ヒーローの存在意義について
受験番号 *****番 氏名 比企谷 八幡
ヒーローとは幻想である。
民衆はヒーローは必ず全員を救ってくれるものであると信じ込み、敵が暴れているところでも逃げることなくカメラを構え、怪我をしたらヒーローに責任を押し付ける。
オールマイトでさえ敵と戦っているときに怪我をすることがあるのだから、ヒーローが完全な存在ではないことなど考えればわかることだ。
しかし多くのヒーローはその不完全性を認めず、民衆が見る幻想を肯定し、彼らの悲劇を全て自らの責任であると豪語する。
その性質から救えない存在が出てきてしまうということにさえ苦痛を感じ、身体を危険に投げ出していくことさえある。
ヒーロー飽和社会の故か、自分を完全であると思い込んでいるヒーローさえいる始末だ。
いつか彼らが自分の限界を知る時がきたとして、その時一体どれだけのヒーローがめげずに幻想を守るために立ち上がることができるだろうか。
いや、あるいはその時に立ち上がれるヒーローこそが、「本物のヒーロー」と呼べるのかもしれない。
社会が個性によって混乱に陥ったときとはただの一般人から「本物のヒーロー」が生まれ、いずれはヒーローから「本物のヒーロー」が生まれる。私にはその差が広がっているように見える。
故に私は限りなく一般人に近いヒーローを目指す。
ヒーロー活動を仕事と捉え、積極的に分業し、仕事中は最大限働きながら、時間外労働は決してしない。
このように実用的なヒーロー活動を意識的に行うことで、自身が完璧であるという勘違いを限りなく薄め、いざという時に自分が立ち上がれる可能性を上げることが、ヒーローに求められる意義なのではないのだろうか。
俺は書き終えた文章を見て頭を抱えていた。
今は雄英高校ヒーロー科の入試日程二日目の小論文の試験中である。あと5分で終了なので、書き直すことはできない。
雄英のヒーロー科を受験する人間には2種類いる。真面目組と記念受験組だ。
数理の成績があるから無理だろうとは思いつつもこの1年間コツコツと勉強してきた俺は前者に入るだろう。模試の判定も数理が上振れればC判定を取れることもあったしそれなりに意気込んでこの入試に望んでいた。
雄英に入るには学力だけでなく精神性や実力も問われる。そしてその3つにおいて好成績を収めたものだけが入学を許されるのだ。だから俺は学力平均以上、小論文完璧、実技平均以上、そして運頼みで合格ラインをギリギリ超えることを狙っていたのだが、この小論文では夢のまた夢だろう。
…実技でがんばらなきゃ、厳しいだろうな。
終了の声とともに回収されていく解答用紙を見ながら、俺はそう思った。
入試日程三日目、今日も我が愛しき妹の笑顔に見送られながら実技の会場についた。
説明会の後で指定された会場に向かい着替えを済ませる。
しばらくすると、いち早くジャージや中学の体操服に着替えた受験生が準備運動や精神統一をし始めた。
俺は端っこで個性に必要な練乳を2、3本ほど手の穴から補給する。
そのあとで手を握ったり肘を曲げたりして調子を確認していると、すこしざわめき声が聞こえた。
視線を前に向けると、七三分けの少年が緑がかった癖毛の少年に説教をしている。言ってる内容は至極まともだが、受験会場でわざわざ威圧的に指摘しているのは頂けない。しかし、周囲の人間はそれを見てニヤニヤするのみで、特に試験官からも注意は入らない。
うわぁ…俺がやられてたらこのまま家に帰るまであるぞ、あれは。
目線を手元に戻そうとした矢先、試験開始の合図がなった。
時計をみるとすでに試験開始時間になっていた。俺は急いでゴミをポケットに詰め込むと、束になってる他の受験生の外側から回り込んでまだ誰もいない会場の入り口を走り抜ける。
実技に注意を払ってたとはいえ、まさかここまで反応できない生徒がいるとは思わなかった。
案外、大したことないな。
後ろから聞こえてくるプレゼントマイクの掛け声とバタバタとした足音を耳にそう思いながら、俺は腕を1Pロボットの方へと向けた。
「スタートの言葉にすぐに反応したのは1人。
すぐさま時計を確認し走り始めたのも1人いるね。」
スクリーンに映った試験会場の映像を見ながら、根津はそう呟いた。
2人の受験者の情報が根津のタブレットから送られ、その情報が教師陣全員の目に入る。
爆豪勝己、比企谷八幡。
多少の差があれど、その反射神経は教師陣からして期待できる学生だ。
しかし試験が進むにつれてその戦闘スタイルは真逆に近いものであることがわかった。
「爆破に体弩、どちらも戦闘向きの個性だな。それに戦い方もうまい」
ブラドキングはそう呟く。
爆豪勝己は個性『爆破』を用いて、ロボットを蹴散らし、会場内を動き回り、派手に爆音を立てて注目を集め続けている。彼の個性の性質上そうするほうが火力が出るというのもあるが、それにしたってここまで実技で行えるものは稀だ。それに細かなところでの身のこなしも格別で、他の受験生とは明らかに一線を隔ている。
一方で比企谷八幡はなるべく目立たない建物の影や屋上からロボットを狙撃し、移動の際もロボットに感知されないタイミングをうまくつかんでいる。また命中率が不安な故か極力他の受験生のいるところは狙わずにいるためリスクは最小限であり、着実にポイントを貯めていっている。彼の性格もまた個性と合致していた。
そのほかにも様々な話が流れつつ他の受験生たちの評価も進み、試験も最後の山へ突入する。
何のポイントにもならないただの邪魔者。0Pの仮想敵ロボットの登場である。
ここも最初のスタートの合図と同様に大きな評価点であり、ここで逃げなかった生徒はやはり卒業後も名を馳せている。
理不尽な破壊が会場を襲い、ほとんどの受験生は我先にと背中を向けて逃げ出している。いや、中にはポイントを優先して逃げている受験生もいるが、立ち向かおうとするものはいなかった。
予想通りではあるが期待外れ。もはやため息をつく教師もいなくなっていたこの行事は、しかし今年は小さな驚きの声とともに始まった。
比企谷八幡は呆れていた。
人に期待しない、という本人の主義ゆえに認めることはないだろうが、しかし胸に沸いた空虚感は呆れに等しいものだった。
今朝の説教を見ていた周囲の人間の笑顔。スタートの合図の直後に飛び出せなかった、おそらくはいるであろう真面目組の受験生。
八幡が無意識の内に抱いていたヒーローの卵たちへの小さな希望を砕くには十分なものであった。
だから0Pの仮想敵ロボットが街を壊しながら現れたとき、周囲の人間が逃げ出すのを建物の屋上から見ても、同じような感情が八幡を襲った。
今日やることはあくまで受験。合格を捨ててまで立ち向かう必要は皆無。
しかし、それでも今日だけは、この試験会場の中だけではヒーローなのだ、ヒーローなのだから。
小論文の内容は提出する物としては間違っていたが、八幡の本心の一部は確かに映し出していた。
こんなロボットがヒーローの限界であるはずがないのだから、だから八幡は仕事をするかのように、ヒーローとして求められている幻想のように立ち上がった。
…相手はロボットだ。それも飛び切りでかい。だから速度も矢の形状も何も配慮する必要はない。どこを狙えばいいかなんてわからないが、人型だし頭を狙おう。できれば次に地面を殴りつけた瞬間。これなら被害も少ないだろう。あとは、ただありったけを…
ロボットの脇にあるマンションに飛び移ると、右腕をライフルを構えるようにして左手で支え__八幡の手首から肘、肘から腕はそれぞれボウガンになっており、肘を伸ばすとバリスタになる__0Pロボットに向けて力を込め続けた。足りないエネルギーの補給のために練乳を手の中に流し込むと、骨と同じ材質でありながら骨よりも丈夫で、無機質で極太の長い矢が腕の中に生成される。それと同時に彼の腕中の筋肉がその矢を射出するために、補給された糖分を一気に分解してエネルギーに変えこの矢を最速で飛ばすのに最適な形状へと変化していく。ただでさえ酷使した後であまり使わないこの形状への変化に痛みも感じるが、もはやそんなものは関係ない。
そうしてロボットが地面を殴りつけた瞬間、その矢は射出された。
衝撃とともに腕は弾けるように投げ出される。
折れる骨の痛みさえも空気を切る音が掻き消し、八幡の視線の先にはロボットの頭にポッカリ開いた横穴と、その先にわずかに見える空があった。
しかしロボットの動きは止まらない。
体勢を立て直し、もう一度殴ろうと構えを作っている。
…破壊しきれなかったか。金属を貫通できるとは思わなかった…
それでも八幡は、左腕を構えようとした。
もはやどこを破壊すればいいのかわからない、というか同じ威力は出せない。射出口からは血が出てるし、摩擦熱のせいで嫌な匂いもする、もう補給用の練乳も残りのエネルギーもない。そんなときでも、心の中に曇る感情はなかった。
と、その瞬間。アスファルトが砕ける音とともに砂埃が一気に晴れ上がり、覚えのあるやつが飛び出しているのが見えた。
…緑がかった、縮毛のやつ…
出久の右腕を覆うジャージが破れ、真っ赤なラインが腕に走る。
そのまま仮想敵ロボットの頭まで真っ直ぐ飛ぶと、腕がぶれてみえるほどの速度でロボット殴り、ロボットは爆発音とともに倒れ込んだ。
八幡は呆気にとられながらも落ちていく出久を思い出し道路を見下ろすと、お茶子の個性によって助けられた出久が見えた。
その後間もなく試験は終わり、八幡も試験中とは違いゆっくりと階段からマンションの外に出た。
リカバリーガールに治癒してもらい、休憩をしていると、八幡の耳には周囲の出久に関するつぶやき声が聞こえてくる。
いわく、仮想敵を一体も倒すことができず、ずっと固まってた。なのに、0Pという何の足しにならないロボットを派手な一撃で粉砕した。麗日お茶子を助けんがために、飛び出した。目立とうとして大怪我をしたやつ。
八幡の表情が緩くなる。
出久を否定することは簡単だ。
しかし、あの瞬間だけは、誰にも文句を言わせないヒーローであった。
…案外、そばにいるものなんだな。ヒーロー…
その日の夕飯、妹の小町の目には満足感を漂わせる兄の姿が映っていた。
__ちなみに、八幡の合格を最初に知ったのは勝手に手紙を開けた小町であった。
比企谷八幡
個性『体弩』
牛乳で骨よりもかなり丈夫な矢を形成し、糖分をエネルギーにして穴から射出する。
エネルギー摂取は射出口か経口だが、経口だとすぐには補給できない。
練乳チューブを射出口に差し込むのが一番効率的らしい。
腕を曲げた状態だと速射が可能なボウガンになり、腕を伸ばしてちゃんと構えるとバリスタになる。腕を伸ばして構えないでいるとその真ん中ぐらいの性質になる。バリスタになるには筋肉の変形が必要なためエネルギーと時間がかかるのがネックである。
本当は俺ガイルの性格改変物を書こうと思ってたのになぁ。
テストが終わったら2話がでます。