遅くなって申し訳ない
春が近づいていることを感じさせる
温もりと心地の良い風。
快晴の呉の町中を私は歩いていた。
いや、私ではなく彼女たちが。
「はやく、いこう」
「いろいろ、きになる」
「分かったから、
あまり引っ張らないで!」
「おーい、
オーバーオールとボーダー服を着た
ミーちゃんとクーちゃん。
引っ張られるのは
赤城さんの私服*1を借りた音歌。
ライダージャケットを着た天龍が
3人の後ろを見守りながら歩く。
そう、今歩いているのは
私ではなく音歌の方だ。
海の傍ではないのに
なぜ歩くことができるのか。
それは、今日の朝まで遡る。
いつも通りの朝を迎え、
食事をしていた私達。
いつもより賑やかだった。
そこにやってきた明石と
朝からいなかったヌースの2人。
明石の手には
布のような物があった。
「歌音さん、少しいいですか?
これを着けていただきたくて」
何これ?布と言うより
テーピング…いや、コルセットか。
ひんやりしているから
やっぱりテーピングの方?
そんなにキツくないし、
ぶかぶかすぎるし…
「それでよいのです、歌音様。
本題はここからですので」
本題?
「今ここで音歌さんと
変わってもらえませんか?」
音歌と変わる?
海から離れた此処で?
「はい、お願いできますか?」
まあ、何か考えがあるのだろう。
私は音歌に変わるように頼む。
『変われるかな?
試してみるね』
あ、ペンダントが光った…
「ん?何、この感触。
私の新しい服?」
「どうやら実験成功のようですね」
「はい。
貴方には感謝しますよ、ヌース」
どうやら上手く変われたようだ。
海の上にいる時のように
身体がヲ級になり、音歌と変われた。
「海の上じゃないのに変われた?
なんでこうなったの?」
確かに気になる。
恐らくは今着たやつだろうけど。
「実はですね…」
そこから明石の説明が始まった。
この腰に巻いているものは
『海水コルセット』と言うようだ。
名前の通り、ひんやりと感じたのは
コルセットに含まれる海水。
これが海上での入れ替わり条件と同じ
接触した判定になって変われるらしい。
考案者はヌースのようだが、
どこでこんなものを思いついたのか。
どうやらここの艦娘たちが使っていた
テーピングの存在。
執事について調べていた時に
見つけたというコルセットの存在。
本来なら女性が着るドレスの
腰を絞って細くするやつ。
説明が合ってるか分からないけど、
介護用にも使われてる腰のやつ。
この2つを合わせたらという考えを
明石に伝えて作成したらしい。
その結果がこの
『海水コルセット』なのだとか。
この発明に感謝したのは
もちろん音歌。
自分の足で観光できるのだから
喜びは誰よりも大きいだろう。
その恩恵は私にもある。
今現在、私の顔は
敷地外に出れば撮影の対象だ。
ゆっくりと落ち着いて
呉の町を観光する事ができない。
しかし、音歌の顔は
私とも普通のヲ級とも違う。
高身長・白髪のお姉さんだ。
目線は気になるだろうが、
前よりもましだろう。
そう言うわけで
観光することになったのだが、
「わたしも、いきたい」
「おねえちゃんたちと、
いっしょに、いく」
ミーちゃんとクーちゃんが
そうお願いしてきたのだ。
昨日名付けしたことで
甘えたくなったのだろうか?
家族の様に一緒に居たいと
思ったからだろうか?
いつもの私に戻った身体に
2人がベッタリと抱き着く。
そんな行動を起こせば
向かい側の2人も反応する。
「私も行きたい!」
「私モゴッ!」
キューちゃんが言おうとすると
後ろから口を塞がれる。
あーちゃんが後ろから
羽交い絞め+口を塞ぐ。
「3にんで、いってきて。
わたしは、おしごと、するから」
アーちゃんがそう言ってくれる。
でも、本当にいいの?
「うん、きもちは、わかるから。
だから、たのしんで、きて」
「歌音様、こちらは抑えておくので
気にせず、お楽しみください」
…既にネ音が拘束されてた。
ヌースの判断が速すぎる。
「お2人の気持ちも分かります。
ですので、ここは我々が」
「キューちゃんは、おしごと。
いままでのぶん、はたらかせる」
「ネ音には明石の手伝いを、
北上殿からの課題がありますので」
キューちゃんとネ音は抵抗したけど、
2人に強制連行された。
明石も行ったし、
私達も準備を始めようか。
「ちょっといいか?」
あ、天龍が来た。頭にタンコブが…
「気にすんな、秘書艦様の制裁だ。
それより、今から出るんだろ?」
そのつもりだけど、天龍も?
「俺は休暇ついでにお前たちの護衛だ。
必要ないと思うが、一応な」
まあ、備えあれば患いなし。
居てくれた方が安全ではある。
「決まりだな。それじゃあ、
工廠の近くに集合しな」
こっそり出るのは分かるが
何故、工廠の近く?
で、言われたとおりに
工廠の近くに行くと道があった。
トンネルのように長い道を
「動く歩道」に乗って進む。
およそ5分進むと
普通の扉があった。
開けると、どこかの路地裏に。
近くには電車が通っていて
高架下の近くだった。
「本来なら緊急避難用だが、
こういうときも使用許可がでる」
「ひみつの、つうろ」
「わくわく、する」
「場所次第では使うだろうな。
さあ、早く行こうぜ」
こうして冒頭に戻る。
ミーちゃんとクーちゃんに引かれ
やってきたのは入船山の記念館。
案内表示に従って奥へと進む。
見えてきたのは「旧司令長官官舎」
当時はあまり見られなかった
洋風の建物らしい。
「かべ、きれい」
「こんなおうち、すてき」
「今の鎮守府に
こんな建物は無いからな~」
「作れないの?」
音歌…本気?
そう簡単に建物を…。
「え?だめなの?」
「提督に頼んでみれば
いいんじゃねぇか?」
そんなことでき…、
あの人ならやりかねないなぁ。
「提督さんならやりそうだね」
「かえったら、おねがい、する」
「わたしたちの、おうち」
…家、か。
考えても、いいかもね。
観光をしながら考えておこう。
「歌音、何か言った?」
何でもないよ。
さあ、進もうか。
「うん。2人とも行くよ」
「「は~い」」
音歌が2人の手を引いて
建物の中へと入っていく。
表からは入れないため
裏にある和館から。
看板に沿って順路を進む。
赤いカーペットが案内してくれる
次から次へと目移りする建物の中。
目に移る茶間や広い和室
畳廊下を進んでいく。
この姿でも魂だけは入れ替われるため
時々変わってもらう。
足裏の感覚と匂いなどは
実際に経験しないとね。
そうやって洋館側へと進んだ。
赤い絨毯で埋まった床と
大和の模型が迎えてくれた。
食堂の豪華な食事、綺麗な応接室、
金唐紙(きんからかみ)の天井や壁。
入り口にはステンドグラスが使われ、
革張りの椅子なども見た。
3人も興味を持って見ていた。
「ふかふか、すわりたい」
「縄から向こうに行くなよ?」
「あれ、すわれないの?」
「鎮守府の椅子もあれだからな。
それで我慢してくれ。」
「ざんねん、しょぼん」
「てんりゅう、けち」
天龍、泣かせた、鬼
「おい、今の歌音だろ。
こういうのはちゃんと教えろよ」
怒られた~。
流石にワザと過ぎたか。
そんなおふざけをしながら
再び和室のある方へ。
私の中で感じるものがある。
思い出の光景が写る。
子供の時の私が
まだ、別の道を進んでいた光景。
廊下を挟んで反対にある庭を見ても
同じ様に昔の私を思い出す。
忘れたわけじゃない。
でも、忘れたかった記憶も蘇る。
私がこの世界を進んだ理由。
原点であって汚点である
あの日の事を…。
『歌音?大丈夫?』
ん?何が?
「ママ、ないてる」
「どこか、いたいの?」
目元を擦ると濡れていた。
嬉しさか悲しさか、
それとも辛さか。
なぜか涙を流していた。
一時的なものだろう。
大丈夫だから
2人の頭を撫でて進む。
と言っても、もう終わりだ。
出口についた。
ミーちゃんとクーちゃんは
早く次へ進みたいようだ。
反対に音歌は歩き疲れた感じだ。
私と何回も変わったけど、
陸を歩くのは疲れるらしい。
いつもふわふわ浮いているから
そこは仕方ないのだろう。
私と魂だけ変わり、
次の場所へと向かう。
向かおうと思って1歩踏み出したら
何かが走ってきた。
必死に逃げているように見える
サイドテールをした制服の女の子。
服装は鈴谷や熊野みたいだけど
身長は中学校1年生ぐらい。
私達とすれ違…え?
「どうした歌音、
豆鉄砲でも食らったのか?」
「ママ、おどろいてる?」
「どうしたの、ママ」
私は幻覚でも見たのだろうか?
さっき、すれ違った時に
少女がこっちを向いて目が合った。
少女の、少女の顔は…
私だった…。
あまりに遅くなりすぎて申し訳ない。
書く内容自体は呉イベの年に
現地に行ってメモしてました。
でも、恩師に「メソポタミア文字」
と呼ばれる私の字は…
自分でも解読が困難なので
これを書くのに時間が掛かりました。
次回は気が乗ったら早く、
乗らなければ時間が空くか
別作品の投稿をすると思います。
それまでは気長にお待ちください。
第2章で同行するメンバー(残りのメンバーは基地でお留守番)最終投票
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キューちゃんズ(イ級×4)
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ネ音(ネ級)