私の想いを歌にのせて平和を願う   作:猫神瀬笈

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第19話 問題児

 

「なんですって!」

 

潮奈の発言に怒りを表す朝潮。

 

「だってそうでしょう?

貴方は提督の指示を、

疑いもせずに従ってきた。

提督の命令のためなら

どんな命令であろうと。」

 

潮奈は淡々と語っていく。

 

それは朝潮の今までの行為。

 

私の知っていることもあれば、

全く聞いたことのない話まで。

 

「でも、なにも守れていない。

仲間も、居場所も、命令も、

従っていた提督も捕まって、

何一つ守れずに営倉送り。」

 

「黙れ!」

 

「まあ、怒るのも無理ないわよね。

貴方は、全てから目を背けて、

責任から逃げだしたのだから。」

 

逃げ出した。

 

その言葉を聞いた朝潮は、

さらに暴れる。

 

今すぐに殺してやる。

そう感じる殺気を。

 

何度も唸りながら、

ヌ―スの拘束を解こうとする。

 

だが、潮奈は口を閉じない。

 

ずっと朝潮を侮辱する。

 

「吠えたところで何ができるの?

自分だけ生き残って、恥ずかしいわね。

朝潮型の恥さらし、役立たず。

便所のネズミの方が、まだマシね。」

 

「っ!うるさい!黙れぇぇぇぇ!」

 

朝潮は吠えた。

 

顔を真っ赤にして、体を震わせる。

 

そして、強引にヌ―スの拘束を解いた。

 

いや、ヌ―スが拘束を解いた。

 

意図は分からないが、

何かしらの理由はあるのだろう。

 

朝潮は、潮奈に向かって走る。

 

潮奈は動かない。

 

憲兵たちは急いで

取り押さえるために走る。

 

だが、どの憲兵も遠い位置にいる。

 

私も今の位置からでは割り込めない。

 

恐怖のせいで体が動かないのもある。

 

その間にも朝潮は距離を詰める。

 

既に殴り掛かるモーションに入った。

 

右手に力を込めて殴り掛かる。

 

その時、潮奈が動いた。

 

持っていた艤装を上に投げ、

殴りかかってくる朝潮の右手を掴み、

胸元を右手で掴んで、足を払う。

 

そのまま、朝潮を地面に叩きつけた。

 

「がはっ!」

 

「結局、何もできない。

それが今のあなた。」

 

朝潮を見ながら潮奈はそう言い、

投げた艤装を左手で掴む。

 

それを朝潮に向けた。

 

「そして、これでさようなら。」

 

潮奈は、朝潮に向けて砲撃をした。

 

カチッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………沈黙が続いた。

 

この場には風の音と、

全員の呼吸音だけが聞こえる。

 

砲は朝潮の顔を向いたまま沈黙し、

潮奈もそのまま止まった。

 

朝潮は体を震わせながら、

荒い息をしている。

 

全員が息を呑んでいる状態。

 

その沈黙を破ったのは潮奈だった。

 

「あ~あ、弾切れか。」

 

そう言って、朝潮を離すと、

立ち上がって砲を捨てた。

 

「まあ、貴方を殺したところで

私に得なんてないから、

やる意味なかったけどね。」

 

潮奈は、笑いながら言った。

 

その笑いに、

全員が口を開けて固まった。

 

それは朝潮も例外ではない。

 

一体何のために

こんなことをしたのだろう。

 

朝潮を挑発し、拘束し、

砲撃までしようとした。

 

この一連の行動に、

私は疑問しか浮かばなかった。

 

「まったく。お前にはやり過ぎるなと

散々忠告しただろ、潮奈。」

 

唖然としていたところに

猫さんが出てきた。

 

どうやら2人は面識があるそうだ。

 

「あ、お久しぶりです師匠!」

 

『師匠⁈』

 

「こいつが勝手に呼んでいるだけだ。

弟子にした覚えはないぞ、問題児。」

 

どうやら2人は

師弟関係だったようだ。

 

潮奈からの一方的なものだが。

 

話を聞く感じ、

長い付き合いなのだろうか。

 

気になって聞いてみた。

 

「俺が大本営に行ってた時に

ちょっと世話した奴だよ。

こいつのせいで何人も鬱になって

俺が駆り出されたんだからな。」

 

どうやら色々とあったようだ。

 

鬱になると言うのは

何となく分かったような気がする。

 

鬱というか、トラウマになる。

 

相手に対して容赦のない発言と

組み伏せるだけの実力。

 

そんな潮奈に対して駆逐達が

疑問に思ったことを聞く。

 

「ねえ、潮奈さん。

なんで艤装を使えるの?」

 

「ん?私が艤装を使える理由?」

 

「うん、だって艤装は

艦娘にしか使えないんでしょ?

なんで潮奈さんは使えるの?」

 

この言葉でみんなの注目が

潮奈に集まった。

 

此処に居る大半が気になっていたこと。

 

潮奈は、『ん~』と悩みながら

猫さんの方を向いた。

 

自分のことを話していいか、

許可を求めているのだろう。

 

猫さんも悩んだがすぐに答えを出した。

 

「別にいいんじゃないかな。

ここのみんなには教えても。」

 

「…そうですね。この事実は

ここの人たちには良いでしょうから。」

 

そう言うと、一呼吸おいて

自分の正体を明かした。

 

「私は大本営から『朝一潮奈』

と言う名を貰った元艦娘。

本当の名前は朝潮型1番艦、朝潮です。

艤装が使えるのはそう言うことですよ。」

 

潮奈は朝潮型のネームシップ、朝潮。

 

『朝』一『潮』奈。

 

最初から分かることだった。

 

名前に朝潮が使われているのだから。

 

自分の名前を明かし、朝潮に近づく。

 

「艦娘として戦えない相手に

戦いで負けた気分はどうかしら?」

 

「…………」

 

「私は大規模作戦中に妹を庇って、

轟沈寸前の重傷を負った。

その結果、私は浮上用の艤装を

使うことができなくなったわ。

艦娘として戦えないから

本当なら海に出て戦いたいけど、

それができないから別の形で

戦場に出る方法を探した。

そして此処に来た。

守るべきものを守るためにね。

此処に居る人たちも同じよ。

自分で戦う道を探して、ここに来た。

どのような形であれ、

戦っているというのは同じなの。

だから考え方を変えてみなさい。

貴方を縛っているその命令に

従う必要は、もうないのだから。」

 

朝潮はそれをただ聞くだけだった。

 

艦娘として戦えなくなった

彼女たちの別の形での戦い方。

 

戦わない者の始末。

 

それがこの鎮守府の呪い、

前提督が残したとんでもない置き土産。

 

その命令に忠実に従っていた朝潮。

 

しかし、その命令もこの発言により

適用されることがなくなった。

 

もう朝潮は、

みんなを襲うことは無いだろう。

 

…そう思っていたのだが、

事はそう簡単には終わらなかった。

 

「……ない」

 

「ん?」

 

「認めない!そんなもので

戦っているなんて!認めるものか!」

 

これだけ言われても、

朝潮は認めようとはしなかった。

 

「艦娘は船であり、兵器!

海に出られないやつは、認めない!」

 

再び殴りにかかる朝潮。

 

次の瞬間、朝潮の体が宙に浮いた。

 

攻撃を仕掛けたはずの朝潮が。

 

その顔には殴られた跡が付いていた。

 

「…久しぶりにキレちまったよ。

我が儘の多いクソガキが。」

 

殴ったのは、秋雲だった。

 

だが、いつもの秋雲ではなかった。

 

口調も態度も、朝潮を見ている眼も。

 

性格が別人のようになった。

 

秋雲はポケットから煙草と

ライターを出して火をつけて吸った。

 

「フーッ。たく、認めないだぁ?

指示に従うだけの木偶人形が、

グダグダ言ってんじゃねぇよ。」

 

タバコを吸いながら朝潮に近づいた秋雲は、

馬乗りになり、左腕を掴んで関節を外した。

 

「ああああああああ!」

 

「この程度で叫ぶんじゃあない。

ほら、次は右だ。」

 

そう言って右腕の関節も外そうとする。

 

見ていられなくなった私は、

秋雲の右腕を掴み、体に腕を回し、

抱きしめるようにして止めた。

 

「離せよ、歌音。」

 

「嫌だ!もういいよ!

それ以上する必要ないでしょ!

お願いだから、もう止めて!」

 

「これは必要なことだ。

こいつをずっと監視していたが

一切反省の色を見せていない。

ここで許せば必ず繰り返す。

だから体で教えなきゃいけない。

何よりも、此処に居る奴らを、

戦っている艦娘たちを、

私とあいつの想いを貶す、

こいつの発言は許せねぇ!」

 

秋雲の力が次第に強くなる。

 

それに対し、私も力強く抱きしめて

腕を掴むが、意味をなさない。

 

次第に拘束が解けていく。

 

秋雲を止めることはできない。

 

そう思っていると、私の拘束する腕に

何かが重なる感覚があった。

 

それは秋雲を私ごと抱き、腕を掴んだ。

 

前からはヌ―スが、後ろからは潮奈が

秋雲を拘束していた。

 

 

 

 

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