私の想いを歌にのせて平和を願う   作:猫神瀬笈

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第17話 『おかえり』と『ただいま』を

 

 

『さすがですね、赤城さん。

私も、研鑽を積まなければ…。』

 

『私は沈みませんよ…。

鎧袖一触です、心配いらないわ。』

 

『ごめんなさい…、

私は…先に……。』

 

——聞こえてくる誰かの声

 

誰かの記憶だろうか?

 

顔は分からない

 

でも、聞き覚えがある

 

姿にも、見覚えがある

 

どうしてだろう、

悲しくなる…。

 

この感情は、一体…?

 

分からない…真っ白…

思い…出せない…。

 

『よお。』

 

声がした…。

 

小さい…子供?猫?

 

『ああ、気にするな。

私がお前を知っているだけだ。』

 

何で知っているの…?

 

『それを知る必要はない。

ここで話したことは忘れるからな。』

 

…………

 

『ここでの記憶は朧げになる。

微かに残っているくらいだ。』

 

……私は…

 

『それも気にするな。

この会話が終われば、目が覚める。

私と会うことはもうないだろう。』

 

その発言の後、周りが輝きだした。

 

『目覚めの時間だ、イレギュラー。

GOOD LUCK。』

 

世界が白く染まる。

 

私はどうなるのだろうか……。

 

分からない……

 

でも、さっきの言葉は、

何故か、暖かく感じた。

 

 

 

 

 

——暗い、苦しい…

 

息が、できない……

 

どうして……?

 

私は、目を開ける。

 

映るのは、差し込む光と泡…。

 

……泡?泡⁈

 

私は驚いて、口から泡を出した。

 

苦しくて、もがきながら

光に向かって一気に体を運ぶ。

 

「プハッ!はぁっ…!はぁっ…。」

 

大きな音を立てて、這い出る。

 

水、暖かいからお湯だろうか?

 

薬のような変な味のするお湯を

飲み込んだため、何度も咳き込んだ。

 

呼吸を整えながら、周りを見て、

ここがどこなのかを確認する。

 

見覚えのある壁、設備、

そして緑の液体。

 

「ここは……浴、場?」

 

間違いない、

佐世保鎮守府の浴場だ。

 

しかも、壁が後ろにあり、

風呂の淵には黒い汚れがついている。

 

これは何度掃除しても落ちなかった

赤城さんを治したところだ。

 

なんでこんなところにいるのだろうか。

 

そう思っていると、声が聞こえてきた。

 

『——なのです!本当なのです!

お風呂に誰かいるのです!!』

 

分かり易い語尾、電の声だ。

 

『こんな時間にいないと思うけど…

まあ、仕事だから確認はするわよ。』

 

この声は…確か、伊勢?

 

鎮守府の警備をしていたのだろう。

 

扉が開き、まぶしい光が私を照らす。

 

「誰!こんな暗いところにいるのは!」

 

伊勢がそう叫び、私を照らす。

 

普通に明るいと思うのだが…。

 

あ、私が夜目なのを忘れていた。

 

最近使ってなかったから忘れていた。

 

「誰かいるのです、誰なのです⁈」

 

怯えた声でそう言う電。

 

だが、私からはその姿が見えない。

 

とりあえず、明かりを消してほしい。

 

そう思っていると、

しばらくして浴室の電気がついた。

 

そして再び、目が痛くなった。

 

私は何度も目を擦り、

視界が元に戻るのを待つ。

 

数十秒ほどで視力が回復したため、

改めて電たちの方を見る。

 

「あなた、一体どうやって入ったの?

ここは関係者以外立ち入り禁止よ。」

 

伊勢にそう言われる私。

 

少なくとも、

伊勢たちは私の姿を知っている。

 

ここに来たら、

最初に説明しているからだ。

 

「初めて見る方なのです。

でも、髪型は加賀さんとなのです。」

 

そう言われた私は、

すぐに近くの鏡を見た。

 

そこに映っていたのは

黒髪のサイドテールの少女。

 

間違いない。

 

これは前世の、

加賀と話したときの姿だ。

 

肌の色は少し白っぽいが、

それ以外は完全に私の姿。

 

あの時にしてもらった

加賀の髪型でリボンも加賀の物。

 

それに、加賀の言葉を思い出した。

 

私が生き残ることは決定事項。

 

消えるのは加賀だけ。

 

加賀が私についた嘘。

 

とても悲しく、辛いけど、

私のためについた嘘。

 

だから泣くのは我慢する。

 

加賀は私の中にいるから。

 

あの時の事を思い出していると、

肩を掴まれた。

 

隣には伊勢が立っていた。

 

身長も元に戻ったせいで

伊勢がとても大きく感じた。

 

少し体が後ろに引いた。

 

「貴方が何者かは知らないけど、

着いてきてもらうわよ。」

 

そういい、私をタオルで包むと

俵のように担がれ、連行された。

 

 

 

 

 

連行されて、しばらく経つと

伊勢の動きが止まった。

 

どうやら目的地に着いたようだ。

 

「ん?伊勢さん、それなんですか?」

 

この声は、木曾?だろうか。

 

ということは、私は憲兵のところに

連れていかれたようだ。

 

「不法侵入者よ。今日は遅いから、

営倉にでも入れておくわ。」

 

私は、建物の中に連れていかれた。

 

後ろが見えるように運ばれているので

木曾と何人かに見られながら運ばれる。

 

どこかの階段を下りていき、

地下と思われる場所へ。

 

そこは鉄格子がいくつもあり、」

 

私はその一番手前に入れられた。

 

手は拘束されて、何もできない。

 

体はタオル一枚だったが、

流石に布団を貰えた。

 

朝には服を貰えるらしい。

 

「明日、じっくりお話しするから、

それまで覚悟をしておきなさい。」

 

伊勢は去っていった。

 

私はそれを見送った後、

できることをした。

 

だが、体は思うように動かず、

声は喉に何かが引っかかって出ない。

 

何度も何度も繰り返したが、

結局、上手くは行かなかった。

 

しばらくして眠気が増し、

私は目を閉じた。

 

そして、気が付くと

目の前に伊勢がいた。

 

拘束を解かれ、服を着せられた私は

再び俵のように運ばれた。

 

向かう先は食堂。

 

料理にでも使われるのだろうか。

 

そんなバカなことを考えていると、

食堂の端っこに連れていかれた。

 

艦娘たちは気になって

こっちを見ている。

 

しばらく待っていると、

霧島がやってきた。

 

「さあ、お話をしましょうか?

可愛い侵入者さん。」

 

その後ろには、

猫さんと長門、飛龍がいる。

 

完全な警戒態勢。

 

とりあえず、自分の事を話そうと

思ったのだが、

 

「……ぅぅ、ぅぁぅ…ぅぅ。」

 

やはり声が出なかった。

 

どう頑張っても、声が出ない。

 

発声練習の時のように

声を出そうとしても出なかった。

 

筆談も試みたのだが、昨日のように

指先に力が入らなかった。

 

今までできていたことができず、

途方に暮れる私。

 

周りもどうしようかと悩んでいる。

 

何かいい方法はないのか。

 

そう悩んでいるとき、

誰かが食堂に入ってきた。

 

「どうしました、皆様?

お集まりになって何を……。」

 

やってきたのは、ヌ―ス。

 

赤城さんを連れて

食堂にやってきたのだ。

 

ヌ―スは私を見ると目を見開いた。

 

すると、赤城さんに何か言って、

私の前にやってくる。

 

一言、「失礼します。」と言って

私の体に触手を伸ばす。

 

そして、私の口に…

触手を突っ込んだ。

 

ヌメヌメしたものが

私の口を通り、喉をかき回す。

 

周りからは「うわぁ」と言う声。

 

何度も嗚咽しそうになる。

 

食事の場ですることじゃない。

 

でも、力が入らないため、

抵抗することもできない。

 

しばらくの間、触手は私の喉を

かき回し、ようやく口から抜けた。

 

数十秒ほどだったが、

何十分にも感じた。

 

とても苦しかったのと

不快感から、私は怒った。

 

「ゴホッ、いきなり何するの!

……って声が出せる!」

 

私は、声が出せることに驚いた。

 

さっきまでの突っかかりが

嘘のように無くなり、清々しく感じる。

 

「喉の奥が少し変わった形でして

私の触手で直しておきました。」

 

そう言い、手の触手を私の髪、

正確には髪飾りに伸ばした。

 

「貴方に触れて気づきました。

まさかとは思いましたが、

髪留めに微かに残った感覚、

これは加賀様の物ですね。」

 

髪留めに触れてそう言うと、

触手を私の手、顔に伸ばしてくる。

 

「そして、貴方から感じるこの感覚。

たった1日の間でしたが、

とても懐かしく感じます。」

 

ヌ―スは片膝をつき、

私の手を取った。

 

お姫様の手を取る王子のように。

 

「お待ちしておりました。

おかえりなさいませ、歌音様。」

 

その言葉に、周りがざわついた。

 

「歌音さん?」「歌音なの、本当に?」

 

中には私の名前を呼ぶ声が聞こえる。

 

猫さんからは

「おかえり」と言われた。

 

猫さんはヌ―スの言葉を

信じたのだろう。

 

それにつられてか、みんなも

私に「おかえり」と言ってくれた。

 

何人かは泣きながら私に抱き着いた。

 

この前の赤城さんと同じ状況だ。

 

特に秋雲は大泣きして抱きついてきた。

 

寝ている間の事だったから、

感情が整理できなかったんだろう。

 

何度も、何度も、

私に「おかえり」と言ってくれた。

 

おかえり、おかえりなさい。

 

この言葉の温かさを

私はよく知っている。

 

私は言う側だったため、

久しぶりに、この言葉を受け取った。

 

私を受け入れてくれる場所で

送られる温かい言葉。

 

だから、この言葉を返す。

 

「ただいま。ヌ―ス、みんな…!」

 

私もつられて、涙を流す。

 

そして、秋雲の頭を撫でながら、

泣きながら歌った。

 




歌音の体は元(前世)の体に戻りました。
詳しくはまた次回に。

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