戦争は金食い虫だ、という話はした。
が、その支出のほとんどは国が請け負うので、国民一人一人がどうかっていうとそれはまた違ってくる。
今回の侵攻では致命的な領土侵犯もされていないし、敵の略奪も受けなかった。ドサクサに紛れて悪人が盗みを働いたりとかは多かっただろうが、まあその程度だ。
むしろ出兵した連中には国から金が与えられる。わりと良い金だ。
まぁ命を賭けて戦場でドンパチしに行くわけだから貰うもん貰わないとやってられん。タダ働きの徴兵なんかされた日にはみんな普通に暴動起こすぞ。ハルペリア人は別に従順ってわけじゃない。やる時は普通にやる。
幸い、今回は徴兵された連中全員にまとまった金が与えられる。
当然、ギルドマンの多くにも。するとどうなるかっていうとだ。
「娼館に……――行くぞォオオオオッ!」
「イヤッホォオオオオオ!」
「抱くぞ抱くぞ抱くぞ抱くぞぉおお!」
「いつもより2ランク上の高級店に行っちゃうぜェ~!」
「抜こうぜぇええええ!」
「天国イこうぜぇえええ!」
「シコォ!」
はい。まぁこうなりますわ。
宵越しの銭は持たない独身ギルドマンにそこそこ纏まったあぶく銭を与えるとどうなるかが一目で解るな? パーっと景気よく消費されます、はい。
レゴールの街で暮らす一般市民が自分らの子供に“将来は絶対にギルドマンにだけはなるんじゃないぞ”と言い聞かせる理由の全てが眼の前の光景に表れてる感じだ。
ちなみに金はまだ俺たちに支給されてない。されてないけど遠からず支給はされるから先に贅沢しちゃう。それが刹那的なギルドマンってもんだ。
ギルドの酒場に集まった騒がしい男達はいつもの通り中央テーブルに集まっている。
集団の核は今回の戦争で戦果を挙げたディックバルト。
まぁ娼館に行くって話が出たらこいつがいるのは間違いない。
「だが――娼館に赴く前に、作戦を練らなくてはならぬ。これは戦場でも同じこと――敵を知り、己を知り、嬢を知らねば戦は出来ん」
「ああ、わかってるぜェ……けどよォ、そのためにいるんだろ! ディックバルト団長がよぉ~!」
「教えてくれよディックバルトさん! 俺に最もあった
「俺の運命の相手を教えてくれぇ!」
「酒場で露出多めの装備を着た初心者の女の子(アイアン2)と一緒に酒飲んで仲良くなって二階の宿に流れていくタイプの店を教えてくれぇええ!」
そう、あぶく銭を持ったギルドマンの多くは考える……良い店に行きたいと。
だがレゴールの色街はピンからキリまで様々だ。アタリもあればハズレもある。サキュバスが現れたかと思ったら別の場所では腐った死体とエンカウントすることだって珍しくはない。人知れず悲しいお店に入ってしまった経験のある男も多いだろう……。
しかしディックバルトがいれば安心だ。彼に聞けば全てを教えてくれる。レゴールの色街の全てを知る男の呼び名は伊達じゃない。実際に全ての女の子を抱いてそうだから困る。
「よかろう――であれば、並ぶが良い。この俺が皆の希望に合った店を教えてやろう――とはいえ俺にも金が必要なので、僅かばかりの紹介料は貰っておくがな――」
男たちがディックバルトに列を作り、相談を受けている。相談料は銅貨一枚らしい。もうお前それで仕事できるんじゃねえのって感じだが、ディックバルトからすれば毎日娼館に泊まっているわけで、とてもではないがこの程度の稼ぎではそんな娼館生活を送れないのだろう。だから日々高難度の任務ばかりを請け負っているのだ。マグロみたいな生き方してやがるぜ。
「おーいそこで一人で寂しく飲んでるモングレルよ。お前もたまにはどうよ、コレ」
「バルガーお前もか……その手の動きやめろ。俺は別に良いよ」
列にはバルガーも並んでいた。こいつも大概娼館好きだからな……。
かく言う俺も風呂のある高級なお店はバルガーに教えてもらったクチだ。
「相変わらずこういう付き合いは悪いなぁモングレル。別に心に決めた女がいるわけでもないんだろ?」
「俺は美味いメシと格好良い装備品に金を使ってるんでね」
「モングレルの格好良い装備なんて見たことないぜ!」
「ギャハハハ!」
「お、やんのかやんのか? やんやん?」
「ギルド内で揉め事はよしてくださいねー」
実際娼館に使ってる金は勿体ないんだよ。俺の贅沢な衛生観念をキープするコストも地味に高いしな。あとブロンズで受けられる仕事じゃ稼ぎ悪いってのもあるし。
「つーかモングレルの女の趣味ってどんなんだよ、俺聞いたことねーぞ」
「俺もだ。一緒に娼館行ったこともねーしな」
「よく一緒に飲んでるし……ライナみたいな子……ではないな、うん」
「こいつら……行列に並んでるせいで俺の近くで俺をネタにして駄弁ってやがる……」
「なぁ教えろよモングレル。お前どんな女が良いんだ?」
「ケツのデカい子か? タッパのデカい子か?」
「つまんねー答えはいらないからな!」
「あー? あー、好みなぁ、そうだなぁ……」
俺はクラゲの酢漬けをポリポリしながら考えた。
「まぁ、まずはあれだな。清潔な子だ。身体が汚れてたりするんじゃ論外だね。日頃から綺麗にして、隅々まで磨いてるような子が最低条件だ」
「贅沢だなぁ! 本当に綺麗好きなのなお前」
「なんだよちょっと汚れてて匂いがキツい方が良いだろが!」
「いやお前それはちょっとした議論を呼ぶぞ」
匂いフェチか……否定はしないけどなぁ。この世界の匂いがキツいってマジでキツいやつじゃん。俺にはちょっとレベル高いぜそれは。
「なるほどな。だがモングレル……それはあくまで状態ってだけだろ。女の好みとは言えねえだろう」
バルガーはそう言って、真剣な表情を俺に向けている。
いやその顔今必要か? って思わないでもないが、確かに俺の言ってるのは好みじゃなくて状態か。それもそうだな。
「あとは……無駄毛だな。毛が無い方がいい」
「ほう、つるつるが良いと」
「腕とか脚とかな。腋とか股とかも濃いのはちょっと俺の趣味じゃないなぁ」
「なんだよ女はボーボーでワシャワシャしてるのが良いんじゃねえか!」
「それも議論を呼ぶぞ!」
「なんだとぉ!?」
いやまぁこれも好みだもんな。毛が濃いほうが良いって
こういうのはな、趣味だからな。お互い認め合うのが一番なんだ……。
つっても俺はやっぱり毛深いのは嫌だね。うん。
まぁこの価値観も、前世で頑張って処理してた女の子達の努力の上にあるものだからな……贅沢のうちだろうけどさ。
この世界じゃ毛の処理も面倒くさいだろうなぁ。何かで除毛できる薬品? みたいなのがあるって話は聞いたことあるけど、それも前世みたいに薬局で気軽に買えるほどリーズナブルではないんだろうし。まぁ大変なんだろう多分。
「汚れとか毛とか細かいところばっかりだなモングレルは。他は? ていうかもっと見るところあるだろ! 身体の形とかよ!」
「ケツとタッパはどうなんだ!」
「もっと白状しろお前!」
「さっきからなんなんだよお前たちは……身体の形かぁー、うーん……太ってない子が良いなーとは思ってるけど……」
基本的にこの世界の連中って顔もスタイルも良いんだよな。
ぶくぶくに太るほどバカみたいに飯を食う奴も少ないし。てかそう気軽に太るような生活は送れないし。
だからまぁ……大体はアリなんじゃねーの? って思っちゃうな。
「まぁ他は何だっていいよ。汚れてなくて体毛が薄くて、太りすぎてなければな。それ以外には本当にあまり気にしないわ、俺」
「――その条件で探しているのか? モングレルよ」
「いや俺の好みで勝手に店舗照会するのやめてもらえるかなディックバルト」
「――行かないのか……」
なんでちょっと残念そうな顔するんだよ。行かねーっての。
「なんかあんまり面白い話は聞けなかったな」
「モングレルは大体誰でもいけるってだけか。つまんねえ」
「俺は匂いがキツめでボーボーでもいけるぜ!」
「張り合うなお前は。ディックバルトさんに教えてもらってさっさとそういう店に行ってこい」
「もっと拗れた趣味が聞きたかったなぁ俺は」
暇潰しに人の性癖を聞いといて難癖付けるんじゃねえよ……。
……まぁでも、あれだな。こうやってギルドで馬鹿みたいな話してるのを聞いてると、レゴールにも日常が戻ってきたんだなって感じがするわ。
日常が戻ってきたついでに……本当にそろそろウイスキーとか出回ってくれねえか? まだ入荷待ち?
冬にアイスクリーム作ってウイスキーをかけて食う予定を勝手に立ててるから早くそういう嗜好品もなんとかして欲しいもんだぜ……。
「モングレルの女の趣味はつまんねえなぁ、色々知ってるからもっと変態だと思ってたぜ俺は」
「面白くねえからあれだ、俺たちで色々付け足して噂にしてやろうぜ」
「お、良いな!」
「いやぁさすがにやべーだろ、バレたらモングレルにボコボコにされるぞ。あいつ怒ると怖いぞ」
「良いんだよ、軽ーく嘘を混ぜ込むだけだって」
「熟女好きとか?」
「足裏にしか興奮しないとか」
「男でもいけるとかな!」
「アッハッハ! まぁでもそういう店もレゴールにはあるらしいからな!」
「まじかよぉ」
「この前ディックバルトさんが言ってたぜ」
「まじかよぉ……」
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( *・∀・)+ ツルン…