ハリー・ポッターとオリーブの杖   作:Tohka.A

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VSスリザリン戦

 

肺を刺すような冬の空気が、暖かい紅茶を至福の一杯たらしめるのだ。冬至を過ぎたとはいえ、英国の冬はまだまだ寒くなる。骨に沁みる冷気と同時に、ひたひたとスリザリン戦が近づいてきた。“その日”が近づくにつれて、大広間では下品な言葉が飛び交うようになった。

 

理由は簡単。スリザリンチームキャプテンのマーカス・フリントが、レイブンクローのロイ・マスタングを見かけては毎度絡むのである。もともと倍返し上等のマスタングは、自寮生をこぞって味方につけて連日大暴れだった。彼は華麗なる毒舌でスリザリンチームをこきおろし、レイブンクロー生たちを大笑いさせた。するとスリザリン寮のほうは、フリントよりは弁の立つブレーズ・ザビニが出てくるようになり、ザビニは過激な言い回しで仲間の指笛を誘った。ザビニとマスタング、斜に構えたふたりの毒の吐き合いは、さながら総合格闘技の試合前の余興――――マイクパフォーマンスバトルだった。マスタングはそれを心得ている節があったが、ザビニのほうは怪しいものである。しかし三つも学年が下のザビニを相手に、本気のダメ出しをするほどマスタングはカスではない。彼は、「なかなかやるじゃないか」みたいな目つきで高慢に顎をさすり、いかにもザビニのことを気に入っていた。

 

 

と、いうわけで。

 

 

ああ…あのふたり、絶対に仲良くなって欲しくない。ろくでもない予感しかしない…と近頃喧噪を傍目に眺めながら苦々しく食事をして、眉間に皺が刻まれつつある者がここに一人。

下品な冗談は性に合わない、ドラコ・マルフォイ坊ちゃまである。

 

彼はガラハッド・オリバンダーに憧れていた。こんなときかの最古の純血は、たとえ何が飛び交おうとも気にする素振りなく、超俗の気配を漂わせながら喫茶に徹しているからだ。

 

ああ虫けらどもがいかに騒いだところで、高貴なるものは決して揺るがない!そうあるべきですよね!!

 

そのように勝手に学びを得ているドラコをよそに、当のガラハッド本人はうるさい酔っ払い(のような連中)に慣れていて、「はぁ、寒いから沁みる…茶うめえ…」くらいしか考えていなかった。

 

おめでたい勘違いである。

 

ドラコの目には今日も、オリバンダー先輩はそれはそれはとても思慮深そうに見えた。彼同様にルーナ・ラブグッドも一切喧噪を聞いていないのだが、ドラコから見るとこちらは、ただぼんやりしているだけであった。(まったく理不尽な話である)

 

ところで本日のロジャー・デイビースは、ロイたちと一緒になってスリザリン生らと言い合いに興じている。「遊びの趣味が違う」と感じるので、ガラハッドはロジャーを置いて大広間を去ることにした。あっちは楽しんでいるわけだし、無断だけど別に構わないだろう、と。

 

彼がひとりでレイブンクローテーブルを離れるとき、ドラコは決してそれを見逃しはしなかった。

ドラコは、クラッブとゴイルには追いつけない素早さでちょこまかと大広間を抜け出した。

先に出たガラハッドに追いついて並んで東棟へと向かいながら、ドラコは実に嬉しげに文句を言った。

 

 

「 まったく、連中は品位に欠けますよね!スクールスポーツたるもの、“紳士”の精神を涵養するべきではありませんか。あいつらがいると食事が不味くなる! 」

 

「 ああ―――たしかに、これじゃあパブのなかで勉強しているみたいなもんだな 」

 

「 そうですよね。はぁぁザビニめ、同じスリザリン寮生として恥ずかしい…! 」

 

 

毒づきながらもドラコは微笑んだ。身長と歩幅が違うので、さっきから早歩きを強いられているながら、尊敬する先輩と価値観の一致を確認出来て、至福の境地なのである。

 

適当に返事をしながら、ガラハッドは前だけを見て歩いた。

ガラハッドはこれまでブレーズ・ザビニと直接話したことはないながら、彼がドラコとは良い関係ではないだろうことは、かねてから察しがついていた。男をとっかえひっかえしているらしい“下賤な”女から生まれた褐色肌の子に、このドラコ坊ちゃまは何を言い出すやら…、仔細まで想像ができてしまうぶん、決してはっきりとは聞きたくない。

ガラハッドは大義名分を口にした。

 

 

「 フリットウィック先生によばれているんだ 」

 

 

ガラハッドはますます足をはやめた。クールな顔で去っていくガラハッドに、立ち止まったドラコは背後から声を張り上げた。

 

 

「 誤解なさらないでやってください!あれで悪いやつではないのです。フリント先輩を守ろうとして、とりあえず下品なことを並べたてていますが…そのうち上手く煽るようになります! 」

 

「 いや、あんまりそれは、上手くなるべきものじゃないと思うけど…。君たち、案外仲が良かったのか? 」

 

「 は?そんなわけないじゃありませんか。けれども僕はマルフォイです。あぶれてしまいそうな者ほど、目をかけてやらねば! 」

 

「 …なるほどな 」

 

 

 

無意識の力がはたらいている。

 

 

ガラハッドは一応振り向いたけれども、ちょうど手帳を取り出して、このあと早めに辿り着いた呪文学の教室でフリットウィック先生とおこなう炎の雷(ファイアボルト)分解の打合せについて考え始めたところだった。既に一通り分解前の点検は済んでいて、この手帳には分解作業工程案が書いてあった。簡単にいえばガラハッドは、全然真面目にドラコの話を聞いていなかったのである。だから、彼は特段何とも思わなかった。

 

 

胸をかき乱されるとか、何かを思い出して不安になるとか、そういったことは今は起こらない。

“紳士”たる男を目指して、今日もまたドラコはエレガントなお辞儀をして見せた。そのローブ捌きは、父ルシウス・マルフォイにそっくりだったけれど。

 

けれど何とも思わないで、ガラハッドはホグワーツを闊歩していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、あっという間にレイブンクロー対スリザリン戦の当日がやってきた。

朝、「レイブンクロー日和!」と叫びながらチョウは談話室の窓を全開にしてまわり、全寮生たちを強制的に早起きさせた。

 

 

「 ッ…寒すぎ!いま何月だと思ってんだ!? 」

 

 

ガラハッドは元々早起きである。着替えている途中に冷気が吹き込んできて、チョウのせいで全身が寒疣だらけになってしまった。そこで彼は理不尽にキレながら、丸まっている同寮生たちの布団をひっぺがしてまわった。

 

その日、千切れ雲は上空で凍っているのか、いつもよりも輝く白さをもっており、確かに空の青を際立たせていた。冬だから木々の葉は落ちていて、校庭の芝は霜が降りていた。よってどこをどんなふうに見回しても、今日は青い空が主役なのだ!

「なるほどレイブンクロー日和だね」と、眠い目をこすって談話室に出てきた生徒たちは、外を見てみんな笑った。あまりにも寒すぎるので、おしくらまんじゅうが終わらなかった。

 

 

「 今日は良いことありそうだね! 」

 

 

そんな言葉があちこちで交わされた。

 

朝食の席でマーカスにもそれを言われて、チョウはにっこりと満面の笑みを浮かべた。彼女は、あのあと凍えて起きてきたマリエッタに、「ねえくくって~!」と甘えて高いポニーテールを結ってもらい、後れ毛なし乱れなしの完璧な仕上がりにご機嫌であった。つまり、抜群に可愛いってことであるのだが、中身は誰よりも男前なのである。

 

 

「 カリッカリに寒いもんね。最高!頬っぺた切れそうな風受けるの、わたし大好きなのよ 」

 

「 蛮族か? 」

 

「 そうでーす!北の海でブイブイいわせてました 」

 

 

ガラハッドの冷やかしにもチョウはめげない。ガラハッドはチョウがヴァイキングの恰好で小舟に乗り、北斎の描くような大波を乗りこなすのを想像した――――こいつならやってのけそうだ。ハッシュドポテトにコーンポタージュ、ヨーグルトやフルーツが輝いているそのうえで、「頼むぜチョウ!」「任せてロジャー!」とさっきから、彼らは何度もこぶしを突き合わせている。いつものとおりガラハッドは、しみじみと熱いダージリンを味わった。

 

 

「 見て 」

 

 

きらきらとした大きな目でパドマが、囁くように背後から肩をつついてきた。

 

 

「 見て、先輩。あなたのティーカップのなか―――…すばらしい“しるし”です! 」

 

 

今日も活躍なさいますよと、三年生たちは嬉しそうに語った。自分は選手ではないけれど、こんなふうに喜ばれて、ガラハッドは悪い気はしなかった。

 

 

 

 

 

 

10時前になると、談話室ではそろそろ競技場へと移動しようかという話になった。「流石に寒いわ」とジャージを着て出てきたペネロピーに、「黒タイツでお願いしますッ」と頼んだことでガラハッドは頭をしばかれた。彼女が一度自室に戻って着替えてくるあいだ、ガラハッドは咄嗟の機転や果敢に切り込んだ勇気―――――けっしてアホさではなく――――…を先輩男子たちに讃えられた。中学年の彼が言うから、なんというか「セーフ」なのである。七年生同士で同じことを言うと、「は?キモい」と深刻な事態になる。

 

 

「 冴えてるなガラハッド卿。その調子で頼むぜ 」

 

「 思いきり飛び込むって大事ですよね 」

 

 

馬鹿話には果てがない。

 

サクサクと霜を踏んでみんなで校庭を横切るとき、自慢の赤毛を青色に染めて、本日のレイブンクロー応援団には弾むように双子とパーシーも混ざってきた。

 

スリザリンが憎くて楽しいことが大好き!

 

そんな習性をもつフレッドとジョージは、自分たちも歌って踊るつもりでメガホンや尻尾バンバンポンポン(※材質から推察されることと思うが、危険)を持参して披露した。

一方さっきの出来事を知らないパーシーは、何故そんなにニヤニヤと迎え入れられるのかがわからなくて、怪訝に首をひねっていた。

 

フレッドとジョージが加わったことで、この日の「草クリケット作戦」は以前よりさらにパワーアップすること間違いなしである。競技場の観客席に着いたとき、お祭り大好きなグリフィンドール生たちは、こぞってこの双子についてきてレイブンクロー生たちの場所に雪崩れ込み、歌って踊りたくてうずうずして、ぺちゃくちゃと大声でおしゃべりをした。

ガラハッドは、応援団が密集しすぎて跳ねたはずみで事故を起こさないよう、試合前に拡声呪文を使って生徒らを適度に分散させた。軍国時代に育ったガラハッドは、こんなとき「あああ面倒くさいッ」とつくづく思っている。

お望み通り黒タイツにスカート、防寒ばっちりのブルゾンという出で立ちになったペネロピーの隣で、早速一仕事を終えたガラハッドはやれやれとぼやいた。

 

 

「 『傾注!基準列!総員、前に倣え』って言えばさあ…マグル界じゃこんなの一発なのに!君もそう思わない? 」

 

「 呪文で従わせられるってこと?ええ、なに、どういうことよ。魔法全般がマグルに対しては違法よ。古い魔法使いの家には、“服従の呪文”の亜種があるの? 」

 

「 いや、そういうわけでは…。…うーん…たしかに、『数百人を三秒で整列させられる呪文』があるとしたら、それは“服従の呪文”の亜種だろうけど… 」

 

 

 

“無意識の力”にも限界がある。

 

 

 

ピシリと、薄氷の現実にヒビが入ったかのようだ。

正体不明の違和感に、きょとんとしてガラハッドは棒のように立ち尽くした。

 

 

「 ――――えっ…? 」

 

 

ええっと、あ、そうか。

そうかペネロピーはマグル生まれだけど、出身国が――――何よりも世代が違うから、彼女は体練科で集団行動をやったことがないのか。

 

ガラハッドは去年ハーマイオニー・グレンジャーから、「水洗トイレは魔法じゃないわよ」と教わるまで知らなかったことを思い出した。

自分は、ついついマグル界のことをよく知っているつもりになってしまうけれど、全然そんなことはないんだよな。

ガラハッドは、暇にあかしてまだ開かない選手ゲートを見つめながら、なんだか複雑な気分に困惑していた。

 

 

 

それじゃあ自分のした経験って、一体何だったんだろう…。

 

 

自分って、前世はたしかにマグルだったよな?

何年も、じわじわと、それがさも当然であるかのように仕込まれて、自分自身も片手じゃ数えられないほどの回数、杖なしで大集団を動かしたことがあった――――短い言葉ひとつで。

 

自分って、もしかして前世でも魔法と関わっていたのかな?

「あれは魔法ではなかった」と、今となってはどうして断言できるだろう。

物心ついてから死ぬまで、“あちらの世”で、自分はずっと魔法にかけられていたのではないか…。

 

 

 

 

出来事が無意識を変える。

 

 

ゲートが開いて選手たちが飛び出してきたので、ガラハッドは、自分のなかの靄を吹っ切ることができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天を裂くホイッスルが試合開始を知らせる。

 

 

 

開始早々クアッフルをとった者を含めて、レイブンクローの選手たちはいずれも空高くを飛んだ。スリザリン選手に汚い手を使われるのを見越して、体当たりされたら吹っ飛んで浮遊呪文を使うつもりなのだ。落下時間を長くするためには、より高いところにいるほうがいい。ゴールポストよりも高く飛ぶ彼らは、上からの軌道で降りそそぐ雹のようにシュートを放った。まるでシーカーのような動きを見せるチェイサーたちに、解説のリー・ジョーダンは興奮して叫んだ。

 

 

『 COOOOOL!早速10対0です。スリザリンチーム、レイブンクローチームの度胸に金玉縮めてやがります。換えのパンツが要るかぁ!? 』

 

「 ジョーダン 」

 

『 おっとすみませんマクゴナガル先生 』

 

 

立ち上がりは上々。最初の得点をあげてからが、ロジャーにとっての勝負の時間だった。少しクアッフルをとりあったあと、スリザリンのチェイサーたちの動きが変わった。

 

彼らは、フォーメーションの巧みさではレイブンクローチームに敵わないと知ると、次のシュートも上方から来るとみて、キーパーともども上を見てゴール前を固め始めたのだ。

 

ちょうど味方の妨害を妨害していたから、ロジャーにとってそれは真後ろでの出来事だった。しかし観客席からのリズムで、ロジャーはそれに気がついた――――秒単位で時機を知っただけで、試合のながれは予定通りだ!

 

レイブンクローのチェイサー・ブラッドリーは、ゴールめがけて突っ込んでいくと見せかけて、クアッフルを持ったまま急旋回した。彼をクリアしようとしてスクラムを組んでいたスリザリン選手たちは、真横からロジャーの重い一発をくらって玉突き事故を起こした。

 

 

「 よっっっしゃ! 」

 

 

このあいだにレイブンクローは2連続ゴール。

大丈夫、棍棒で直接殴ったわけじゃない!つまり、ルールに違反したわけじゃない。

ちゃんとクアッフルはゴールエリア内にあるので、「キーパーだってボコられる覚悟しときな?」ってやつなのだ!竦むよりも怒って唸りをあげてきたスリザリン選手らは、案の定頭蓋骨が分厚いみたいだ。

 

次々にパスを回すことで、レイブンクローのチェイサーたちはスリザリンのビーター2人をひきつけた。チェンバーズがスリザリンからのブラッジャーを受けてしまったが、落としたクアッフルはマカフィーが拾った。

 

ゴールのはるか上空で、クアッフルはほぼずっとレイブンクローのものだった。大量得点を狙うレイブンクローチームは、はじめにスリザリンのキーパー・ブレッチリーをノックアウトするつもりでいた。ロジャーとアランの動きから、そのことは重々わかっているのだろう。スリザリンのチェイサー―――――ピュシーにモンタギューにフリントは、どうにかしてレイブンクローのビーター・アラン&ロジャーコンビに、自陣のブレッチリーを襲わせまいとしていた。

彼らはさまざまな工夫をした。

彼らは初めのうち「危ない!」「左だ!」などと互いに叫び合ったが、応援歌のせいで声が届かなかった。彼らは考えた――――ならば体格の有利さを生かして、あるいは杖をとりだして、このクソビーターたちと渡り合うまでだと!!

審判として激戦を予想していたマダム・フーチは、杖を取り出していたモンタギューがロジャーに“失神呪文”を放ったのを見逃さなかった。

 

 

「 タイム!スリザリンチームのチェイサー、グラハム・モンタギュー失格!相手選手に呪いをかけたためです! 」

 

「 おかしいだろ!! 」

 

 

モンタギューは吼えた。

けらけらと笑いながら、レイブンクロー選手たちは旋回して彼が抗議するのを眺めた。

 

レイブンクロー選手は歌ってハイタッチした。

 

い~けないんだモンタギュー!攻防のなかで、モンタギューはこっそりと杖を取り出していた――――レイブンクロー選手は全員それを知っていた。

“クソ野郎道”のプロであるロイが、ポケットに片手をつっこんでしらけた態度ながら、双眼鏡を使って「いまに反則をしそうな選手」をガラハッドに伝え、応援団を指揮することで、それをガラハッドが伝えてきていたからである。

スリザリンチームと対戦するからには、こんなこともあるだろうとレイブンクローチームは対策を練っていた。

モンタギューが杖を出していると知って以来、彼よりも太陽に近いほうに移動して目を眩ませて狙いを外させて、練習通りロジャーは空中で光線を避けた。タイムがとられているあいだじゅう、選手たちはゆっくりと競技場を飛び回り、息のあがった身体を休めた―――――観客席のすぐ近くまで来たとき、ロジャーはニヤッとしてガッツポーズをしてみせた。

 

 

「 あいつらのほうが汚い!あいつら、うちのブレッチリーに怪我させる気だ! 」

 

「 ルール内ですから… 」

 

 

苦々しい顔つきでマダム・フーチは言った。

その目つきときたら、怒りに燃えていて、「本当はレイブンクローチームからも、山ほどペナルティをとってやりたいですよ」という炎でギラついている。

学生スポーツの指導者として、マダム・フーチははらわたが煮えくり返っていた。

 

 

「 総員、スポーツマンシップを目指しなさい!堂々と、爽やかに、互いに正攻法で!―――――はじめ!! 」

 

 

再びクアッフルが回り始めた。

マダム・フーチが立派な指導をくださったものの、両チーム共に「スポーツマンシップ?何それ美味しいの?」の状態である。青空をおのれの縄張りとして、鷲は蛇を料理するつもりでいた。

 

 

決勝戦進出に向けて、レイブンクローチームは着々と得点を稼いでいった。

 

 

めざせ、300点以上とって貯金獲得!

選手たちは全員、全力で、ただ目の前の勝負に徹した。

キャプテンのアランは、最も激しくスリザリン選手を攻めていき、選手たちの士気を高める。

スコアボードもシーカーたちも見て、戦術的判断をするのはペネロピー。

スリザリンの選手を観察し、卑劣な“仕込み”を見破るのはロイ。

大勢の応援団を扇動・統率することでガラハッドは、主にペネロピーの判断を選手たちに伝え、緊急性に応じてロイからの情報を流す――――この一か月のあいだ、何度も会議と練習を重ねることで、レイブンクローチームの体制はこのように変化していた。

元気で無邪気なグリフィンドール生たちは、自分たちが何の片棒を担いでいるのかわかっていやしない。ただ「その他大勢」役のレイブンクロー生たちと一緒に、リズムにあわせて飛び跳ねて、声を揃えることを楽しんでいた。

 

 

「 へい兄弟!!今のをどう思う!? 」

 

 

しかし何度か突然歌が変わるうちに、おつむのある者は仕掛けに気がついてきた。

決め手はあるときロイが急いでガラハッドをつついて何かを言い、ガラハッドがさも当然のような顔で急に音頭を変えたことだ。つられて新しいリズムに乗りながら、汗を感じつつフレッドとジョージは隣同士で叫び合った。

 

 

「 な~るへそって!思う!! 」

 

「 やっべえな!こりゃセドリックが完敗したわけだよ!! 」

 

 

熱狂のあまり勝手に好きな歌を歌う者がいて、ガラハッドは四苦八苦させられていた。

危険プレーが多すぎて、マダム・フーチはカンカンであった。

二回目のタイムがとられたとき、フレッドとジョージはヒソヒソと囁き合った――――「さっきのあの歌あの動き、どういう意味の暗号だと思う?」という話し合いである。二人はこの愉快で楽しい作戦を、自分たちグリフィンドールチームに持ち込む気満々であった。

今回のタイムのあいだに、どうにかして命令せずに大集団の統制を強めたいガラハッドは、双子たちの動きに構っていられなかった。

 

 

「 みんなー!心は一つだってたしかめよう!合図にあわせて、一回だけ手を叩いてほしい!ピタリとぶれずに合ったら、僕たちワンチームさ!挑戦しよう!僕らならやれる!一回しかやらないからな!? 」

 

 

大きく両手を広げて叫ぶ。幼稚園のお遊戯みたいな手法であるが、こういう一体感の演出は()()

彼の放った掛け声は「よーぉッ」であり、相変わらずイカレていてトンチキだった。

ああそれでこそ、我らがガラハッド卿!

全員が彼に注目していたから、約五百人ぶんの柏手は寸分狂わずに揃った。

パン!!!という響きは清々しく、心臓を跳ねさせるような衝撃が一瞬たしかに生じた。

ひとつになれた興奮に湧きたつ者たちは、“大いなるもの”の一部となる魅力に憑りつかれた。

 

ニヤッとしてガラハッドはマダム・フーチのほうを見やった。

さあこっちの準備は済んだから、さっさとプレーを再開させてほしい。

 

 

 

 

一方そのころ血眼でスニッチを探しながらドラコは、ずっと近くにいるチョウ・チャンにイライラさせられていた。

 

 

 

「 くッ…! 」

 

 

ドラコは歯噛みしていた。さっきの一拍音にことさら気を良くして、「世界中は私の味方なの~」みたいな顔で、この女さっきからニコニコニコニコしている。「行かせないよ~邪魔しちゃうよ~~」という眼光も垣間見えて、とことん腹の立つ存在だった。

彼女は、試合開始直後からずっと目障りなところに位置取ってきて、「レイブンクローが150点以上獲ってから、ゆ~っくりスニッチを探そうね」という態度であった。実際、彼らの攻撃は凄まじい。物理的な攻撃だけでなく、得点力もまた高いのだ。それに対してスリザリンチームは、まだ一回のゴールもあげることができていない…。

 

ドラコは悔しかった。スリザリンチームは、キーパー・ブレッチリーを庇ううちに、キャプテン・フリントが先に地面に叩き落とされてしまった。そのときの観客の沸き具合ときたらなかった!ザビニに煽られたレイブンクロー生たちは、すっかりグリフィンドール生たちと意気投合していた。

 

フリントは一度復活してきたが、顔が腫れあがって鼻血が止まらず、半分も目を開けられないありさまだった。

視野の狭くなったフリントを、レイブンクローチームは容赦なく再度狙った。

彼はわざとクアッフルを持たされて、スリザリンチーム初得点の夢を見た。

そしてレイブンクローチームによる“正当な守備活動”の結果、再び地面とキスさせられていた。

 

こうして2人欠けたスリザリンチームを相手に、レイブンクローは110得点をあげた。

 

フリントとモンタギューの犠牲を受けて、ブレッチリーは必死でゴールを守っていた。

 

 

 

「 ――――おのれ! 」

 

 

ドラコは、あまり深いことは考えていなかった。

 

ただ一刻も早くこの女を振り切り、邪魔されずに自由に飛び回りたい!!なのでタイムのあいだでも闇雲に飛び回って、どうにかしてチョウから離れようとしていた。

 

「コールド」という概念を、生粋の魔法族であるドラコは知らない。

0対120だからって、「諦めて所定時間の経過を待とう」という発想はない。

「それが可能なルールであればいい」と思ったことがない。

「ただベストを尽くし続けるのみ」であるのだ。

 

彼はとんでもなくイライラしていた。箒の性能ではこちらが上の筈なのに、なんでコメットに乗っている女を振り切れないんだ!?と。

「まだゲームセットはさせないよ~」という思いがありありと滲んでいる、チョウ・チャンの微笑みに心底ムカついていた。

 

 

タイムは終了した。

滔々としたお説教を聞き流し、「ふーん。で?」みたいな態度で飛び立っていった青ユニフォームの選手たちに、マダム・フーチはもちろん、スネイプ先生も「これだからレイブンクローは!」と歯ぎしりした。

そんなスネイプ先生の隣で、ノーコメントを貫いているらしいフリットウィック先生は、諦めているような賢者であるような…要するにいつもの無表情である。

 

再びホイッスルが鳴ったとき、ドラコはガクンと衝撃を全身に感じるほどいっきに真下に向けて飛んだ。

 

飛びながらドラコはフフンと嗤った。チョウは、初めこそびっちりとこちらの真上につけて飛んでいたものの、今回は途中でぐっと高度をあげて去っていったのだ。霜と草の香りを裂くように浴びて、地面すれすれを飛ぶ自分のうえでは、両チームのビーター同士が野蛮な抗争を繰り広げている。あの女、これを避けて高みへと逃げたらしい!自分ほどの勇気が彼女にはないのだ。

 

相棒のデリックがブラッジャーを打ち返し損ねると、スリザリンのビーター・ボウルは棍棒で直接アランを殴ろうとした。レイブンクローのキャプテン・アランは、その打撃を棍棒で受けとめてボウルとせめぎあった。アランに返すつもりで、デイビースはうっかりブラッジャーを打ち返してしまい、アランとボウルが頭突きしあう原因をつくった。――――結果、アランのほうが箒から落ちてしまった。頭蓋骨の分厚さでアランに勝利したボウルは、「ヒャッハー!」と猿じみた雄叫びをあげた。

 

 

「 うおおお、やべえ!先輩!アラン先輩~!! 」

 

 

片割れのデイビースが騒いでいる。

スリザリン対レイブンクロー戦の一郭は、もはや古代の戦争みたいな状況であった。レイブンクローの守備が欠けたことで、スリザリンは得点をあげられるようになった。しかし負けじとレイブンクローも取り返してきた。スリザリンは30点とれたが、レイブンクローは70点とった。

30対190のとき、「あっ」とドラコは叫びそうになった。

 

敵シーカー!さっき振り切った女――――レイブンクローのチョウ・チャンの背後に、スニッチがきらきらと輝いている!

あいつめ、僕から離れていったのは、スニッチを見つけたからだったのか!

彼女は、とうにそれを見つけておきながら、まだ試合を終わらせないために掴まないでいたのだ。彼女は、スニッチが動くのに合わせて移動しながら、笑みもせずにじっと試合展開を見つめていた。

鋭い面差しだったのに、ドラコが近づいていくと、彼女はドラコに向けてニコリと微笑んだ。ドラコは、ムッとして箒の柄を握りしめて、チョウに向けてますます加速していった。

 

 

「彼女、可愛いな」とか、そんな感想もかつて抱いたことがないわけじゃない。けれど、今日でそのイメージは全部吹き飛んでいった。不敵な笑顔で、「勝負だ。獲れるものなら獲ってごらん」と、真っ黒い目であの女はいま挑発してきたのだから。

 

チョウのほうも箒を握りしめて、いっきに浮かび上がり、降る矢のようにドラコへと襲い掛かった。

 

 

 

『 えええええええ!? 』

 

 

魔法のマイクは健在だが、今日の実況者はあまり役に立たない。これまでにない試合展開の連続で、リー・ジョーダンはうまく話せずにいた。落下の勢いを使うことでチョウは、鈍い音が響くほどのタックルでドラコの乗るニンバス2001の速度を殺した。彼女に吹っ飛ばされたドラコは、箒ごと近くの観客席に叩き込まれてしまった!大声援は悲鳴に変わって、そのあたりにいたハッフルパフ生たちは大パニック。なんとか状況を伝えようとするジョーダンのトークを、ガラハッドの一喝がすこーんと遮っていった。

 

 

『 押せッ!押して返してやれ―――!!! 』

 

 

さながらリングに沈んだボクサーが跳ね戻るように。

スニッチはひどく悪戯だった。スニッチは揉みくちゃの観衆たちを揶揄うように飛び回り、悲鳴をあげるジョーダンの頭上で弾んだ。そのスニッチを獲られるまいと、チョウはドラコに背を向けて箒で宙に浮いていた。ここはプレーエリアのぎりぎりの場所で、スニッチはこれ以上外側に行かないはずであり、自分の視野の範囲に進むと思ったのだ―――――実際それはその通りになった。

 

ドラコは一度も地面に足がつかなかった。何十という手にあらゆる場所を押されて、さながら胴上げされているような状態で腹這いへと回されて、なんとかニンバスを掴んで跨ろうとして、遮二無二ドラコは手に触れたものをつかんだ。それは、垂れていたチョウの競技ローブの裾であった。チョウは、ドラコを思いきり後ろ向きに足蹴にした。顔面を踏み蹴りにされて、ドラコは「おぶふぅッ」とのけぞる羽目になった。

 

スニッチは動き出した。

 

脇目もふらずにチョウはスニッチを追い、ただちにドラコもそれを追った――――たっぷり蹴り飛ばされたことで、ちょうど自分の箒を掴むことができたのだ。セドリックが、タイミングよくドラコにそれを掴ませてやった。

正面からのタックルには旋回が必要だ。すぐに飛び立って、チョウから大きく距離をとられなかったドラコは、チョウから“三発目”をお見舞いされることはなかった。ドラコはそこまで速くないスニッチへと、チョウと並んで手を伸ばした――――いや正確には、あと少しで並ぶ!並ぶところだった!肩と肩での押し合いに持ち込めそうだったとき、“さっきのお返し”をしたのは夢中だったからだ…。

 

 

「 ――――ッ!!? 」

 

 

肘鉄それ自体は、上手く入らなかった。つるりと滑ってしまって、思ったように出来なかったから。

けれど、チョウ・チャンはとっても身体が軽かったみたいだ。

わざとかと思ったほど、チョウ・チャンは容易くふっとんでいった。少し後ろを飛んでいた自分から、左肩の付け根を右肘で押されて――――彼女は、一切の減速をしないままに右側に反れて、すぐそこにあったゴールポストへとぶつかった。

ドラコは震撼した。「なんてことをしてしまったんだ」という思いでいるのに、この手には気づけばスニッチがあるのだ。

 

 

 

ホイッスルが鳴り響く。

 

 

ブーイングが刺さる。さっき顔面を蹴られたおかげで、宙に浮いたまま鼻血を味わって。こみあげる吐き気を感じながら、ドラコ・マルフォイはそれを聞くしかない。こんなことならば惨めな点差のすえ、必死で足掻いたあとからくも負けたかった。ちょうどフリントが意識を取り戻して、地上からレイブンクローのキーパーに呪いを放って…スリザリン側のゴール付近で行われていた、シーカー戦のあまりの乱戦ぐあいに、マダム・フーチがそれに気づかなくて…。

 

 

210対220で、スリザリンはレイブンクローに勝利した。

 

 

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