バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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たまには宿で服作り

 

 雪の積もった後に、雨が降っている。

 窓の外は凄まじいグチャグチャ具合だ。春も近く雪解けしつつあるというこのタイミングで雨である。まぁ雪がよりさっさと溶けてくれるから良いことではあるんだけども、おかげで宿の外に出る気も溶けて無くなってしまった。

 こんな日は部屋の中でせっせと内職作業をするに限るぜ。

 

「久々に……」

 

 こういう、誰も部屋に訪ねてこないような日は発明日和だ。

 だが俺も常に発明品ばっか作っているわけではない。ケイオス卿の設計図バラまきイベントも良いが、俺個人の楽しみを満たすものづくりってのも大事なんでね。

 

「やるか……服作り……!」

 

 産業革命のずっと前であろうこの世界。

 とにかく布の値段がべらぼうに高い故に、服も相応に値が釣り上がる。

 前にやってた衣祭りのようなイベントがあれば良いが、それ以外で買うにはとにかく金がいる。

 

 だったら作ればいいだろ!

 

 というわけで、今日はクロスレザーを使った春用のシャツを作りたいと思います。

 

 

 

 クロスレザーは、革である。レザークロスではない。クロスレザー。布みたいな革だな。

 なんか特殊な羊から得られる皮らしく、この世界における上等な服はこの革で作られることが多いのだ。もちろん結構高い材料である。チャージディアの革よりもする程度には高い。

 

 性質としては、クロスというだけあって布っぽい。皮のくせして通気性がある不思議な素材だ。これで作った服はなかなか快適なので、俺も何着か作って持っている。

 特に若い羊のものだとペラペラで紙っぽさが出てくるので、夏物なんかだと子羊の皮が使われたりしてるんじゃないかな。

 表面をよくヤスリでザリザリしたりドムドム叩いたりすれば皮っぽさが消えて布っぽい質感になるので、そうなるとぱっと見では原材料がわからなくなる。

 

「利便性全ツッパでも良いが、やっぱある程度格好良くないとな」

 

 まぁ俺の思う格好良さがこの世界と合致するかっていうとそうでもなかったりするんだが、そうならそうでも構わない。俺自身が着てて満足できる仕上がりであることが大事なんだ。

 

「このワイシャツは上手くいくかねぇ」

 

 とはいえ、俺も服作りなんて素人だしな。格好良く作るぜ! なんて意気込んでいても仕上がりはまぁ素人が作ったようなものになってしまう。そりゃそうだ。

 けど素人なりに現代の服の構造をもやもやと思い出しながら作ってみると、この世界の既製品よりは便利に、かつ快適に仕上がってくれるのだから不思議だ。やはり先人の知識は凄い。

 

「あ、ここのポケットもうちょいデカくするか……」

 

 ついでに作ってる途中で素人考えの独自性を追加しちゃうぜぇー。

 まー見た目を取り繕うっつっても俺もギルドマンだからよ、着てるものはやっぱ便利な方が良いんだわ。その点ポケットはいくら付いていても良い。もっと盛るペコ……。

 

「……そういやあれだな。魔物除けの灰を仕込んだ服が人気なんだっけな」

 

 ちょっと前に聞いた話なのだが、ギルドマンのような魔物と対峙する人の装備として魔物除けの香の灰を服に仕込んでおくという装備があった。

 使い終わった後の灰を内臓の皮に包んで蜜蝋で封をした……チューブ状? みたいなのを装備の出っ張りとか、噛まれやすい箇所に縫い付けておくんだ。

 運悪く相手に噛まれた時、皮が破れて灰が漏れ出し、魔物を追い払えるのだという。反応装甲タイプの熊スプレーみたいなもんだな。手を食いちぎられるかどうかってところで生存率を上げられるのは普通に良いことだと思う。

 

 巷では結構こういう発明品がよく出てくる。これもレゴールの良いところだな。

 ケイオス卿の後追いだとか言われてるけど、面白いもんは面白い。わりと俺でも驚いたり感心するような物が生まれてるからなかなか飽きないぜ。

 

「しかしチューブを仕込むにはシャツじゃ無理だな……」

 

 春くらいになると俺はシャツの上に革のベストを着ることが多いが、ベストにも仕込むような場所がない。

 だから仕込むとしたら手袋の甲の部分とか……靴の目立たない場所とかになるんだろうけども……うーむ。まぁ別に無理に取り入れる必要はないか。どうせ俺は負けないし。噛まれ……はするかもしれんけどそんなのぶん殴って引っ剥がせばええねん。

 

「ふむ。良いんじゃないか」

 

 いつもは腰の辺りが野暮ったい感じになっていたが、今回のシャツはなかなか良い感じのシルエットになりそうな気がする。

 毎度毎度型紙(ボアの革製)を微調整してて良かったぜ。今回ので決定版になってくれるだろうか。

 

 仮縫いはこれで良しだな。あとはちまちま本縫いしていくかー。

 くそ、ミシン……まぁいいや、ミシンがあってもどうせ俺には扱えない。

 

「……雨すげぇなぁ」

 

 窓の外で雨足が強くなってきた。こりゃ雪もボドボドになるだろうな。

 その後で春が来るかどうかは、気温と相談ってとこか。また寒くなれば冬延長戦って感じだが……まぁそれも長くは続かないだろう。

 

 ……傘は無理。ポンチョはある。雨具は発明っていうほどの発明にはならんな。

 

 それよりは服か。

 でも詳しくないんだよな、服……。織り機もこの世界にあるやつより複雑なのなんかわからんし。ミシンは構造もよくわかんねーし。

 ……アイロンかなぁ。アイロン……。滑らかな鉄板を焼き石だか炭だかで熱し、服を平らにする……うん、これならできそうではあるが……既にあったりしてもおかしくはないな。貴族の持ち物だろうしわからん。

 いや、あっても別に爆発的には売れないか。売れたところでこの国の何かが劇的に変わるってわけでもない。

 

 ……まぁ一番は靴かな。靴の性能が上がればそれだけで移動の効率も運動能力も上がる。

 今俺が履いている自作ブーツの構造を広めればそれだけで人の動きやすさが変わってくるはず。

 ……いや、この世界の履物もどっこいどっこいってとこか。うーむ。難しい。

 

「いッて、うわ」

 

 なんて考え事をしてたら針で指刺した。うおお、痛い痛い。軟膏どこだ軟膏。

 ペロッ……うん、血の味だわ。

 

「血、血ねぇ……血液……輸血……」

 

 血液型の概念があるかどうかはわからない。あるとしたら簡単な遠心分離機の概念を説明すればとりあえずの血液型の分類は可能か。

 O型の見分け方……はいいとして、輸血の詳しい禁忌なんて知らねえよ俺。あんまり適当なこと言って悲劇を起こしたくはないな。

 

 いやそもそも冷蔵技術がなー。チューブとか空洞付きの極細針なんてのも夢のまた夢だし……輸血は微妙だな。やめておこう。国の抱えるヒーラーの数を増やす教育制度を整えた方が色々と効果的な気がする。あとは止血法。

 

「包帯……みたいなものはあるしな」

 

 通常の縦横で組み上げた糸で作った布は、縦と横方向にはほぼ伸びない。繊維方向がそのままだからな。

 しかしこの布を斜めにして角を持つように引っ張るとある程度の伸縮性を発揮する。こういうものが包帯とか和服の帯のような、ちょっと伸縮性のある布地として活用できる。

 けどこの世界では普通にある。マジで布系でこの世界に勝てる気がしない。

 駄目だ。苦手分野からはさっさと離れよう。

 

「くそー……やっぱ科学者だよ。科学者もっと増えてくれ……」

 

 欲しいものは色々ある。作りたい物も沢山ある。

 だがそれを生み出すための基礎的なものが色々と足りてないんだ。この世界は。

 

 そしてそれは一朝一夕では生まれない。

 ある程度は原始的な閃きと制作によって作り出すこともできるだろうが、やっぱり体系化された科学が無いと行き詰まるわ。教育ゥウウ……。

 

 ……やっぱり活版印刷……。

 

 いやー、だめだな。やめとこう。活版印刷はやめておこう。

 俺に活版印刷の影響力を制御できるわけがない。ムリムリ。レゴール伯爵でも持て余すだろ絶対に。つか王都が敵に回りかねん。

 出来てもガリ版とかかなぁ……うーむ……。

 

 世界は住みやすく便利にしたいもんだけどな……身近な人たちの生活が嫌な感じで荒れて欲しくはねえわ、やっぱ……。

 

「ふぅ……よし、できた」

 

 考え事しながら作業していると、どうにか大雑把な部分の縫い上げは完了した。

 これから更に細かく縫って強度を上げていく必要はあるが、ひとまずこれで着てみるのもありだろう。

 

「さてさて……おお、悪くない」

 

 姿見がないのが悔やまれるが、着心地は悪くない。まさにシャツって感じだ。通気性も良い。冬にこれだけ着るのはなかなか肌寒いぜ。

 

「よし、じゃあこれで完成ってことで……っておいおい、これポケットの中にボタン閉じ込められちまったじゃねーかよ。どうすんだこれ……うっわ、使いづら……!」

 

 結局、俺は最終的にポケットの一つを取り外すことにした。

 そのせいで生地にちょっぴり針の穴が出来てしまったが……まぁヤスリで上からゴシゴシしておいたし、目立ちはしないだろう。多分。

 

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