私の想いを歌にのせて平和を願う   作:猫神瀬笈

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黒いフードの人物によって
ナイフが振り下ろされた。



第19話 女神の愉悦

 

ナイフは深く刺さった。

 

毛布に伝わるシミ。

 

動きも寝息も止まった。

 

やったのだ、ようやくやったのだ。

 

ターゲットの生命活動は止まり、

目標は達成したのだ。

 

後は誰にもバレずに部屋に戻るだけだ。

 

急いでこの場から離れる。

 

なるべく音を立てず、出口に向かった。

 

だが、部屋を出る前に

強い衝撃が左から襲う。

 

その衝撃に飛ばされ、

勢いよく窓にぶつかった。

 

その衝撃でガラスも割れる。

 

近くにあったものも散乱した。

 

痛みに耐えながら顔を上げる。

 

そこにはハンマーを持った大井がいた。

 

「北上さんの仕事場に入る不届き物が!

大人しくしてなさい!」

 

そう言って近づいてくる。

 

早く逃げないとマズイ。

 

そう思い、すぐに窓から外に逃げる。

 

窓ガラスが割れたことで簡単に

外へと逃げることができた。

 

ここで捕まるわけにはいかない。

 

急いで見つからないように

身を隠しながら走り出す。

 

だが、不運なことは続く。

 

逃げる方向には夕立がいた。

 

逃げるルートに被ってしまった。

 

一番会いたくないのに会ってしまった。

 

夕立は艦娘の中で特に鼻が利く。

 

今、この手には刺した後の血が

べっとりついている。

 

それにさっきの一撃で

左腕からも血がでている。

 

変な方向に曲がっている左腕から。

 

この匂いに気づかれたら確実に終わる。

 

幸い、後ろから大井が

迫ってくる気配はない。

 

今この時間を耐えなければ……。

 

「そこに誰かいるっぽい?」

 

っ!マズイ!気づかれた!

 

「ん~、変なにおいが混じって

誰なのかよく分からないっぽい。」

 

匂いではなく気配で気づかれた。

 

その足音は次第に近づいてきている。

 

心臓の鼓動は早くなる。

 

早くこの場から逃げたいが、少しでも

音を立てようものなら気づかれる。

 

心臓が痛い、汗が止まらない。

 

マズイ!マズイ!!マズイ!!!

 

すぐそこまで近づいてくる。

 

万事休すか!

 

そう思っていた。すると……

 

「夕立?やっと見つけた。」

 

新たに増えてしまった。

 

此方からは見られないが、白露型だ。

 

だが、ここで来るのはマズイ。

 

どうする!どうしたらいい!

 

悩んでいると足音が遠ざかる。

 

何故かと思って耳を澄ます。

 

「どうかしたのかい?」

 

「なんか変な匂いがするっぽい。」

 

「それ、比叡さんの料理じゃないかな?

僕たちの近くにいたから。」

 

「でも、少し血の混じった匂いが……」

 

「今日は足柄さんと対決して

殴り合ったでしょ?」

 

「ぽい?そうだっけ?」

 

「はあ、ところで夕立。

虫歯は抜いたかい?」

 

「え……えっと…、それは……

っ!逃げるっぽい!」

 

「あ、こら!待つんだ夕立!」

 

「歯医者は嫌っぽい~!」

 

声は次第に遠くなり、聞こえなくなった。

 

その安堵から腰を下ろす。

 

どうやら危機は去ったようだ。

 

此処は少し入り組んだ場所。

 

通る人は滅多にいない。

 

早く部屋に戻らないといけないが

今はこの安息を体感する。

 

 

 

 

 

マズイ、休み過ぎた。

 

大本営全体の警備が増えている。

 

このまま部屋に戻るのは難しい。

 

幸い、窓を開けて出てきたため、

最悪そこから入ることができる。

 

此処から部屋までは遠い。

 

どうしようか悩んでいると

あるものが目に入った。

 

それは空の段ボール。

 

いくつかが乱雑に置かれていた。

 

これを見て、あることを思い出す。

 

それは鍛錬中、卯月に

教えられたことだ。

 

「これを使えば、バレなくなるぴょん。

うーちゃんがお手本を見せるぴょん。」

 

鍛錬の鬼ごっこで隠れているときに

教わった隠れ方だ。

 

その時の卯月は捕まったが、

私は捕まらなかった。

 

意外と使える段ボール。

 

これを使わない手はない。

 

自分より大きい段ボールを探し、

それを被ってゆっくりと進む。

 

実際、その効力はすさまじかった。

 

少しずつだが部屋に近づけている。

 

たまに人が通るが、誰も怪しまない。

 

たまに教官たちの声が聞こえるが、

気にせずスルーされている。

 

気づいている者もいた。

 

しかし、「それどころじゃないだろう」

と、誰かに言われて離れていく。

 

どうやら運が傾いているようだ。

 

思えば、あのターゲットを刺した後から

私の運は上がっている。

 

殴られたが窓から逃げることができた。

 

気づかれたが、色々なことが重なった。

 

段ボールのおかげでバレずにいる。

 

ここまで良いことが続いている。

 

もう部屋はすぐそこにある。

 

部屋に戻れば完璧だ。

 

だが、窓からは入らない方がいい。

 

誰かにバレる可能性がある。

 

扉の方が危ないと思われるだろうが、

そっちの方に警備は来ない。

 

憲兵はこちらには入ってこられないし、

大本営の艦娘も警備で外へ。

 

警備ではない艦娘も

出てくるのに時間がかかる。

 

此方に確認が来るのは早くて5分。

 

教官たちが出て行った今が、

部屋に戻るチャンスなのだ。

 

だからここで段ボールを捨て、

部屋に走る。

 

なるべく音を立てないように

急いで自分の部屋に向かう。

 

警備はいたが他の部屋を確認している。

 

しかも扉の向きからこちらを

見ることはできない。

 

急いで部屋の前に行き、

音を立てないように扉を開ける。

 

入ってから息を整える。

 

とても心臓が痛い。

 

上手くいきすぎて心臓が痛い。

 

左手の痛みを忘れるほどに。

 

だが、無事に部屋へと

戻ってくることができた。

 

取り敢えず、左腕を治す。

 

部屋の引き出しを開けて注射器を取る。

 

注射器の中身は高速修復材。

 

事前に貰っていたものだ。

 

何かあればこれで体を治せる。

 

それを左腕に刺す。

 

左腕は次第に元の方向に曲がる。

 

痛みを伴うがそれをあまり感じない。

 

左腕の感覚が次第に戻ってくる。

 

手を開閉し、感覚を確かめる。

 

しっかりとくっ付いていることを

確認できた。

 

すぐにフードを脱ぎ、ごみ袋に入れる。

 

なるべく細かく千切って入れる。

 

そして服も着替える。

 

洗濯用のかごに入れておく。

 

何か言われても、

「怪我をした」で通せる。

 

落ち着いていると扉がノックされる。

 

すぐに返事をして移動する。

 

先にわざと布団を乱して

飛び起きたように見せる。

 

扉を開けるとそこにいたのは天龍教官。

 

さっきの警備をしていた人だ。

 

わざとらしく何があったのかを聞く。

 

「この前のことで少しな。

でも気にするな。」

 

そう言って天龍教官が頭を撫でる。

 

早く寝ろよと言って他の部屋に行く。

 

それを見届けて部屋に入った。

 

 

 

 

 

口角が上がる。

 

上手くいった!成功したんだ!

 

このことを早くあの人に伝えよう!

 

だが、まだ伝えない方がいいだろう。

 

この前の時もしぶとく

生きていたのだから。

 

だから確認してから行くとしよう。

 

そのためにここまで

仲良く見せていたのだから。

 

ああ、笑いそうになる。

 

口角が上がるのが抑えられない。

 

ふと鏡を見る。

 

そこに映るのは自分の笑顔。

 

あまりの嬉しさに上がっている口角。

 

「ヒヒッ!」

 

ああ、笑い声も出てくる。

 

防音性はそこまでないから

この声を抑えなければ。

 

でも、抑えられない。

 

少しぐらい喜んでもいいだろう。

 

心臓を突き刺し、無事に生還。

 

幾多もの幸運で今ここにいるのだから。

 

そう、私には幸運がある。

 

幸運の女神は私の下にやってくるのだ。

 

そして今日もだ!今日も!

 

「この私に、雪風に!

運は味方してくれている!」

 

大きすぎず、小さくない声で笑う。

 

嬉しい感情を漏らす雪風。

 

外はあの日のように雨が降っている。

 

雪風を祝福しているような雨だ。

 

時々落ちる雷の光が

雪風の顔を窓に写す。

 

幸運の女神とは程遠いゲスな笑み。

 

だが、雪風にとっては素敵なものだ。

 

遂に成功したことに愉悦を感じる。

 

その余韻に浸る。

 

そして高らかに言うのだ。

 

こうやって「次の貴方のセリフは

 

「「幸運の女神とは私のことだ!」よ」

 

雪風は驚いて扉の方を向く。

 

その瞬間に扉が壊れた。

 

そして廊下の光が雪風を照らす。

 

そこに立っていたのは背の高い人物。

 

雪風はもちろん知っている。

 

この作戦で一番の障害となる

当初の予定のターゲット。

 

布仏歌音がそこに立っていたのだ。

 

 




黒いフードは雪風でした。

望まない人も多かったが
現実とは非常なのだよ…。

最期に歌音がやってきました。
一体どうなることやら。

そして、ネ音は無事なのだろうか…。

第2章で同行するメンバー(残りのメンバーは基地でお留守番)最終投票

  • キューちゃんズ(イ級×4)
  • ネ音(ネ級)
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