数話続きます
あれから時間は過ぎ、夕暮れ。
橙色の光が窓から部屋を照らす。
静かな時間は過ぎ、
駆逐達の声が聞こえてくる。
訓練が終わったのだろう。
「……ン…ぁれ、…ここは……。」
どうやら秋雲が目覚めたようだ。
頭を押さえながら上半身を上げている。
何があったか思い出しているようだった。
「秋雲……おはよう。」
私は口からそんな言葉をこぼした。
秋雲も少しして
「おはよう」と返してくれた。
「そうか……また、やっちゃったか。
2人とも、ごめんね…。」
「気になさらず。秋雲殿は
過去に何かあったのでしょう。」
「……私が、まだ艦娘だった時、
もう何年も前の話だよ。」
そう言って秋雲は語ってくれた。
彼女の艦娘時代の話を。
秋雲は大本営から少し離れた位置にある
普通の鎮守府に所属していた。
成績は良く、鎮守府での実力は
上から数えた方が早いほど。
そして、絵の才能もあった。
それは他の秋雲と違う点でもある。
彼女は深海棲艦を描くのが上手かった。
他の秋雲より的確に、繊細に描き、
気になった点も全て描き出す。
大本営からは感謝されていた。
しかし、彼女はそれが嫌だった。
彼女にとっての生き甲斐は
絵を描く事よりも戦う事。
描くのは頭の中と
大本営に頼まれた時だけ。
それが彼女の理想だった。
それ故に、戦闘においては厳しく、
他の艦娘に好かれなかった。
孤独という言葉が
彼女にふさわしかった。
そんな生活を続けていた彼女に
ある転機が訪れた。
それは鎮守府同士の演習。
お互いの実力を知るために
彼女の提督が提案したのだ。
戦うことを望んでいた秋雲は
進んで参加した。
その演習で彼女は敗北した。
実力のある彼女が手も足も出なかった。
屈辱的な圧倒的敗北だった。
その相手は秋雲。
鎮守府の中ではそこまで強くない。
戦いよりも絵を描きたいという
彼女と正反対の秋雲だった。
だからこそ、彼女は屈辱を味わった。
戦いに身を投じてきた自分が
手も足も出なかったのだから。
演習が終わった後、
彼女は上の空だった。
誰かに連れられないと歩く事もできない。
それほどのショックを受けてしまった。
そんな彼女に秋雲が近づいてきた。
秋雲は純粋な感想を述べてきた。
良かったところ、疑問に思ったところ、
各艦娘の癖も含めて的確に。
そんな中、気になることも言っていた。
「そっちの秋雲は他の子と違ったね。
まさに、対深海棲艦って感じだったよ。
流石、深海棲艦図鑑の秋雲先生。」
そんな事を言っていた。
しかし、上の空の彼女には
何も耳には入らなかった。
その日、演習後から鎮守府に帰るまで
彼女は何も考えられなかった。
まるで魂が抜けたような彼女は、
戦いが生き甲斐だったはずの彼女が、
1週間、部屋から出なかった。
艦娘たちが心配して顔を出す。
だが、何を言っても廃人のように動かない。
流石にまずいと思った提督が
彼女にある物を渡した。
それは1つのUSBメモリー。
ただ中身を見るように言われた彼女は
それをパソコンに繋げ、ファイルを開いた。
そこにあったのはメッセージと
人と艦娘の図鑑のような写真集。
写真には人間と艦娘の体の動き、
深海棲艦との違いなどがメモされている。
彼女の知らないことが多く書かれており、
その中には自分が書いた深海棲艦に関する
メモと同じところもあった。
よく見ると引用元と書かれた場所に
彼女の鎮守府と名前になっていた。
メッセージの方は言葉が綴られていた。
差出人は、演習で彼女を負かした秋雲。
この前の演習の事が書かれていた。
彼女の癖、行動、彼女と秋雲の違い。
それが絵と一緒に書かれていた。
分かり易く、自分に足りないところが
何もかも書かれていた。
彼女はここまで差があるのだと、
自分の弱さを実感した。
だが、最後の一文には励まされた。
それは彼女の長所と成長の兆し。
「深海棲艦の知識は、今までの糧で、
人体と艦娘の知識が、これからの糧。」
自分はもっと強くなれる。
そう感じることができた。
だからこそ、
彼女はすぐに行動を起こした。
写真を見ながら人体と艦娘の知識を得る。
その写真の事以外にも情報を得るために、
提督に頼んで本を買って貰ったり、
ネットで調べたりもした。
それから、彼女は別人のように変わった。
戦いが生き甲斐であることは変わらないが、
艦娘たちを観察し、描きだすことを始めた。
細かい癖を見抜き、提案をする。
また、各艤装についても知識を求め、
明石や各艦種の話を聞いたりもした。
その変化は鎮守府全体の雰囲気を改善させた。
以前よりも戦果が上がり、
鎮守府の中でも規模が大きくなった。
また、彼女のデータは、
大本営に大きな影響を与え、
海軍全体に衝撃を与えた。
多くの艦娘と提督が、
そのデータに助けられることになった。
大きな作戦や、
特殊な任務を任さられるようになり、
彼女自身、最高の生活を送っていた。
最悪から最高へ。
自分が望んでいたものとは少し違うが、
限りなく近い理想だった。
だがそんな理想も、長くは続かなかった。
ある年、大規模作戦が始まった。
今までに例のない深海棲艦が出てきたことで
秋雲は特殊な任務を任された。
それは偵察任務だった。
敵を知り、情報を得るために、
彼女を含んだ連合艦隊が駆り出された。
その艦隊には秋雲もいた。
今では仲が良く、お互いが尊敬する存在。
2人でいることが多くあり、周りから
『百合雲』というあだ名がつくほど
一緒にいるところが見られている。
双子のように仲が良い2人。
この2人が艦隊にいるというだけで
艦娘たちの士気が上がる。
そのおかげで、彼女たちはすんなりと
作戦海域の奥まで進むことができた。
赤く染まった海の上。
そこには大きな深海棲艦が
此方を見て佇んでいた。
怒った顔をして、こちらを睨む。
そして大きな声で吠えた。
それを合図に戦闘が始まった。
連合艦隊が応戦している間に、
2人はその姿を描く。
的確に、細部を見逃さないように。
敵の砲撃を躱しながら、
ひたすらにペンを動かした。
数分後、全体の絵を描き出すことができた。
後は無事に撤退するのみ。
艦隊は深海棲艦に
その隙に撤退を開始した。
だが、相手も逃がさないように砲撃してくる。
その砲撃の一つが秋雲を襲った。
「秋雲、避けろーっ!」
そう言われて後ろを振り向くと
目の前まで砲弾が来ていた。
気づいた時には遅かったのだ。
爆炎と爆音が襲う。
だが、秋雲に痛みは来なかった。
何かが上に乗る感覚だけがあった。
恐る恐る目を開けると、
そこには彼女が覆いかぶさっていた。
艤装は激しく損傷し、炎を上げている。
艤装の中では妖精たちが
急いで消火活動を行っていた。
秋雲は急いで彼女を抱えて逃げる。
深海棲艦はそう簡単に逃がしてはくれない。
すぐに次の砲撃を開始する。
だが、それが秋雲たちに
当たることは無かった。
連合艦隊による砲撃の支援があり、
秋雲たちは艦隊に合流。
急いでその海域を撤退することに成功した。
帰還した秋雲たちはすぐに入渠した。
特に彼女の損害がひどく、
生きているだけで幸運と言われた。
絶対安静で数日は目覚めないと言われた。
秋雲たちは目覚めるまでの間、
持ち帰った情報をまとめることにした。
数か月後、作戦は成功した。
彼女たちが持ち帰った情報は
海軍全体に大きく貢献した。
今までで1番少ない被害で
轟沈した者も少なかった。
過去に見ない快挙。
これには一般人も歓声を上げた。
まるでお祭り騒ぎのような日々が続いた。
一方で、とある海軍の病棟。
閑散とした静かな場所。
その一室で彼女が寝ている。
作戦が成功してからも
彼女は目覚めなかった。
その傍には秋雲が寄り添っていた。
彼女が目覚めるまで秋雲は
いつまでも傍に居る。
早く目覚めることを祈って。
そんな彼女の下に、とある知らせが届いた。
それは半年後の異動。
最前線にある基地への異動の知らせだった。
艦娘たちにとっては偉大な場所。
だが、秋雲には行きたくない場所だ。
戦わないといけない、
自由なんてほとんどない。
そんな場所に行きたくない。
それに、今は彼女から離れたくなかった。
だから、秋雲は願った。
彼女が早く目覚めることを。
また一緒に居られることを。
ひたすら願った。
だが、そんな願いとは裏腹に
彼女は眠り続けた。
~異動まで残り1ヶ月~
百合雲
誰か描かないかな…
第2章で同行するメンバー(残りのメンバーは基地でお留守番)最終投票
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キューちゃんズ(イ級×4)
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ネ音(ネ級)