私はベッドの上で目を覚ます。
横にはキューちゃんたちとネ級。
外はまだ少し暗かった。
私はみんなを起こさないように外へ出る。
少し肌寒い。
患者服だからだろうか。
私は海の方へ足を向け歩く。
ここは本土より南だから
暖かいはずなのだが……。
そういえば今日の日付を見た。
確か日付は「2035/06/05」だった。
私が確認したあの演習の日付から
約半年は経っていた。
既に春が過ぎようとしていた。
今は季節的には暖かいのだが、
朝だから寒いのだろうと思った。
そんなことを思っていると
既に海岸まで来ていた。
水平線の向こうでは
太陽が顔を出し始めている。
もう少しで総員起こしの
時間になるだろう。
それまでどうしようと考えた結果、
私はここで歌うことにした。
理由はここにきてから
一度も歌っていないから。
歌の内容は……この景色にしよう。
水平線から顔をのぞかせる太陽。
照らされる基地。
穏やかで静かな波。
朝を告げる海鳥。
さわやかな風。
それに反応する木々。
新しい今日と言う一日の始まり。
私はこれを歌にしていく。
なるべくこの景色に合うように。
静かに、穏やかに、心地よく。
私は歌い続ける。
そして歌い終わると同時に
総員起こしの放送が入る。
放送の声は大淀さんとは違う人。
少し大人で頼れるお姉さんのような声。
私はその声を聴きながら部屋に戻った。
部屋に戻ると既にキューちゃんたちは
起きていた。
ネ級も枕を抱いて
半分起きている状態だ。
ひとまず私はベッドに座る。
ネ級は直ぐに枕を離して
私の腕に抱き着く。
仕方がないので放置した。
この子はこうなのだから。
私は開いているもう片方の手で
キューちゃんたちを順に撫でる。
皆気持ちよさそうにしていた。
私は誰かが来るまでこれを続けた。
まあ、すぐに明石が迎えに来たけどね。
私は明石に案内される。
もちろんキューちゃんたちも。
たどり着いたのは大きな扉の部屋。
部屋の名前は学校の教室の様な
ドアの上のプレートに書いてある。
そこには「執務室」と書かれていた。
明石は丁寧にノックをして
返事をし、扉を開く。
部屋には提督と大淀、加賀さんがいた。
机の上には書類が山積みにされている。
しかし、提督たちは
コーヒーを飲んでいた。
休憩中なのだろう。
提督たちの目の下に隈がある。
ところで何故私たちを呼んだのか。
そう聞くと提督は
この後について話した。
その内容は私を艦娘たちに
紹介するというものだ。
私にとって願ってもないことだ。
本当に大丈夫なのかと
聞こうとしたがやめた。
大淀と加賀は何も言わず、
こちらを向いて頷くだけだった。
それだけ提督のことを
信頼しているのだろう。
それに提督は大丈夫だと言い張る。
私はそれを信じて、
提督の言う通りにすることとした。
場所は変わり、私は今食堂にいる。
服は明石の計らいでいつものズボンと
無地の白いTシャツを着ている。
帽子と手袋は外している。
人前に出るのに患者服のままだと
良くないだろうとのことだ。
まあ、そのおかげで私は今、
艦娘たちとテーブルを囲って
食事をすることができている。
私が食堂に入ったときは
警戒されると思っていたが
そんなことは無かった。
私のことを対等に見てくれた。
それに提督が大丈夫と
言った理由が分かった。
夕張達の事もあるのだが、
それ以上に皆が友好的なのだ。
特に駆逐艦の子たちが友好的だ。
好奇心からか自ら自己紹介してくれる。
それに姉妹も紹介してくれるから
すぐに仲良くなれた。
軽巡以上の人たちも仲良くしてくれた。
特に那珂ちゃんは仲良くしてくれた。
お友達になった。
歌の事とか色々聞かれたよ。
そのおかげでお姉さんたち、
神通さんや川内さんとも仲良くなれた。
だけど一人だけ仲良くなれなかった。
そう、あの人。
正規空母の瑞鶴さんだ。
挨拶しようとしたけど、
すぐに食堂から出て行ってしまった。
姉である翔鶴さんには謝罪された。
どうやら鎮守府襲撃の際に
色々あったらしい。
いつか詳しく聞いてみよう。
とりあえず、一通り挨拶が済んだので
食事を楽しみつつ、会話を続ける。
会話をしていて気づかなかったが、
食堂の人数が元の半分になっていた。
どうやら出撃や遠征、演習に
出かけて行ったようだ。
そういえば提督や大淀もいなかった。
……私は何をすればいいのだろう?
どうしようかと悩んでいると明石から
「基地を見て回りませんか?」
と言われた。
確かに私はこの基地について知らない。
私よりキューちゃんたちの方が
知っているだろう。
私は明石の案内で
この基地を回ってみることにした。
キューちゃんたちはお留守番。
ネ級は私についてきた。
まずは工廠。
ここには既に来ているが、
再確認のために来た。
中は明石の作業場や
多くの艤装が置かれていた。
色々見て回りそのついでに
妖精さんに挨拶をして次の場所へ。
着いたのはドック。
出撃する場所と入渠するところだ。
出撃ドックは6か所の待機所があり、
そこで準備、合図で出撃
と言う形になるそうだ。
入渠施設は簡単に言えばお風呂。
実際に見たが、ホテルの大浴場である。
それもかなり大きな風呂である。
今後ここを使っていいらしいので、
今日から使わせてもらおう。
次は畑。
基地では珍しいところだ。
私が見た前の鎮守府にも畑があった。
どうやら島にある鎮守府や基地には
畑が用意されているそうだ。
ここではレタスや玉ねぎ、
キュウリやナスといった
野菜が大きく実っていた。
ここで取れた野菜は食堂で使われる。
もう少ししたら食べ頃だということで
私も食べられると聞いて喜んだ。
他には演習場、図書室、教室、
甘味処など、この基地の重要なところを
いくつか見せてもらった。
そして私は再び執務室に戻ってきた。
朝と同じように入る。
入ると提督と大淀が、
山積みの書類と戦っていた。
それと巫女服のメガネをかけた
お姉さんも作業していた。
加賀さんはいなかった。
明石はやることがあると
言って出て行った。
私は特にできることもないので
ネ級と一緒にソファに座って待つ。
すると巫女服の女性が執務室の
横の部屋に入っていった。
しばらくすると5人分のカップを
お盆に乗せて持ってきた。
隣の部屋は給湯室なのだろう。
女性は提督と大淀のところに
カップを置いた後、
私たちの前にカップを置く。
中身は紅茶だった。
しかし、彼女は座ることなく
また、給湯室に入っていく。
今度はお
私たちの前に置く。
そして私たちの机を挟んだ
向かい側に座った。
そして紅茶を飲みながら
自己紹介してくれた。
女性の名前は「霧島」さん。
今朝の総員起こしの声の主だ。
執務室にいるのは作業の手伝い、
ではなくただの暇つぶしだそうだ。
霧島さんは金剛型4姉妹の末っ子。
今日はお姉さんたちが出撃しているため
執務室にいたようだ。
多分寂しかったのだと思う。
そんなことを考えていると
隣から「ひーひー」と聞こえた。
何かと思ってみるとネ級が
涙目で舌を出していた。
どうやら猫舌らしい。
私にはちょうど良いのだが、
ネ級には熱すぎたようだ。
私はとりあえず給湯室に行き
使われてないコップに水を入れて
ネ級に飲ませる。
ネ級は何とか落ち着いた。
これは今後気を付けるべきだろう。
私は霧島さんと話して
皆に注意することに決めた。
しばらくして夕食時、
私は執務室で話したことを
霧島さんと説明することにした。
もしかしたらキューちゃんたちも
猫舌かもしれない。
そのための注意喚起も含めている。
とりあえずちゃんとした理由が判明
するまでは気を付けることになった。
食事後、私たちは明石に
ある部屋へ案内された。
私はその部屋に入る。
その部屋は全面畳張りだった。
その畳の上には二人組の布団と
ペットサイズの寝床があった。
他には小型冷蔵庫、勉強机、卓袱台、
キッチン、テレビ、エアコンなど
必要なものはすべて整っていた。
どうやらここが
私たちの部屋になるらしい。
明石が昼に言っていた用事とはこれだ。
私たちは明石に感謝する。
これほどちゃんとした部屋を
用意してもらったのだから。
明石は「どういたしまして。」
と言って部屋を後にした。
私たちは部屋を一通り確認した後、
布団の上で横になる。
ネ級も同じように横になって
私に抱き着いてくる。
私は拒むことなく、ネ級を抱き寄せる。
とにかく疲れたのだ。
身体の疲れではなく気疲れだ。
今日は心配になることが
多かったから尚更疲れている。
今からでも眠れそうだ。
既に私の身体は寝る態勢に入っている。
そこにネ級の温かさが加わっている。
もう私の意識は遠のいている状態だ。
でもそれでいいか……。
そう考えた私はそのまま眠りにつく。
考えたネ級の名前を口にしながら…。
次回、ネ級の名前が出ます。
かなり安直な名前だけど。