授業を始める前に出欠をとりながら、スネイプ先生は猛然と顔色を悪くしていった。スネイプ先生は、ギラギラとした目で憎むように居並ぶ生徒たちを何度も見回した。
「 デイビース!オリバンダーはどうした!? 」
「今すぐ大鍋で煮てやろうか」という顔つきである。ロジャーは、スネイプの剣幕には「うへぇ」と咄嗟に声をあげたものの、「どうせ俺に質問がくるんだろうな」とは思っていたので、落ち着いて対処することができた。ロジャーは、始業2分前になってもガラハッドが地下牢教室に駆けこんでこなかった時点で、スネイプからの質問の返事を考え始めていた。
さあ言ってやろう…アホガラハッド、この貸しは高いぜ!?
今頃どこで何をしているやら知らないが、“こういうこと”にしておいてやるから崇めな!
「 ショックを受けて、寝込んでいます。昨日
「 そ、それは…その通りだ。我々は、この十年間決勝進出の機会を逃したことはない。だがそれとは別に――――そんなはずがなかろう!?調子の良い奴め。平然と嘘を吐くな!オリバンダーは朝食の席にはいた!いつもどおり鞄を持っていた。よくも寝込んでいるなどと大嘘を…ッ 」
「 先生、見ておられたんですか?あの落ち込んでいる姿、ご覧になられました?彼、こ~んなふうに座ってましたよね? 」
チョウがすかさず声をあげた。彼女は、スネイプ先生の気をひくことに成功すると、肩を落として前かがみになって、こてんと頭を下げて見せた。
ロジャーは大きく頷いた。
マーカスまでもが、「そうなんです」と真顔で参加していったので、マリエッタは窮地に立たされることになった。
チョウの迫真のおねだりは続いた。
「 わたし、あーんなに落ち込んでるガラハッド、見たことがありません!全力でやってくれたんだから、今日はそっとしておいてあげてくださいよ 」
「 課題を渡しておけばいいですか?出席代わりの追加レポートとか、あいつはやると思いますよ。ちょっと今は出てこられない状態なだけなんで… 」
ロジャーは真面目な口ぶりで言った。
スネイプ先生は、フンッと鼻を鳴らして彼らから顔をそむけた。けれども聳え立っていて立ち去らない。マリエッタは、少し俯き気味になりながらも、ねっとりとしたスネイプ先生からの視線を頭上から感じて、全身に海藻を巻きつけられたみたいな不快感に震えた。サボりを許したくはないけど、友達を売りたくもない。ましてやガラハッド本人に、「面倒くさい奴だな」と思われたくはない。一瞬のあいだに、様々なことが頭を駆け巡っていく…。
スネイプ先生は、低く重い声で慇懃に言った。
「 Missマリエッタ・エッジコムに伺うとしよう。朝食のあとにガラハッド・オリバンダーは、一体どこへ行った? デイビースとチャンは黙れ! 」
マリエッタは狼狽えた。まさか、名指しで語りかけられるなんて…!
マーカスはひそかにガッツポーズをして、自分の影の薄さを喜んでいた。
ジルにメアリー、ニール、エルビス、バディーア…レイブンクロー生たちはみんな、固唾をのんで成り行きを見守っていた。
「 えっと…彼は。彼は、その… 」
マリエッタはギュッと目をつぶった。
「 不思議な呪文を唱えて、寮に帰ってしまいました。わたしにはよくわかりません!!でも、悪いことはしていないと思います…追いかけて見たんです。談話室で、なんか変な動きをしていました! 」
「 ほぅ、そうか。そうか。ご聡明なるMissエッジコムが言うなら、そうなのであろうなァ? 」
スネイプ先生は鷲鼻を突き上げて言った。彼はゆっくりとそう言うと、黒いローブを翻して生徒席の合間から去っていった。
「ふぅ」と誰ともなく息を吐いた。
スネイプ先生は、壇上に戻ったあと持ち歩いていた出席簿をぽんと教卓のうえに置いて、いつものように生徒に背を向けて薬品庫の扉を開けた。その途端にマリエッタは、何人もの同級生たちが後ろを振り返り、キラキラッとした瞳で自分のことを見たのがわかった。
マリエッタは微笑んだ。
マーカスは「よく言った」という顔で頷いているし、ロジャーからのウィンクは気恥ずかしいほどだ。ところがマリエッタがチョウと頷きあっていたとき、地下牢教室には激震が走った。ひととき薬品庫の中に姿を消していたスネイプ先生が、怒髪天を衝く勢いで戻ってきたのである。
「 こンッ…の痴れ者どもが!! 」
スネイプ先生は怒鳴った。
吐いてよい嘘と洒落にならないものをわきまえていないとは、ガラハッド・オリバンダーはこの四人にも自分の母親とブラックの関係について話していないらしい!その心境は察するにあまりあるが、今は本気で心配したぶんだけ腹が立つ!!
「 貴様ら全員、二度と我輩の前で口を利くな!レイブンクロー100点減点!!! 」
「「「「 えぇぇぇぇ!!? 」」」」
斯くして一時間目の授業は始まった。
その120分後のことである。
闇の魔術に対する防衛術のルーピン先生は、4階にある3C教室から、一時間目の受講者たちをにこにこと送り出していた。
昨夜は満月だった。
まだ一時間目しか終わっていないのに、ルーピン先生は疲れていた。
彼がハッと大きく顔をあげたのは、天井で鉄のシャンデリアが騒々しく震えたからだ。
校長先生からの呼び出しだ!
ルーピン先生は急いで踵を返して、杖を取り出しながら教壇にあがり、黒板を杖で叩いた。回転扉にしては猛烈な速度で、黒板は教壇ごと180°反転した。
「 おおっと!? 」
投げ出されるようにして隠し通路を走り出す。
悔しいが、学生時代は存在を知らなかった道を。
ルーピン先生は全力で走って、かなしいかな肉体の衰えを感じながら校長室に辿り着いた。最後の坂道がかなりしんどくて、10代の頃は遠くになりにけり…だ。ルーピン先生は転がり出るようにして、フォーテスキュー元校長の肖像画の裏側から校長室に入った。慌ただしくやってきたルーピン先生のために、ダンブルドア先生は素晴らしい紅茶を用意していた。
「 え? 」
ルーピン先生は困惑した。幸せな湯気と香りを放つポットを見て、彼は他にも誰か校長室にいるのだと思い、ぎょっと目を剥いて四方を見やった。やがてそれも終えて、ルーピン先生がぽかんとして立ち尽くすと、ダンブルドア先生はそれを見計らって、優しく彼に着席を勧めた。
「 ようこそ、ルーピン先生。5分後には次の授業が始まる時間じゃな。けれども、焦ることはない。おぬしはここを去るときに、この逆転時計を回していくとよかろう―――――急いで耳に入れたいことがあって呼んだのじゃ 」
ダンブルドア先生は目を細めた。
血気盛んな部下を持つことは頼もしいが、今日のところは逸る必要がない。そのように表情で伝えても、独りで生きてきた者の警戒心は揺るがない。難しいものだと、アルバス・ダンブルドアは思うのである。何度似たような者に出会っても…。
「 ゆっくりお座り。良いニュースじゃよ。とても良いニュースじゃ。わたしと一緒に、とっておきのクッキーで祝ってくれんかね? 」
ダンブルドア先生は悪戯っぽく言った。
ルーピン先生は、そんなダンブルドア校長が指先に、一枚の“ただの羊皮紙に見えるもの”を挟んで掲げていたので、立ちつくしたまま指をさして叫んだ。
「 ああっ! 」
「 “探し物”が見つかった。ハッフルパフのセドリック・ディゴリーが、先程これを持ってきてくれたのじゃ 」
にっこりとダンブルドア先生は微笑んだ。今度こそ、彼はルーピン先生にリラックスしてほしかった。
ルーピン先生はどっと息を吐いて、ダンブルドア先生の狙い通りになった。彼は、ふらふらとティーセットへと近づいてきて、身体中の空気がいっきに抜けたように、どすりとソファに座って天を仰いだ。
その喉笛にも古い傷があるのを見据えながら、ダンブルドア校長は穏やかに語った。
「 セドリック・ディゴリーはのう…知っての通り第一の試合でハリー・ポッターと対戦し、ハリーが大怪我をした原因に関わった。セドリックは、ハリーのためにニンバス2000の欠片を拾おうとして、ひとりで暴れ柳に挑んだそうじゃ。そのときに、偶然瘤の秘密に気づき、あの道を通って不思議なところへ行ったと――――素晴らしい場所だったと言っておったよ。“誰か”が、後輩に手本を示しておったからのう?それが露と消えたことは、悲しかったとそうじゃ。ひととき夢を見たわけではないと信じるための証に、セドリックは“叫びの屋敷”のものを持ち帰ることにした。それが…これじゃ 」
キラッと目を光らせることはテクニックだ。
ダンブルドア先生は、愛嬌たっぷりにセドリックから聞いた話を伝え終えると、翳していた“忍びの地図”をティーポットの横にそうっと置いた。ダンブルドア先生はゆっくりと喋ったので、それに耳を傾けているうちにルーピン先生は、自身の微笑みがみるみる引いていくのを感じていた。ルーピン先生は何も浮かび上がっていない地図を睨みつけるようにして、鋭い声ですこし前のめりになって言った。
「 そんな筈はありません! 」
「 ふぅむ 」
ダンブルドア先生はカップに紅茶を注いだ。俯いて、茶葉の形を見たりして、少し時間を稼いでもルーピン先生の顔つきは険しいままだ。ダンブルドア先生はそのまま熱い紅茶に口をつけて、半月型の眼鏡を白く曇らせて言った。
「 そうかね?儂はセドリックの言い分に、なーんにもおかしいところはないと思うのう 」
「 わたしが着任してすぐの時点で、その地図はもう“叫びの屋敷”になかったのですよ?なかったのだと、わたしはすぐにご報告したではありませんか!その子は嘘を吐いています!それに、あの場所には他にも…! 」
「 嘘には理由があるものじゃ 」
ダンブルドア先生は静かにそう言った。
ルーピン先生は、それは確かにその通りだと思って黙った。
「 し、しかしですね… 」
だからってその嘘は見逃せないだろう!?
そのように強く感じてしまうのは、誰よりも自分自身が、「リーマス・ルーピン教授の正体の発覚」を恐れているからか。「後ろ暗いからムキになってしまうんだ」と、ルーピン先生は自身を分析して戒めた。物わかりよく黙り込んだ彼のことを、ダンブルドア先生は寂しい眼差しで見つめた。
「 セドリックは、自分からこの校長室に来たのじゃよ。監督生バッヂを外して、返上しようとまでしてきた。わかっておくれリーマス。わしは、ああいった子を追い詰めてやることはしたくない。わしに会いに来るだけでも、あの子には大変勇気が要った筈じゃ。“探し物”は返ってきた。今はただひとえに、その結果を共に喜んでくれんかね? 」
「 ええ…そうですね 」
「 シリウス・ブラックが“忍びの地図”を使って追っ手を撒く可能性は、これでなくなったのだから 」
ダンブルドア先生は乞うように言った。
ルーピン先生はおとなしく黙っていた。
彼は、アルバス・ダンブルドアという大人物からこうして下手に出てこられて、いかにも機嫌をとられていると感じて、恥ずかしくなってしまった。「元はといえば身から出た錆なのにな」と、自責する思いはあやふやな苦笑になるばかりだ。
折角ダンブルドア先生が淹れたものの、ルーピン先生の紅茶は冷めようとしていた。
「 はい。…はい、そうですよね。よかったです。本当に、お騒がせしました…申し訳ありませんでした 」
ルーピン先生はしわがれた声で言った。
ああ十数年ぶりのホグワーツ!九月、はしゃいで着任して早々、思い焦がれていた“叫びの屋敷”に何もないことを知ったときの、自分の動揺ぶりときたら酷いものだった。
「よいのじゃ」と言ってダンブルドア先生は、流石の鷹揚さでおっしゃるけれども…。
ルーピン先生は自虐に頬を歪めた。
残しておいた筈の栄耀が消え果てて、卒業式の胸花ともども“忍びの地図”が持ち去られていることに気づいたとき。自分は、てっきりすべてはシリウス・ブラックの仕業だと思った!そこから始まった憎しみと心配で眠れぬ日々の果てに、思いきり体調を崩したりなんかして。各方面に迷惑をかけてしまったが、すべては勘違いだったわけか。
本当に、自業自得とはこのことだ。
自分が、身の丈にあわない欲を出さないで、七年間友達を一人もつくらなければよかった。
共に“忍びの地図”なんか作って、彼らと遊び回らなければよかった。
学び舎を去ることを惜しんで、あんなところに地図を飾っておかなければよかった。
あんな誰が来るともわからないところにこの地図を置くなんて、あまりにも考えが足りなかった。
あそこにやってくる者は、まだ見ぬ後輩―――不思議を愛する冒険者、心清く愉快な者たちで、よもや誰かの命を狙う者など、この地図を真の意味で悪用する者ではないとばかり思っていた。ましてやそれが仲間内から現れるなどとは!!
あのとき、あんな無根拠でおめでたい考えなんかで軽率に行動しなければ、この半年間、ずっとカリカリしないでいられたのになぁ。もう少しマシな顔色で、子供たちの前に立てた筈だ。
やれやれとルーピン先生は深い溜め息をついて、やっと勧められるままに紅茶を飲んだ。
彼は苦笑しながらぼやいた。
「 うーん、しかし、やはり気になってしまいます。ディゴリーは、本当はいつ“忍びの地図”を手に入れたんでしょうね? 」
「 はて…『長い間黙って持っていたね?』と、暗に伝えることになるのも酷じゃからのう。わたしは確認しておらんのじゃよ 」
「 “叫びの屋敷”の内部についてなど、ディゴリーの情報は細部が正確ですから、伝聞で語ったわけではないんでしょう。意外です。あの子が、ホグワーツを探検して回るたちだったなんて。とても真面目な生徒じゃないですか。一体いつ、それがただの紙切れではないと気づ……んんん!? 」
ルーピン先生は前のめりになった。
オーク材のテーブルのうえに、さっきダンブルドア先生が置いた“その紙”は綺麗すぎるのだ。「ちょっと見せてください!」と言ったとき既に、ルーピン先生はそれをひったくっていた。
「 どうしたんじゃね? 」
「 白状しますよ先生。ジェームズは当初、“忍びの地図”を『紙飛行機にして飛ばそう』と言っていました。ずっと飛び続ける紙飛行機にして、箒でこれをキャッチした後輩にあげよう、と。しかしシリウスが『雨に濡れたらどうする』と言ったので、結局“叫びの屋敷”の壁に貼ることにしたんですよ。だから、“あの地図”には紙飛行機の折り目がついている―――たしかについていた筈です。よって、この地図は、偽物だ! 」
ルーピン先生は羊皮紙を掲げて叫んだ。
急にいきいきし始めた“闇の魔術に対する防衛術”の担当者に、ダンブルドア先生は首を竦めてクッキーを齧った。噛んだ獲物を振り回す犬のような勢いで、リーマス・ルーピンは“偽地図”へと向かっていった。
彼はブツブツ言いながら羊皮紙を杖で叩き、この地図の本物そっくりぶり(主に暴こうとする人を虚仮にする方面で)に、ガシガシと頭を掻いた。
「 くっ…なかなか良くできているな!?よろしい偽物というよりは二代目だ。君たちの健闘を讃えようじゃないか!―――とにかくですよダンブルドア先生、どこかで、“忍びの地図”の本物はまだ出回っています。シリウスがそれを悪用するリスクはなくなっていません!ああ、それどころか…! 」
ルーピン先生はようやくダンブルドア先生の思考に追いつくことができた。ただシナモンクッキーを味わっているだけのように見えるが、ダンブルドア先生はずっと次のようなことを考えていたのだ。
急に頭痛が始まったような仕草で、苦しげにルーピン先生は呻いた。
「 信じられない!よりによってディゴリーが、こんなことをしますかね?とっても良い子じゃないですか彼は!ディゴリーは、一体誰を匿おうとしたんでしょうか?教師がこの地図を探していることを見越して、本物とすり替えてディゴリーに提出させにきた者ですよね?とんでもない奴だな。生徒とは思えない。まさかシリウス・ブラックが… 」
「 歴史は繰り返すのうリーマス?おおかた、ディゴリーが庇いたいのはウィーズリーの双子じゃろう。あのふたりもまた、ホグワーツを楽しむ天才だと言える。素晴らしい道具に出会うと、決まって手を加えたがってのう。自分でもそれを作ろうとするのじゃよ…―――はて、奇妙じゃ。儂にはあの少年たちが、友達にそんな指図をするようには見えぬ 」
「 そうですよね。彼らは、実にあっけらかんとしていますから…、…ああっ! 」
ルーピン先生はまたしても顔を歪めた。
ダンブルドア先生は長い顎鬚をしごいて、ルーピン先生からの意見を待った。
リーマス・ルーピンは思い出していた。
そうだあの五年生たちは仲が良くて、クリスマス休暇のときは、三人でホグスミード駅に現れていたな。立哨当番だった自分は知っている。“第二の地図”を持ってきたディゴリーに、その製作者だと思われる双子。彼らが揃って現れたのは、四年生のオリバンダーの見送りをするためだった!
彼らが、“二代目悪戯仕掛け人”なのか!?
“第一の地図”の発見には、オリバンダーも関わっているのだとしたら…。
「関わっている」と見立てて背景を推察すると、なんだか、何もかもが納得できてしまう。
昨日実況を聞いて驚いた。あの子は、あの暴れ柳の枝を切って箒にできるのだという!ガラハッド・オリバンダーは、もしかして、すべてを知ったうえであのレポートを書いて寄越した?初めて一対一で話をする機会を持ったとき、月の美の正体について語った?一体杖職人たちというものは、樹木たちからどれほどの情報を得られるのだろう…―――“あの世”から来た子の力は計れない!
ルーピン先生が深く考えこんでいると、ダンブルドア先生はくつくつとくすぐられたように笑った。
「 ―――…? 」
ルーピン先生は眉を上げた。
ダンブルドア先生は皿の上からクッキーをつまみとると、難しい顔のルーピン先生の手にそれを握らせた。
「 随分と心乱されておるのう? 」
「 ええ、まあ… 」
「 良いことじゃ。三度目の鷲は近いようじゃな。先程セブルスも来た。『ガラハッド・オリバンダーがいない』と、血相を変えてのぅ。『彼は、シリウス・ブラックに襲われたに違いない』と言って…寮まで探し行っておったようじゃ。そして、ちょうどここでセドリックと鉢合わせた!あの子が来ていたのも…ふふふ、そういえば授業時間中だったのじゃ 」
「 …? はぁ 」
「 おそらく、フレッドとジョージ・ウィーズリーも一時間目に出ていない 」
ダンブルドア先生は笑い続けた。
ルーピン先生も笑った。哀れ親愛なるセブルス・スネイプ氏の血管は、二日連続で切れそうになったであろう。鼻からタバスコを注ぎこまれたような同僚の顔を思い出して、ルーピン先生は「ぶはっ」と笑った。
「 ―――… 」
ようやく、気負いのない笑顔を見られた。
クッキーを咀嚼する教え子の姿に、ダンブルドア先生はそっと目を細めた。
「 “本物”を取り返すかね? “元の一枚”には思い入れもあるじゃろう 」
「 いいえ、少し考えさせてください。まずは“こちらの一枚”について、よく調べて使ってみなくては!機能の面で差がないようであれば、シリウスの居場所をつかむのに使うのに問題ありませんよ。わたしは、そのときは“本物の一枚”を持つことにこだわらない――――ハハハ元々は、後輩にあげようとしていた道具なんですからね 」
ルーピン先生はくしゃっと笑った。
彼は、ダンブルドア先生の許可を求めるでもなく、“ただの紙切れに見えるもの”を自分のものにして、ぞんざいに尻ポケットへとつっこんだ。まるで、「これが正しい作法だ」とでも示すかのようだ。ひどく丁寧に“それ”を取り出していたセドリックを思い出して、ダンブルドア先生はますます笑った。
「 よい後輩たちを持ったのう? 」
「 ええ、まったくですよ 」
ルーピン先生は肩を竦めて言った。
「 願わくは、彼ら四人には我々とは異なり、真実の友情が永遠にあらんことを……だ! 」
涙の枯れ果てた強さを、アルバス・ダンブルドアは頼もしく思っている。