バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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第一回女だらけの猥談インタビュー

 

 ロングサイズの薪を暖炉に放り込み、暖房を強くする。

 誰かがギルドに出入りする度にこれだ。冬場だけでも入り口を二層構造にした方が良いんじゃねーのって思うんだが、思うだけ。場所も取るし不便だしな。

 

「あーあー……男抱きてぇー……」

 

 念のために言わせてもらいたい。これは俺のセリフではない。

 テーブルに突っ伏してるアレクトラのいつもの独り言だ。

 

 “収穫の剣”副団長アレクトラ。

 パーティーの数少ない女ギルドマンであり、ゴールド1のめちゃつよ剣士である。

 普段は主にディックバルトと一緒に高難度の討伐依頼を熟しており、普通なら避けるような魔物相手でもガンガン闘いを挑んでいく女傑だ。

 副団長ではあるんだが、パーティーの取りまとめに関してはほとんどの実務を彼女がやっている。ディックバルトがほとんどクランハウスにいないのだから仕方ない。任務以外はずっと娼館にいるのだからそりゃそうではあるが。

 

 ボサボサの赤髪と日に焼けた肌。そして女とは思えない長身と筋肉。かといって男みたいかというと全くそんなことはなく、出るとこは出ているかなり女らしい体格だ。俺から見ても結構いい女だなって見た目をしている、のだが……。

 

 臭い。体臭がなんかもう、ふつーに臭い。

 そこらへんにいる男ギルドマンと同じような匂いがする。多分水浴びもたまにしかやってないんだろう。

 そして脇毛がモサッとしてる。

 残念だぜアレクトラ。お前とは深酒をしたとしても一夜の過ちを犯すこともないだろう。

 

 33歳独身。同じ“収穫の剣”のメンバーからも女扱いされていない残念な姐御である。

 

「おいそこのモングレル。なんだそのツラは。溜まってんのか?」

「マジでそういうとこなんだよな」

「童貞か? アタシが筆下ろししてやるよ」

「そんなに欲求不満ならディックバルトに相手してもらえよ」

「嫌だよ……いや、アタシもすげー我慢できなかった時に相手してもらおうとしたことはあったけどさぁ」

「あったんだ……」

 

 俺の脳裏に雄叫びをあげるディックバルトの姿が浮かび上がる。

 

「ウッ、頭が」

「おいおい大丈夫かい?」

「いや、ちょっと思い出したくないことがあってな……で、ディックバルトと寝たのかよ。意外だな、そういう関係じゃないと思ってたが」

「あー、まぁアタシと団長はそういうのじゃないんだけどねぇ……」

 

 アレクトラは遠い目で天井を見上げた。

 

「アタシが誘った時には……団長、財布を取り出して料金と内容の交渉を始めたんだ……」

「うわぁ……」

「あの人どんな女相手でもタダじゃやらないんだよ……なんかそれで気持ちが萎えてさぁ……やめた……」

 

 ディックバルト……決してタダでは女を抱かない、一本筋の通った漢だ……。

 でも同じパーティーの女相手に金を出すなよ……雰囲気ってもんがあるだろ……。

 

「あなた達ねぇ……よくこの顔ぶれがいる場所でそんな話ができるわね……」

「っス。スケベ話はよくないっス。モモちゃんもいるのに」

「私は大人だから大丈夫ですけど!? あ、でも好きではないです、はい」

 

 隣のテーブルにはシーナがいる。というか、アルテミスの主要活動メンバーほか、女所帯が大体揃っていた。

 シーナ、ナスターシャ、ライナ、ウルリカ。そして隣のテーブルには若木のサリー、ミセリナ、モモ、あと名前の知らん目元が隠れた子……。

 

 他のテーブルも似た感じだ。普段は男の多さに辟易してる女ギルドマンも珍しく酒場で飲んでいる。

 

 今日のギルドの酒場はいつになく女が多い。何故か。

 それは、ついこの前オープンした“砂漠の美女亭”でなんかこう、ハレンチな特別ダンスイベントをやっているからだ。

 情報筋の話では“――本店からの高ランクの踊り子がやってきて、普段より割安で相手もしてくれる。この機を逃しては男が廃る”ということだそうだ。

 

 ハレンチなダンス……。もちろん俺だって興味が無いわけじゃない。

 無いわけじゃないんだが……ディックバルトを先頭にゾロゾロと色街へ向かう男たちの熱気を見てたらこう、冷めちゃってね。うん。

 まぁ良いかって感じでギルドに残ったわけだ。で、男が去ったのをいいことに女が集まってキャピキャピしてる現状ってことよ。

 

「……僕らも行った方が良かったのかな?」

「えー? レオも見に行きたかったのー? 女の人のスケベなダンス」

「いや、別にそんなんじゃないよ、ウルリカ。ただ単に、ギルドマンの付き合いとしてさ。僕はまだ日が浅いからさ」

「あはは、いーよいーよそんなの。行きたくなかったら無理して付き合うことないってば。お金も結構かかるらしいからねー」

 

 あ、そういやレオもいたのか。……女に囲まれてても全く居づらそうにしていない。主人公みてぇな胆力してやがるぜ……。

 

「くっそー……男抱きたい……抱かれたいぃ……良い人と結婚したい……」

 

 おい、そこの三十路過ぎ。アレクトラ。お前一人だけキャピキャピどころか生臭くて重苦しいオーラ放ってるんだよ。もっと女らしくしろや。ウルリカを見習え。

 

「ふむ、結婚ね。アレクトラは結婚願望があるわけだ」

「サリー……どうやったら男と結婚できるんだぁ……?」

「さぁ、僕としては成り行きとしか……」

 

 マジでなんでこいつ結婚できたんだろうな……。

 

「訊く相手を間違えてますよ、アレクトラさん」

「酷いなぁ。もっと親を擁護すべきじゃないだろうか」

「あーどこかの騎士様が迎えに来てくれないかなぁー!」

 

 ……まぁ、はい。今更ですが今日のギルドはこんな感じです。

 男が少ないのを良いことに、遠慮なくガールズトークばっかやってます。

 

「結婚といえば、ナスターシャとシーナ。君たちは結婚しないのかな」

「前にも聞かれた気がするな。男と結婚などしない」

「私も御免だわ。身を固めるのも子供を作るのも……願望が無いわけじゃないけどね」

「ふぅん。仕事柄、出会いが無いってわけでもないだろうに」

「今はその時じゃないってことよ。……ちょっとナスターシャ、今はやめて」

 

 あれ? なんかナスターシャとシーナから百合百合しいオーラ出てるけど気のせいか?

 いや気のせいじゃないよな。もしかしてそういう関係だったりするのかあの二人。

 

 マジかよ……。

 

「俺も話に入れてくれよー」

「あー、なんか寂しがりやな人が来たー」

「遠慮せずにさっさとこっちに座ってれば良かったんスよ」

「ったく、今日はとことん女ばっかりの日らしいな。居づらいったらねえぜ。レオ、連れション行きたかったら一緒に行ってやるぞ」

「え、あはい」

 

 なんだよレオ。お前あんま連れションとかしないタイプか。残念だ。

 

「……いいなー、私もついていきたいなー」

「おぅい、ウルリカ! あんたはそういう無防備なとこ良くないよ! 男はあんたみたいな華奢な女ばっかり狙うんだからね! アタシのことはちっとも誘わないくせに……! それでも立ちションやってみたいってんならアタシが一緒にしてやるから! な!」

「えー、あはは……それはちょっと……」

 

 アレクトラがひでー酔っ払い方してるな。そろそろ飲み物に雪でも混ぜてやった方が良いんじゃねーか。

 

「モングレル! あんた……結婚しないのかい」

「うっわ絡まれた」

「どうなんだよぉモングレルぅ」

「ふふ、聞かれてるわよ。答えてあげたらどうなの?」

 

 シーナまで悪ノリしてきやがった。酔っ払いはまぁまぁと適当にあしらって放置が鉄板なのによぉ。

 

「結婚なんて考えてもいねーって。俺は生涯独り身で良い」

「風俗に行ってるわけでもないのにかい? 子供は欲しくないってーの? アタシは欲しいよ、五人……!」

「多いな……別に俺は女がいてもいなくても人生楽しめるっつーかだな、」

「男の子を三人産んでぇ、女の子が二人ねぇ? 名前は私が三人つけて、夫が二人分つけるのよ……ンフフフ……」

 

 いや訊いたならちゃんと最後まで聞けや!

 おめーそんなんだから男ができねーんだよ!

 

「ふむ。だが、興味深いな。モングレル、お前も一応は普通の男だろう。操を立てているというわけでもないのであれば、他の連中のように色街で欲を発散させようとはしないのか」

「ナスターシャ、突っ込んだ話をするねぇ。でも僕も気になるな」

「なんかスケベ話になってきたっス」

 

 お前らがこの話を掘り下げるのか……女にシモの話を深掘りされるとかいたたまれないってレベルじゃないんだが? これが数の暴力ってやつかい?

 

「まぁ俺だって男だしな、溜まるもんはあるしそういう衝動はあるよ。……これ本当に聴きたい?」

「はわわわ」

「モモちゃん一緒に耳塞ぐっス。スケベがうつるっス」

「私は聞きたいなー? 楽しそう」

「楽しそうだし僕も」

 

 あ、そう……。

 

「男ってのはな……誰しも見えない所で発散してるもんなんだよ……な? レオ」

「……え、僕に振るの? そんなこと言われてもなぁ……」

 

 なんだこいつ。穢れを知らない男主人公を気取りやがって……。

 

「何も風俗に行くことだけが欲望解放における唯一の手段ってわけじゃない……男は誰でもお前らの知らないところで過酷なアレをしてんだよ」

「過酷なアレってなによ……別に聞きたくはないけど」

 

 この世界にティッシュはない……だが、欲望のはけ口が無いからといって出さずにはいられない……それが男ってもんだ。

 ティッシュが無い世界でもな、男は誰もが見えないところでやってるんだよ。

 下水道に……肥溜めに……路地裏で……あるいは夜の路上で……わかるか? 街中から時々漂ってくる栗の花の匂いがよ……アレだよアレ……。

 みんなはけ口が無いなりに頑張って探してるんだよ……。

 

 ちなみに俺は森です……。

 

「やっぱり男の人って不潔ですね……! いつもいつもえっちなことばかり考えてます!」

「っスね。モングレル先輩もやっぱそうなんスね」

「おいおい結局聞いてるんじゃねーか二人とも……てかな、お前らはまだガキだからしょうがねーけどよ、それでも男のそこらへんの欲の強さをまだまだ舐めきってるぞ。男に生まれたらどいつもこいつも基本的に性欲モンスターなんだよ。特に田舎少年なんてスケベなことしか考えられないからな」

「むっ……誰しもそうじゃないと思うっス! スケベじゃない男だっているっスよ! ね? ウルリカ先輩!」

「えっ!? ええああうんまぁうんそうだよ……」

 

 そりゃそういう欲が薄い奴もいるかもしれないけどな……俺も別に特別猿みたいなリビドーは抱えてるわけじゃないけどさ。

 だが基本的に全ての男はエロマンガのオマーンに興味津々のスケヴェニンゲンよ。間違いない。

 

「ふむ……男のそういった精神性も不便なものなのだな……」

 

 ナスターシャがそうやってアカデミックに纏めてくれるおかげでなんとなく話の収まりが良いぜ……。

 

「……レオ。私達は同じパーティーだし貴方にも色々と配慮するけれど……くれぐれも同じメンバーを襲うようなことはしないように。同意なしに誰かに手を出したりしたら、問答無用で撃つから」

「ははは……その時は僕の脳天を撃ってもらって構わないので……」

 

 大した自信だなレオ少年。だが可愛いどころの女に囲まれたお前の悶々とした気持ち……はたして何ヶ月持つかな……?

 

「フヘヘヘ……それでね、娘の結婚式ではインブリウムの聖堂でね……」

 

 アレクトラ、お前はいい加減現実に戻ってこい。なに妄想を娘の結婚式まで展開し続けてるんだよ。まずはお前が結婚しろや。

 

 


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