果たして終わるのだろうか…。
神通に締め落されかけた日の翌日。
私は明石のところに行っていた。
神通のあの首絞めの感覚が
未だに残っているからだ。
入渠したため大丈夫だと思うが、
少し心配なため一応検査をする。
一通りの検査を終えて、
明石から検査結果を聞く。
検査結果は正常。
特に異常はないようだ。
「よくありますよ、治った後に
感覚だけ残る子がいるんですよね。」
明石はそう言った。
曰く、治る過程が凝縮されるから。
時間が止まっている間に何かされると
それが一斉に来るのと同じ、らしい。
数日は幻肢痛のようになるそうだ。
ライブまでには治るとは言っている。
私はこの違和感を持ったまま
音楽室に向かった。
音楽室は静寂に包まれていた。
今日はこの部屋に那珂は来ない。
教官として研修生の相手をする日だ。
だから今日は私の時間になる。
あいつのことは何も考えなくていい。
自分がしたいようにする。
今日はライブで歌うための曲を作る。
昨日のままの机を綺麗にして、
新しい曲を考える。
ひたすら手を動かし、紙に書いていく。
…………あれ?
おかしい、全然書けない。
筆が進まない。
いつものような歌のイメージが
何一つ浮かんでこない。
筆が進まないまま
時間だけが過ぎていく。
このままでは埒が明かない。
少し作曲から離れよう。
昨日の事が
邪魔しているのだろうか?
ああっ、昨日のことを考えると
あいつの顔が浮かんでくる。
気分が悪くなる一方だ。
少し気分転換に歌おう。
この前、棚の中に色々な楽譜を
見つけたからそれを使おう。
確か…、あ、あった。
私が好きな曲がたくさんある。
いろんなジャンルの曲があるし、
知らない曲も多い。
せっかくだから
新しめの曲を聞いてみよう。
番号を押せば曲が聞ける機器がある。
私でも使えるぐらい簡単だ。
番号と確定ボタンを押すだけ。
私はそれを使って早速曲を聞いた。
流れるのは今まで聞いたことのない曲。
面白い言葉の表現やリズムがある。
複数のジャンルが混ざっている
変わった曲もあった。
それに知らないアーティストの名前や
知っている曲のカバーもある。
かなり古い曲や海外の曲を
オマージュした作品も多い。
自分の中に色々な
曲のイメージが沸き始めた。
でも、まだ足りない。
聞くだけでは全然足りない。
次は歌おう。
今日という時間はまだ沢山あるのだ。
満足するまで歌うことにしよう。
自分の好きな曲を
ギターやピアノで演奏しながら歌う。
時間も忘れて私は歌い続けた。
私は休むことなく、
昼も食べないで歌い続けた。
もう空が暗くなり始めていた。
たまに休んで曲を書き出し、
また歌うことを続けた。
喉の違和感は完全に忘れていた。
楽しくて仕方がなかった。
楽しさのあまり
色々な事を忘れていた。
体全身が火照り、それに比例するように
私の感情が高ぶる。
暑さのせいで大粒の汗をかいた。
髪は蒸しているため、
ポニーテールにしている。
服も長袖をまくって半袖にした。
これで少しは涼しくなる。
疲れているからか肩で息をしている。
しかし、凄くスッキリしている。
何もかも忘れて
自分の世界に入っていたから。
嫌なことなんて忘れて
この時間を楽しんだ。
もっと歌いたい、次の曲を歌おう。
そう思った時、
私の身体がストップをかけた。
「ぐ~~~」
……お腹がすいた。
流石にお昼を抜いたのは
良くなかったようだ。
一気に空腹に襲われた。
これはまたネ音に怒られるだろう。
少し早いが食堂に行こう。
その前に散らかした楽譜を片付ける。
棚の中に元の順番で戻す。
多く出し過ぎたため、
片付けるのに少し時間がかかった。
最後の楽譜も棚に収める。
すると別の何かが落ちてきた。
楽譜とは違う、
何かのノートのようだ。
私はそのノートを
手に取って表紙を見る。
そこには「㊙那珂ちゃんノート♡」
と汚い字で書かれていた。
この瞬間、最高な私の気分は
一気に落ちていった。
見たくない名前を見てしまった。
今日は関わらないと思っていたのに。
だが、これは丁度いいのかもしれない。
この㊙ノートにあいつの秘密が
書かれているのなら……。
私はそんな
ノートの中身は楽譜と歌詞だった。
所々汚れて見えない。
何回も試しては消して、
を繰り返した後が残っている。
どのタイミングでポーズを決めるか、
どこにポイントを置くか。
事細かに書かれている。
そんな㊙ノートだが、
私はあることに気づいた。
私はこれに見覚えがある。
ノートを、ではなく
書かれている歌を。
ここにきてから見たものではない。
基地でもその前も違う。
私が前世で見たもの。
この世界にはないと思っていたもの。
間違いない、これは…
那珂のキャラソンだ。
「恋の2-4-11」、「初恋!水雷戦隊」、
「艦隊アイドル改二宣言」。
それの生楽譜である。
ちゃんと完成したものを
綺麗に残している。
ラミネートをして汚れないように
しっかり管理されていた。
そんな完成品の書かれているノートに
一つだけ、未完成の曲を見つけた。
曲名は
「あなたに、みんなに、ありがとう。」
曲名だけは見たことがある。
確か、カラオケのキーワード検索で
「艦これ」に載っていたはずだ。
だけど、歌詞までは知らない。
調べても出てこなかったし、
艦これには関係ないと思っていたから。
そんな曲に私は興味をそそられる。
お腹の減りの事をまた忘れ、
気になったノートの内容を見る。
歌詞は(仮)として書かれていた。
入れたい単語を書き出して
決まったものに〇をつけている。
さらに自分の中での好き嫌いが
事細かに書かれている。
作った歌詞の満足度も、
もっとこうしたいという願望も。
そんな那珂のコメントを見るうちに
ある違和感を覚えた。
その違和感を探すために
何度も書かれている言葉に目を通す。
そしてようやく違和感に気づいた。
この曲は他とは違うのだ。
アイドルとしての那珂の曲じゃない。
那珂という一つの存在の歌。
船としての生を終え、
艦娘としての生が始まる。
その全てと自分を見てくれる
全ての人に対する感謝。
これはそんな曲なのだ。
何故だろう。
この曲を見ていると
なぜかイメージが沸く。
那珂の…那珂ちゃんのイメージが。
私はそのノートを見ながら
別の紙に浮かんだものを書いていく。
那珂ちゃんの気持ちが
分かるような気がする。
筆が動く。
今日の午前中のことが嘘のように。
楽譜も出来上がっていく。
この曲に合う音とリズムが
私の頭の中で浮かび構成されていく。
那珂ちゃんならこうするのでは
と考えながら書いていく。
その作業時間は2時間に及んだ。
ようやく書き終わった。
時間は既に19:00を超えている。
今日はネ音から叱られるだろう。
しかし、今日はいい収穫もあった。
昨日の事についての反省ができた。
私は那珂ちゃんの我が儘だと
きつく言ってしまったがそれは違った。
そもそも書いている曲は
那珂ちゃんのための新曲だ。
歌うのは私ではなく那珂ちゃん。
那珂ちゃんの要望に応えることが
作曲する私の役目だったのだ。
それが作曲している内に
自分のための作曲になっていた。
私は私の要望を通そうとしたのだ。
それ故に那珂ちゃんの要望と
私の要望がぶつかり合う。
どうやっても完成しないわけだ。
この曲を書いてみてよく分かった。
那珂ちゃんのために書いていると
私の要望などこの曲に入れられない。
できるのは那珂ちゃんの要望に
出来る限り近づけること。
後は、これを見た那珂ちゃんが
どう思うか…だ。
さあ、そろそろ食堂へ向かおう。
私は楽譜を整理して立ち上がる。
フラフラと部屋から出ようとして
引き戸のレールに
私はそのまま勢いよく倒れる。
勢いが強すぎて
少し擦りむいただろうか?
腕から血が流れていた。
そこまで大きくはないが
このまま食堂に行くべきではない。
先に医務室に行こう。
そう思って立とうとすると、
眩暈に襲われる。
さらに頭が痛くなる。
上手く立つことができない。
再び体が前のめりに倒れる。
視界も段々と霞んでくる。
食事を抜いた影響だろうか。
あまりの頭痛に意識が飛びそうになる。
怪我をした腕がじわじわと痛くなる。
次第に体が冷たく感じる。
これは…まずい……。
早く助けを…呼ばなくては…。
でも、ここは滅多に人が来ない。
ましてやこの時間には……。
意識がもう飛…ぶ…。
あそこに…誰…か………。
薄れていく意識の中、
遠くに誰かいるように見えた。
私はその人に向かって手を伸ばす。
私はこちらに来るその姿に安心し、
そのまま意識を手放した。
歌音さんは無理をし過ぎます。
必ずネ音ちゃんかお艦に頼んで
傍にいてもらいましょう。
下は書いた作品名で楽曲コードがない曲
「曲名」
(作詞作曲・歌)
「恋の2-4-11」
(Gun-SEKI/おいわ提督様・那珂ちゃん)
「艦隊アイドル改二宣言」
(Gun-SEKI/おいわ提督様・那珂ちゃん)
「あなたに、みんなに、ありがとう。」
(Gun-SEKI/おいわ提督様・℃iel様)
※この曲はYouTubeにないためニコ動で。
「初恋!水雷戦隊」は楽曲コードあり。
第2章で同行するメンバー(残りのメンバーは基地でお留守番)最終投票
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キューちゃんズ(イ級×4)
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ネ音(ネ級)