「 モビリアーブス 樹よ!誰でもいいわけじゃない。処刑人たちは駄目だ。誰か、助けになる人をよんで! 」
ざわざわと梢が鳴った。“暴れ柳”は天に向かう枝を揺らして、鷹揚にガラハッドに応えたように見えた。驚きに目を見張るハーマイオニーの横を、ハリーが勢いよく去っていった。
「 ロン! 」
ハリーは穴へと頭をつっこんだ。彼は内部にどれだけの広さがあるかを確かめる様子ではなく、躊躇いなく全身で飛び込み、身体を二つ折りにして中の道を走っていった。
すぐさまハリーの後ろを追いかけながら、ガラハッドはハリーの勇気に舌を巻いた。自分と違ってハリーは、‟この先”について知らないだろうに…。
後ろからも光がさしてくるので、ガラハッドはハーマイオニーが追いかけてきていることを知った。杖を取り出して明かりを灯し、ハーマイオニーも壁に手をつきながら走った。
「 クルックシャンクスだ! 」
ハリーは尾が見えたのだろうか。
ガラハッドはハリーの尻へと言った。
「 追っていけ。分岐はない。あと一息だ! 」
「 君はこの道を通ったことがあるの!? 」
「 僕はお前らより一級先輩だって、知らない? 」
してきた「悪さ」の数で負ける気はしない、と。
そのニュアンスを汲み取って、ハリーは少し変な声で呻いた。煮ても焼いても食えないという点では、フレッドとジョージよりガラハッドはたちが悪いだろう。
トンネルが急に上り坂になった。
ハリーは、やがて道が捻じ曲がり、その先に小さな出口があることを理解した。ぼんやりとした明かりが漏れるそこに、瓶洗いブラシのような尻尾が消えていった。
ハリー・ガラハッド・ハーマイオニーは、それを見上げながら小休止して息をととのえ、杖を構えながらじりじり前進した。かなうかぎり音量を落として、ハリーはガラハッドへと耳打ちした。
「 ―――この先は何があるの? 」
「 屋敷だ。ホグスミードの丘にある、“叫びの屋敷”の内部へと続いている 」
「 つまり出口はないのね? 」
「 ああ、塞がれている 」
「 叫んでも誰も来ないわね… 」
ハリーはハーマイオニーをちらりと見た。
恐怖に強張りながらもハーマイオニーは、ハリーの目を見てこくりと頷いた。
ハリーが「先頭を任せても?」と囁くと、じっと穴を見上げたままガラハッドは、短く「もちろん」と言った。どんなに小さかった時だって、ガラハッドは下の子を背中に庇わなかったことはない。
生粋の長男気質と、戦地の経験が融合していた。
「 犬が飛びかかってくるかもしれない。ハリー、君は出てすぐに左を見ろ。ハーマイオニーは下を見ろ。僕は右手の進行方向を見る。直前までは壁に張りつけ。5カウントで一斉に出るぞ 」
お互いに背中を預けて、三人の子供たちは穴の外へと飛び出した。
最大限の警戒をして出た割に、広いところに出てすぐのところを襲われることはなかった。いろんなものに驚くハリーとハーマイオニーを背後にして、ガラハッドは鋭い目配りをやめなかった。頭上から埃が落ちてきたので、ガラハッドは小さく低い声で言った。
「 二階だ 」
床に振動が生じたのだろう。
急に素早く移動し始めたガラハッドを、ハリーとハーマイオニーは懸命に追った。ホールを横切って階段に至ったとき、ふたりはガラハッドの判断の正しさを確信した。
ぶあつい埃を押しのけて、何かが上階に引きずり上げられた跡が、床に縞模様をつくっていた。
ガラハッドは踊り場までのぼったときに、その先の光景の「おかしさ」に気づいて停止した。
「 ―――…!? 」
あのドアは
体当たりして突き破られたわけではなく、
判断が遅れ始めた先導役を、せっかちなエースが追い抜いていった。
「 ロン! 」
ハリーは、半開きだったドアを蹴り開けて杖を構えた。
犬の化け物の獰猛さを物語る壁や家具の傷を見て、彼はいてもたってもいられなくなっている。
「 ロン―――大丈夫!? 」
ハリーは寝室に駆けこんでいってしまった。
全開になったドアの向こうに、ベッドのうえのロンとクルックシャンクスを見たからだろうか。考えなしではないはずのハーマイオニーまで、寝室に飛び込んで彼らのもとへと行った。
ガラハッドはついていかざるを得なかった!
重大な危険があるはずだとわかりながら、彼らのほうへと背中を向けて、ガラハッドは後ろ向きに走るかのように入室した。最も廊下からは死角になる場所に、案の定二本の腕を持つ生き物が―――
汚れきった髪はもじゃもじゃと、打ち上げられたワカメみたいに腰近くまで垂れている。
ぶきっちょに肘を迫り出しながら、投降する兵のように、その人間は両手を挙げて手のひらを見せていた。
死体が立っているかのようだった。
血の気のない皮膚が骨に張りつき、その首はがくりと下に垂れている。
折れてしまった足の痛みに呻いて、ロンは警告を発することが遅れた。
ガラハッドはヒュッと息を呑んだ。
「 ッ!?―――あんたは 」
「 どうか攻撃しないでくれ…わたしは、このとおり杖を持っていない 」
素晴らしい発音のフランス語だった。こんな墓穴から這い出たような人間が、口にしたものだとは思えなかった。
ガラハッドはうっかりぽかんとした。この男の名前を知らない魔法族なんて、今時きっといないだろう。ベッド上で動けないロンが、「彼はシリウス・ブラックであり、アニメーガスだった」という旨のことを言った。
その事実があるからこそ驚きがまさる。
この男からは、凶暴さや悪意などが一切感じられないのだ。
“降参のポーズ”で俯いたまま、男はなおも静かに喋った。英語を話し始めると一層、彼の声は優しく、教養があって優雅に聞こえた。重く掠れているのは、万感の思いがあるからのように聞こえた。
「 ハリー、君なら友を助けに来ると思った 」
「 ―――…!? 」
ハリー・ポッターは引き締まった顔つきのままだ。
シリウスはひそかに考えていた。
ハリーと女の子はなおも杖を構えているが、そちらのほうはあまり、問題になるまい。強烈に厄介な存在―――銀髪の少年がぽかんとして杖を降ろしかけた瞬間を、シリウスは決して逃さなかった。
赤毛の男の子が呻いた。
「 ぐっ…罠だ―――! 」
「 エクスペリアームス!! 」
シリウスは鋭く腕を振り下ろした。
袖の内に仕込んでいたヤナギの杖を握って、彼はこの呪文を放った。
ガラハッド・ハリー・ハーマイオニーの三人は、これにて杖を奪われてしまった。最初から杖を奪われていたロンは、ひときわ大きくくぐもった声を出した。
「 なっ…!? 」
シリウスもまた呻くはめになった。
古典的な手口にすっかり引っかかったからといって、「わぁ悔しい~」とのんびり述べるほど、銀髪の少年―――ガラハッドは間抜けではなかった。
ガラハッドは、手を離れて飛んでいってしまう杖を追って、咄嗟に「あっ」と叫んで一歩前へと踏み出した。そのまま彼は減速しなかった。弧を描いて高く飛ぶ杖よりも速く、一直線にガラハッドはシリウスへと突進した。奪った杖を掴もうとして上を見ていたシリウスは、体当たりをくらって壁でマッシュされ、メリィッと音を立てて床に沈んだ。がりがりに痩せたシリウスに対し、ガラハッドは体重を乗せて肘鉄をぶちこんだ。
「 ぐふぅッ…!? 」
ガラハッドはシリウスに馬乗りになった。
彼は骨の浮き出ているシリウスの首を片手で鷲掴みにし、もう片方の手を自分のローブの内側につっこみ、背中側のところでベルトで固定してあったナイフを出してきてシリウスに突きつけた。
そして振り返らずに言った。
「 杖を拾え 」
ハリーはただちに杖へと飛びついた。
カラコロと音をたてて、掴み損ねられた杖たちは床を転がっていた。
「 僕のも拾って。ロンのもな――――それぞれ自分の杖をとって、こいつに向かって構えろ 」
「 お前は何者だ…!? 」
喉を潰しながらシリウスは呻いた。
呼吸ができなくて、叫んでいるつもりだが、ささやかな呻き声をあげるのが精一杯だった―――この少年は顔色ひとつ変えない。
「 お前は、生徒なんかじゃないな!?それに、お前は…ッ 」
「 どいて!どけよ、ガラハッド!!! 」
背後からハリーの叫び声がした。シリウス・ブラックの虚ろな瞳は、ナイフの尖端から離れてそちらへと移った。
自分の後ろから、ハリーはブラックを狙っているなと…――――ガラハッドには振り向かずしてわかった。狂気的な声だ。実際に見なくったってわかる…13才のハリー・ポッターが、今どんな顔をしているかなんて。
彼は、いま両親のかたきを討とうとしているのだ。
ガラハッドは、ハリーを無視してシリウス・ブラックへと覆い被さり続けた。
「 どけ…どけよ。その場所をどけ!! 」
ハリーは金切声で叫び続けた。
ガラハッドはそれを無視しながら、「ハリーめ、やっぱりちょっと馬鹿なとこあるよな」としみじみ思っていた――――去年の夏休みを思い出しながら。
マグル界育ちだからか、ハリーは時々妙にどんくさい。
特別大事にされているくせに、なんでもこちらを羨ましがるんだ。
「ああこういう奴で良かった」と、ガラハッドは震える息を噛み締めた。
激しく文句を言われたって、いつもどおり聞く耳なんか貸さないでやる!
ハリーは、すっかり杖のことを樹でできた銃だと思っている。失血によって殺すわけでもないのに、彼はしきりにブラックの胴体に当てようとするのだ。「足に当てたって殺せるんだぞ」という事実に、どうか気づかないでくれとガラハッドは願った。
「 どけよ!どけよったら!!僕は、やるんだ。僕は、やる。そいつは、僕の両親を殺した!!! 」
「 否定はしない。しかし君がすべてを知ったら――― 」
「 言った筈だぞハリー? 」
ガラハッドは穏やかな声でそう言った。
穏やかすぎる声色で遮られて、却ってシリウスは不気味さを感じた。
「 こいつは、僕の獲物だ。杖をとれと言ったのは、自分で身を守れという意味だ。それ以上はしなくていい 」
「 うるさい!こいつは、僕の両親をヴォルデモートに売った!死んで償うべきだ!僕にやらせろ!! 」
「 死は償いにならない 」
ガラハッドはきっぱりとそう言った。
ハリーは背後からガラハッドに掴みかかった。
ハーマイオニーはそれを止めようとして、歯を食いしばってハリーと腕力勝負をした。
そよ風でも受けるようにガラハッドは、ハリーの狼藉に顔色を変えなかった。
「 なんにも。なんにも変わらないんだから。わざわざ殺してやって、こいつの霊魂が罪を償ったことにしてやる義理はないさハリー 」
「 ―――君は… 」
シリウスは力なく呻いた。
この少年は、なんと達観しているのだろうと―――シリウスは深く驚いていたが、端的に言ってこれは勘違いである。
この銀髪の子は冷静?まさか、そんなわけはない!
ガラハッドが激昂したハリーを見ようともしないのは、自分がいっぱいいっぱいで、それどころではないからである。
ガラハッドは目を皿のようにして、自分が抑え込んでいるシリウス・ブラックを観察していた。初めて写真ではなく現物を見て、間近に質感を確かめて衝撃を受けている―――だって…だって、この男!衣服の状態から当然に推定された、
ガラハッドは、「ハァァァア!?」とキレてブラックの髪をひきちぎりたいような状況であったが、与えられた衝撃が(勝手にいろいろ思い込んで悩んでいたぶん)大きすぎて、さっきから呆然としていた。「ハリーに対して何て言おう?」とか、そんなことまで頭が回っていなかった。
案外、自分を助けてくれそうな銀髪の少年に、期待した目つきでシリウスは訊ねかけた。
「 …君は、やはりグレイスの縁者に見える。いとこか?君は…誰だ? 」
「 グレイスは母親の名前だ 」
刹那、シリウス・ブラックの表情は変わった。
体感のうえでは長大な、しかし客観的には一瞬の沈黙があった。
ブラックまでもが「ハァ!?」という表情を浮かべたことで、ガラハッドの脳内はようやく次の段階へと達した。
おいおいおいおいグレイス!このアバズレ!この婚約者の反応は何だ!?こいつは父親じゃない!!で、じゃあ本当の父親は誰なんだよ!!?
ナイフの切っ先が震える。
ハリーは、ガラハッドが葛藤しているんだと思った。
実の親が相手だからこそ手がけることに葛藤しているのだと思い、ハリーはとことん勘違いを極めていた。誰も冷静に訂正してくれないので、この地獄はしばらく続くことになる。
「 母親…? 」
グレイス・オリバンダーの姿を思い出しながら、シリウスは何を言われたのかわからない顔をした。
「 君は、本当に子供なのか? 」
“喧嘩慣れ”では済まされない動きに、異常な胆力。
「本当に10代なのか」という意味で、シリウスはこれを発言した。
ハーマイオニーとロンのおかげで、少し冷静になったハリーがガラハッドの肩を叩いた。
「 よせよ!君にとっては父親だろ!? 」
「 だれが父親だって? 」
脱獄して以来最も驚いて、シリウスはニワトリのような声をだした。「ええっ!?」とハーマイオニーが悲鳴をあげるなか、ガラハッドは天を仰ぎすぎてほどんど白目になり、そのまま気絶しそうになった。
最高に凶悪なタイミングで、クルックシャンクスが爪を出して飛び込んできた。「うにゃあ!」から始まる乱入は馬鹿馬鹿しく、乱闘は埃を撒き散らした。
ガラハッドは床に落ちた杖をとろうとして、カードゲームのようにブラックとその手が被った。蹴りを入れたり入れられたり、ひとしきり互いにもんどりうった末に、シリウスはナイフをもぎ取って刺されることを回避したが、ガラハッドは攻撃力でまさる杖を手に入れた。ふたりが混迷の泥仕合をしているあいだ、まわりは間違えてガラハッドにあててしまいそうで、これという呪文を放って援護できなかった。
「 お前はだれだ!? 」
ナイフを構えてシリウスは叫んだ。
十二年ぶりの娑婆に知らないうちに息子ができているも、彼の
いいやまったく覚えがないわけではないのだが、よりによってグレイス・オリバンダーとの間には
たかがナイフが。飛び道具を相手に何ができる。
事実上無力なブラックと距離をとって、ガラハッドは「ペッ」と口に入った埃を吐き出して嘆息した。ブラックが現在考えていることは、大体推察されるからこそイライラした。
「 グレイス!グレイスは今どこにいる!?ハリー、そいつを信用してはいけない!わたしの息子のふりをして、何のつもりだ!? 」
「
ガラハッドはついにブチギレた。
彼は鞘を抜くかのように左手の指で杖をなぞり、威嚇的に杖を構えてみせた。
「 むしろ、どれほど迷惑したことか! グレイス・オリバンダーは死んだ! イカレた婚約者を見限ろうとしなかったばっかりに、死ぬはめになったんだ! 」
「 えっ…アズカバンにいるんじゃないの? 」
ボソリとベッド上のロンが言った。彼は抵抗した際に足を折ってしまったので、さっきからずっとそこにいる。
「くぉぁ!?」と今度はガラハッドがニワトリになった。
ハリーとハーマイオニーはびっくりして飛び上がり、気まずそうなロンを振り返った。ハリーは困惑と混乱で言葉が出なかったが、ハーマイオニーはただちに声をあげた。
「 アズカバンに!?どういうこと?ガラハッドのお母さんよ!? 」
「 うん、まあその…政治犯として。言い立てることじゃないけど、有名な話だろ? 」
「 せ、政治犯んん!? 」
ガラハッドは声を裏返らせた。
元皇軍兵士のガラハッドからすると、それって正直殺人犯よりもずっと「ヤベー奴」である。いやまあこの感覚もどうかと思うけども…!
「百人殺した忠国の士」と、「空論を述べるだけのアカ」どっちがマシかというとさぁ…。
…いやまあ今はそんなこと追究しなくていい!
べしりとガラハッドは自分の頬を叩いた。
その様子を見て、ロンは気まずそうに首を振った。
「 ええっと、その、そこまで悪いイメージはないさ。ガラハッドのことを見ていたら、グレイス・オリバンダーはただ変わり者だっただけなんだろうなあって思うようになった。ごめんってば。忘れて 」
「 彼女はアズカバンにはいなかった 」
「 んなこたぁわかってんだよ 」
ガラハッドの返事はドスが利いている。
ハリーは生唾を呑み込んだ。「政治犯」って、これまでほとんど聞いたことがない言葉だ。なんとなく意味はわかるけれども、魔法界にもそういうの、あるんだ…?詳しく知りたくて仕方がなかったが、ガラハッドを差し置いて、自分がロンに訊ねるのは気がひけた。
ブラックは驚いている様子がなかった。
彼は「捕まっていないからには死んだのだろう」と、かねてから考えていたような顔で小さく頷いた。
「 どのみち犯罪者の子だと思われてたのかよ僕は…しかも入学当初から…! 」
ガラハッドは泡を噴いて倒れそうである。
ロンはめいっぱい身体を起こして、ハリーとハーマイオニーを見回しながら熱心に言った。
「 だ、誰でも、小さい頃は言われるもんなんだ!虫や動物をいじめると、夜中にレディ・グレイスが現れて、彼らに杖を持たせるよって。『仕返しされちゃうぞ』っていう意味さ。ようは、『やめろ』っていうことなんだけど… 」
「 されちゃえばいいのよ 」
ハーマイオニーはきっぱりと言った。
「 仕返し、されちゃえばいいんだわ 」
バックビークの首が落ちる音を思い出して、ハーマイオニーは唇を噛み締めた。
ハリーもまったく同じ気持ちだった。
ハリーは、リリーと親しかったというグレイスに、どうにも悪いイメージを持てないのである。
ハグリッドだって、グレイスは素晴らしい人だったと言っている。
もしも彼女がゴーストになってホグワーツにいたら、バックビークは助かったに違いないのにな…。
けれどもハリーは、そのことから理不尽に、とてつもなく強い怒りを覚えた。
今、はらはらと涙を流し始めたハーマイオニーは、僕の両親が死んだことよりも、バックビークが大事なのに違いない!
ハリーはイライラして、もうこれ以上この場で話す必要はないと思った。
ハリーはただ自分の心音だけを聞いて、「殺るぞ…殺るんだ…」とブラックを睨み、念じていた。
興奮で膝が笑って、杖先は震え続けていた。
「 ええっとぉ 」
ガラハッドは考えがまとまらなかった。
ああそっか、“杖持つ権利なき者たち”に杖を与えることは、内乱幇助罪にあたるような行為なんだな、と…。小鬼の反乱について、今年“魔法史”で習ったところじゃないか、と…そういうことは思い浮かべられるのだが――――それ以上はぼうっとしてしまう。
脳裏に浮かびあがるのは、フリットウィック先生のお顔つきばかり。
いつも立派な紳士らしくして、「わたしは人間です」と証明するために、どれほどの努力をなさってきたことだろう。
彼に相応しい杖を贈ったことが、彼女の犯した罪の始まりだというのなら。
たとえどれほど悪名高い女であっても、ガラハッドは母グレイスのことを謗れる気がしない。
むしろ憎らしい―――そんな彼女を、「犯罪者」と呼ぶ社会が。
間違いなく天才だったであろう人を、若くして擂り潰した社会が!
カチリなんていう音もたてないで、青い炎は静かに灯る。
最も熱い炎ほど、透き通っていて青いのだ。
「 ガラハッド、どういうことだい? 」
限界のきたハリーが言った。
まるで杖が震えて暴れているかのように、ハリーは両手で杖をつかんでシリウス・ブラックを狙っていた。
「 さっさとしてくれよ!こいつは、君の父親なのそうじゃないの!?アラベールさんは、僕らに嘘を吐いたっていうの!? 」
「 わたしは彼の父親ではない 」
「 僕は嘘なんか吐かれていない 」
ふたりの声は重なった。
シリウス・ブラックは、ハリーを相手には一切抵抗しないようだった。
自分のいたらなさが悔しくて、ガラハッドは顔を歪めていた。
そうだ自分は、アラベールに嘘など吐かれていない。
彼はただ「グレイスとシリウスは婚約者だった」と言っただけで、「それじゃあ、シリウス・ブラックが自分の本当の父親なんだな」と勘違いして、自分が今まで勝手に馬鹿面さげていただけだ。
ガラハッドの頭脳は動き出していた。
脱獄者シリウス・ブラックの証言によると、グレイス・オリバンダーは、アズカバンに収監されていない。複数の証言を照合すると―――こうだ。
まず、「彼女はみずからスリザリンに入り、過激な純血主義者に利用されにいった」とは去年のダンブルドアの談。「過激な純血主義者って誰だよ」というクイズは、ここいらではあまりに簡単すぎて―――自分に“リドルの日記”を渡すなど、ルシウス・マルフォイ氏はこちらを特別視している。
「あの子は、眠るのがよかった」とは、随分前にギャリックから唯一聞いたことのある母親の情報だ。そして去る夏ハリーと共に聞いたことによると、グレイスを家へと連れ戻すには、ギャリックの認める“腕っこき”が四人も必要だったという!
荒事があった―――と、推察するのが自然だろう。
つまり、アラベールがグレイスを家に連れ帰ったとき、彼女は
ならば、とりうる道はひとつしかないじゃないか。
アラベール・ノアイユという青年は、死んでしまった女性と最後まで踊り続けたらしい。赤子の出産費用が欲しくて、ダンスマラソンにエントリーしたノーマジに恋をしたと。
ギャリックは、どうしてあの時あんな話をしたんだか!「その頃から何も変わっていない」と、ひどく迂遠に弟子を評して、「彼は彼なりにお前を愛しているのだ」と言いたいときに、奇妙な昔話をした――――ずっとその意味を考えていた。
「 じゃあ君の父親って誰!? 」
ハリーの怒鳴り声が響く。
ガラハッドは、今よりも若いアラベールが、だらりとして動かなくなった女性を抱きかかえる姿を想像していた。そういうとき彼はどういう顔をするのか、考えてみると付き合いが少なくて、てんでわからないのだった。
案外、結構激しく泣くのかもしれない。いつも人を食ったような顔つきをしているくせに、こちらの身長を測るときは、恥ずかしくなるほど屈託なく笑うのだから。
あの大嘘吐きの人となりを、自分はまだ全然知らない。
こっちも大概の嘘吐きだから、それなりに巧いこと付き合ってきただけだ。
どうしてこの状況でここまでボーっとしていられるんだか、周囲から見てガラハッドは意味不明だった。月のように光る銀の瞳で、彼はギャリック・オリバンダーそっくりの声調でこう言った。
「 アラベール。僕の父親は、オリーブ杖遣いの、アラベール・ニコラ・ド・ノアイユだ。あいつが、僕に嘘を吐いたことなんかない 」
時が止まったかのようだった。
タイトルは西村京太郎によるパロディ小説『名探偵が多すぎる』から。同作では大怪盗アルセーヌ・ルパンの他に、各国代表計四人の超有名探偵キャラが瀬戸内海に集結しています。エラリー・クイーンいじられすぎ。本格ミステリーですがメタネタギャグがいっぱいです。メグレ夫人が鬼つよ。