私の想いを歌にのせて平和を願う   作:猫神瀬笈

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第12話 悪を裁く騎士の名

 

この暗い世界では

私の意識ははっきりするのだろう。

 

さっき疲労で疲れたはずなのに、

それが嘘のようにここでは体が動く。

 

そして、いつも以上に感じてしまう。

 

疲れを、痛みを、恐怖を…。

 

だから体が震えあがるのだ。

 

目の前の「あれ」を見ると。

 

いつもと変わらない姿。

 

それなのに恐怖は(ぬぐ)えない。

 

和らいだはずの恐怖は

未だに私にこびりつく。

 

今日はどんなことをされるのだろう。

 

(えぐ)られ、貫かれ、食べられた。

 

これ以上どうなるのか。

 

そう思ってみていると、

 

私の身体は右膝をつく。

 

いや、正しくは右膝で立つ、だ。

 

膝より先が消えた。

 

そのままドバドバと大量の血を流す。

 

次に左腕に衝撃が走る。

 

見ると左腕が消えていた。

 

次に左目、右腕の関節、抉られる横腹。

 

その痛みは一瞬で体を襲う。

 

「あれ」に対する恐怖と共に

身体全身が悲鳴を上げる。

 

だが、いつもとは違った。

 

いつもなら、このあたりで目を覚ます。

 

だが、いつになっても目が覚めない。

 

いつも以上に「あれ」に

痛めつけられているはずなのに。

 

ふと「あれ」の顔を見ると

笑みを浮かべていた。

 

飲み込まれそうなほど狂った笑顔。

 

ハッキリと見えないはずの顔なのに

私は笑っていると分かった。

 

そんな「あれ」は私に近づくと

私の身体をだるまに変えた。

 

そして私を踏みつけて笑う。

 

抵抗できないようにして

私をさらに痛めつけるのだろう。

 

そう思っていると「あれ」は

指を揃えて私に向ける。

 

恐らく、手刀をするのだろう。

 

私はそう思いながら目を閉じる。

 

最後の痛みと共に

またいつも通り目覚めると思って。

 

しかし、いつまで待っても

痛みは来なかった。

 

恐る恐る目を開けると、

そこには見覚えのあるものがあった。

 

白いうねうねしたもの、そして…

 

「こんなところだからと言って

好き勝手するのは感心しませんね。」

 

つい最近聞いたばかりの声だった。

 

「歌音様、お待たせしました。

()()()についてはお任せください。」

 

この空間に彼が来てくれた。

 

彼は触手で「あれ」を縛ると

そのまま締め上げていく。

 

「あれ」は悲鳴を上げながら、

黒い(もや)を体から放つ。

 

しかし、彼は締め付けるのを止めない。

 

そのまま数十秒ほど経つと

「あれ」は動きを止めた。

 

そして黒い靄と共に

塵のように分散した。

 

私はその様子をただ見ていた。

 

すると彼は「失礼します」と言って、

私を触手で掴み、抱き上げる。

 

今日と同じように優しく、

お姫様抱っこのように。

 

「ありがとう…助けてくれて…。

でも、どうやって…ここに?」

 

そう、ここはよく分かっていない場所。

 

加賀と話す場所とはどこか違う場所。

 

その場所に彼はどうやって入ったのか。

 

彼はその事について話してくれた。

 

ここは私の精神世界と

夢の中が混ざったところ。

 

加賀たちが干渉できないようにされた

いつもと違ういつもの場所だという。

 

次にそんな空間に

彼が干渉できた理由を聞いた。

 

彼が明石に話していたヲ級とヌ級の話。

 

その時は話していなかったが、

ヌ級はヲ級に干渉できるらしい。

 

ヲ級が艦娘から逃げたり寝返ったり

しないようにされているそうだ。

 

彼はその力の応用で此処に居るらしい。

 

そして「あれ」について聞いた。

 

「あれ」は赤城さんの怨念らしい。

 

赤城さんはあの時すでに

轟沈一歩手前の状態だったそうだ。

 

もう少し遅ければ

深海化していたという。

 

「あれ」はその時に生まれたそうだ。

 

つまり、深海化した赤城さんの

身体を操る存在だったのだ。

 

しかし、そうなる前に入渠したため

「あれ」の存在は消滅する。

 

そのため、深海棲艦の私に憑りつき

この体を乗っ取ろうとしたらしい。

 

だが、彼が来てくれたことで

そうなることは無くなった。

 

もう心配する必要は無いだろう。

 

そう思っていると周りに

光が差し込みだした。

 

真っ黒な世界が晴れていき、

辺り一面が綺麗な空色になる。

 

「ブジ、ミタイダナ。」

 

そして、しばらく聞いていなかった

懐かしい声が聞こえた。

 

彼がその声の方に向き、

私は声の主を見る。

 

そこにはエラー娘と猫、加賀がいた。

 

どうやら「あれ」が消えて

元の精神世界になったようだ。

 

久しぶりに見た2人の顔。

 

とても落ち着くが、2人の顔を

じっくり見ることは敵わないようだ。

 

「歌音様!体が…!」

 

どうやら、もう戻る時間のようだ。

 

体が光り始めたのだ。

 

せっかく2人に会えたのに。

 

そんな私に加賀が近づいてきた。

 

「赤城さんの事、頼むわよ。」

 

加賀に笑顔でお願いされた。

 

私はそれに対して頷いた。

 

そうすると目の前が

全部真っ白になった。

 

 

 

 

 

カチ、カチ、カチ………。

 

そんな音で目が覚める。

 

ゆっくりと目を開けると

目の前には彼の顔があった。

 

「おはようございます、歌音様。」

 

優しい笑顔でそう言うと

身体を起こしてくれた。

 

時計を見ると短針は11を指していた。

 

「………、今何時?」

 

「朝の11時です。

ほぼ丸一日のおやすみでしたよ。」

 

………つまり?

 

「赤城様のお目覚めまで

3日半と言ったところですね」

 

………とりあえず執務室に行こう。

 

しっかりと寝たおかげで

昨日より身体が軽い。

 

彼の支えが無くてもしっかりと

立って歩いて執務室に向かう。

 

執務室に向かうと

扉の前に人影があった。

 

「あ!歌音さん!

おはようございます!」

 

そこにいたのは雪風。

 

元気いっぱいな笑顔で

私に抱き着いてきた。

 

とても元気な雪風の声。

 

その声に気づいたのか

執務室から猫さんが出てきた。

 

猫さんにこれまでのことを話して、

猫さんから寝ている間のことを聞く。

 

私が寝ている間、朝潮は再び営倉に。

 

昨日、彼女が脱走したのは

営倉の造りの悪さと老朽化(ろうきゅうか)

 

頑張れば脱走できるようになっており、

鉄格子自体もかなり脆かったそうだ。

 

そのため明石が

すぐに頑丈な鉄格子を作成。

 

今は秋雲と神通の2人が

しっかり監視しているそうだ。

 

第六駆逐隊は周りの艦娘が

支えてくれているらしい。

 

今はみんなのおかげで

何とか仕事をしているそうだ。

 

みんなは少しずつ

感覚を取り戻しているらしい。

 

今は呉鎮守府の睦月たちが

しっかり指導しているそうだ。

 

一通り話を聞くと彼が口を開く。

 

「失念しておりました。

私からの報告がまだでしたね。」

 

そう言って彼からの話も聞いた。

 

今回の事で私と彼を信じると言うのが

朝潮を除く此処の艦娘の総意となった。

 

私達が此処に居ることを

認めてくれたらしい。

 

しかし、1つ条件があるそうで…。

 

「私に名前をいただきたいのです。」

 

その条件とは彼の名前。

 

妖精さんやヌ級ではなく

名前で呼びたいという艦娘の要望。

 

また、彼自身も私から名前が欲しい

という願いがあった。

 

確かにキューちゃんやネ音、大福に

名前を付けている。

 

それなら彼にもいるだろう。

 

その方が呼びやすいし、

覚えてもらえるだろう。

 

そう思い、彼の名前を考える。

 

元は妖精だが、姿はヌ級。

 

付けるとしたら「ぬ」から

始まる名前を付けたい。

 

何かいい名前はあるだろうか?

 

ぬめぬめ、ヌメラ、ヌメロン…

 

流石にダメな気がするから却下。

 

ヌードル、ヌードリア、ヌシ…

 

なんか違う、というか

これじゃ犬になるから却下。

 

中々思いつかない。

 

「ぬ」から始まる言葉自体

中々身近に無いから尚更…

 

しかし、どうしよう。

 

特徴から何かいいのないかな…。

 

触手、片ゴーグル、白髪、赤目、

干渉、精神世界…ん?精神?

 

あれ、なにか思い出せそう。

 

何だっけ?何か本を見てたときに

ぬから始まる言葉があったはず。

 

思い出せ私、思い出すんだ。

 

精神とか心とかの意の事を確か…

 

「ヌー…ス。そう、『ヌ―ス』だ。」

 

思い出した。

 

確かギリシャの哲学にあった言葉。

 

精神に干渉できる彼には

合っているだろう。

 

「今日からあなたは『ヌ―ス』よ。

よろしくね、ヌ―ス。」

 

「…!素晴らしい名前をくださり、

誠にありがとうございます!」

 

そう言って彼は膝をつき、

左手を胸に置いて頭を下げる。

 

まるで騎士が忠誠を誓うように。

 

それを称えるかのように

窓から光が差し込んだ。

 

今「ヌ―ス」という私の騎士が

ここに誕生したのだった。

 




「あれ」の正体が判明。そして、
彼の名前は「ヌ―ス」になりました。

作中に歌音が言っていますが
ヌ―スと言う言葉について。

知性、理性、精神、魂などを
意味するギリシャ語。

詳しくは↓の引用元のwikiを
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8C%E3%83%BC%E3%82%B9

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