バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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中途半端な剣

 

 ショートソードと比べると幾分長く、細かい取り回しに苦労する。

 

 ロングソードと比較すればそのリーチはやや物足りず、打ち合いで不利になりがちだ。

 

 バスタードソードは中途半端な長さの剣だ。

 

 前世では“帯に短し襷に長し”という言葉があったが、まさにそれがぴったりの武器だろう。

 とはいえ剣は剣なので世間で全く使われてないわけでもないのだが、なんらかの剣術の流派で使われているという話は聞かない。少なくとも、軍では全く採用されていないはずだ。

 

 それでも俺は、このなんとも中途半端な長さの剣が気に入っている。

 

 取り回しの不便さもリーチの短さも、妥協しようと思えば可能だ。器用貧乏の貧乏な面に目を瞑る事ができれば、中で大小を兼ねる使い方もできなくはないからな。

 

 

 

 俺の愛用しているバスタードソードと出会ったのは、しけた武器屋だった。

 店の入り口あたりで籠の中で乱暴に突っ込まれていたのを、まぁ値段の安さもあって買ったわけ。

 

 買った時は専用の鞘もなく、色々と自分で用立てることになったせいで安売りと呼ぶには大して安くもない武器だったが、今にしてみれば良い思い出だ。

 

 

 

「ほーらよっと」

「グゲッ」

 

 バスタードソードが翻り、ゴブリンの胸を深く斬りつける。

 これで三匹目。残り一匹は脚を斬ったので、遠からず失血死するだろう。

 

「グィイ……」

「悪いな、特に恨みとかはないんだが。俺の給料のために死んでくれ」

 

 依頼は郊外に出現したはぐれゴブリンの徒党の討伐。

 はぐれのリーダーらしい少し大柄なゴブリンもそこらへんに転がっている。他にも別働隊がいるかもしれないが、リーダーさえ殺してしまえば依頼は達成したようなものだろう。

 この世界の逞しい連中なら、たとえ農作業をやってるような普通の村人でもゴブリンくらいなら自分で殺してしまうからな。

 

「南無阿弥陀仏」

 

 最後の一匹にバスタードソードを突き立て、息の根を止める。

 

 その後ゴブリンたちのくっせえ鼻を削ぎ落とし、袋に詰めておく。これが討伐証明だ。毎回思うけど何故耳じゃないんだろう。ゴブリンの鼻は臭くてたまらんのだが……。

 

「うーえ、鼻水ついてら」

 

 切先の汚れたバスタードソードを再びゴブリンの心臓あたり目掛けて突き刺し、血で洗う。鼻水と血なら血を選ぶくらい、俺はこいつらの鼻水が嫌いだ。

 どうせ後で川辺で洗うことになるんだが、愛剣だしね。

 

「……ふう。これでとりあえず、今月分の貢献度は稼げたろ。あとは適当に採集して帰ろ」

 

 それから俺は高く売れそうな野草や薬草を採取し、川辺で装備を洗ってから帰路についた。

 歩いて二時間ほどの決して楽とは言えない道のりだが、この世界ではまだまだご近所である。

 俺もそんな感覚に慣れたあたり、そこそこ適応しているのかもしれない。

 

 

 

「郊外のはぐれゴブリンの討伐ですね? 討伐部位交換票は……はい、確かに。リーダーを含む4匹であればA評価で問題ないでしょう。お疲れ様でした、モングレルさん」

「どうも」

 

 ギルドに戻り、討伐部位を処理場で交換票にして、受付に提出する。

 貰えるのは僅かな報酬と、貢献度。今回の任務はこの貢献度が俺の目的だった。

 

 ギルドの任務にも金になるやつとならないやつがあって、ゴブリン討伐なんかは儲からない仕事の最たるものと言えるだろう。しかし儲からないだけだと誰も仕事をやらないので、かわりにギルドの貢献度が上がりやすいように設定されている。

 俺のようなギルドマンはこの貢献度を稼ぐことによって様々な特典を受けられたり、優遇されたりする。何より普段から貢献度を積んでおけば時々発生する危険度の高い大規模作戦に駆り出されることもなくなるので、長生きしたいなら決して見過ごしてはいけないポイントだ。

 

「それにしてもソロで4匹同時討伐だなんて……モングレルさん、そろそろ昇級試験を受けたらどうなんです?」

「嫌だよ。怖い任務増えるじゃん」

 

 受付の子も含め、ギルドの連中は毎度毎度俺に昇級を仄めかしてくる。

 今の俺はブロンズ。シルバーに上がればもっと割のいい仕事がもらえるっていうメリットもあるにはある。

 だが、それはそれで面倒なんだよな。任務に危険が増えるし、面倒な義務も生まれる。

 ダラダラと生きていく分にはブロンズをキープするのが一番だ。

 

「……まあ無理強いはしませんけどね。この後はまた酒場に?」

「そりゃそうよ。ミレーヌさんも飲みに行かない? 一杯おごるよ?」

「私はまだ仕事が残っていますので」

「ちぇ、連れないね」

 

 顔も普通、仕事は適当で出世欲なし。

 そんな男に靡く女などそうそう居ない。

 街でエリート職扱いされているギルド受付嬢であればなおさらだろう。

 しかしこうやって毎度振られるのもそれはそれで安心できるやりとりなんだよな。

 

「さーて飲むぞ飲むぞー」

「おうモングレル、仕事終わりか?」

「おー、バルガー。貢献度稼ぎでな。軽ーくゴブリンを一撫でよ」

「お疲れさん。店はいつものとこだろ? 一緒に飲もうぜ」

「奢らねえぞ?」

「そんな持ってねえだろ。自分で払うわ」

 

 この冴えない髭面のおっさんはバルガー。

 小盾と短槍という、これまた冴えない武器構成をしたギルドマンである。

 

 しかし冴えないビジュアルにも関わらず腕前は一級品で、地味……堅実な闘い方によってシルバーの中堅として長年活躍している、いわばベテランだ。

 俺も最初の頃はよくバルガーから基本的なことを教えてもらい、世話になった。俺にとってこの世界での兄貴分に近いだろうか。

 今じゃ時々顔を合わせて飲みに行く、未婚のダメなおっさん同士なわけだが。

 

「なんだモングレル、お前まだそのバスタードソード使ってんの」

「悪いかよ? 壊れるまでは使い続けてやるわ」

「悪くはないけどな。片手では重いし両手では軽い。使い辛いだろ、それ」

「慣れれば気にならないさ。結構気に入ってるんだぜ、中途半端なところとかな」

「なんだよそれ」

 

 さて、今日はビールと串焼きで優勝してきますか。

 明日の仕事はどうすっかなぁ。

 

 

 


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