私は小さな声で歌を歌っている。
少女たちが目覚めるまで歌うつもりだ。
今までは自分の気持ちを歌にしていたが、
今回は若の気持ちを歌にしてみた。
若の帰ることができる喜び。
現実と対面した絶望。
その中に見つけた希望。
そんな若の気落ちを歌にして紡いでいく。
若はその歌を聞いて
何回も涙を流し、相槌を打つ。
ちゃんと若の気持ちを歌えたようだ。
その後も私は若の気持ちを紡ぎ続けた。
しばらく歌い続けていると、
緑髪の女性が目を覚ます。
女性は「寝ちゃってた」と
独り言を言って欠伸をする。
その後、私の方を一度向いて
ベッドの方を向く。
そして私を二度見する。
女性は悲鳴を上げて
少女を守るように後ろに下がる。
まあ、そういう反応になるだろう。
そしてメスのようなものを持って
私の方に向ける。
その手は大きく震えていた。
だが、正直な事を言おう。
震えたいのは私の方だ。
今の私は何も持っていない。
正確には杖を持っているが、
小さなプレハブの中では
振り回すことはできない。
振り回す気もないのだが。
帽子は外に置いているし、
大福たちには周囲の警戒を頼んでいる。
キューちゃんたちにも
ここからでは呼ぶことができない。
それに蜂に刺されたトラウマがあるから
刃物を向けないで欲しい。
そんな私の声を聴いてくれる
頼める子が近くにいない。
いや、唯一頼める子が近くにいた。
「バリチャン、オチツケ。」
そう、先程まで歌を聞いていた若が
彼女を止めてくれた。
「その呼び方、もしかして若?」
「ソウダ、マズハオチツケ。
コイツハ、ミカタダ。」
先程まで泣いていたとは思えない。
そのぐらい若は
彼女の前でしっかりしていた。
情けないところを
見せたくないのだろう。
そんな若が私と女性のことを
お互いに紹介してくれた。
女性の名前は「夕張」。
ここの鎮守府に所属していた艦娘で
艦種は軽巡洋艦。
他の艦娘と共に海に出るだけでなく、
艤装の点検や開発をしているそうだ。
今はメガネをかけているが、
普段は掛けていないのだとか…。
私のことは
「歌で世界を平和にしようとするやつ」
ということを伝えてくれた。
「おかしな奴」と笑いながら言ったので
鳥の餌にでもしてやろうかと思った。
でも、そんな若のおかげで
夕張は私に対する警戒を解いてくれた。
お互いが警戒を解いたところで
若が夕張に何が起きたかを聞く。
「バリチャン、
オレガイナイアイダ二
イッタイ、ナニガアッタンダ?」
その言葉に夕張は顔を下に向けて
悲しげな声で語り始める。
「あれは、若が
行方不明になった日の事よ」
夕張の話を要約するとこうだ。
若が戦場で行方不明となった日、
ここが襲われた。
夕張を含め、この鎮守府総出で
深海棲艦を迎え撃った。
負けるような相手ではなかったが、
あまりの量に少しずつ押されていき
鎮守府近海まで最終防衛ラインを
下げざる負えなくなった。
しかし、敵の量が多く、押され続け、
ついに最終防衛ラインの内側までこられ
提督が指揮を執っている部屋に
砲撃が直撃してしまった。
提督と音信不通になり、
指揮系統が乱れてしまったが、
提督が砲撃を食らう直前に
この鎮守府を捨てる形で逃げるように
指示を出した。
そのおかげで艦娘だけで
指揮を執り、隙を作って撤退。
夕張も逃げようとしたが、
今ベッドに横たわっている子が
工廠内の入渠施設におり、
避難のために運んでいる
最中で工廠が崩壊。
工廠の出入口が封鎖されたため、
同じ鎮守府に所属している
「工作艦・明石」によって作られた
プレハブに避難した。
その後プレハブ内のもので
少女を看病しながら
今まで生活していた。
以上がここで起きたことだ。
私が見たあの崩壊していた部屋は
提督の部屋で間違いないだろう。
話を聞いた若はショックを受けていた。
「ソンナコトガ……」
あまりの出来事に
若は驚きを隠せない。
ショックを受けている若に代わり
私が夕張にこの後どうするのかを聞く。
今までのことが分かっても
これからどうするのかを決めなければ、
彼女たちも私も路頭に迷うことになる。
「提督たちが今どこにいるのかは
分からないの。通信機器は壊れているし
この子の手当てもどうにかしないと。」
そう言って夕張はベッドを見る。
ベッドで横たわる少女を見る。
今は包帯で巻かれた状態に
病院にあるような呼吸器と点滴を
つけられている少女。
私は夕張に少女の名前を聞く。
少女の名は「吹雪」
特型駆逐艦の1番艦だ。
確かお兄ちゃんが初期艦に
選んでいた子だ。
今は吹雪だと分からないぐらいに
包帯で巻かれている。
どうやらこのプレハブには
お風呂はあっても
入渠施設の効果はないらしい。
そのせいで吹雪を直せない状態が
続いているそうだ。
瓦礫のせいで外に出られなかったことも
原因の一つだそうだ。
夕張が言うには
必要なものがあるそうだが、
何となく察しがついた。
だから私は一度プレハブを出て
帽子をもって部屋に入る。
横では引っかかるため縦にして入る。
そして帽子を床に置き、
口を開いて中に手を入れる。
そしてその中から
緑の液体が入ったバケツを取り出す。
そう、高速修復材である。
私は直ぐにそれを夕張に渡した。
夕張は涙を流しながら
「ありがとう!」
と言ってお風呂場に持っていく。
私は夕張の支持を仰ぎ、
吹雪の入渠を手伝う。
包帯を取ったときに見えた
吹雪の体にある大きな傷。
仲間を庇って被弾したらしい。
その傷は高速修復材によって
みるみる消えていった。
しかし、ダメージが大きかったところは
跡が残ってしまっていた。
しばらくすると吹雪が目を開く。
「あれ…?私………。」
吹雪が目を覚ますと
夕張は勢いよく吹雪を抱きしめる。
「吹雪ちゃん!」
吹雪は痛がりながらも
夕張を抱きしめ返す。
そして私の方を見た。
「どうして空母ヲ級が?」
吹雪も同じようなリアクションをする。
夕張よりは落ち着いていたため、
若たちの説明ですぐに納得し、
吹雪は私に向かって一礼する。
私は気にするなと手を振り、
若をつまんでプレハブの外に出る。
気分転換と称して若を連れ出した。
本当はせっかくの目覚めなのだから、
2人きりの方がいいと思ったため、
私は席を外した。
若を連れてきたのは、
いつまでも裸の女の子を
見せるわけにはいかないから。
それに丁度大福たちも帰ってきた。
どうやら周囲に敵影はなく、
異常もないらしい。
その報告を受けて私は
大福たちを帽子に戻した後、
キューちゃんたちの元へと行った。
キューちゃんたちは指示した場所で
ちゃんと待機していた。
私が近づくとすぐに反応した。
私はしゃがむことで
できるだけ目線を合わせる。
そしてキューちゃんたちには
艦娘が二人いることと
攻撃してはいけないことを伝える。
その指示に全員が体を振って答えた。
全員そろって本当にいい子たちだ。
私はその姿に微笑んだ後、
キューちゃんたちに再び
待機することを伝えて
プレハブに戻った。
せっかくなので
キューちゃんたちに聞こえるように
歌いながらプレハブに戻る。
今回は彼女たち2人の歌を歌った。
しばらく続いた生活。
目覚めない少女。
疲れから眠った自分。
目を覚ましたら現れた脅威。
不安と恐怖、守ろうとする意志。
不思議な再会による安堵。
求めていた希望。
暗闇からの目覚め。
驚きと再会の安堵。
今の幸せの時間。
次々頭に浮かぶ歌詞を紡ぎながら、
私はプレハブへと戻った。
プレハブに戻ると吹雪は
見たことのある制服姿になっており、
夕張がいろいろ言いながら
機械を弄っているところを見ていた。
話を聞くと夕張が仲間への連絡を
行っているのだが、機械の故障だろうか、
一向に繋がる気配がしない。
今も弄っているのだが
必要な部品が足りないらしく、
どうしようもないようだ。
夕張は落ち込みながら
こちらを向いてつぶやく。
「必要な部品が無いので
直接本土に戻るしかなさそうですね。
探そうにも現状での入手方法が
限られていますから。」
夕張はこのプレハブの作成者である
明石との連絡がつかないため、
直接日本に戻るしかないと言う。
どうやら必要な部品は現状、
入手が難しいらしい。
しかし、直接戻れば
私は直ぐに狙われるだろう。
事前に連絡すれば
何とかなるとは思うが…。
私は夕張に
何が必要なのかを聞いてみた。
「必要な部品ですか?
前に提督が持っていた。
「スマホ」と呼ばれている
連絡機器があったら解決しますね。」
ん?スマホ…?
「私たちは持っていないので、
運よく司令官が使っていた物が
鎮守府に落ちていたらいいのですが。
あればいいんですけど、
さすがに持っていませんよね。」
ある。今持っているやつがある。
あの船から使えると思って
取っておいたスマホが。
私は帽子に手を突っ込み、
スマホを取って夕張に渡す。
夕張は身を乗り出してスマホを見る。
「あ!それです!
いったいこれをどこで⁈」
私はここに来るまでの経緯、
若と会う前のことを話した。
立ち寄った島に日本の船が座礁しており、
その中の物を物色した際に出てきた、と。
夕張は少し悩んで決心する。
「人の物を使うのは気が引けますが、
生きるためです。このスマホの持ち主に
感謝して使わせてもらいましょう。」
夕張はそう言って
机に向かい作業を再開する。
私たちには「先に寝てていい」と言って
若と共に作業に集中し始めた。
私は外で寝ようとしたが、
吹雪に力強くマントを掴まれた。
捨て猫の様な目で私を見るので
何となく察する。
おそらくは「一緒に寝てほしい」
ということなのだろう。
私は仕方ないと思い、大福たちに
キューちゃんたちへ
このことを伝えるように頼む。
ついでに夜間の警戒も頼み、
帽子を脱いで吹雪と一緒に
ベッドの上で横になる。
そのまま吹雪の頭を撫でながら
吹雪に聞こえる声で子守歌を歌う。
この感覚は誰かの家に
泊まった時を思い出す。
昔もこんな感じで誰かと一緒に寝て、
子守歌を歌ったことがある。
その時は相手がすぐに寝てしまった。
吹雪もそんな子たちと同じだった。
強くマントを握っていた手は
すでに離れており、
心地よさそうに笑顔で寝ていた。
私はその寝顔を見て微笑んだ後、
ゆっくり目を閉じて眠りにつく。
私が今やるべきことはほとんどやった。
後は夕張の成果を聞いて人間と
接触できれば新たなステップへ進める。
そのような希望を持って、
私は夢の中に堕ちていく。
深海棲艦の体について
深海棲艦の体は
艦娘とほとんど同じ。
アニメで吹雪が
ボロボロになっていたから
怪我はするはず。
(回想シーンで
血を流していたし)
つまり、
毒を受け付けないという
可能性は無きにしも非ず。