バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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冬の奥地でソロキャンプ

 

 レゴール郊外の拡張工事は順調に進んでいる。

 ケイオス卿が発明した剣先スコップが役立っているらしい。まぁこういう道具が無いと辛いだろうしな。発明として世に出したのは比較的早いアイテムだ。

 人ってのは案外、中途半端なものでも“これが一番に違いない”と思い込んでしまったらそれに固執する生き物だ。最善の答えを知らなければ、未完成で非効率な形のままの道具を使い続けてしまうのだ。

 日本もスコップらしい道具が伝来するまでは、平たい鋤みたいなものを使ってたって話だからな。“うちはずっとこれでやっとるんじゃい”と現場の頑固さんが言えばそれで終わりだしな。そういうもんだ。

 

 しかし道具が新しくなったおかげで色々な作業がスムーズに進んでいる。

 特に地下整備がやりやすいようだ。下水道の管も色々と埋設され始め、街の土台が整いつつある。

 こういう原始的な工事現場を眺めているのも結構面白いもんだ。

 

 とはいえ、さすがに冬が近づくとこの作業も鈍る。犯罪奴隷にも士気はあるからな。国も利口なので奴隷を限界まで使い潰すような愚は犯さない。

 だからこの時期の作業現場は最低限の人員が警備しているだけの時間も長く、寂れた様子だ。

 燃料を焚きながら暖かく作業するだけの贅沢はできない。ま、普通はそうだわな。

 

「おー……さぶさぶ……さっさとギルド戻るか」

 

 今年も冬が来た。

 ギルドマンが暇する、退屈な季節である。

 

 

 

 レゴールのギルドマンが暇になる理由は単純だ。バロアの森の近場に魔物が出なくなる。それだけである。

 近場に出てくれれば比較的肉質も良い獲物がゲットできるんだが、マジで遭遇率が低い。誰しも一度は冬の猟を試してはみるが、まぁ大体お察しという結果だな。獲物の居ないクソ寒い森の中をお散歩して終了ってとこだ。そこらへんは去年のブリジットと一緒にやったバロアの森探索ツアーを振り返ればだいたいあんな感じだろう。

 

 この時期はギルドマンといえど大人しいもんだ。

 家族や仲間と一緒に暖房の効いた大広間に集まって屋内作業をしたり、……というか、そればっかりだな。

 貴族だって冬の間は暇だから似たようなものだそうだ。王都に集まって社交するもの好きもいるそうだが、まぁ集団で固まって暖房をシェアするってのは変わらない。

 

 けど、同じ顔同士で毎日毎日集まってるとうんざりするものだ。

 少なくとも俺は結構うんざりする。定期的に自分だけの時間も欲しい。そりゃ人恋しいこともあるけど、それはそれなんだよな。

 

 

 

「バロアの森で数日間の野営ですか……」

「飯が無くなったら帰ってくるよ。まぁ、いつものやつさ」

 

 夏場も長期間の野営をする俺だが、わりと冬にも似たようなことをやる。

 別に獲物を狩ったりとか、採集したいものがあったりとかそういうのではない。純粋に冬の静かな森に身を置いて、ゆっくりとキャンプしたいだけなのだ。

 

「変わっていますねぇ……寒い季節ですから、くれぐれも体調には気をつけて下さいよ?」

「おう、ありがとなミレーヌさん。お土産は何が良い?」

「モングレルさんがご無事であれば、それだけで結構ですよ」

 

 特に何もいらないそうだ。無欲な人だぜミレーヌさん。

 

「あれ、モングレル先輩森に行くんスか」

「おうライナ、長期間森でちょっとな」

「何狙いっスか?」

「いや、別に何も狙ってない。ただ冬の森でゆっくり過ごすだけだよ」

「え……?」

 

 こらこら。そういう正気を疑っているような眼で人を見ちゃ駄目だぞライナ。

 

「魔物も動物もいない静かな森でな……焚き火をして、眺めて……テントの中で寝る……そういう時間を過ごすのも、なかなか良いもんだぞ?」

「……いや……何がっスか……?」

 

 残念なことに、この手の趣味はこの世界では全くと言って良いほど理解されることがない。

 なんでわざわざそんな辛い場所で辛いことを……? そんな風に思われているんだろう。実際その通りだからわからんでもないが。

 

 ……まぁ、男のロマンってやつですよ。

 

 

 

 荷物は多くても問題ない。むしろ魔物に遭遇しない分、普段使わないようなものまで持っていける。薪ストーブのセットは当然として、調理器具、調味料、念のためにリールのない釣り竿なんかも持ち込んだりしてな。完全に遊ぶつもりで行くわけよ。

 まぁ異世界とはいえ、馬鹿力があるからこその余裕とも言える。重さ測ったらこの荷物何キロあるんだろうな……ちょっと考えたくないくらいなのは確かだが。

 

「奥の方行ってみるかぁー……」

 

 大荷物を背負い、バロアの森の奥を目指す。

 このバロアの森は行けば行くほど魔物の気配が強くなるのは当然として、冬場になるとなんと奥地に進むほどに暖かくなる。冬の魔物たちは奥の暖かい場所を目指して姿を消していくわけだな。

 

 今回、さすがにそんな暖かくなるような奥地までは行かないが、その寸前くらいまでは進もうと思う。前にウルリカと泊まった第三作業小屋よりも倍近い距離がある場所だな。そこならまず間違いなく誰もいないし、静かで良いキャンプができるはずだ。

 温暖地帯は超危険な魔物とエンカウントするおそれがあるので絶対に行っちゃ駄目だゾ。

 

 

 

「お、川あんじゃん。良いな、ここにしよう」

 

 本当はやっちゃいけないことだが、俺は川沿いにテントを建てることにした。

 増水した時に流されて死ぬ危険はあるが、俺は強いので死なない。便利なのでここにする。良い子も悪い子も真似してはいけない設営だ。

 

「水も綺麗じゃん。良い所見つけたわ。次も来てえけど絶対忘れてるだろうな……」

 

 ぼやきながらテントを張り、薪ストーブを組み上げ、煙突をロープで固定する。

 背嚢の中の荷物を次々に出して配置していけば、最後には革とフレームだけになったペラッペラのリュックに……ん?

 

「その硬さ、我が友チャクラムではないか」

 

 リュックを綺麗に漁ったと思ったら長いこと忘れ続けてきた投擲武器を発掘した。しかも三枚ある。

 荷物の重みを受け止め続けたせいで若干撓んでるのが物悲しい。反対側に曲げ直して戻しておこう……この作業も今回の課題だな。

 

 ……まぁ、今回は特に目的もないゆっくりするだけの一人キャンプだ。

 任務でも目的があるわけでもない。冬のクソ暇な時間の一部を孤独にじっくり過ごしていくことにしよう。

 

 

 

 飯はほとんど持参してきたものだけになる。

 肉と、パンだな。パンは硬くてパサパサしているが、保存性はそこそこ良いので寒い中でなら最終日まで保つだろう。

 焚き火を作ってパンをじっくり焼き直してやれば、不思議と甘みが増して食いやすくなった……ような気がする。多分だけど。元が不味いからすげー補正が掛かってそうな感は否めない。

 

「あー、うめぇ」

 

 昆布茶を飲みながら肉をサンドしたパンを食う。まぁまぁ良い時間だ。

 欲を言えば葉物野菜も一緒に挟みたいところだが冬だしな。マトモなものはほとんどない。

 

「すっげぇ、薪取り放題」

 

 腹ごなしをしたら薪拾いだ。誰もいないのを良いことに、身体強化を自重せず辺りの木をバスバスと斬っていく。

 生木や乾燥しきっていない薪は燃料としての効率が俺の体感で三割近く落ちるが、その辺りは薪ストーブがある程度補ってくれるので良しとしよう。

 とにかく大量に斬って斬って斬りまくる。ここらへんの木材なんて人間は誰も採らないからやり放題だ。

 なんだったらログハウス建てちゃってもいいレベルだな。やらんけど。

 

「……これだけ燃料あったら風呂とか……いけるか……? いや無理か……無理だよな……?」

 

 で、一人でこう好き勝手やってると毎度のことだが、変なことを考えてしまう。

 今回の場合は、風呂だな。近くに綺麗な川があって潤沢な燃料があるのを良いことに、風呂を作ろうと企てているわけだ。

 

「……まず川に近い土にデカい穴を掘って、水を入れる。そこに木材を噛み合わせて作った樽っぽい浴槽を入れて……後は焼石を大量に投入し続けるって感じかな……いけるか……最後に簀の子とか……? いや、焼石を投入する場所をそもそも木材の柵か何かで分けておけばいいのか……」

 

 作るなら川の水も、火も、デカい石も、継ぎ足す燃料も全て近くに纏まってた方が良いだろう。……こりゃなかなか大仕事になりそうだな。けどせっかくの露天風呂だ。作ってみる価値はありやすぜ。

 

「……まぁ、とにかく伐採だな。よし、伐採しまくるか」

 

 誰からも見られていないとわかっている状況なら本気を出せる。大木の伐採でもそう手間取ることはないだろう。

 それよりは焼石用の大きめの石を拾う方が手間かもな……。

 

「上手く出来たとしても風呂上がりの寒さがぜってー地獄だなこれは」

 

 そうぼやきつつも、俺はこういう事をやってる時間が結構好きだった。

 

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