バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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リュート弾きと尋ね人

 

 まとまった収入もあり、俺の生活水準は保たれた。

 おかげで市場巡りもできるようになったし、尽きかけていたスパイスやヤツデコンブも補充できた。まぁそのせいで残金が残り半分以下になってしまったが、このくらいあればなんとか……仕事やりつつ生活すりゃどうにでもなるだろう。

 

 この街のどこかで俺の分身を象った道具が夜な夜な活躍していると思うと虚しさと悲しさに襲われるが、まぁまぁ……クオリティはどうあれ良くある玩具ではあるしな。世の中の需要を満たせたのだから立派な商売だったと納得しておこう。

 

 

 

「ククク……さぁ、俺はここでピンを進めるぜ。くらえモングレル、リバーシだ!」

「くっ……! こっちのを取られた上に塗りつぶして来やがったか……ミルコ、なかなかのウデマエだぜ……」

「フッ……モングレルもその程度じゃねえだろう? こいよ、何度だって逆転してやるぜ……!」

 

 今、俺はギルドの酒場でミルコとボードゲームに興じていた。

 リバーシの盤面にムーンボードの駒を並べた合体ゲームである。

 

「……なぁミルコ、このゲームって終わりあるか?」

「ククク……相手のピンを取るたびに盤面が空くから一向に終わらんな……」

「最終的にお互いのピンを取ってリバーシだけになる気がするぞ……」

 

 しかしこのゲーム、ルールがよくわからない。

 そもそも二人してムーンボードのルールをあまりよくわかっていないので、ゲームの進行がほぼノリだ。

 そしてリバーシのひっくり返す効果によって何度もピンが壊滅する。

 今は酒を二杯飲んでるから辛うじて楽しめてるけど、シラフだとクソゲー過ぎてやってないぞこれ。

 

「お前たちよく飽きないなぁそれ」

「バルガーもやるか? 俺の貢献度を払って借りたゲームだぞ」

「やらねえって。俺こういう盤上遊戯あまり好きじゃないからな」

「年取ってくると頭使う遊びがしんどくなってくるもんな」

「モングレル、口の利き方には気を付けろよ。年寄りは短気だからな」

 

 同じテーブルで飲んでいるバルガーはダラダラとリュートを弾いている。

 最近楽器屋で買ったものらしい。が、バルガーはこれまで弦楽器をやったことはないようで、初歩の初歩からの練習中って感じだな。

 弦を押さえて狙った音を出すところからのスタートだ。教えてくれる人が居ないとこの手の趣味はマジで頭打ちになるから大変そうだ。

 

「フゥン……よしバルガー、あれを弾いてくれないか。“月明かりの妖精”」

「馬鹿野郎ミルコ、俺がそんな難しい曲弾けそうに見えんのか。今これだけで既に手が攣りそうなんだぞ」

「まだまだ基礎練だな。けど一体どういう風の吹き回しなんだ? その歳で楽器を始める奴なんて少ないだろうに」

「ぁあ? ただの趣味だよ。一度弾いてみたかっただけだ」

 

 なるほどな。

 ……まぁ、わかるぜ。俺も一度はバイオリンとか弾いてみたかったしな。今となっちゃもう無理な願望になっちまったが……こういう趣味は思い立ったが吉日というか、やれる時にやった方が良いもんだ。もっと言えば若い頃のが良いんだが。

 

「そういやモングレルはリュート弾けたよな。ちょっと演奏してみろよ、なんでも良いから」

「えー……まぁ良いか。暇だし」

「フフフ……じゃあこのゲームは俺の勝ちってことだな」

「引き分けに決まってんだろ。いやどうでもいいけど」

 

 バルガーからリュートを受け取り、胸の前に抱えて弦の調子を確かめる。

 ……うーん、これで良いのかどうかわからん。絶対音感なんてねーから調律なんか出来ねえぞ。

 まぁ俺の部屋に置いてあるリュートも似たようなもんだし、別に良いか。適当で。

 

「おや、モングレルが演奏するのかい。楽しみだね」

「弾けるんですか……意外ですね」

「無様な演奏を聴かせないでくださいね!」

「ま、まぁまぁ。普通に聞きましょう、皆さん」

 

 俺がリュートを構えると珍しく酒場にいた“若木の杖”達が近寄って来た。

 うーん、完全に見世物だな。何を弾こうか。

 

「モングレル、前やったあの、なんだ? “赤のラグナル”とかいうのはやめろよな。あれ聴くと笑っちまう」

「えー、あれ駄目なのかよ」

「ククク……良いよなアレ。演奏は寂しいが……」

「普通に演奏しろ、演奏!」

「……なんですかその曲。逆に気になりますね……」

「お気に入りの曲なんだけどな」

 

 まぁリュートを貸してくれたのはバルガーだし、こいつの希望を叶えてやろう。じゃあ別の曲で……そうだな。

 

「えー……この曲は……俺の故郷で歌われていたような歌われていなかったような曲です。千人に聞かせれば一人は知っていたような大人気の曲でした……」

「知名度低いなぁ」

「それでは聞いてください。“三人のおじさん”」

「なんですかその曲名は!」

 

 ジャーンジャーンと弦を鳴らしたその時、ギルドの入り口が開いた。

 

「……ええと、どうも」

 

 見ない顔だった。

 黒髪ショートの中性的な雰囲気の青年で、腰にはショートソードを二本装備している。

 装いは防寒仕様のしっかりした革系で、新顔ではあってもルーキーのような甘っちょろい雰囲気はない。他の所から流れてきたギルドマンだろうか。

 首にはブロンズ2の認識票が引っかかっていた。

 

「あの……すみません」

「はい。御用件はなんでしょう?」

「ここはレゴール支部ですよね。……ウルフリックというギルドマンを探しているのですが……」

「ウルフリックさんですか? 少々お待ちください……ええと……」

 

 どうやら尋ね人らしい。

 この季節にわざわざご苦労なことだ。冬の護衛か何かだろうか。

 冬場にノロノロと街道を歩くのはキツいんだよな……。

 

「モングレル! それより演奏しないんですか!」

「まだおじさんが一人も出てきてねーぞ」

「誰なんだ三人のおじさん」

「結論から言うと大陸と普通の人とパンサーなんだが、ちょっと気勢を削がれちまったな……すんませーん、エールもう一杯!」

「音を二回鳴らしただけで仕事した気になるんじゃねぇ!」

 

 ガヤガヤとうるさくなる酒場。わかったわかった、ちゃんと演奏するから。

 

「すみません。こちらにウルフリックという方はいませんね……最近別の支部で登録されている方ですと、こちらでも把握できていないことがありますので……」

「ええ? 最近……そんなことはないんだけどなぁ……あ、じゃあウルリカという子は?」

「あっ、ウルリカさんでしたか! ええ、でしたら知ってますよ」

「ぁあ、良かった……そうか、まだウルリカで……伝言、というか手紙を預かってもらえますか。レオで通じると思うので」

 

 おや? ウルリカの知り合いか何かだったか。

 にしては見たことがない……ははーん、さてはあれだな。どこかで誑かしてきた男だな。

 

「待てモングレル。演奏ストップだ……」

「ちょっ、ミルコ!? これから始まるところだったでしょう!?」

「あの小僧……どうやら我々のウルリカに色目を使っているようだ……許せん」

「我々のウルリカってなんだよ」

「ミルコお前そういうこと言ってるとまた奥さんに家締め出されるぞ」

「……」

「黙った」

「最初から黙っててほしかったな……」

 

 あ、そうだ。FFのOP曲をひたすら弾いていよう。

 懐かしいぜこの繰り返し……。

 

「三人のおじさんって感じしないぞ」

「こんな神秘的なおじさんいるか?」

「あ、これ違う曲やってるから」

「なんだよ! 良い感じの旋律だけども!」

 

 だってあれだし……俺カラオケで歌うタイミングで店員入ってくると歌えなくなるタイプの人間だし……知らない奴がギルドに居るとちょっと恥ずいじゃん……? 

 

「ああそれでしたら、あちらのモングレルさんに。はい、リュートを抱えた方ですね。モングレルさんに聞けば詳しく教えてくれると思いますよ。ウルリカさんとは何度か合同任務も受けてますから」

「……へえ」

 

 あ、なんか受付にいた青年がこっち来た。

 おいおい、プレリュードすら弾かせてもらえねぇのか俺は。

 

「君がモングレルさん?」

「ああ、レゴールの売れないリュート弾き、独奏のモングレルと言えば俺のことだ」

「それ俺のリュートな。こいつはただの剣士だ。異名も嘘だぞ」

「……僕の名前はレオ。ドライデン支部から来たブロンズ2のギルドマンだよ。剣士をやってる」

「おお、同じだな。話はさっき聞いてたよ。ウルリカを探してるんだって?」

「おいモングレル、リュート返せ。俺が弾く」

「三人のおじさんって結局誰だったんだ……」

 

 リュートを奪われたので、仕方ない。俺は込み入った話もあるだろうなってことで、少し離れたテーブルに移動した。

 

 チラッと聞こえたウルフリックという名前もそうだし、あまり聞かれるべきじゃないだろうと思ったからだ。

 

「……僕とウルリカは同郷でね。同い年で、よく遊んでいたんだ」

「おー、そうだったのか」

「ウルリカは……ここではウルリカとしか名乗っていないんだね」

「……あいつ、本名ウルフリックなの? 故郷じゃ普通に男の名前なんだな……似合わねぇけど……上級王みてぇだ」

「その感じだと、まだウルリカはそういう格好を?」

「どんな格好か知らないけど、そうだな。ウルフリックよりはウルリカが似合う見た目だと思うぜ。本人は別に隠してないが、周りのほとんどは女だと思ってる。お前があいつをどう思ってるか知らないが、まぁウルリカに合わせてやってくれ。好んでバレたくもないだろうしな」

 

 レオは眉間を揉んで、溜息を吐き出した。

 

「……もう代官は死んだのになぁ。そんなことする必要もないのに……あの子は……」

「ウルリカは“アルテミス”っつーパーティーに所属してる。今は貴族の護衛に出てるらしくて、帰ってくるのは明後日くらいじゃねーかな。同じパーティーのライナはそう言ってたぜ」

「“アルテミス”か……手紙では聞いてたけど、本当だったんだ。すごいな、ウルリカは……」

 

 しばらくレオは悩むように頬杖をついていたが、やがて背筋を伸ばした。

 

「ありがとう、モングレルさん。また二日後、ギルドに立ち寄ってみることにするよ」

「おう、何か知らんけど役に立てたなら良かった」

 

 なかなかしっかりした美少年だ。女ギルドマンからはモテそうだな。

 装備したショートソードがバスタードソードだったら言うことなしだったが、まだそこまでは求められん。

 もっと強くなれよ、レオとやら。

 

「だから、もっと弦の数を増やして……二倍位にしてみると便利だと思うんです! あ、でも手が届かなくなるので双胴にして……どうでしょう、ヴァンダールさん!」

「ええ……どうと言われましてもねぇ。難しそうに思えますけど……」

 

 ……モモ、ツインネックリュートでも開発するつもりか? 

 さすがの俺でもそれは買わんぞ。

 

 

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