに、昨年末ロイは“負け犬を哭かす呪文”の遣い手になっていた。リザ・ホークアイという良心を卒業によって失い、残念ながら今年彼に首輪をつけられる人物はいない。何様マスタング様の態度で、偉そうにロイは言った。

彼は、溜め息をついて『クィディッチ今昔』を机上に放った。

 

 

「 とんだクソゲーだな、クィディッチ?コールドはない、ゲームの長さは決まっていない、メンバーの入れ換えはない。それならば失格になる役の奴をあらかじめ決めておいて、スタートと同時に敵シーカーをボコボコにすればいいじゃないか。怪我人を出して上等なんだろう?事実上そういうルールになっている!ゲームマスターにフェアプレーを目指させる気があるなら、『選手や箒、レフリーなどに呪いをかけるな』ではなく、最初から杖を持ち込めない規則になっているだろうよ。 」

 

 

ロジャーは今にもロイを殴りそうだ。羽交い締めにしてロジャーを抑えこみながらも、ガラハッドはたしかにロイの言う通りだと思っていた。

そうそう、そうだよロジャー。マジで。詳しく知れば知るほど、クィディッチってかなりのクソゲーだ。マグル界のスポーツをいろいろ知っていると、大抵の人間はそう結論すると思う。

鼻息荒くロジャーは吼えた。

 

 

「 次の試合はレイブンクロー対ハッフルパフなの!ハッフルパフの連中、そういうのは絶対しねーから!ハッフルパフに対して反則するほど、俺たちダサくねーんだわ!お前とは、発想が根本的にちげんだよマスタング!! 」

 

「 そうか。それなら、試合前にハカでも踊ってはどうだ?これはクィディッチではなくラグビーです、とな。ローブを着ているから、こういう動きになるな。そぉれびろびろびろびろ~ 」

 

 

クソみたいにニヤついてロイはロジャーを煽った。立ち上がってまでロジャーが暴れるので、ふんばりながらガラハッドは必死で応援を呼んだ。

 

 

「 ニール!エルビス!見てないで来てくれ! 」

 

「「 ――――…。 」」

 

 

彼らは黙ってチェスの勝負に戻った。盤面に目を戻してからも、彼らは「一発やったれ」という顔をしていた。しゃあしゃあと腕を広げてロイは言った。

 

 

「 司令塔は交代。キャプテンは、ほぼ位置の変わらないキーパーが理想的だな。配置換えでもしてはどうだ? 」

 

「 それだとディフェンス偏重のチームになっちゃうだろ!?グリフィンドールみたいに、毎回シーカーが150点とるっていうんならいいぜ?普通そんな博打うてるかよ! 」

 

「 ふぅむ…では司令塔はシーカー。位置が定かではないので、メンバーはサインを拾うのに苦労するが、一応シーカーも全体を見渡せるわけだからな。はなから150点とるのは諦めて、シーカーがチェイサーらに随伴で指示を出せばいい。そうすれば得点はあげやすくなる――――だがまあ、それで勝てるかというと… 」

 

「 結局敵シーカーとの勝負にかかってくるだろ?150点とる前にスニッチをとられたらおじゃんだし、150点以上リードしても、向こうのシーカーがゲームセットのタイミングを遅らせて、他が粘って巻き返してきたらおじゃんなんだ。ハッフルパフチームは代々、粘り強さでいったら断トツだ。俺たち、そこんとこで勝負はしたくないんだよな。 」

 

 

ロジャーは鎮静化していった。おとなしくなったので、ガラハッドはおそるおそるその両腕を解いた。座り直したロジャーは、ずっと座ったままのロイだけでなく、不安顔のガラハッドのほうも見て言った。

 

 

「 今年のハッフルパフは超攻撃系だよな。点の取り合いをやるのは分が悪い。ディフェンスを強化して、あの変則攻撃に備えなきゃ。俺たち、今年のテーマは積極的ディフェンス!ビーター主導で勝って、アラン先輩に花持たせてやりたいなって…。 」

 

「 それは難しい 」

 

 

ロイはストレートに言った。険しく片眉をつり上げて、「悪いことは言わん、よせ」の顔だ。ガラハッドも内心そう思っていたが、ロジャーと喧嘩したくないので、それは今日まで言わないできた。ハッキリと言うロイはある意味、ロジャーに対して優しいと思う。

 

 

「 ビーターは動く。しかも、敵ボールを追って。メンバーは必ず混乱する。人間、風のなかの声よりも、動くボールや棍棒に気をとられる。一瞬を逃したら指示は通らない。 」

 

「 うん…、うん、そうだよな…。 」

 

「 …だが、やりようはある。知恵が要るんだろう?こういうのはどうだ? 」

 

 

「草クリケット方式!」とロイは、あくまで真面目な顔で言った。「草野球じゃなくて?」とガラハッドは、同じくらい真面目にすぐにつっこんだ。

 

 

「 ピッチの外に監督を立てろ。実際の監督じゃなくていい。棍棒の振り方でビーターが出すサインを、見逃さずにスタンドを動かすんだ。 」

 

「 ああなるほど、特定の歌を決めておくわけか。司令塔の判断を、応援席がプレーメンバーに伝える、と。 」

 

「 歌だとすぐに特定されるからな。メガホンのリズムなどがいいかもしれん。 」

 

「 何だそれ―――お前ら、グルになって俺のことからかってる? 」

 

「 マグルの少年スポーツではなデイビース、ゲームのながれを支配するのに、そのときのバッター以外は声を揃えて歌うのさ。アホ臭くて暑苦しい、いじましい努力というやつだな。とはいえ、そんな畑にしか実らぬ果実もある。 」

 

 

フッとロイが厭な嗤いかたをした。身構えたロジャーとガラハッドだったが、その後の展開は棚からぼた餅だった。

 

 

「 やあペネロピー 」

 

 

にこやかにロイは手を挙げた。談話室の入り口に背を向けていた四年生ふたりは、お揃いの動きでたった今寮に帰ってきた人物を見た。珍しい組み合わせの三人組に、彼女は怪訝な顔つきをして呪文集を抱え直した。

 

 

「 君、チアリーディングやらないか?ちょっと特別なやつでな、馬鹿には出来ないんだ。 」

 

 

ニヤつきながらロイは作戦を話した。ガラハッドは、今日も素敵な黒タイツをお召しである彼女に、いつ雷を落とされるかと思ってヒヤヒヤと首を竦めた。まったく想像のついていないロジャーは、「チアリーディングって何?」と素朴な表情でガラハッドに訊ねてきた。

 

 

「 元気を出すものだよ 」

 

 

ガラハッドは非常に哲学的な感じで答えた。たっぷり不審そうにジロジロと、椅子に座っている三人を見下ろしていたペネロピーは、腰に手をあてた姿でむすりと言った。

 

 

「 ―――やるわ 」

 

「 ええっ!? 」

 

「 やるって言ってるのよ。あんたたち、今年こそ良い結果残してよね。わたしにとっては、これが最後の一年なんだから。やるからには、絶対優勝しなさいよね。 」

 

 

ロウェナ・レイブンクロー像を背に立って、ペネロピー様は聳えあがっている。

 

 

 

 

 

 

 

十一月が刻々と過ぎていった。ガラハッドは、言い出しっぺのくせにろくに定番の歌を知らないロイ(このぼっちめ!!)に代わって、作戦に使う応援歌のリストをつくったり、それを持って寮代表チームの会議に混ざったりした。ロイは青いポンポンとメガホンをつくった。夜の街の雰囲気を纏う彼が、ちまちまとそんなものを扱っている姿は妙に可笑しかった。ペネロピーはN.E.W.T試験対策のほうに血道をあげる一方で、チアリーディングのほうも、やるからには本気だった。クィディッチムード一色に、レイブンクロー寮は染まっていった。忙しくしながらもガラハッドは、とある心配事をずっと抱えたままだった。

 

 

「当然、参加するよね?」という感じで対ハッフルパフ戦の準備は進んでいる。

 

セドリックたちと対戦するわけだから、ガラハッドとしても当然当日は試合を観に行きたい。けれど、またしても競技場に吸魂鬼を招いてしまったらどうしようか。いつも過ごしている城の内部よりも、クィディッチ競技場は城壁にとても近いのだ。いくら楽しく過ごしているからって、自分は過去の記憶を手放したわけではない。

 

そんなある日ハリーが、悪戯っ子のように耳打ちしてきた。大広間の出入り口付近にて、通りすがりにガラハッドを捕まえたハリーは、緑の目を輝かせて囁いた。

 

 

「 特訓してもらえることになったんだ、ルーピン先生に。これで吸魂鬼を追い払えるようになるんだよ。 」

 

「 えっいいなあ、僕もそれ学びたい! 」

 

「 ふたりでも良いと思うよ。僕、一時間めが闇の魔術に対する防衛術だから、このあと先生に話しといてあげる。――――じゃあね! 」

 

 

にっこりとハリーは離れていった―――と、思ったら、ちょっと行ったところですぐドラコたちとぶつかって、やいのやいの言い合ってから去っていった。怒りで唇をめくれ上がらせながら、向かう教室が同じ方向だったので、東棟のところまでドラコはついてきた。

 

 

「 忌々しい、ポッター!先輩、あいつのことなんか無視したほうがいいですよ!! 」

 

「 へえ…。 」

 

 

100%正直に言わせてもらうなら。

君たち、割と似た者同士じゃないか。どっちも面白い生き物が好きで、速い箒が好き。そして言わせてもらうならば、どっちも俺のことが好き。なんともいえない苦笑いをして、ガラハッドは話題を変えた。

 

 

「 僕さあ、最近クィディッチに燃えてるんだよね 」

 

「 ええっ!先輩もとうとう、クィディッチにお目覚めになったのですか!?素晴らしいですよねクィディッチは!! 」

 

 

ほーらやっぱり似ている。

ルーン文字の教室の前で別れるまで、ドラコ・マルフォイは白い頬を薔薇色に染めて、無邪気にうわずった声で自分の贔屓チームについて語った。彼曰く、クィディッチ・プロリーグの面白さは、競技場で体験しなければわからない。毎度誰も予想しないような反則をして、観客の度肝を抜くウィムボーン・ワスプスは最高。間違いなく、イングランドでは最高。「最悪」の聞き間違いかと思ってガラハッドは、この部分を三回訊ね直したが、三回「最高」だとドラコは言った。

 

 

「 マジで?ローブから吸血コウモリ?それが客席に?ええ?ええっ…??? 」

 

 

ガラハッドは困惑させられた。「反則の愉快さ豪快さ」が人気のプロチームがあるなんて、クィディッチってやっぱりどうかしているな。とはいえ試合はショーなのだと思えば、ドラコの言うこともわからなくはない。

 

 

 

 

 

ハリーとの守護霊呪文勉強会に参加し始めたことで、ガラハッドはとうとう古語の勉強用の本を買った。フリットウィック先生に頭を下げて、事情を言って文章を添削してもらった。

 

 

 

そのぶんますます忙しくなるわけで、逃げ去るように十一月は過ぎていった。ハリーとは頻繁に一緒に過ごすわけだし、ドラコとは文通してやろう。これでバランスがとれるなと思ったら、「頭の軽いグリフィンドールめ。僕は先輩とこのように互いを高めあっているのだ!」とドラコが手紙を見せびらかすので、ハリーのほうの勢いも止まらなかった。「幸せな思い出を思い浮かべなさい」とのルーピン先生の指示を受けて、最初の頃ハリーはおぼつかなそうにギュッと目を瞑り、「クリスマス…クリスマス…うーんやっぱり、入学式」とか言っていたのだが、そのうち板についた杖の構えかたで、引き締まった瞑想をするような顔つきで、一片の容赦も躊躇いもない口ぶりで、このように呟き始めた。

 

 

「 クィディッチ…クィディッチ…僕が先にスニッチをとったときの、あのマルフォイの顔!!ざまあみろ!フヒヒヒヒヒ 」

 

 

なんでそれでちょっと煙でてくるんだよ。

 

ほのかに光るハリーの杖先を見て、ガラハッドは呆れるような参ったような心地だった。手段はともかく前進しているハリーと違って、ガラハッドは全然守護霊が出せなかった。

 

 

「 自己の生命力を活性化させるんですよね?どうしよう。僕、彼らほど闘争心に満ちてないんですけど…。別に去年、スネイプの奴を綺麗にしてぶっとばしても、嬉しいとか思った覚えはないし。どうしたもんかな…。 」

 

「 何それちょっと詳しく 」

 

 

ブフッとルーピンは噎せこんだ。立場上げらげら笑うわけにはいかないが、一体何をしているんだ、この子は。(そしてあの同僚は。)

「食って寝るときが一番幸せなんですよね」と、あまりに真剣にガラハッドが言うので、ルーピンはとうとう笑い声を出してしまい、ハリーの集中を乱した。口をへの字にする生徒たちに、ルーピンは笑いながら手振りで謝った。

 

 

「 いかにも目指すのは生命力の活性化。必要なのは身体ではなく、霊的な充足だ。何かに夢中になった果てに幸せを感じるとき、わたしたちの命は一番強いからね。きっと、そういうとき最も美しいと感じさせるよ――――人が花であれば。 」

 

 

ルーピンは微笑みの質を変えた。

花であれば、樹下を通る者の目を奪う。月を見ては、それが時と共に過ぎたことを哀しく思わせる。雪のようにいずれ消えるさだめでありながら、踏みつけることを躊躇わせる命。そういった命が、吸魂鬼に対して最も強い。洋の東西を超えて、これは変わらない真理なのだ。

ガラハッドは眉をハの字にしたままで言った。

 

 

「 急いで習得できないと困るんですよ。来週、試合があるのに。 」

 

「 そんなに手っ取り早くいくもんじゃないよ。ようは試合の真っ最中に、競技場に吸魂鬼がやってこなければいいんだろう?ダンブルドア校長が目を光らせているし、競技場の入り口には、私がいておいてあげるじゃないか。 」

 

 

「楽しんでおいでよ」とルーピン先生は、いつものココアを飲んでふにゃふにゃと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

斯くしてレイブンクロー対ハッフルパフ戦は当日を迎えた。万が一のことがあるので、ハリーは試合を観戦にはこなかった。

 

ただ嫌な思いをするだけではなく、吸魂鬼に会ったらハリーは気を失うのである。シリウス・ブラックの件もあるから、彼がホグワーツ城から出るのは必要最低限であるべきだ。いつになく人数が多くて、しかも団結感がありそうに見えるレイブンクロー生たちに、競技場にて他寮生たちはこぞって目を白黒させた。

大概なマイペース集団(集団不成立)と見なされているレイブンクロー生たちだって、自寮には勝利が相応しいと思っているし、それが合理的だとわかればちゃんとまとまって座る。お揃いのメガホンを持って、監督生の指示をちゃんと聞くことだってできる。ただ一人「極めつけ」のルーナ・ラグブットだけは、今日の応援にピンクのリボンをつけてきて、みんなの顰蹙を買った。

 

 

「 黄色じゃないだけ良いとしましょう 」

 

 

苦笑いでペネロピーは言った。「今日は、あのマスタングすらも鳴り物を持ってちゃんと来ているのに?」と、誰もハッキリとは言わないが内心思っていた。そうはいってもチアとはよきものなので、野郎共は本日、彼の過去の罪状を許した。

 

 

「 いい?私のポンポンに合わせて、雷が鳴ったって選手に聞こえるように歌うのよ! 」

 

 

びしりとペネロピーは指導した。みんなと一緒に頷きながらガラハッドは、本日はとんでもなく快晴で、十一月末にしては暑いということが気にかかっていた。

選手たちに届ける声援というのは、戦術変更のサインとして機能し、勢いがあれば彼らを押し上げる。だが、バテてくると却って選手たちを不調にさせる。

ガラハッドは前世に河川敷で遊んでいて、最早一人か二人しか歌っていないような、そんな状態のときに打席に立たされたことがある。あの雰囲気って最悪だよな。折角打てても漂う疲れに染まり、塁までダッシュで走れないんだ。実力伯仲のすえの黄昏、十一回裏とかによくある光景だ…。

 

 

「 ――――ッ 」

 

 

ガラハッドは入場ゲートを見た。

最後の最後のところで、本日の作戦が勝利に結びつくかどうかは、シーカー・チョウの双肩にかかっている。ビーター・ロジャーたちがセドリックの指揮する変則的攻撃を防いでいる間に、彼女がスニッチを見つけて掴まねば、我らがチームは勝てない。

 

選手入場の滑空のとき、レイブンクローチームの末尾でチョウは、横顔に緊張を滲ませていた。

 

 

『 さあ試合開始です! 』

 

 

今日の解説はほどほどに陽気で、両チームの紹介も中立といった感じである。『いや~今年はレイブンクローも気合いが入ってますね』と、解説者のリー・ジョーダンは明るい声で言った。クアッフルは既に回っているが、まだゲームは動かないので、話題は自然と客席のことへと移った。

 

 

『 クリアウォーターはまさかのミニスカ!オリバンダーにマスタング、イカれたメンバーが揃っております!今のところいい天気ですが、このあと雹でも降るんでしょうかねえ? 』

 

「 ジ ョ ー ダ ン 」

 

『 おっとすみませんマクゴナガル先生 』

 

 

試合展開が動いた。ロジャーの打ったブラッジャーが見事に命中し、ハッフルパフのチェイサーがクアッフルを落としたのだ。その玉をレイブンクロー側のチェイサーが拾ったとき、ガラハッドはとびあがって役割を果たした。

 

 

「 行っけ~行け行け行け行け行け速攻! 」

 

 

ペネロピーに並んで声を張り上げる。

これは呼び水である。まったく同じようにいきなり叫びだしたレイブンクロー生たちに、ハッフルパフ生たちはあっけにとられた。どっと気おされてペースを乱したのは、選手たちも同じだと思う。レイブンクローのチェイサー軍団は、ディフェンスをかいくぐって先制に成功。しかしながらハッフルパフチームの侮れないのは、セドリックが落ち着いた様子ですぅっと外側を飛び回りながらそれを見つめており、間近を通りすぎていく瞬間、ガラハッドのほうを見てニコッと笑ったところだ。司令塔の監視をペネロピーに任せて、ガラハッドはその姿を追ってしまった。―――ファイト!

 

 

「 行っけ~行け行け行け行け行け速攻! 」

 

 

またボールはレイブンクロー。

前回のクアッフルはうまく繋いでゴールに至ったけれど、二回目のそれは上手くはいかなかった。レイブンクローは10点ぽっきりで、ハッフルパフのほうもうまくはいかなかった。それからはどっちも点が入らず、さすがに実況は盛り上がりに欠けた。

 

チームメイトたちに何かを言うべく、シーカーなのに中央に入ってきていたセドリックは、あるときいきなり加速して高みへと浮上した。そんな彼を狙ってブラッジャーが放たれたので、レイブンクローの守備はがら空きになってしまった。「ああっ」とかなんとか言っている暇はないのだ!ブラッジャーがないなら、チェイサーたちで寄せて寄せて守っていくしかない。“あの歌”を歌いながらガラハッドは、祈るようにチョウの動きを追った。

 

 

\き~ら~き~ら光る♪黄金ビーターこのビーター♪/

立て直せ! チャッチャチャチャ

 

 

しかしハッフルパフチームはうまい。アランとロジャーのビーターコンビがセドリックを阻止しているあいだに、レイブンクローは40点も入れられてしまった。フリットウィック先生は「きゃっ」と叫んだが、リー・ジョーダンはこのとおりである。

 

 

『 ゴール!ハッフルパフチーム、お得意の拾い玉速攻!六年生のハンバーストーンが、続いて四年生のスミスがやりました!これにて10対40!もう少しいくかと思いましたが、レイブンクローはよくしのいでいますね。ハンバーストーンは昨年得点王に輝き、今期も活躍が期待されています。グリフィンドール戦では凄かった。いいぞ、もっと見せてくれ! 』

 

 

あの盛り上げトークはずるい。

動揺しているのは誰より選手たちなのだから、応援席は嘆いてはいけない。それからのことセドリックはたびたび突然加速し、レイブンクローの守備を崩しては仲間の得点を狙った。80点とられたところで、チョウが堪えかねて空中で叫んだ。

 

 

「 わたしのこと信用してよ! 」

 

 

彼女はセドリックをマークしはじめた。それ以来ロジャーはセドリックを追わなかったので、シーカー同士一騎討ちだ。彼らは小刻みに動きあった。どの方向に切り換えても巧みに行く手を塞いでくるチョウに、ぎりりとセドリックは歯を食い縛った。響く歌に耳を傾けながらチョウは、セドリックだけを見据えて、気持ちを奮い立たせるようににっこりと笑った。

 

お互いこうしあっている限り、スニッチをみつけることはできない。

それぞれが仲間を信じて、試合展開を委ねるしかないのだ。

 

 

アランは棍棒を回した。

ペネロピーは目を血走らせて彼だけを追っていたので、これを見逃さなかった。跳ねあがって応援する彼女に連られて、レイブンクロー生たちはメガホンを叩かなくなっていた。みんな足を踏み鳴らしてリズムを刻んで、口は歌うことに必死なのだ。両手によってメガホンを持ち、のけぞって叫ぶガラハッドに続いた。

 

 

\ドカンと一発 いってみよ~~おううぉう♪ ッ ッ/

 

 

反撃の狼煙だ。

今までにないリズムとメロディに、レイブンクロー選手団は()()()()を悟った。総員クアッフルを放ってハンバーストーンに狙いをつけ、逆放射状に彼へとつっこんでいった。キーパーまで、そのようにした。ハンバーストーンは巧みな技術で垂直に逃れたが、箒を立てたところをブラッジャーで狙い撃ちにされ、箒ごとくるくる回って芝生へと落ちた。ハイタッチを交わすうちにレイブンクローは20点とられたが、ハンバーストーンがいなければこの先は問題がない。キャプテン・アランとロジャーのブラッジャーはレイブンクローの攻撃を阻む者を襲うものに変わり、みるみるうちにハッフルパフは総くずれとなった。

 

 

『 ゴォォォオル!なんてこった、レイブンクロー、やはりイカれています!やりやがったぜ、60対100です!ガンガン追い上げてきやがる!ハンバーストーン選手の安否が心配ですが、これらは反則ではありません 』

 

\いーまのゴールをきめたのは♪きーみだ♪きみだ♪ッ、ッ、デイブ!/

 

 

次のリズムも2拍。

今度の“結集”では片方が堕とされて、ハッフルパフのビーターは機能を失った。アランの打ったブラッジャーは、完璧なタイミングで相手の頭へと当たったのだ。これにてレイブンクローの猛攻は止まらなくなり、実況席からの声でセドリックは状況を知った。

 

 

『 ゴォオオル!!これで110対100、レイブンクローの逆転です!大鴉の鈎爪は次は誰を襲う?現在のところ両チームの人数はレイブンクロー8名に対して、ハッフルパフは6名。あくまで現在のところ、ですねえ。――――ブラッドリーのシュート!バークリーよく防いだ。拾い玉をチェンバーズが――――…ああっとダランベルがカット!残念ブラッジャーをくらいました。きっついな今のも。ハンバーストーンはいつ復活してくるんでしょうか?またゴール前です――――がんばれ、粘れバークリー! 』

 

 

セドリックは息を震わせた。

逆転された。この先の予想もついた。

仲間が、ひとりまたひとりと削られていく。

次に狙われるのは、チェイサーのダランベル?

いいやキーパーのバークリーかも。

クアッフルがゴール区域に入っているあいだは、ビーターはキーパーを狙ってもいいのだ。

彼らはそれを狙っているのではないか?

実況者の雑談が怖い。

ジョーダンが展開を語らないあいだ、レイブンクローのチェイサーたちは、悠長にパスを回している?

シュートを放つわけでもなく、ゴール前で…。

 

曲芸のようなチョウの通せんぼに、いまだにセドリックは縛りつけられていた。セドリックは、自分が乗っている箒がニンバス系でないことを、この時は深く恨んだ。初速にすぐれぬクイーンスリープ系では、“紳士”であることはできない。

 

 

正面突破してきたセドリックに、空のうえでチョウは吹っ飛ばされた。

 

 

\ あああッ! /

 

 

観客席は震え上がった。ぴたりと歌がやんで、競技場は時が止まったようだ。

 

けれどそのとき、彼女は天空を飛び続けた。真っ白な太陽を背にとって、両手を広げたシルエットは美しかった。浮遊呪文を使って落下速度を落としたチョウに、喚ばれずとも箒は旋回して駆けつけた。相棒と合流するなりポニーテールを巻き上げて、チョウは全速力でセドリックを追おうとした。ところがだ。その必要はなかった。トレローニー先生もびっくりな強運によって、チョウはすぐ近くの場所でスニッチを見つけたのだ。今まさに襲われんとする仲間を助けるため、トップスピードで青のスクラムを蹴散らしにいったセドリックは、それを脇目にとらえることもできなかったのに!

 

にっこりと手を伸ばして、彼女は完璧な勝利を掴みとった。

 

 

 




ルーピン先生が解説しているのはアブラメリン魔術のメソッドです。原作2巻のノクターン横丁でドラコが欲しがっていたものはアブラメリン魔術の道具。あまり詳しくはないのですが、そういった元のアブラメリン魔術をより発展させ、ハリポタでいうところの“守護霊呪文”や“消失呪文”に取り組んだのがアレイスター・クロウリーら黄金の夜明け団だと理解しています。クロウリーの著書やアブラメリン魔術の入門書は、国書刊行会が邦訳出版しています。ちなみに、関戸克己の『小説・読書生活』も国書刊行会です。
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