お待たせしました。
私は翔鶴から話を聞く。
翔鶴が語る瑞鶴の話。
それは変わってしまった鶴の話。
瑞鶴はこの艦隊初の正規空母だった。
幸運艦の名に恥じない戦果を挙げ、
多くの作戦を成功させてきた。
主力として仲間を支えてきた。
提督のケッコン鑑としても……。
そんな彼女が変わってしまった。
原因は鎮守府襲撃事件。
吹雪が大けがを負ったあの事件。
被害は鎮守府が壊滅。
艦娘は轟沈無し、大破多数。
提督が全治二か月。
これだけの被害が出た。
いや、これだけで収まった
というべきだろう。
だが、瑞鶴は深刻に考えたそうだ。
自分たちの家を守れず、
大切な人が傷ついてしまった。
それが瑞鶴を変えてしまったらしい。
事件当時の瑞鶴は主力艦隊にいた。
別の任務で鎮守府近辺にはいなかった。
襲撃の件を聞いたのは帰投時。
まだ作戦海域から帰る途中だった。
通信を受けた瑞鶴は全速力で戻った。
仲間の制止を振り切って……。
戻る途中で見つけた深海棲艦を
次々に沈めていった。
その気迫に逃げ出す者もいたとか。
ようやく鎮守府に着いた頃には
大きな煙が上がっていた。
ボロボロになった施設。
それを深海棲艦が攻撃していた。
瑞鶴はその艦隊を強襲した。
ありったけの艦載機を放った。
怒りの全機発艦。
しかし、多勢に無勢。
瑞鶴1人ではどうしようもなかった。
艦隊の3.4割しか削れなかった。
幸いにも鎮守府の艦娘たちは撤退済み。
一緒に出撃していた仲間に連れられて
鎮守府を離れた。
この後、瑞鶴はしばらく荒れた。
提督が無事な事には喜んだ。
しかし、家を捨てる判断をしたこと。
まだ、残っている仲間がいること。
すぐに鎮守府に戻ろうともした。
そして、自分の弱さを悔いた。
それから瑞鶴の笑顔が消えた。
仲間からの誘いを断って鍛錬。
食事をあまり摂らずに鍛錬。
演習が終わっても鍛錬。
夜になっても鍛錬。
ずっと鍛錬。
今も鍛錬。
鍛錬……。
ずっと鍛錬を繰り返す。
「無理し過ぎだ。」
提督の言う言葉に耳を貸さない。
「少し休んだら?」
翔鶴の言葉にも耳を貸さない。
ただただ鍛錬を繰り返す。
出撃すれば戦果を挙げる。
戦略なんてものはない。
ただ敵を殲滅するのみ。
仲間など気にしない。
無線を勝手に切ることもあった。
大破の仲間を気にせず進むことも。
瑞鶴は変わってしまった。
戦果を挙げるだけの
翔鶴から語られた瑞鶴の事。
自分が強くあればそれでいい。
そんな感じなのだろう。
守れなかった自分への怒りが
それを悪いほうへ持って行った。
彼女にとって大切な場所だから。
それ故に変わってしまったのだろう。
私はそんな彼女の気持ちが分かる。
何故分かるのか?
私も同じだったからだ。
瑞鶴とはまた違った理由だ。
私は弱い者の味方でありたかった。
だから私は体術を習った。
弱いものを標的にする奴を
力でねじ伏せる。
強さとは力、そう思っていた。
ただ自分が強ければと思っていた。
それで守れるならそれでいいのだと。
でも、それは違うと言われた。
本当の強さは違うものだと。
私はそれをお父さんに言われた。
だから私は歌で平和を望んだのだ。
力とは違う強さを教わったから。
だから瑞鶴のことが分かるのだ。
瑞鶴は私が強さを教わる前と同じだ。
本当の強さを知らない。
自分を全力で否定する人もいない。
この話を聞いて私は一つ決心をした。
いずれ横須賀に行くのだ。
それまでに瑞鶴の力を否定する。
私が教えてもらった本当の力を
瑞鶴の心に教え込む。
だが、今はまだ私の声は届かない。
時が来るまで準備することにした。
私は翔鶴に感謝し、工廠に向かう。
かなり話し込んでいたのだろう。
既に夕日が沈み始めていた。
私は急いで夕張達の元へ行く。
工廠に入ると、片付けが行われていた。
どうやら今日の出撃は
一通り終わったらしい。
私は夕張を探す。
夕張は部屋の奥にいた。
そこには明石と若もいた。
私は夕張に声をかける。
私は夕張達に瑞鶴のことを聞く。
彼女たちからの印象も聞きたい。
話を聞くと、夕張達は心配していた。
明石は心配していた。
夕張と若は変わりように驚いていた。
艤装を手入れするからこその印象だ。
特に明石はいつか沈んでしまうのでは
ないかと感じていた。
そこで私はある提案をした。
いつかここを出る前に瑞鶴と
一戦するつもりである事。
その時に使うものを作ってほしい事。
それまで私が実験の手伝いをすること。
この提案に明石は考える。
しばらく考えて口を開く。
「どんな物か聞いてもいいですか?
それ次第で考えます。」
私は作ってほしいものをいう。
調べたら出てくるとも。
明石はそれを調べて確認する。
確認した明石は驚いた。
それはこの世のものではないから。
しかし、それができればありがたい。
何故なら瑞鶴の心に響かせるためには
それが必要不可欠なのだ。
私は作れそうかと聞く。
明石は一応作れると言った。
そして、これなら作って大丈夫だと。
夕張と若も手伝うと言ってくれた。
私は頭を下げてお願いする。
これで下準備は完了した。
後は完成まで待つこととなった。
部屋に戻る前に私は明石と共に
提督の元へ向かった。
作成の許可をもらうためだ。
私は間宮のお礼も兼ねて向かう。
執務室では提督が昼と変わらず
執務作業をしていた。
隣には正座させられている秋雲がいた。
首にはプレートを掛けられていた。
「私は勝手に鎮守府の経費で
メイド服を買いました。」
……あのメイド服か。
あの時*1の提督の気になる反応は
これが原因だったのか。
まあ、そのことは置いておき本題へ。
提督は直ぐに了承した。
悩むことなく即決だった。
理由を聞くと瑞鶴のことを話した。
前の瑞鶴に戻ってほしい。
だが強くは言えないそうだ。
無理に止めたくはないが、
仲間を大切にしてほしい。
自分を含め守ってほしい。
それが提督の願いだった。
そして、今それを伝えられるのは
私だけだと思っているようだ。
だから提督は直ぐに了承した。
部屋を出る前にはこうも言われた。
「瑞鶴をよろしく頼む。」
まるで父親のように言った。
私はそれにサムズアップで答えた。
この後、色々考えながら
私は部屋に戻った。
加賀さんの事、瑞鶴の事。
今日だけで色々あった。
加賀さんは次に会う時までに
自分の中で決意を決める。
瑞鶴は私の思いを届ける。
私以外の思いも。
私は気持ちを整えて目を閉じる。
明日以降のために体を休める。
誰かに甘えようかと考えながら……。
寝静まる夜に響く音。
ギリギリと何かが張る音。
ピュンという風を切る音。
ストンという何かに当たる音。
弓道場から何度もなる音だ。
的は10本以上の矢が刺さっている。
それを一本ずつ抜いて集める。
そして定位置に戻り、矢を放つ。
これを夜な夜な繰り返す。
その人物はある言葉を口にする。
「守らなきゃ……私が……
守らなきゃ……私が……」
ひたすらにこの言葉を繰り返す。
壊れた機械のようにただひたすらに。
壊れていくことを誰も知る由がない。
本人ですら気づかないのだから……。
謝罪が多い一日が終わりました。
瑞鶴との一戦を目指し
歌音は何をするつもりなのか。
第2章で同行するメンバー(残りのメンバーは基地でお留守番)最終投票
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キューちゃんズ(イ級×4)
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ネ音(ネ級)