ハリー・ポッターとオリーブの杖   作:Tohka.A

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これって偶然なんですか

 

 

大広間の出入口から寮の席に座るまでのとき、ガラハッドが少しローブを抑えるような歩き方をしていたので、席を確保して先に座っていたチョウは、きょとんとして「あれ?お腹痛いの?」と言った。

ガラハッドは「ああ」と頷いて静かに座った。お喋りに興じていたマリエッタとマーカスは、同時に彼のほうを見た。

マリエッタとマーカスのふたりは、ガラハッドが闇の魔術に対する防衛術のテストのとき置いていかれたことをボヤかないので、「涼しい顔をしているが、これは相当痛いんだろうな」と思った。

ロジャーも当初はそう思った。

ところがその割にガラハッドが変わらぬ食欲を見せたので、ロジャーは「アホくさ。こいつに心配は要らない」と思い直した。

 

 

「 おう、便所行くの? 」

 

「 まあそんな感じ 」

 

 

夕食後、ガラハッドは寮に戻らなかった。適当な理由をつけて人波を抜けていくガラハッドを、ロジャーは一切引き留めなかった。

 

 

ハリー・ロン・ハーマイオニーの三人は、玄関ホールの隅にある小部屋に隠れてガラハッドを待ち受けていた。「お待たせ」とガラハッドはその輪へと加わった。

さて、いざ四人で一枚の透明マントを被ってみると、この人数は明らかにキャパオーバーであった。しばらくもぞもぞと工夫してみた後、ロンと額を突き合わせながらガラハッドはこう言った。

 

 

「 二列の電車ごっこはどうだ? 」

 

「 地球の言葉で言ってくれない? 」

 

「 僕と君とが、進行方向を向いて二人三脚。ハリーとハーマイオニーが、僕たちの肩に手を置いてくっつくんだ。僕たちと同じほうの足を同時に出して、彼らも二人三脚であれば四人で蹴り合わずに済む 」

 

 

ロンは納得していないようだった。電車も電車ごっこも知らない彼はともかく、ハリーとハーマイオニーは今のを理解した。頭で理解したとはいえ、少し練習が必要だったが…。

 

真面目に馬鹿馬鹿しい体勢で、四人はひそかにハグリッドの小屋へと出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

ハグリッドの小屋に辿り着いて扉をノックすると、一分ほど、答えがなかった。「明かりはついているのにな」と、ガラハッドが考え始めた頃だ。やっと扉を開けたハグリッドは、蒼ざめた顔で震えていて、とても怯えていた。ハリーが少し伸びあがって、ロンの肩越しにハグリッドへと囁いた。

 

 

「 僕たちだよ 」

 

 

とても優しい声だ。

 

 

「 透明マントを着てるんだ。中に入れて。そしたらマントを脱ぐから 」

 

「 来ちゃなんねえだろうが…! 」

 

 

そう囁きながらも、ハグリッドは一歩下がった。彼の一歩は大きいので、四人は全員で中に入ることができた。

ハグリッドが急いで扉を閉めると、ぐいっとハリーがマントをひっぱって全員の姿が見えるようにした。

 

 

「 お前さんまで来たのか 」

 

 

ガラハッドはそのように言われた。いつもの三人組に加えて、自分の姿を見たことで、ハグリッドは呆然としているようだった。

黄金虫のような目でじっと見つめられながら、ガラハッドは「ハグリッドがいま見ているのは、自分のことではない」と感じた。彼は声を放たなかったが、唇は『グレイス』と動いた。

 

 

「 …茶、飲むか? 」

 

 

確実にこぼしそうである。

ハグリッドがヤカンに伸ばした手は、リウマチの患者のようにぶるぶると震えていた。

「代わるわ」とハーマイオニーが仕事を買って出て、却ってまずいことを引き起こした。震えた手からミルク入れを受け取り損ねて、足下に落として割ってしまったのだ。

 

 

「 ああっ 」

 

 

彼女の動揺だって相当だ。ビクンと肩を跳ねあがらせたあと、ハーマイオニーは「雑巾、雑巾…」ときょろきょろし始めた。

さらりと杖を取り出して、ガラハッドは「スコージファイ」と唱えた。

 

 

「 ああ… 」

 

 

そうだった…という顔で、ハーマイオニー・グレンジャーは呻いた。

自分が魔女であることを、ハーマイオニーは忘れてしまっていた。

 

 

「 レパロする? 」

 

 

ガラハッドはハグリッドに訊いた。ちゃんと欠片を集めたので、ガラハッドはミルク入れを修復することができる。

 

 

「 ちょっと衛生的に―――どうかと思うけど。まあ、清潔呪文も使えばいいか 」

 

「 やめてやれよ 」

 

 

ロンがガラハッドをつついた。

 

悲しみにくれきっているハグリッドは、ミルク入れが割れたことにも気づいていない様子だ。ハリーはハグリッドの隣に並んで座り、頷いて強い寄り添いを示していた。彼らは小声で何かを話していて、ガラハッドの質問になど耳を貸していない。

「どうしようもない」という表情を浮かべながら、ロンはひそひそとガラハッドへと囁いた。

 

 

「 戸棚にもう一個あるさ―――今は、持ち主といえどもぐちゃぐちゃ聞かないでやったほうがいいね 」

 

 

ロンは戸棚を開けた。勝手知ったるロンと違って、ガラハッドはこの小屋についてあまりよく知らない。今すぐ使うかどうかは別として、つべこべ言わずにミルク入れを直すことにした。

 

 

「 レパロ直れ 」

 

「 スキャバーズ! 」

 

 

素っ頓狂な声が響き渡った。

自分が「そっとしてやろう」みたいなことを言ったくせに、ロナルド・ウィーズリーはとんでもない大声をあげたのだ。

びっくりしてガラハッドが振り返ると、ロンはもうひとつのミルク入れの中を覗きこんでいた。

 

 

ガシャン!と、もう一つ大きな音がした。

 

 

ヤカンに水を足していたハーマイオニーが、猛然とヤカンを暖炉へと置き直して、ぐるんと振り向いて苛烈にロンを責め始めた。

 

 

「 なによ!わざわざ、“今”言わなくたっていいでしょう!? “今”言わなくってもいいじゃない。“今”…! 」

 

 

涙が頬を伝っていく。ハーマイオニーは、それ以上ロンを批難することが出来なかった。自分がしてしまったことを突きつけられて、彼女は声もなく泣き始めた。

ガラハッドはその姿に驚くばかりで、てんで事情がわからなかった。

 

大声でロンは釈明した。

 

 

「 違うんだよ。きみ、違うんだ! 」

 

 

ロンはミルク入れをテーブルまで持っていった。ほとんど走るような勢いで、彼はそこに行ってミルク入れの中身をぶちまけた。ネズミがぼとりと落ちてきて、ガラハッドは反射で「うげぇッ」と言った。

 

 

「 汚い! 」

 

「 スキャバーズだ!スキャバーズだよ。ハーマイオニー、きみは無罪だった!大丈夫だよ。大丈夫だってば!ここには、お前を傷つけるものは何にもない! 」

 

「 ―――…っ 」

 

 

ハーマイオニーは立ち尽くしてロンを見つめた。

ロンは必死に声をかけて、なんとかスキャバーズを宥めすかそうとした。

キーキーと騒いで身をよじって、スキャバーズはどうにか逃げ出そうとしている。

 

ガラハッドは顔を引きつらせて、「あ、そのネズミ、野生じゃないんだ…」と呟いた。ロンがネズミを飼っていることは、ガラハッドも一応知っているのだ。ペットだとしても放し飼いなら不衛生だ、‟食器の中にネズミ”だなんて、どのみち嫌だよと思えてならなかったが。

 

 

ハグリッドが急に立ち上がった。

 

 

ミルク入れや机に清潔呪文をかけようとしていたガラハッドは、手元に巨大な影がさしたことで、ハッと顔をあげて「時間だ」と気づいた。太陽は大きく傾いて、日没が迫って来ていた。

 

ハグリッドの目は窓に釘付けだ。

その声には、深い絶望が宿っていた。

 

 

「 ―――連中が来おった 」

 

 

ハリーも窓の外を見た。

ハリーは、そのとき誰よりも早く“金色の輝き”に気がついた。

遠くの城の階段を下りる者たちのなかには、ブロンドを撫でつけたドラコ・マルフォイが交ざっている―――そのことに気がついて愕然とした。

 

ハリーは、その瞬間、頬を叩かれたかのようになった。

 

校長に、大臣に、死刑執行人に…それから、“委員会”とやらのヨボヨボの大年寄りに―――諸悪の根源である、マルフォイ親子!連中は、バックビークの死を見にやってくるのだ!奴らこそ、首をちょん切られるべきだろう!?なぜそうしてくれないんだダンブルドア!!!

怒りで瞳孔を開かせるハリーを、ハグリッドがそっと窓から隠した。

 

 

「 おまえさんら、行かねばなんねえ。ここにいるとこを、連中に見つかっちゃなんねえ 」

 

 

ハグリッドは四人のことを急かした。

 

 

「 行け、早う…! 」

 

 

ガラハッドは裏口の扉を開けた。

ロンはスキャバーズをポケットに押し込んだ。

ハーマイオニーは透明マントを取り上げて広げた。

ハリーがいつまでも窓のほうを見てじっとしているので、ハグリッドが彼のことをそっと押した。一度外に出たガラハッドは、引き返してきてハリーの腕を引っ張った。ぐいっと強引に連れ出されながら、うわごとのようにハリーは呟いた。

 

 

「 あいつがいる… 」

 

 

「あいつって誰」とガラハッドは短く訊いた。

ぼさっとしているハリーのことを、すっかり裏庭の中央へと引っ張り出してからだ。

ハリーは、ほんの数メートル先の、かぼちゃ畑の後ろにつながれているバックビークをじっと見つめながら、夢も現実もわからないような声色で、ひとりごとのようにポツンと言った。

 

 

「 マルフォイだ…バックビークが死ぬのを見にくるんだ… 」

 

「 えっ 」

 

「 許せない…許せない…こんなのってないよ!あいつは、人間が腐りきってる!! 」

 

 

何から説明すればいいんだろう?「そういうわけじゃないと思う」と、ガラハッドはすぐに言えなかった。

 

バックビークが頭を振り、前脚で地面を掻き始めた。どうもハリーの出す雰囲気に圧されて、警戒心を高めているらしい。「大丈夫だぞピーキー」と、ハグリッドが優しい嘘をついた。

ガラハッドは、それを聞いて痛烈にこの場を立ち去りがたく思った。光の消えていく裏庭で、ガラハッドは少し立ち尽くした。

 

 

 

ああそういえば僕は、まだ彼に何も話せていないんだった。

ただ顔を見せに来ただけで、彼を思う言葉を告げられていない。

 

何しにここまで来たんだ?

何なら聞いてもらえるんだろう?

 

どんな言葉であっても、彼らを救うことはできまい。

なんでも嘘になってしまう気がする。

 

 

 

ガラハッドが言葉を選んでいるうちに、おもてで扉を叩く音がした。

見るなそして聞くなと告げて、ハグリッドは裏口の扉を閉じていった。

 

「来て」とハーマイオニーに囁かれて、傍らのハリーともども、ガラハッドは透明マントを被せられた。自分が見えなくなってからも、ガラハッドは後悔に震えた。

 

 

「 ―――…ッ 」

 

「 行きましょう。わたし、ここにいるのは耐えられないわ、とっても… 」

 

 

夜の肌寒さが迫っていた。

「ハグリッドに何も言えなかった」と、ガラハッドは小さな声で言った。するとやりきれないような顔で、ロンは何かを言おうとしてやめた。

 

 

「 ガラハッド、君が……いいやなんでもない 」

 

 

ガラハッドは静かに聞き流した。今は無力感に浸っているので、詳しく追究するような気力がない。

姿は見えずとも気配を感じるのか、四人で再び移動し始めると、バックビークはしきりにこちらを気にした。鷲の頭を左右に振って、「ピャッ、ピャッ」と声をあげた。

 

 

四人はのろのろと小屋を離れた。彼らが裏庭から小屋の反対側に出たとき、ハグリッドの手によって、表の扉がバタンと閉まった。ハリーは、「今見えなかったけど、マルフォイがいた」としきりに繰り返した。ガラハッドは、「僕の影響だと思う」と言い出せずに苦しくなった。ドラコは、自分のしたことの結果を見届けるために、“処分”の方法に注文をつけることで、バックビークに尊厳を与えるために来たのではないかと思いながら―――…。

 

息苦しさが限界に迫りつつあったとき、傍らのロンがひとりで騒ぎ始めた。

 

 

「 バカヤロ、僕だよ、ロンだってば―――じっとしてろよ!なんで、逃げようとするんだよ! 」

 

「 マルフォイめ、許せないよ。あいつは、きっとバックビークの首を剝製にして… 」

 

「 あああもう!やめて、やめて 」

 

 

ハーマイオニーはふたりともに言った。ロンが騒ぎ始めたところで、ハリーはマルフォイへの怒りを語ることを止めていなかった。ガラハッドの肩に手を置いたまま、ハーマイオニーはガラハッドの背にごつんと額をぶつけた。

 

 

「 あなたたち、なんで今そういうことするの!?今…今って、あああ 」

 

 

彼女の直感は正しかった。

 

天使が通っていったかのように、緊迫した静寂がひととき存在した。

そして突如として、シュッ、ドサッという斧の音!

吠え声と高笑いが響いてきて、最後の陽光と共に消えた。

再び静けさが戻ったとき、ハリーは来た道を戻ろうとした。

 

 

「 よせ! 」

 

「 戻れないよ 」

 

 

ガラハッドとロンが止めた。

これ以上ハグリッドの立場を悪くしたくないという一心で、ハリーはなんとか踏みとどまることができた。

 

 

「 どうして…こんなことが…できるんだ… 」

 

 

ハリーはゼエゼエと言った。彼がロンとガラハッドを抜かして速足で闊歩しはじめたので、三人はそれを追わなくてはならなかった。

透明マントに入っているからには、この四人は一蓮托生なのだ。

丘を下って城へと近づいた頃、突然ロンが「アイタッ」と言った。

 

 

「 こいつ噛みやがった!イテテ、じっと―――してろよ! 」

 

 

また騒ぎ始めやがった。

いきなりロンが立ち止まったので、残りの三人も立ち止まった。「なついていないペットだな」と、ガラハッドはうんざりしてしまった。

 

飼ったことがないから知らないんだけど、はたしてネズミって、人間の顔を覚えるんだろうか?餌をくれる相手にその場限りで、ちょっと可愛い姿を見せるだけではないか…?

 

あくまで親切のつもりで、ガラハッドはロンへと少し冷たく言った。

 

 

「 今後はケージに入れて飼いな? 」

 

 

檻に入れろ―――その言葉を聞いた時だ。

死に物狂いになったスキャバーズは、ロンの手をすりぬけて地面に落ち、宵闇のなかを遮二無二走り出した。

 

 

「 ああっ 」

 

 

ロンは虚空へと手を伸ばした。

ガラハッドはただちに杖を抜いた。

 

ところがロンまでネズミを追って走り始めたので、ガラハッドは杖を構えたものの、これという呪文を放てなかった。そのうえハリーまでロンを追いかけて走り始めたので、ガラハッドは透明マントの庇護から置き去られてしまった。

 

 

「 おい!? 」

 

 

的を隠すな的を!!

魔法使いだったら呪文でつかまえろよ!?

―――そんなガラハッドの思いはむなしくなった。

 

ロンはスキャバーズを追いかけ、ハリーはロンを追いかけた。それをハーマイオニーが追いかけていき、ガラハッドもレースへと加わる羽目になった。

 

ひとりだけ杖を取り出しているガラハッドは、なんだかバトンを持っているみたいになった。「お前らアホかああああッ」と念じながら、ガラハッドはハーマイオニーを追い抜かし、気がついたらハリーのすぐ隣にいた。旗のように透明マントをなびかせて、ハリーは走りにくそうにしていた。彼は背後から見ると透明だ。ガラハッドは後ろを振り向いて、ハーマイオニーが誰にも見られていないかどうか確認した。そしてハリーのマントをひっつかんだ。

 

少し窪みになっているところで、ロンは地面を押さえつけていた。ハリー・ガラハッド・ハーマイオニーの三人は、ロンのギリギリ手前で急ブレーキをかけ、なんとか玉突き事故を防いだ。「捕まえた!」と肩で息をしているロンは、危うく自分が蹴り飛ばされるところだったことに気づいてもいない。

 

 

「 ハァ…ハァ…早く…マントに入れて… 」

 

 

ハーマイオニーがハリーに言った。

彼女に指摘されるまでもなく、ガラハッドもこの状況のまずさはわかっていた。

 

 

「 ダンブルドア…大臣…もうすぐみんな戻ってくるわ… 」

 

 

ひとまずロンを囲むように、四人は透明マントを被ろうとした―――そのときだ。

彼らが見えなくなる前に、「今だ!」と動いた存在がいた。

暗闇の中を大きく跳躍して、ざらついた肉球でハリーを突いた。

マントを掲げていたハリーがすっころんでいったので、三人は姿が丸見えになってしまった。

 

 

「 ―――ッ!!? 」

 

 

転倒しながらでもハリーは能く見た。

頭上を越えて行かれたハリーは、“それ”の正体が犬だとわかった。

ハリーが起き上がるよりも早く、ガラハッドは“それ”へと杖を構えていた。

 

 

( ―――ッ!? しまった、あの少年がいる! )

 

 

“犬”には唸る暇もなかった。

彼を窮地から救ったのは、亡き親友にそっくりな少年だ。

 

ハリーは、ただちに起き上がろうとして強く腕を振り抜き、意図せず的確にガラハッドの膝裏を薙いだ。いきなり全力の膝カックンをくらわされ、ガラハッドは狙いを外した。

 

 

「 ステューピふぉい!? 」

 

 

シリウスは狙いを遂げた。

狂ったようにスキャバーズが暴れるので、ロンはわずかにもその場を動いていなかった。

黒くて大きな犬の顎は、ばくりとロンを捕らえてひきずっていった。猫が、どこかから来てその後を追った。「クルックシャンクス!」とハーマイオニーが驚きの声をあげた。

 

夜が、既に始まってしまっていた。

 

夜陰にまぎれる黒い犬。いくらか追いかけたが、ガラハッドはそれを目で探せなかったし、ロンが連れていかれた手前、闇雲に火を放てなかった。

ガラハッドは、前方に走っていきかけたハーマイオニーを止めて地面に伏せさせた。「あべしッ」という声をあげてハリーはぶっ飛ばされ、再び転んだみたいだけど男なんだから知るか耐えろ。“暴れ柳”の縄張りにやってきてしまったことを、ガラハッドは肌でハッキリと感じていた。ハーマイオニーはハリーを助けに行こうとして、無鉄砲に飛び出していこうとした。ガラハッドとハーマイオニーがすったもんだしているうちに、ハリーは立ち上がってまた一発くらったみたいだ。「下がれ!」と何度もガラハッドが言っているのに、ハリーは全然言うことを聞かなかった。

 

 

「 ルーモス!光よ…! 」

 

 

目に流れこむ血を瞬きで払いのけて、杖をまさぐってハリー・ポッターは唱えた。何度地面に叩きつけられたって、ハリーは追うことを諦めるつもりはない。

 

 

「 ロン!! 」

 

「 !? あの犬、知っているのか…! 」

 

 

ハリーが杖明かりを灯したことで、“暴れ柳”は目に見える脅威となった。ガラハッドが静かに驚いたのは、柳の根元にある穴に黒犬が入っていくことだ。お気に入りの骨みたいにロンを銜えて、犬は地中へと姿を消していく。ロンは全力で抵抗していたが、犬の力の前には虚しかった。

 

「助けを呼ばなくちゃ!」とハーマイオニーは叫んだ。ハリーはなおも人の言うことを聞かずに、瞬発力に任せて歩を進めていった。‟暴れ柳“の殺人パンチを相手に、二進一退ならば好プレーのうちに入る。ガラハッドはその場を動かずに、「‟叫びの屋敷”に残された爪痕噛み痕は、あの大きな黒い犬のものだったんだ」と考えていた。

ハーマイオニーがハリーへと叫んだ。

 

 

「 誰か助けを呼ばないと、絶対あそこには入れないわ! 」

 

「 あいつはロンを喰ってしまうほど大きい!そんな時間はない!! 」

 

「 任せろハリー。さがってな―――杖はそのままで! 」

 

 

ガラハッドは変身してただちに飛翔した。

目当ての瘤をつついたあとは、すぐに人間に戻って、右手に杖を握り、左手で立派な幹を撫でた。大理石のように葉の一枚まで固まった“柳”を、ハリーとハーマイオニーはのけぞって見上げた。

 

 

「 え―――!? 」

 

 

そういえば庇われていた…と、ハーマイオニーは今になって気がついた。

 

 

「 彼、どうしてわかったのかしら―――? 」

 

 

ハーマイオニーはハリーの腕をきつく握り、呆然として小声で呟いた。ハリーは厳しい顔で袖で鼻血をぬぐい、去年の夏休みを思い出しながら言った。

 

 

「 未来の杖職人だからさ 」

 

 

散々苦しんだからさ、とそれは同義だ。

 

今、ガラハッド・オリバンダーは祈念する。

“クリスマスツリーを移動させる手段”として、その呪文を使えるつもりだったハーマイオニーは、彼我の実力の差を思い知らされた。立っている人に頼み事をするように、彼は当然らしく言った。

 

 

「 モビリアーブス!樹よ、“この先”まで助けをよんで! 」

 

 

 

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