ちょっと喋りすぎちゃったなという気分になって、あとから落ち込むことってありませんか。
自分は調子に乗って喋ってしまったけれど、相手はどう思っていたのかなぁなどと、あなたは考えませんか。
どうして急にこんな語り口になったかというと、これは“はてしない物語”なのです。
万物は相対。夢と現実は正対。
循環する蛇の力によって、少年は本のなかの世界に入るでしょう。
そして彼は女王に出会う――――あるいは、はじめから彼こそが、ファンタージエンの女王“
蛇は循環していますから、ふたりは同じものなのです。
“ふたつの世界”の境界で、“あの子”は今でも待っているのです。
『君のために来た』と言ってくれたその人が、自分に相応しくなるのを。
自分の選んだその人が、最も美しくなる瞬間を。
今宵ご機嫌の
トム・マールヴォロ・リドルという子の存在を、ガラハッドは久しく思い出していなかった。けれど主観内で
口が滑りすぎた気がして、狐につままれたような気分で、ガラハッドは梯子を下り、螺旋階段を下った。占い学の試験は万事うまくいった気がするが、振り返ってみるとなんだか不安だった。
( やっぱり、筆記試験のほうが好きだなあ。本番が終わってから自己採点ができるし… )
トレローニー先生は、僕の解答に何点をつけたかな?
さっきよりもずっと涼しいと感じながら、ガラハッドは久しぶりにひとりで城内を歩いた。静かさを新鮮に感じて、自分の衣擦れの音までよく聞こえた。
行く手に大理石の柱が見えてきたとき、幼いガラハッドはそれにひっつきたくなった。冷たくて気持ちよさそう!――――そのときにふと、抱えていた不安が急に明瞭化した。
「 あっ 」
ガラハッドはぴくっと足をとめた。
そうだ、五番めの【過去】のカードは、逆位置の塔だったんだよ。
これについての解答はいけなかった!
塔は、正位置でも置位逆でも、破滅・崩壊を暗示するカード。
これについてガラハッドは、さっきは前世の体験や引き継いだ価値観の揺らぎについて語り、かなりニッチで抽象的な話ばかりしてしまった。
しまった~~もっと近いところに、具体的で良い材料があったのにぃぃぃぃ。
ガラハッドはとぼとぼと大理石ホールを横切った。
はぁ…五番では、こないだうぇーいとそこで雑巾を洗おうとして、透明なドビーに手を重ねられた一件を話せばよかったなぁ。あのビビる感じは間違いなく塔だし、たくさん目撃者がいたから、あの件についてテストで語れば、「この占いは的中なんですよ」という証人になってもらえた。そのほうが得点は高そうだと思えた。
だって、考えてもみて?ぶっちゃけ「ガラハッド・オリバンダーが本物の転生者かどうか」なんて、傍目から見たら確かめようがなくない?
「おお…おお…」と慄きながら、トレローニー先生は震える手つきでメモをとっていた。今になってガラハッドは思う―――あれって、よりよによってトンデモメガネ・トレローニーにドン引きされたということかもしれない。
「あんたに比べたらマトモだ!」と、こぶしを握って断言したいのに。
自分は、いつだってなんでも真剣にやっているのに、本気であればこそガチのキチガイであるのかもしれず、自分でも、「全部、妄想なのかも」と思うことがあるから、だいたい真夜中にはぐあああああああッという気分になり、ベッドのうえを転げまわっている。
ああ、他の異世界転生者のみなさん、一体どうやって、精神の健康と安定を保っていらっしゃるんですか!?
宇宙の三千大千の世界には、他にも僕みたいな人がいるであろうから知りたい!
はぁ~ぁあっとヤケクソに息を吐いて、ガラハッドは
次の試験科目は、闇の魔術に対する防衛術。きっとアレが出るぞ…と考えながら、ガラハッドは警備トロールたちの脇を抜けた。
校庭にて、ガラハッドが特設の天幕に入ると、ルーピン先生は「よし、みんな揃ったね」と微笑んだ。彼はマグル製のクリップボードを抱えていて、今日もまた擦り切れたローブだった。あくまで機能で道具を選んでおり、飾らない実務家なのだ。改めて好感を覚えながら、ガラハッドは列の最後尾に並んだ。
「 すみません。お待たせしました 」
「 占い学の試験だったのだろう?自分が原因で遅れたのではないのに、それを言う習慣はえらい 」
ルーピン先生は試験の説明を始めた。
彼という人のユニークさは、ここにきて最高潮の輝きを発している。彼の準備した課題は戸外での障害物競走で、生徒たちは一人ずつ、名前を呼ばれるとテントを出て冒険の旅に出た。
大きな木の上から、ルーピン先生は生徒たちの奮闘を観察した。主に記録をつけていたが、時々「そこまで!」と光線を飛ばした。ガラハッドはわくわくしながら、前の子が仕切りを持ち上げるたびに、天幕の外側を覗いて自分の番を待った。
先に試験が終わった子は、ゴール地点で友達を待つことができ、友達の健闘を称えたり、失敗を揶揄ったりすることができるらしかった。長かった試験期間を終えた喜びで、どの子もいつもより朗らかなようだ。天幕のすぐ近くを、楽しそうな声がたくさん通り過ぎていった。
だから、ガラハッドは、これって我儘じゃないと思うんだけど――――自分も特製のダンジョンをクリアして、ゴール地点へと到着したら、そこにはロジャーたちがいてくれると思っていた。
ところが占い学のせいで順番が最後で、最後にスタートしてゴールしたら、そこには誰一人として残っていなかった。「こんなことってある!?」と感じて、ガラハッドは愕然として文句を言った。
「 ひっでぇ~!薄情~!あれだけ僕のノートを見たくせに! 」
「 デイビースは一番手だったからね 」
杖を振って水魔用のプールを片付けながら、ルーピン先生は苦笑して言った。
ガラハッドは、夕食の席で存分に箒で飛び回ってきたあとのロジャーが、「ごめんって!まぁ、どうせこうして後で会うじゃん?」とほざき、あの笑顔でうまく立ち回って、僚輩裁判の無罪を勝ち取るところを想像した。
くそ、チャラいって、じゅうぶん罪じゃないか?ああ見えてママにビビってるくせに。
ガラハッドは、「物足りないぞ」とばかりに顔の隣に杖を翳しながら、忙しく片付けをしているルーピン先生の近くへと行った。片付けの手伝いを買って出ながら、ガラハッドは唇をとがらせた。
「 先生、僕はてっきり、最後の関門はボガートだと思ったのに!ロジャーのやつ、吼えメールにビビれば良かったのになぁ―――…一部の子への配慮ですか? 」
「 近頃杖磨きセットが人気みたいでね 」
ルーピン先生は飄々と言った。
彼は悪戯っぽくニヤッとして、意味深に目を細めて見せた。
「 扉でも箪笥でも磨く人が多いから、試験用のボガートを調達できなかったのさ 」
「 またまた… 」
「 そこは『そうでしょう?』と言ってほしいな 」
ルーピン先生はよっこいしょと荷物をまとめたあと、「う~~~ん゛っ」と大きくてを突き上げて伸びをした。彼はこれにて全校生分の試験監督を終え、どっと肩の荷が降りた心地なのだ。
「 ああ疲れた!でも、これから通知票づくりか…――――片付けを手伝ってくれて有難う。だがこれは、実のところ君の義務であったと言えるんだよ。わたしとしては君が、片付けなんて必要にならないくらい、目についたものを片っ端から粉々にすることを期待していた。それなのに上手に避けるから 」
「 ふふふ!僕は“O”ですよね?うちの親うるさいんです!お手伝いをしたんだから、所見を盛っておいてくださいよ 」
「 それはできないぞっていう意味で、これは義務だって言ったんだよ 」
クリップボードでぱこりと叩かれて、ガラハッドはクスクスと笑った。ルーピン先生とガラハッドは連れだって少し歩き、城に入る前のところで別れた。湖と森が接するところまで、ルーピン先生は試験に使った生き物たちを逃がしてくると言った。
「 お疲れ様です 」
ガラハッドはひとりで正面玄関の階段をのぼった。さっき来た道を戻って、ガラハッドは城の最も高いところを目指した。
やっと試験が終わったところだから、人波が笑いさざめき、ガラハッドと逆の方向によく流れていった。
北塔への入り口がある階を歩いていたとき、ガラハッドは往く手にハリーの姿を認めた。
あまり顔色が良いとは言えず、猛然と大股でこちらに歩いてきていた。
彼も試験が終わったところだろうに、これから遊びにいくようには見えない。
ガラハッドは目を丸くしてハリーを見た。こっちに突き進んでくるということは、南側の階段をくだって、最速で自分の寮を目指そうとしているのかな?
がしりと正面からハリーに両肩を掴まれたときは、ガラハッドは「ですよね~来ると思った」という気分だった。
シーカー様の眼光は恐ろしい。
かなり遠くからでも、ガラハッドはハリーにロックオンされていた。
「 ガラハッド!頼みがあるんだ! 」
ハリーは切迫して言った。
ガラハッドはハリーの表情を見て、「こいつって、いつでもひとりでなんか盛り上がってるよな…」と思った。
周囲を気にしながら、ハリーはひそひそ声で言った。
「 僕の代わりに、透明マントをとってきてほしい―――スネイプのせいで、隻眼の魔女像の下の抜け道に置いたままなんだ。君があそこを通るのは自然だろ?スネイプの奴に会ったって、君は言い逃れの天才だし… 」
「 喧嘩売ってる?頼んでるのか貶してるのかどっちだよ。一体、今度は何を企んでいるんだ?テストが終わったからって、またホグスミードに行こうっていうんなら――― 」
「 違うよ!裁判が終わったんだ。ハグリッドに、独りでバックビークの死刑執行を待たせるなんてできない!――――処刑は日没だ。行くのは許可されない。でも行かなくちゃ。頼むよ… 」
ハリーは熱心に言った。ガラハッドは冷や水を浴びせかけられて、ハリーに両肩を掴まれたまま、呆然として緑の目を見つめた。
「 そうか…それは、今日だったのか… 」
いずれはそうなると思っていた。
けれど、ガラハッドは熱心には情報を追ってこなかった。知ったってどうしようもないんだから、わざわざ詳細を知りたくなかった。
今、それを申し訳なく感じる。
ここにはいない者を想って、ハリーは強く歯を食いしばっていた。
ガラハッドは、「そういうことなら」とハリーからの依頼を了承し、ほんの一瞬だけハリーを微笑ませた。
少し気の弛んだハリーは、そのままそこで立ち話をして、ついさっき体験した変なことについて語った。最終の試験科目が占い学だったハリーは、ガラハッドに出会うののわずか数分前、トレローニー先生の野太い声を聞いたのだ。
「 事は今夜起こるぞだってさ―――あれって、試験の終わりを飾る演出なのかなあ?僕が相手だから言ったジョークにしては、あまりにもセンスがなさすぎるよ。トレローニー先生はおっしゃったんだ―――普通じゃない感じで―――闇の帝王が立ち上がる。その召使いが、十二年間鎖につながれていたけど、今夜帝王の元に戻るぞって… 」
「 そいつは幸先の良い話だ 」
けろりとしてガラハッドは肩を竦めて見せた。
ハリーは、やっぱりガラハッドのこういうところがとても好きだ。
胸が浮き上がるように感じながら、ハリーはガラハッドの口八丁ぶりを眺めた。
ガラハッドの狙い通りに、ハリーは暗い顔をするのをやめた。
「 闇の帝王はお陀仏してるだろ?クィレルに憑いているのを見たけど、あれは生きているとは言えない。立ってくれるなら万々歳だよ。ブラックも今夜鬼籍に入ってくれるのか。ふたりでお手々つないで、死出の山ピクニックのスタートだな 」
右手をひらひらとやって、ガラハッドは「成仏しろ~」とふざけた。
ロンとハーマイオニーとも連れて行きたいとハリーが言ったので、ハリーとガラハッドはお互いに一旦寮に帰ることになった。ガラハッドは隻眼の魔女像の下の道から透明マントを取り出して、夕食のときにハリーに渡すという約束をした。
なんだか当たり前のように、ガラハッドもハグリッドの小屋へと行くことになっていた。
慰めたい気持ちはもちろんあるガラハッドは、そのことを自然に受け入れていた。
無人(案の定、ロジャーとマーカスは遊びに行っていた)の自室にてガラハッドは、どかっと椅子に座って、自分の“忍びの地図”を堂々と見た。
な~んか鬱陶しいことにスネイプは、隻眼の魔女像のところの三叉路を何度も通過して、地下牢と職員室を往復している。
会ったら会ったで負けるつもりはないけど、できれば出くわさずに透明マントを取り出したい。
廊下で公然と“地図”を開いて奴の位置を探ることは、できないわけじゃないけども、極力避けておきたい。
けっ鬱陶しい奴だなあスネイプ!
しばらくはそこに戻ってくんなよ!
幾度めであろうか。セブルス・スネイプと記された点が、隻眼の魔女像のところを通過していったとき。
そのときガラハッドはしゃきっと立ち上がり、ベッドサイドに飾っていたナイフをひっつかんで部屋を出た――――そう、これは“魔除け”として!
かねてからガラハッドはこう思っている。
我らがフリットウィック先生とウザスギ・スネイプであったら、フリットウィック先生のほうがスネイプよりもずっと、魔法使いとして強いに決まってんだろと。
それを証明するかのように、ガラハッドが“用事”を済ませているあいだじゅう、スネイプ先生は近くに現れなかった。
「楽勝♪」という気分でガラハッドは、透明マントを畳んでローブの内側につっこみ、その足で大広間へと向かった。
■WEB小説あるある、俺TUEEEEといえば『はてしない物語』。主人公は「ファンタージエンの女王である幼心の君が、表紙に蛇のついている本を読み始めるまで」を物語として読む。一方幼心の君は「限界陰キャ男子である主人公が、表紙に蛇のついた本を読み始めるまで」を物語として読む。夢も現も混ざりあい、物語が無限ループになってしまったとき、蛇の力によって好きなように世界を変えられるようになった主人公は、スーパーチートな冒険を始める。まあそれだけでは終わらないのですが。
■古代ギリシャの時代から、「死女神のナイフ」が象徴しているのは「助産術」。よっ異次元の少子化!
■ミヒャエル・エンデの作品だと、JKRは『はてしない物語』よりも『モモ』のほうが好きそう。『モモ』はナチスから着想された“灰色の男たち”が、人々からありとあらゆる幸福感(≒命)を吸い取ってしまう時間操作ファンタジー。吸魂鬼と逆転時計って…。