ハリー・ポッターとオリーブの杖   作:Tohka.A

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星の生徒

 

木で出来ていて魔法使いに力を貸すという点で、杖と箒は似たものであるように思う。ところが箒は、この世のありとあらゆる箒は俺に敵意があると見えて、俺が近づくなりこぞって砂を掃きかけてくる。

 

 

「 何故!杖屋の小僧だから!? 」

 

 

今週もそう叫んで地を駆け回るだけで終わった俺に、夜、ロジャーが談話室でこんなことを言った。

 

 

「 なあ、週末校庭で飛行の練習をしよう 」

 

「 …どうやって? 」

 

 

一年生は学校に箒を持ち込めない。ゆえに授業時に学校の箒を借りて、教師の前で飛行するしかないのだが、なんでもロジャーの兄が他寮の生徒としてホグワーツに在学していて、その兄が友人たちを募り、弟の友達のぶんまで箒を貸してくれるのだそうだ。俺がいい兄貴だなと言うと、ロジャーはソファーに足をぷらぷらさせながら、誇らしそうに鼻の下を擦った。

 

 

「 兄貴は勉強ができるんだ。そのうち、監督生になると思う 」

 

 

そういうしくみであるのを最近知った。監督生とは出来っ子の役目で、やはりホグワーツの仕組みは、陸軍幼年学校に似ている。そのくせ女子もおり男は軟派が多いのだが、ガラハッドは、この環境にもこの頃は慣れてきていた。

 

 

「 でも俺はレイブンクローになったから、もしかしたら、勉強なら兄貴に勝てるかもしれない。兄貴は、クィディッチチームのチェイサーもしていて… 」

 

「 へえ 」

 

「 俺がガラハッドのことを手紙に書いたら、一緒にがんばろうってさ 」

 

「 勝手に書くなよ――――いいのか?僕は、箒という箒と相容れない。今のところ無事に、金的をくらわず箒に跨がれたことすらないんだぞ? 」

 

「 学校の箒が性悪なのかもしれないだろ? 」

 

「 うーん… 」

 

「 諦めないで、いろいろ試してみよう――――な?俺は、ガラハッドと一緒に飛びたいね! 」

 

 

快活な笑顔でロジャーは言った。

彼は、基本的には調子乗りであり人の失敗を見るのが大好きで、事あるごとに自分を大きく見せたがる少年なのだが、出来っ子の兄の影響なのか、気前が良くこのとおり前向きに人を励ます才能がある。新入生随一の活動派として、近頃はチョウともども寮内の空気を席巻していた。彼は部屋に戻るとマーカスのことも誘った。

 

 

「 マーカスも行こう!俺、マーカスとなら良いビーターコンビになれると思ってるんだ 」

 

「 本当!? 」

 

「 本当本当! 」

 

 

いやはや大した奴だ。そんなこんなで俺はとうとう、週末まで身心ともに少年である者たちとつるんで過ごすようになった。学業、就寝、飯の時間。元より一人になる時間などない学校生活であるから、子供の一員として子供たちと関わるうちに、なんだか俺も少年に還っていく心地である。

 

 

( 前世を忘れかけていくなあ… )

 

 

土曜日の朝の心境だ。紅茶からたつ湯気が銀色に見えるほどまばゆく清い大広間で、ガラハッドはいつもより悠長に食事をとっていた。

 

 

( まあ別に、覚えておく必要はないのかもしれん。このまま俺はただの子供として、書を読み六分の侠気四分の熱ある者を友に選んでいこう )

 

 

ふいに、試してみたいことが心に浮かんだ。

 

そうだ、 此処は魔法の世界であるのだから、組み分けのときに思ったとおり、自分に限らず魔力を持って生まれた子供のなかには、一定数前世の記憶を持っている子がいそうなものである。というわけで今、ガラハッドは隣で口いっぱいにグリルポテトを詰め込んでいるマーカスに

 

 

「 僕、前世の記憶があるんだよね 」

 

 

と、ためしに突然言ってみた。すると、ほら、やっぱりマーカスは格別驚かなかったし、咀嚼しながらゆったりと続きを促してくれた。

 

「 こんなふうに空がキラキラしてたとき――――ある日、爆弾が落ちてきたんだ 」

 

 

真剣にガラハッドは言った。

途端にマーカスは笑って、子供らしく全身を揺すり始めた。

 

 

「 ふふふっ、なあにそれ?みんな吹っ飛んだの? 」

 

「 いいや。そんなんじゃない。そりゃあ電柱にまで火がついちゃうと、倒れてきて爆ぜて大変なんだけどさ。こう――――みんなで一直線に並んでバケツを回すと 」

 

「 あはは!何それ!可愛い踊りじゃない 」

 

「 普段から練習してんの!君らの年齢だと、学校って、そういうこと学ぶとこ。それとあれ、ブ~~~ンの聞き分け 」

 

「 随分おかしな前世ね。普通はもっとニンフだったとか、ヴィーラだったとか、古代の精霊だったとか聞くわよ? 」

 

 

近くで食事をしていたチョウが話に入ってきた。生憎普通の学生だったとガラハッドが言うと、チョウは隣のマリエッタとくすくす笑い始めた。

 

 

「 ガラハッド卿って面白いね。そんな前世の話、聞いたことない 」

 

「 妖精の国の王子だったんじゃないの? 」

 

「 まさか。頭丸めてたよ。こう見えて 」

 

「 やだぁ! 」

 

「 なんで庭小人なわけ 」

 

 

すっかり冗談だと思われて笑いをとっているうちに、寝坊したロジャーが髪の毛をねじれさせたまま食事にやってきた。

 

 

「 こういうことのないようにな 」

 

 

ガラハッドが指さして言うと、ますます三人は無邪気な笑いの発作におかされていた。

 

 

「 なになに。何の話? 」

 

「 何でもない。ロジャー、今日は頼むよ 」

 

「 任せとけ! 」

 

 

グッと親指を立てながら、ロジャーはローストチキンに嚙みついた。

 

 

ロジャーの兄のチェスターは二つ年上のハッフルパフ生で、たくさんの友人たちと一緒におり、笑った顔がロジャーにそっくりだった。なんとなくの印象なのだが、ハッフルパフ生たちはいずれも良い意味で子供らしく、可愛らしく人懐こそうに見える。湖のほとりでピクニックを楽しみながら、彼らは手を振って我々を迎え入れてくれた。そのなかには見知った顔もいた。

 

 

「 はぁ~い、トンクスおねえさんだよ~! 」

 

 

今日の頭は水色の気分らしい。トンクスは百味ビーンズに魔法をかけて、マイムマイムを躍らせてロシアンルーレットに興じていた。野辺にはえげつない味を引き当てたらしいフローリアンが、ぐったりとして大の字で転がっていた。そのあたりの和やかさときたら、今にも花が咲き乱れ、これから花見を始めんとするかのようだ。きかん気でこまっしゃくれたガキの多いレイブンクローとは大いに雰囲気が異なり、見ているだけで癒された。うわあ俺、黄色ネクタイが良かったな…と正直ガラハッドは思った。

 

 

 

が、そんなことを思う本人こそ最もこまっしゃくれたチビなのである。

 

 

 

顔を利かせたいロジャーが、連れてきた二人をみんなへと紹介した。

 

 

「 こっちはマーカス。なあ、俺と体格がよく似てない?二人でビーターになりたいんだよ 」

 

「 いいね!よろしくマーカス 」

 

「 好きな選手はいる?ブロマイドを見ようよ 」

 

「 ねえこっち来て座ろう! 」

 

「 こっちはガラハッド卿。男の子だ。びっくりだろ?このなりで、グリフィンドールの奴をぶっとばした!しかも拳骨で! 」

 

「 うそ!君が?まさかぁ 」

 

「 へえ。ま~た話盛ってるなロジャー? 」

 

「 ごめんねうちの弟が。荒っぽいことされたら、僕に教えて 」

 

「 ―――…? 」

 

 

…あ、そう見えるんだ俺?

卿、卿と、矢鱈あちこちから名前をいじられると思ったら、ようは容姿と名前が不釣り合いだと言いたいわけだ?俺がこの世界でつけられている名前は、オリバンダー家の伝統にのっとるも、G始まりの命名もついにはネタ切れか、勇壮な騎士の美名と同じなのである。気づいちゃったら腹立つなあと、ガラハッドはロジャーのことをじとりと見てやろうと思ったが、もう遅い。彼はもうあっちのほうの木陰に駆けていっていて、そこに転がしてある箒を選ぼうとしていた。調子よく手を振って、ガラハッドのことを招いてくれていた。癪に障るが憎めない。ああいう人懐こさは、素直にすごい。

「ふむ」と、息をついて気持ちを切り替えて、ガラハッドも木陰へと寄って行った。

ずらりと並んでいる箒を背にロジャーは言った。

 

 

「 どれにする? 」

 

「 どれにするって… 」

 

 

そんなことを言われても困る。どれも一緒に見えるし、選んでもいいんですか、俺なんかが。

道具が、使い手を選ぶんじゃないんですかこの世界では。

少なくとも、杖は人を選ぶ。人は杖を選べないけど。

たぶんそういう発想が染みついているのが、箒に舐められるゆえんなんだと、俺にだってわかっているのであまり引け腰にならないようにした。どうしようかなと思って見ていると不意に、なんだか「いけそう」な一本を見つけた。箒なのに、こちらを警戒していなくて、静かなやつがあったのだ。迷いなくガラハッドはその“箒”をつかんだ。

 

 

「 これ!…ッ、ん?ん!!? 」

 

 

ふが~ッとその”箒”は叫びだした。じたばたとしてもがいたので、ガラハッドは顔面に何発もくらってしまった。ガチョウへと姿を転じたその箒は、しこたま羽根を舞い散らせながら羽ばたいて逃げようとした。

 

ところがガラハッドの手がくっついて離れないので、一人と一羽は大乱闘だ。羽根が口に入って声も上げられないガラハッドの代わりに、ひょいと木の裏から顔を出した赤毛は大爆笑だった。

 

 

「「 わはははははは!! 」」

 

「 すげーや!あいつ、ピタリと当たりを引いた! 」

 

「 コーマックのかたき~! 」

 

「 お、おい!大丈夫か!? 」

 

 

ロジャーはそう言うが役立たずだ。というよりロジャーはミーハーの部類であるので、噂の双子の登場に感激し、そっちに向き直っていてガチョウの舞を繰りひろげるガラハッドをあんまり助けるつもりがない。サインでもねだりそうな調子で、ロジャーはわぁっと声をあげて二人の赤毛を称えた。

 

 

「 ウィーズリーズだ! 」

 

「 いかにもこちらウィーズリーのフレッド! 」

 

「 いかにもこちらウィーズリーのジョージ! 」

 

「「 我ら悪戯仕掛け人! 」」

 

「 …うぐっ 」

 

 

うっさい黙れ。

うっかり利き手がガチョウと癒着したので、杖を取り出すのに時間がかかったガラハッドも、さすがに杖を取り出すことができてへんてこな舞いから解放された。ぺッ!と地面に口のなかの羽根を吐き、いよいよ「てめえこのクソガキ~!」と叫ぼうとした―――――そのときだ。制止の声と同時に、上空から矢のようにひとりの少年が降ってきて、たっと箒から飛び降りた。太陽の光を遮って、その立ち姿は影絵のようだった。

 

 

「「「「 ――――! 」」」」

 

 

全員がそちらを振り向いた。真っ黒な髪に、馬乗りスリットが入ったマント、ぴんと突き出された腕の先に光る、白い手袋。「星の生徒だ!?」とガラハッドは、あっけにとられてその姿を眺めた。その少年は怒っていた。

 

 

「 努力する子を邪魔するなんて! 」

 

 

言うことまで立派だ。そうだ、それでこそ星の生徒というもの。フレッドとジョージの同級生らしいその子は、ずんずんと木の下へと寄ると二人相手にもひるまず言い争いをした。そして突然こっちへと振り向いた。少年雑誌の表紙を飾りそうな美少年が、歌舞伎のようにきりりとこっちを見た。太い眉は利発そうだが、こまっしゃくれていそうではなかった。そのネクタイは黄色く輝いている。

 

 

「 大丈夫かい?初めまして、僕はセドリック・ディゴリー 」

 

「 …ガラハッド・オリバンダー 」

 

 

うわこいつ格好いいな。

はきはきした口調は快男児のそれ。とんだ出来っ子が巷にはいるもんだ。

やっぱりいいなあハッフルパフ!と、彼のネクタイを見て思った。

 




「出来っ子」という言葉は今でも防大で使うようですね。元は陸軍幼年学校で使われた「優等生」を意味する言葉です。ただよく出来るだけではいけません。陸軍幼年学校では、出来っ子は落第しそうな子を助けるのです。「僕、きみ」は軟弱な娑婆っ気の抜けない言い回し。星の生徒たるもの、「俺、貴様」と呼びあって男気を高めるべし。流行りの学園小説は、主人公世代だとこういうものでした。
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