バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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 金が無い。

 俺は定期的にこんな感じで金が無くなってるが今はマジで無い。

 いざという時の貯金はあるが、俺は貯金に手を付けたら胃が痛むタイプの人間だ。収支は常にプラスでいないと俺の繊細な心はラメラーアーマーのように脆く砕け散ってしまうだろう。

 

 何かで稼がなければならない。でも今は冬だ。冬は任務がない。あっても寒くてキツい。

 ルーキーに対しては“下水道とか工事とか”って言ったけど、俺だって本音で言えば臭かったりキツかったりは嫌だ。特に臭いのは無理。

 というか今の金欠がそこらへんの任務でどうにかなるレベルじゃねぇ。完成した鎧の売値で色々とどうにかしていく算段を立てていただけに現状がキツすぎる。

 

 もっと手軽に、かつ高額を稼がなきゃいけねえんだ……。

 

 手軽に……けどマッサージ店はもうやらん。ベッドのシーツが二日ほどディックバルトの匂いになるのは地獄でしかなかった。

 そういう稼ぎ方はしたくない。だからもうあれだ。あれしかない……。

 

「……アダルトグッズ……作るか……!」

 

 シモの欲望は財布の紐を緩くする。手軽な労力でかなり儲かるシノギだ。それは前回の売り上げでわかっていた。

 わかっていたが……それでも味を占めなかったのは、俺の中の自制心が働いていたからだ。

 だって嫌じゃん。アダルトグッズばかり作る職人とか噂されたくねえもん俺。

 

 ……まぁだから、あれだ。

 今回は話のネタにもしない。ひっそり作って、ひっそり売る。

 前と同じでメルクリオに委託すればどうにでもなるだろう。あいつは胡散臭い男だが口は固い商売人だ。よし。それでいこう。

 

「……でも何作りゃいいんだろうな……?」

 

 さて、方向性は決まったが……肝心の矢印の長さと太さと形については、よく考えねばならないだろう。

 “三英傑”と同じ犠牲を生まないためにも、可能な限り……。

 

 

 

 さて。実を言うと俺はあまり大人のオモチャに詳しくない。

 いや嘘吐いたかもしれん。何を以て詳しいのか詳しくないのかって話になってくるからあまり軽々しくは言えないんだが、要するに知識としてはあるけど自分ではほぼ使ったことがないってのが正しいだろう。

 前世はそんなオモチャを使うようなプレイとかしてなかったし……男なら誰もが持っているレベルの興味[※要出典]で調べた範囲の知識でしかそういうアダルトグッズを知らないんだ。

 

 いやまぁ大体は知ってるよ? 形とか用途とかは……けどそれを直に見たことや触ったことがあるかっつーとあれなんでね……。

 だから前回作ったあのアレ、繰り返し使えるタイプのモングレルスティックも正直あんまり自信がない。知識として前立腺は知ってるけど自分でブッピガァンしたことねぇもん。当然だが購入者のレビューも評価もわからない。いや、仮に聞けたとしても絶対聞きたくはないんだが……。

 

 だから今回は、知識としてうろ覚えでもまず外さないであろうタイプのグッズを作ろうと思う。

 

 

 

「ホーンウルフ……正直お前には申し訳ないと思っている」

 

 さて、今回使う材料は前と同じホーンウルフの角。

 適度な太さと長さ、そしてギュッと詰まった撥水性の生地。いかがわしいグッズを作るのに最適な魔物素材だ。

 これそのものは値が張るが、俺はこのホーンウルフの角を幾つか部屋にストックしている。なのでまぁあれよ。まだ幾つか作れるわけよ。

 で、肝心の作る物ですが……。

 

「まぁ、安牌だしな……」

 

 今回はもう完全ドストレートに俺のモングレルを作ることにした。

 前は尻用のこう……グルッとなってる形だったから真のモングレルではなかったのだ。今回は女性用なので究極完全体グレートモングレルになるわけだな。

 当然状態はプチモングレルではない。朝になると時々見られるタイプのモングレルだ。

 

 ……俺はこいつを少なくともメルクリオには見せなきゃいけないわけか……?

 

 ……まぁ、まぁまぁ。

 金のためだ。仕方ない……。鎧をちまちま作る労力に比べりゃこの程度なんでもねえよ……へへ……。

 

「まぁ、今回は他にも作るわけだが……」

 

 究極完全体グレートモングレルは良い。こっちはこっちで三個作るとしてだ。

 他にも作りやすい変わり種のアイテムも必要だろうってことで、スキマ時間にもう一品作ることにした。

 

 それがこれです。はい、ホーンウルフの端材で作ったボール型のアイテム。それがいくつかある。

 ホーンウルフの材料でいかがわしい道具を作る際、どうしても角の先が端材になるんだよな。ここの太い部分はまだ何かに使えるだろうってことで、やや楕円形のボールに加工してあったのだ。

 この楕円形のボールに細めの穴を開けてな。頑丈な革紐を通して……六個分連結すると……。

 

「よし出来た。なんか……尻に入れるやつ……!」

 

 三本分まとまってあればスマホやカメラに使えるグニャグニャ動かせる三脚かな? ってなるかもしれんけど、これ一本分だともう完全にアダルトグッズだな……。

 使ったことも当然使われたこともないけど、結構道具系としてはメジャー? なんかな……わからんけど……。

 

 紐は錆びないし腐ることもない衛生的な素材になってるからまぁ害はないだろう。後はちゃんと綺麗に手入れすれば変な病気になることもまぁ……ないだろ、多分。

 

「……何度作ってもこういうの、虚しくなるな……」

 

 端材の関係上こっちは一個しか作れなかったが、まぁ余りで作ったやつだし良いだろう。

 あとはこいつらをメルクリオに高値で捌いてもらうだけだ……。

 

 

 

「お、モングレルの旦那……それは新商品かい。なるほど、そいつが新しい調理器具ってわけだ」

「オイ。わかってて言ってるだろ」

「はははは。なに、軽い冗談じゃないか。……いやしかし、あれだね。いかがわしい道具は売れるからありがたいが……今回はまた随分と真っ直ぐな形できたね」

「ああ。用途は見た目通りだ。値段は……メルクリオの判断でなるべく高くして売ってくれ。金欠で困ってるんだ」

 

 黒靄市場で露天をやってるメルクリオは、もう包帯も外れて元気そうな姿でやっている。特にあれ以降はトラブルに巻き込まれている様子もなさそうだ。良かった良かった。

 

「よーしきた。任せてくれ旦那、こいつは人気商品だ。よその店が木製で出してるとこもあったが、この材質はきっと他にはねぇ。すぐに結果を出して見せるよ。楽しみにしてくれ」

「任せたぞ……俺の冬場の飲み歩き生活が懸かってるんだ。ああ、こっちの玉が連結してるのは尻用な」

「うおお……こんなの入れるのか。まるで鶏みたいじゃねぇか」

「意外と材料費と加工が面倒くさいから、高めでも良いと思うぞ」

 

 端材から玉を作るのと穴あけが面倒だった。あと紐もわりとコスト高かったな。

 俺の部屋に旋盤モドキがあったから辛うじて楕円には出来たけど、これが真球に近いとちょっと……だいぶ作るのキツいだろうな。専用の工具が必要になるだろう。手作業で球体を作るのは難しいし割に合わん。まぁ楕円でも大丈夫だろ。可能な限り球には近づけたし……。

 

「なるほどなるほど……よっしゃ。良いねぇモングレルの旦那。黒靄市場らしい品揃えになってきた。俺ぁこういう店をやりたかったんだ」

「ええ……? お前の目指す商売人のビジョンが全くわからねぇ……」

「普通の商品も当然大事なんだけどな。やっぱこういうちょっと買うには後ろ暗くなるやつもあったほうが楽しいわけよ。わからないか? ……わからなそうだな旦那は」

「うーん、まぁメルクリオが楽しいなら良かったぜ……」

 

 共感はできないけど良かったねとしか。

 

「じゃ、また近いうちに寄ってくれよ。今回の商品はすぐに結果が出るだろうからさ」

「本当かぁ? まぁ金欠だからありがてぇわ。楽しみにしてるぜ、メルクリオ」

「はいよぉー」

 

 そんなわけで、俺はいかがわしい道具の販売をメルクリオに委託したのだった。

 

 

 

 それから数日は、地味な仕事と作業ばかりである。

 都市清掃を受注して、伐採の警備任務をやって、その後の一日はギルドの修練場でアイアンクラスの昇級試験を見ながらエール飲んだりして楽しんでいた。いつも通りの日常だ。

 

 レゴールの広場では、伯爵が用意した“翌年の標語”を予想し当てるという懸賞があったので参加したりもしたな。

 標語は一単語らしいので無難に“繁栄”で応募したけど、結果はどうなるやら。的中したらちょっとしたお金と酒が貰えるそうだが……俺は前年も外しているので自信は全く無い。ちなみに去年は“整然”だった。わからんて。ここ数年の伯爵の出す標語が変化球すぎてつらい。

 

 

 

 と、まぁそういう具合で時間を潰して、ある日思い出したようにメルクリオの露天に足を運んだわけだが……。

 

「全部売れたぜ、モングレルの旦那」

「マジかよ」

 

 究極完全体グレートモングレル三体といかがわしいビーズ一本はすぐに売り切れたようだ。

 マジでこの街の性欲が大丈夫なのか心配になってくる。冒険心ありすぎだろ……。

 

「はい、これが売上金だ……欲張った値段設定にしたけど、客は目の色変えて買ってったぜ」

「うおおお……すげぇ。エールに氷を入れて飲めるじゃねえか……」

「冬に氷かい? また酔狂なこと考えるねぇ……まぁ今回も商品が商品だから、客の情報については詳しいことは言えねえ。そこのところは商売人として、な」

「ああわかってる。俺も別に詳しくは聞きたくはないからな。特に男の話なんて聞きたくない」

 

 そういう意味じゃ前回の夜のモングレルスティックはアレだったな……。男用だし……。

 

「まぁこれだけなら話してもいいかな。今回の客はみんな女だったよ。若い子も居たし、そこそこの歳の人もいた。男じゃなくて良かったな、モングレルの旦那」

「相槌に困るなそれ」

「あ、そうそう。客の一人は前回のいかがわしいやつを買った女だったよ。太客が出来たねぇ、旦那」

「マジか……やべぇなレゴール……やっぱ娼婦か……? 娼婦だよな……どこかの店で使ってるんだろうか……」

「製作者冥利に尽きるかい?」

「いやーコメントに困るわ……俺はどんなリアクションを取れば良いんだ……」

 

 色街とか娼館は全然行かないからな。どんな店でどんなお楽しみサービスがあるのかも俺には全くわからん。

 仮にどこかの店で俺の作ったものが使われているのだとしたら、俺の望みはひとつだけ。

 

 壊れたと思ったらすぐに使用を中止してほしい。怪我の元になるからな。

 そして壊れても俺は修理を受け付けない。速やかに捨ててくれ……。

 ただ、それだけだ……。

 

 

 

「モングレルの旦那、思い切ってこの手の道具を量産する店を立ち上げてみるってのはどうだい?」

「絶対に嫌だ」

「そうかぁー……もったいねぇなぁ……」

 





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いつも「バスタード・ソードマン」を応援していただき、ありがとうございます。

これからもどうぞよろしくお願い致します。


( *・∀・)*・∀・)*・∀・)ホクホク…
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