ハリー・ポッターとオリーブの杖   作:Tohka.A

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スリザリンVSグリフィンドール

 

 

論理派を自認するとはいっても、彼という人の目はなかなかの節穴である。

 

まだ人もまばらな観客席にて、ガラハッドが振り仰いで天空に雪片を探したのは、隣に立つセドリックが「雪、やんだね」と口にしたからだ。

それは、実際そのとおりだった。

白い陽光に目を眩ませながらもガラハッドは、この光景を不思議に思わなかった。

 

 

「 ああ、やんだな 」

 

 

雪は、気温が上がれば雨になるはずなのに。

 

上空には雲があったはずなのに、白かったそれらは透明になって消え、試合前に天は晴朗になった。

綺麗だ。

その印象がすべてだった。

ガラハッドは清涼な空気を楽しんで、この奇妙な気象については自然に受け入れていた。日頃の懐疑派・理屈屋ぶりはどこへやらだ。

 

 

「 うん…? 」

 

 

あれ?反応が薄いぞ…?

セドリックはひそかに困惑していた。

 

ああ、さてはこの気象は、今シーズンの試合を素晴らしい天気で締めくくるために、ガラハッド自身が気象呪いを使った結果なのかな…。

セドリックは、ガラハッドは手柄を誇ることが恥ずかしくて、このタイミングで話題を逸らしたのだと思った。

 

 

「 見ろよ。ウッドのやつ、まるで猟犬だ 」

 

 

ガラハッドは眼下を指さして言った。

ピッチではさっきから、オリバー・ウッドが熱心に地面の感触を確かめていた。

 

 

「 あはは確かに――――ねえ、良いコンディションだよ。風もないし…大袈裟じゃなく、素晴らしい天気だと思う 」

 

「 少し眩しくないか 」

 

「 そこがまた最高だよ 」

 

「 スニッチを見つけやすく、見失いやすいから? 」

 

「 もちろんそう! 」

 

 

お喋りの時間はあっという間に過ぎた。

 

 

 

さて、そのうちに試合は始まったけれども、展開のほうはあまり面白かったとは言えない。

悲願の優勝を願うグリフィンドールチームに、グリフィンドールにだけは負けたくなさそうなスリザリンチーム。両陣の応援団はとんでもなく熱くなっていたが、そうであればこそしらける立場もあるものだ。

 

両チームの攻防には、手に汗握る瞬間というものがなかった。ガラハッドはひそかに考えた。自画自賛というやつかもしれないけれど、グリフィンドールVSレイブンクローのほうが面白かったんじゃないか?

 

元々スリザリンチームのチェイサーたちの実力はレイブンクローチームに敵わなかったのだから、点の取り合いでいえば、レイブンクローと互角に渡り合ったグリフィンドールチームのほうが強いに決まっている。

クアッフルは始終グリフィンドールがキープし、アンジェリーナ・ジョンソンは危なげなくシュートをきめた。

 

 

『 ゴ~~~ル! 』

 

 

リー・ジョーダンはご機嫌だ。

ケイティ・ベルが箒から落ちかけた。

いきなりマーカス・フリントが体当たりをしたのだ。

「悪い!見えなかった!」と叫ぶフリントに対し、フレッド・ウィーズリーが背後から棍棒を投げつけた。

 

 

「 それまで!! 」

 

 

マダム・フーチの一喝が飛んだ。

もう何回目の審判制止だろうか?

本日の試合でMVPを選ぶとしたら、ガラハッドはマダム・フーチだと思う。

 

 

「 今のは“事故”じゃ済まないなぁ… 」

 

 

セドリックは苦々しくぼやいた。フレッドの行為は、明らかにわざとだった。

 

スリザリンのゴールポストのふもとにて、フレッドは何か叫んでいるが、フリントのほうは見た目にわかるほど鼻血を出している。マダム・フーチによって裁かれるフレッドを眺めながら、ガラハッドも苦々しく呻いた。

 

 

「 最初から“事故”にする気はないんだろ 」

 

「 そこが彼らの良いところだとは思うけどさ… 」

 

「 さっきからペナルティスローばっかりだ 」

 

「 クアッフルが繋がらないね 」

 

 

セドリックは抑制的な声である。最大限控えめに「つまらない」と言ったと、ガラハッドはこれを解釈した。

 

 

 

 

「 ふぁ~ぁあ! 」

 

 

せっかく今季の最終試合なのになあ!

期待していたぶんだけつまらなくて、ガラハッドは大欠伸をした。

自分とセドリックの背後では、さっきからにぎやかに二寮の生徒たちがおしゃべりしまくっている。すっかり観戦に飽きて、めいめい好きなことをしているのだ。「次はどっちが反則をするか賭けない?」などと言い出したライアンたちに、ザカリアス・スミスの返しは秀逸だった。

 

 

「 じゃあ、負けたほうがすっぱいキャンディを食べよう! 」

 

 

彼ら彼女らは観戦にお菓子を持ち込んでいる。

いやはや我らがレイブンクロー寮の毒を中和してくれるハッフルパフ生たちって、偉大ですこと!ガラハッドはそのようなことをボヤいて、傍らのセドリックをひたすらはにかませた。

相変わらず試合は動かない。

 

 

 

20分くらいは経ったであろうか。

 

 

 

本日のクィディッチは、球技というよりも素人レスリングである。仕掛け方やヤラレ方に華があるわけではないので、観客席からは何が起こっているのやらイマイチわからない。ただどっちも感情的になって騒いでいるなぁ…という感じで、まさに「いつものグリフィンドールVSスリザリン」であった。

 

象徴的だなぁ…と感じながら、セドリックは少々不安になってきた。さっきからガラハッドはピッチではなく、スタンドのほうばかりをのんびり観察している。ガラハッドは、目の合った相手に「よっ」と手を挙げて、あっさりとそちらのほうへ行ってしまいかねなかった。

 

ちょんちょんと肘で小突いて、セドリックはガラハッドの気をひくことにした。彼の心を掴む方法なら、セドリックは結構知っているつもりだ。

 

 

「 ねえ、僕と勝負をしないかい?選手たちよりも先にスニッチを見つけようよ 」

 

 

ガラハッド・オリバンダーは競争が好きだ。

きらっと瞳を輝かせて、彼は爽やかに「いいね」と言った。

セドリックは駄目押しを仕掛けた。

 

 

「 ハンデが必要? 」

 

「 何だよ、余裕だなあシーカー様は 」

 

「 鷲になってもいいよ 」

 

「 ならない!別に近眼ってわけじゃないし 」

 

「 せーので同時に顔をあげて、先に見つけたほうが肩を叩く…なんていうのはどう? 」

 

「 OK! 」

 

 

ガラハッドは間髪入れずに言った。

いきいきとした笑顔が、このうえなく少年らしく輝いた。

 

 

「 ―――…ッ 」

 

 

セドリックは何度も瞬きをした。

えっと!あのね、どうして肩を叩こうと言ったかというと、スニッチをみつけたとき指をさしてしまったら、選手たちの妨害になるからで…!!

 

セドリックは、聞かれてもいないのにひとしきりそんな言い訳をしないといけない気分になった。だってこのながれは、勝っても負けても嬉しいやつじゃないか。

けれど強烈に悲しくもあった。

そうだね、意識するわけなんかないよね、同性の肩に手を置く行為なんて…。

 

セドリックは、どうしてだかこの勝負絶対に勝ちたくなってきた。けっして手は抜かない様子のセドリックに、ガラハッドはますます機嫌を良くした。

「せーのっ」の合図をするなり、ふたりは勢いよくそっぽを向いた。

 

 

『 ゴ~~~ル!40対0!ざまぁ見ろ!汚い手を使いやがって。卑怯者! 』

 

 

リー・ジョーダンの解説が響き渡る。

またペナルティスローでの得点らしい。

 

セドリックは、選手たちには一瞥もくれず、自分が出場中であるかのようにスニッチを探した。

何も知らないガラハッドに、心を無茶苦茶にされたくなどなかった。振り回して、搔き乱して、みじめになんかさせないでほしい。「見つけた!」と肩に手を置いて、得意気に耳打ちしてくる彼を、真夜中に思い出してしまったらどうなることか…。自分の感情の行きつく果てに、どんな欲望があるかを直視してしまうのは凄く怖い。

 

 

一方、隣のガラハッドは、慣れないスニッチ探しに苦戦し眉間に皺を寄せていた。

 

 

「近眼じゃないし」と勢いで宣言したものの、そういえばこっちの世界に来てからというもの、視力検査を受けた経験はない。近眼症状に悩んだことはないものの、実のところ視力健全であるかというとそうでもない。

 

 

( ええ…!?いやいや格別不利じゃないはず!明るいし…ハリーなんか眼鏡だし )

 

 

多分、必要なのは視力そのものではなく、ちょっと特別な認知能力。。。

頑張ってスニッチを探しながら、ガラハッドはある種のクイズに取り組んでいるときの気分になってきた。無数にeという文字が並んでいて、「このなかでcはどこでしょう?」と問われるようなやつだ。「光るものを探せばいいんだろ」と思っていたが、いざ探してみると競技場には輝いているものたちが無数にある。

 

たとえば、こんなものたちだ。

陽を浴びた芝生。とりどりの色をした生徒たちの髪の毛。ダンブルドア校長の髭は、真珠のように輝きすぎである。今日のペネロピーは、きらきらした赤いポンポンを持って跳ねている。その隣のパーシーのきらめきも凄い。チカッチカッと踊りながら光っているのは、監督生バッヂの反射か?誰だよ、ツヤツヤの林檎でジャグリングしているやつは!―――ああやっぱり、ルーナ・ラブグッドだった。その隣に座っているのは…へえ大きくなったなぁ。フレジョたちの妹の、ジニーだった。

 

見えている範囲にひとしきり目を凝らしたものの、ガラハッドはまったくスニッチをみつけられない。

いっそ真上にあったりして?

空を振り仰いだ途端にガラハッドは、間近に迫ってきたシーカーたちに目を奪われた。

 

 

「 うぉわ!? 」

 

 

緋色のローブを翻して、ハリーが頭上を疾走していった。

「がんばって~!」と飛んだチョウの声援は、いやに明るくて「おや?」と思わされるものだ。ガラハッドはただちに音源へと振り向いた。

 

 

( あっ…! )

 

 

あの笑顔、どうやらチョウは既にスニッチを見つけている様子…!

 

茶化した声をかけただけで、チョウはハリーたちを熱心に追っていなかった。ガラハッドは急いでチョウの視線の先を見たが、そこはただの得点ボードだった。

 

あれ?もしかしてハリーも、既にスニッチを見つけているのかも…?

 

妙な軌道を描いて、ハリーはもう一度自分たちの近くを通った。彼がちらりとチョウのほうを見たのは、「自分を追ってくるマルフォイに対して、何も言うなよ!」という意味だろうか?真剣そのものの顔つきで、ドラコはハリーを追いかけていった。

楽しそうにチョウは足をぱたぱたさせた。

 

 

「 くふふ!どっちを応援しようかなあ 」

 

 

ぐいっと、ガラハッドは隣から肩を掴まれてしまった。

聞かなくったってセドリックの台詞がわかるガラハッドは、悔しさあまってドラコへと同情した。たぶん四寮のシーカーのなかで認知能力が常人並みで、この瞬間、スニッチの在り処を知らないのはドラコ・マルフォイだけなので。

 

50点差がついた途端に、ハリー・ポッターは本気を出すだろう。

セドリックはにっこりと笑った。

 

 

「 見つけた!見て、九時の方向に…獅子の被り物をした子がいるだろう?その上だ―――いまにわかるよ。じっと見ていて。ホバリングの状態から、すいっと動くときに、きらめくよ――――ほら! 」

 

「 ああ、なるほど 」

 

 

なるほどなるほど、観客が保護色になって全然ワカリマセーン!

ガラハッドは思いきっり眉間に皺を寄せた。

うーんたしかに、高度を変えてきらめいたその瞬間だけは、ひとときスニッチのある場所がわかったけども――――本当にすぐに見失ってしまった。そんなにすぐに大移動するはずはないから、今も視角に収まっているはずなのに認識できないのである。

ええ~っこういうのって、訓練次第でどうにかなるものなのかな…。

教えてもらっているのにわからないなんて、自分の間抜けぶりが嫌になってくる。

日頃マーカスが感じているような情けなさに、ガラハッドもまた囚われてしまった。

 

 

「 はぁ…くそ~流石だな。一体、どういう練習をしているわけ? 」

 

「 え?追いかけて掴む練習は、しているけど。探す練習っていうのは無いかな 」

 

「 探すことのほうが難しくないか? 」

 

「 そうかな? 」

 

 

セドリックは困ったような顔つきをした。例によって、彼の内面は忙しかった。彼はまだガラハッドの肩に手を置いたままだった。

 

ガラハッドは手を翳して目の上に影をつくった。

セドリックは、そのタイミングで自然に(自然に。どういうのが“自然”であるか考えに考えた結果、ガラハッドの肩があがったので、成り行きで)すっと手を離すことに成功した。離したというか、離れたというか。

嫌がられたかな…などと考え始めたセドリックを差し置いて、眩しさに目を細めて、ガラハッドは改めて選手たちの姿を追った。何にも考えてないガラハッドに、結局セドリックは振り回されていた。

 

 

はてさてそんなことよりもクアッフルだ。

しかし今日の試合の盛り上がりがイマイチなのは、勝敗が見えすぎていて賭けが成り立たないからである。レイブンクロー寮内では、誰もが「勝つのはグリフィンドールだ」と予想していた。「いつも通り」と言ってしまえばそれまでだが、実況は今日もグリフィンドール贔屓だった。

 

 

ガラハッドは、変なところでまだ日本人だ。判官贔屓というやつで、確定的に負ける側のほうを応援したくなる。

肩で息をしながら、ドラコはスニッチを見つけられているわけではなさそうで、ただ懸命に炎の雷(ファイアボルト)をマークしていた。ニンバス2001に乗っているにしては、彼はよくやっているほうであった。

 

 

『 汚ぇ~ッ!なんてこった、こんな手口見たことがありません!このゲス野郎!カス!! 』

 

 

ジョーダンはとことんドラコを罵る。マクゴナガル先生は何故止めないのだろう?

ガラハッドが実況席のほうを見やると、リー・ジョーダンは先生の手が届かないところまで躍り出ていた。それでなくてもマクゴナガル先生は、帽子を頭から落としてこぶしを振り上げており、熱くなっていて実況者を叱りそうになかった。

 

 

褒められた方法ではなかったが、ドラコ・マルフォイが猛烈に加速しかけたハリーをブロックしたからだ。馬泥棒をする馬賊のように、ドラコは身を乗り出してハリーの箒の尾を掴んだ。細身であることをいかした、なかなかの曲芸ぶりだった。

 

グリフィンドール生は、このドラコの反則にはカンカンであった。

「おおっ」と、ガラハッドを含むレイブンクロー生は、これには感心の声をあげた。

 

いいぞ、凡人が泥臭く足掻く展開、好き好き!

 

ガラハッドには、ドラコのプレーは正しく賢いように思える。だってどうしたって速度では敵わないのだから、同時にスニッチを見つけたとき、ドラコがスニッチを掴むことができる可能性は、ハリーの間近にいる限りゼロだ―――それならば妨害に徹するのが“正解”じゃないか。

「作戦通り」といった感じで、ドラコは瞳を輝かせながら自分の箒の上に戻った。実況者にくそみそに罵られているが、気にする素振りがないのが格好良かった。

 

 

「 こいつーッ!! 」

 

 

ハリーは大声をあげた。

一方、ドラコは真剣で冷静なようだ。「頼むぞ」という顔つきで、ドラコは箒を切り返して自分たちのキーパーを見つめた。

 

ペナルティをとられることなんて、ハリー・ポッターに150点とられてゲームセットを迎えることに比べたら安いもんである。いくら相手チームにシュートチャンスを与えたって、キーパーがクアッフルを止めればいいのだから…。

 

とはいえスリザリンのキーパーは、ここまで良いところなしであった。

「はたして上手くいくかな?」という構えのレイブンクロー生たちと違って、スリザリン生たちは熱心に祈祷をし始めた。人数の少なさを補うため、彼らは鈴を振り回し、トランペットを吹きまくった。もちろん声を嗄らして叫んだ。

 

ここで良い仕事をしなきゃ、男じゃないよな!

 

大声援に押されてであろうか。スリザリンのキーパーは、初めてグリフィンドールのシュートをブロックした。スリザリン生たちは跳ねまわった。

 

ナイスプレー!いや今のは、ケイティのほうがプレッシャーに負けてミスったのかも!?

とにかくスリザリンは失点の危機を回避した!

 

150点とられるピンチだったのが、0点になったのだ。

スネイプ先生はガッツポーズで吼えた。

ペナルティスローのあいだにスニッチを見失ってしまったハリーは、イライラと癖毛を逆立たせながら四方を睨みまわした。

 

 

「 へえ、ようやく面白くなってきた! 」

 

 

ガラハッドが笑うと、セドリックもこっくり頷いた。

ながれは、今のプレーを機にすっかりスリザリンのものになった。チェイサー・モンタギューの攻勢とスリザリンのゴールを、呻くようにジョーダンは伝えた。

 

ハリーは、興奮で耳の奥がジンジンした。本人の自覚の上でそうなのだから、傍目には彼は狂ったコンパスに見える。磁石を近づけられているかのように、その場でぐるぐるぐるぐると彼は回った。

鬼瓦の形相をした、台風に揉まれる風見鶏。

あんな速さで回転しながら、スニッチを探せているらしいのが凄い!

ガラハッドは、改めて「あいつ、天才じゃん」と思った。

 

 

 

「 アツくなってるね、彼! 」

 

 

セドリックも上ずった声をあげた。

ハリーは、自分のほうが圧倒的に速いんだからいくらでも追い越せるくせに、ドラコがターンすると真正面に迫ってブロックしにいった。それがまた凄い速度だった!

 

 

「 ッ!!?―――どけよポッター! 」

 

 

ドラコは顎をあげて叫んだ。

膝が触れそうな距離で、あわや吹っ飛ばされそうになった恐怖を味わったのは、それだけ自分たちの作戦がグリフィンドールにとって痛手だったからだ!恐怖に震えながら、ドラコは勝ち誇った表情を浮かべた。ハリーにとっては、それは憎くてたまらない顔つきだった。

 

 

「 どくもんか!! 」

 

 

ハリーは強く吼えた。マルフォイめ、なんとしてもこいつをやっつけてやりたい!――――今すぐ!この場所で!!こてんぱんにしてやりたい!!!――――と。そういう顔をしているな、とガラハッドは思った。

駅での乱闘は「やめろ」と言うガラハッドであるが、部活動として真面目に、一番やりこんだスポーツは剣道である。ここで闘志をぶつけあうふたりには、「いいぞもっとやれ!」というスタンスであった。

けれども妙にお行儀がよくて、ドラコとハリーはにらめっこをするばかりだ。どちらかがチョウ・チャンであれば、既に三発は何かが炸裂しているところなのにな~。

 

 

 

『 行っけぇアンジェリーナ! 』

 

 

「意外」というわけではないけれど、ガラハッドにとって、その後の展開はむずがゆいものだった。

ガラハッドは、やはりレイブンクローVSグリフィンドール戦のときの、ロジャーの判断は正しかったと思う。グリフィンドールチームのチェイサーのなかでは、アンジェリーナ・ジョンソンの実力は頭一つ抜けていた。勢いに乗っていたスリザリンチームから、彼女はクアッフルを奪い返した。

 

しかし、誰も彼女がパスを回せる位置にいない!

 

単騎特攻を仕掛けていくジョンソンを、スリザリンチームはスクラムで迎え撃とうとした―――おおっと、これこそスリザリンチームの真骨頂じゃない!?スリザリンチームの選手たちは、シーカー・マルフォイ以外いずれも体格が良い。対するアンジェリーナ・ジョンソンは、女子にしてはがっしりして長身だがブタゴリラではない。

目を覆いたくなる心地がした!

板額御前の剛勇は斯くや。左肩を前にいからせて、力士たちを相手にアンジェリーナは体当たりをかますつもりだ。

 

 

「 アアアアアアアアアッ 」

 

 

目を覆いたい心地がしたけど、まだ手が届かなくて目を覆えていない一瞬。

そんな電光石火の刹那のうちに、蜘蛛の子のようにスリザリンのスクラムは蹴散らされた。ドラコとの勝負を捨てて、弾丸になったハリーがスリザリンチームに突っ込んでいったのだ。

 

 

『 ゴーーール!アンジェリーナ、ゴール!決めました!仲間を信じたあああああ 』

 

 

競技場は興奮に揺れた。

爆発したような歓声のなか、ガラハッドは声を上ずらせた。

 

 

「 セドリック!?――――まるで君だな! 」

 

「 いいや違う!見て、あそこを!―――彼は気づいている!! 」

 

 

セドリックは声を張り上げた。セドリックが前のめりになって指さしたほうへ、何百という視線が一斉に注がれた。

グリフィンドールサイドで鮮烈なゴールがきめられたその陰では、スリザリンのシーカー・マルフォイが、スニッチを見つけて迫っていた!

 

 

「 ああああっ 」

 

 

悲鳴も歓声も変わらない。

口を開けたとき悲鳴だったものを、圧倒的な速度で彼は歓声に変えるから。

 

ハリー・ポッターはぶっ飛ばした。アンジェリーナを助けたその軌道から微塵も減速せず、急角度で切り返してハリーはドラコを追い抜かした。

あっけない幕切れじゃないか!

ドラコ・マルフォイは、先にスニッチをみつけたのに、十分にスニッチに近づいて手を伸ばすことすらできなかった。悶えるスニッチを掴んで高く掲げて、にっこりとハリー・ポッターは競技場を半周した。

 

 

『 優勝です!グリフィンドール、優勝~~~~!!! 』

 

 

そのあたりで、ハリーは号泣するウッドから抱きつかれて、そのまま抱き合いもつれあうメンバーへと埋もれていった。出場選手たちだけでなく、応援団の生徒たちも彼を囲みに行った。

今すぐ飛び去りたそうな青い顔で、ぽつねんとドラコはその光景を見つめていた。

 

ガラハッドはうんうんと頷いた。

わかるなぁ。サヨナラ負けしたときって、相手チームが落ち着いて、向き合って礼をするまでの時間がやたら長く感じる。ガラハッドはあくまで判官贔屓だ。

 

 

「 すごいね。彼、とっても上手くなってる! 」

 

 

そう叫んでチョウは飛び出していった。最前列で柵に肘をついたまま、ガラハッドは彼女を見送った。

彼女の勢いにつられて、近くにいた生徒たちも多くがピッチに降りて行った。所属する寮は違うけれども、みんなたった今のスーパープレーに感動したのだ。

 

人の少なくなった観客席から、ガラハッドは労われるハリーを眺めた。

 

 

 

 

 

それからしばらくのあいだ、ガラハッドはその場を動かなかった。彼という人は元々、こういうとき輪の中ではしゃぎたがるようなタイプではない。

セドリックもまたそうであった。

ここだけは、静かであることが癒しだった。

七年生に肩車されるハリーを眺めて、セドリックは声が暗くなってしまった。

 

 

「 凄いや。彼は、本当に特別だね――――仲間を助けることと勝利すること。ハリー・ポッターは、両方をやってのけたよ。僕は君たちに勝てなかったのに 」

 

「 そりゃあそれ、乗っている箒が違うから 」

 

「 そうだろうか 」

 

「 それ以外に理由はないだろ? 」

 

「 ―――… 」

 

 

そうだったらいいのにな、とセドリックは思った。彼のおこなう誤魔化し笑いは、恥ずかしがるように見えるという特徴がある。“はにかみ屋”の表情で、セドリックは黙って少し下を向いた。

 

 

そして、優勝杯の授与が行われて、ピッチの中央がダンスフロアみたいになってきたころ。

 

 

ぼーっとしていたかと思いきや、「それじゃ!」といきなりガラハッドはあっさり去っていった。ああもうッ流石だねガラハッド卿!?置いていかれたセドリックは、観戦していた位置から一歩も動けずに、俯いて静かに息をととのえる羽目になった。いくらハッフルパフチームのメンバーから、「キャプテン!次頑張りましょうね、キャプテン!」と呼ばれて周りを囲みにこられても、精神的な助けにはならなかった。

 

 

セドリック・ディゴリーは苦しんだ。

とんでもなく予想が外れて、騒がしいのは好きじゃないはずのガラハッド・オリバンダーが、三日三晩踊り明かしそうなグリフィンドール選手に直接「おめでとう」を言いに行ったので…。

ここで遠巻きにするかのような姿勢を見せていたのは、彼ならではの‟宇宙との通信タイム”だったってわけ!

 

嘘だろ?汽車で泣いていた君は、どこへ行ってしまったんだい!?

 

「さてもうひと盛り上がりさせてやるか」という表情で、“ガラハッド卿”は場を沸かせに行った。当然のように場の中心として振舞う、あの手管や立場意識はいつ身につけたんだろう…。

無理をしているようには、見えなかった。それが、喜ばないといけないのに悲しいのだ。

 

 

「 セドリック!君は最高だよ!最高のキャプテンだからな君は?結果は残念だったけど、責任を感じたりするな! 」

 

 

誰 も 何 も わ か っ て い な い 。

 

最下位の責任?それで嗚咽しているとでも思っているの?

嗚呼あそこで、彼はポッターと談笑している。止めるすべがなくて、苦しいから呼吸ができないんだ!

兄のような感じで、彼はポッターからの全力のハグを受け入れている。軽快に笑いながら、背中をぽんぽんとしてやっていて――――甘さにも哀しさにも見える、あの瞳に宿るものは何なの?

 

ど う し て ? そんなことばかり考えてしまう僕はオカシイけれど、あの彼の愛情の価値に気づかない奴らは馬鹿だ。

 

「どうして?ポッターは僕の敗者なのに」と、僅かでも感じてしまう自分の醜さが嫌だ。あの雷雨のなかの試合の結末は、いっそ自分の負けであればよかった。

ポッターは優秀ですばらしいから、ガラハッドのおめがねにかなったんだよねと思えた…。

 

もしくは、炎の雷(ファイアボルト)なんかなければよかった。あの試合のあとにポッターが、ずっと可哀想な子のままだったら、醜い自分は、それはそれで納得していられたのだ。

 

 

なんてひどい。堪えられない。

こんな自分を決して許せない。

 

よりによってハリー・ポッターを妬むだなんて、おこがましいよ。

彼は世界一特別な男の子なのに――――…そんな思いでいるのは、セドリック・ディゴリーひとりだけではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

退場ゲートから出たガラハッドは、もうひとりの“そんな思いでいる子”を探して声をかけに行った。適当な物陰で人目を忍んで、ガラハッドはいつもの地図を使った。

 

 

「 やあドラコ! 」

 

 

忍びの地図って、やっぱり便利。

なんとなくそんな気はしていたが、やはりドラコ・マルフォイはスリザリンのロッカールームに引っ込んでいなかった。チームメイトに合わせる顔がないと、シーカーとして感じているのだろう。相棒の箒をかついで、ドラコはトボトボと霧懸かる“禁じられた森”の間近を歩いていた。

ポケットに地図を仕舞いこみながら、ガラハッドは後ろ姿へと声をかけた。

 

 

「 …先輩!どうしてここに? 」

 

「 そりゃあ、君に『おつかれさん』を言うためだよ 」

 

「 いいんです…やめてください。やめて。やめてくださいよ…ッ! 」

 

 

甲高い声でドラコは叫んだ。いきなり癇癪を起こして、予想よりもさらに追い詰められている様子に、ガラハッドはそれ以上近づかずかける言葉に悩んだ。

ドラコは、人知れず泣くために此処に来ていたらしかった。灰青色の瞳は、カッと見開かれて涙を流していた。「えーんごめんね~悔しいよぉ~!」などと、チョウと違ってドラコは寮で騒げないだろう。クィディッチユニフォームを着ているのに、ドラコは髪が乱れないようにしっかりと固めていた。

 

 

「 えっ…と? 」

 

 

ニヤッとドラコ・マルフォイは嗤った。

ガラハッドは反応に困った。

 

寮で騒げない立場だろうから、他寮生の立場で声をかけてやろうと。

ガラハッドの厚意は、このとき決して間違っていたわけではなかった。敬愛する“オリバンダー先輩”に労いに来られて、ドラコの自尊心は強く燃え上がった。

 

 

「 ふふふ。くっくっくっく… 」

 

 

ドラコ・マルフォイは微笑んだ。涙が、えくぼから滴って冷えていった。

そうだ自分は、そこらへんのゴロゴロジャガイモどもとは違うのだ!先日ハーマイオニー・グレンジャーに横っ面を張られたとき、何も仕返せなかったのはわざだ…ということにする!

純血貴族の男子が、卑しい者にかかずらうなんておかしいから!

最古の純血であるオリバンダー先輩は、そういうことは家のためにならないとおっしゃった。

父上もそうおっしゃっている!

父上は、先輩のことはかねてからお認めになっている。

先輩は、いつでも高踏的なご様子で、気だるい眼差しで「ふぅん」とおっしゃるだけ――――そんなふうにならなくてはいけない。

 

 

「 ポッター。ウィーズリーも。それに、グレンジャーめ…先輩、クィディッチなんて、所詮遊びだと僕はわかっていますよ!僕は、“紳士”として奴らに物をわからせてやるんです。たかが遊びに浮かれて、勝って調子に乗る奴らにわからせてやるんだ! 」

 

「 ほう…いやはや、その元気があってよかったよ。“紳士”はへこたれちゃいけないよな 」

 

「 ええ!僕は“紳士”ですから、何だって動じません。平気です。連中は、いまにお涙に溺れる!バッグピークは…、…ッ、近々、処刑されます! 」

 

「 ―――…? 」

 

 

突然何の話かと思った。少し間をおいてガラハッドは、ちょっと冷たいような声で「へぇー」と言った。

 

えっそんなの、随分前からわかっていたことじゃないか…もしかして最近気づいた?と、ガラハッドは内心驚いたのだ。そういえば以前に話をしたときは、わかっていなさそうな態度だったっけ?今日までドラコへの興味が薄かったので、あんまりちゃんと覚えてはいなかった。

さてはルシウス・マルフォイ氏が、親として腰を据えて彼に話をしたのだろう。

遣る瀬ない話であるから、ガラハッドの表情は自然と硬くなっていた。

 

 

「 先日、裁判があって決まりました。ちょうどフランスから、動物裁判の専門家が当家に滞在していたのです。乳母の外甥にあたりまして…学問を続けるため、我が家の支援を受けたいらしい。当家の弁護人に対して、向こうの弁護人はお粗末でしたよ!知恵足らずのウスノロ!未成年の名前を挙げた!しわくちゃのメモ読んで、ちり紙かと思ったほどらしい!控訴したいならしてみればいいんですよ!あの馬鹿を雇っているダンブルドアの、恥の上塗りが続くだけでしょうけどね! 」

 

「 ―――… 」

 

「 ひっく…奴が、おとなしく教職から追放されておけはよかったのに!わざとらしく泣くのです、あの男!半人間のくせに、泣いて同情を誘うんだ!卑しいから泣けるんですよ!! 」

 

 

ドラコは金切り声をあげた。

不審な音だと受け止められたのだろうか。霧の奥から、何か生き物のざわつく気配がした。

ガラハッドは、絶句して怖々と四方八方を見回した。

途方もないところに、土足で踏み込んでしまったと感じた。

 

そうだこの子は、人前では泣けないだけじゃない。特に親の前では泣けないのかもしれない。

 

ガラハッドは、さっき競技場でハグリッドとすれ違った。真っ赤な薔薇飾りをいくつもつけて、どこか端っこのほうで観戦していたらしいハグリッドは、生徒たちの輪の外側で控えめに、泣きながら笑ってハリーのことを見つめていた。

 

つまり、彼はいま森番小屋にいないってこと。

 

この隙を狙って、ドラコはくだんのヒッポグリフを観にきたのかもしれない。自分のせいで死んでいく動物に、純真なこの子は「ごめん」を言いたかったのかもしれない。

 

いけない。此処にいては邪魔者ではないか!

 

ガラハッドは、急いで立ち去ってドラコを独りにしようとした。本人が不在なのをいいことに、ドラコの暴言はかなり程が過ぎる。けれども彼は、「全部ただの八つ当たりだ」とよく自覚していることだろう。およそ13の子には見えないほど、彼はあどけなく顔じゅうを使って泣いていた。

 

黙って立ち去るのは感じが悪い。

 

 

「 動物の命は軽い。殺処分は最初から、有り得る話だった。『穏便な解決』ってやつはそうだから… 」

 

 

ああ違う説教をしたいんじゃない!

追い打ちをかけたいんじゃないのだ。

ガラハッドは、急いでドラコを傷つけない言葉を探した。

 

カッコいい生き物だと思ったんだろ?

レタス喰い虫に噛られるのはダサいけど、ヒッポグリフ相手なら体面がたつと思ったんだ。

お父上のためだったんだよな。

尻尾爆発スクリュートは違法だから、関係させてはいけないと思った?

それらはすべて正しかった!正しかったけど、君は知らなかった。―――これをすべて言葉に変えて何になる!?時と場合によっては、言い当てることは多大な暴力だ。

 

ガラハッドは早口でまくしたてた。

 

 

「 かなうなら、『せめて斬首を』と請えばいい。獣に切腹はできないから―――それが最大限、“誇りをもって死なせてやる”ってことだと思う!一切衆生に、仏性はあるんだし…いつか‟金”になるように…―――そういうふうに云うんだっけな。たむけをするのって、無駄なんかじゃないよ。ごめんな、僕は何もできない!でも、君を軟弱だなんて思わない。お釈迦様だって、貴族の立場からは逃げ出したんだから!―――ごめんな、ドラコ・マルフォイ 」

 

 

さようなら無邪気だった子。

初めて言葉交わした日は、可愛い異母弟だって感じたものだから。

ずっと無垢だし、それでいいんだなんて、勝手な願望を押しつけてきた。

 

いま、君はおとなになっていく。

この痛みのぶんだけ、みずから変容して。

己の振舞いの重みを知る、思慮深い男へとなるだろう。

 

動揺のあまり少しよろけて、それでもガラハッドは走って“禁じられた森”の間際を去った。

 

 

 

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