バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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置き去りの禿鷲

 

「モングレル先輩、おはざっス」

「おうライナおはよう。今日はよろしく頼むな」

「うっス。まぁ春前のあまり数もいない時期なんで、あまり肩肘張らずに気軽が良いスよ」

「後ろ向きだなぁオイ。大物狙っていこうぜ」

「大物っスかぁ。いたら良いんスけどねぇ」

 

 今日はライナと一緒に鳥撃ちをしに、バロアの森へ行く予定だ。

 春らしくなる手前。歩けはするけどまだ寒くて本格的な活動は無理って感じの季節である。ポツポツとバロアの森へ潜るギルドマンもいるが、依然として健在な寒さとしょっぺえ獲物たちを確認して、トボトボ帰ってくる事が多い。

 けどそれを馬鹿な真似だと笑ってやることはできない。季節の境目を知らせてくれるのは、そうして一足先に潮目を狙って潜るチャレンジャーがいるからこそだからな。

 

「モングレル先輩、弓使うの久々スけど大丈夫なんスか」

「おー大丈夫大丈夫。矢も何本かあるし、今日はチャクラムも持ってきた。いざとなればこいつを投げるさ」

「そんなので鳥を狩るのは聞いたことないっス! ……そもそも上手く飛ばせるんスか……?」

「弓よりは真っ直ぐ飛ぶ」

「うーん……モングレル先輩だからなんとも言えないっス……」

 

 今日の狙いはセディバードという鳥らしい。

 水辺に暮らす鳥で、一年中川の貝類を食べて過ごしているという。サイズは鳩と同じくらいで、見た目は燕に近いが色合いは白っぽく、派手だ。俺も何度か見た事がある。

 

 燕っぽい見た目してるくせに特別動きが速いわけではなく、狙おうと思えば俺のチャクラムでも付け入る隙は十分あるそうだ。まぁその前になるべく弓使ってみるけどな。

 

「おーい、すいませーん、森行きの運搬車ってもう出ますかー」

「んー? あーギルドマンの。俺んとこのはもうすぐ出るよぉー。けどまだ寒いしねぇ、魔物はなんもおらんでしょうや」

「大丈夫大丈夫、小物獲りにいくだけなんで」

 

 馬車駅で森行きの馬車を捕まえて、荷台に乗せてもらう。

 ギルドマンの相乗りは護衛にもなるが、かといって全部が全部歓迎されるわけではない。荷台がいっぱいなこともあるだろうし、護衛なんかいらないと思ってる人も普通にいるからな。

 だから見知らぬ御者相手なら心象を悪くする前に小銭を渡して乗せてもらうのが一番だ。

 今回は伐採用で行きの荷台もガラガラなもんだから、快く乗せてもらえた。一緒にライナがいたってのもあるだろうな。

 

「お嬢ちゃんもギルドマンかい。お!? なんだ銀色だったの。へぇー若いのにすごいねぇ……おい兄ちゃん負けてるよ! もっとしっかりせんとな!」

「ぐえ」

 

 威勢のいいおっさんに背中をバシバシ叩かれる。

 まぁライナと並んでて俺のがランク下ってのはまぁね、ちょっと情けなく見られるのはわかるわ。

 

「いや、私なんてまだまだっス。半人前っス」

「よくできた子だねぇ! おい!」

「ははは、いや本当に優秀な、痛、痛いっす、痛いんでマジで、オフッ」

 

 これは完全に俺の偏見だが、工房にいる職人なんかよりも、こういう野外で働くおっさんの方が頑固だったり威勢が良かったりして怖いです。

 

 

 

「今日はこっから入って行くかー」

「っス。川に行き当たったら沿うように歩けば多分見つかるはずっス」

 

 馬車から降りて森の入り口に到着。ここからのんびりと探していこう。

 

「なんだっけ、たまに綺麗な石ころが入ってるんだっけ」

「虹色真珠っスね。セディバードが食べた貝殻の欠片が内臓に集まって石になったやつっス。それ自体は珍しくはないんスけど、綺麗な奴が高いんスよ」

「ほー。いいの見つけたら高値で売れるかな」

「どうなんスかねぇ。あんまり聞いた事なくてわからないっス」

 

 それよりはセディバードの肉だな。

 貝類ばかり食べてる肉食だから美味いかどうか怪しいのだが、ライナが言うには結構イケるとのこと。

 まぁ鳩サイズの肉なんて二人で食えばおやつみたいなノリで終わってしまうだろうが、メインは久々の森遊びってことでね。今日は楽しんでいきたいと思います。

 

「あっ」

「ん? ライナどうし……」

 

 立ち止まるライナに声をかけると同時に、森の入り口すぐのところに変な奴が立っていた。

 バロアの木に肩を預けて傾き、変にスタイリッシュな立ち方をしている。

 

 50過ぎかそこらの、爺さんに片足突っ込んだおっさんである。頭頂部は禿げてキラリと光り、その周囲を申し訳程度の白髪が寂しく囲んでいる。

 しかし全身はガッシリとしており、ただの肉体労働者とは思えない引き締まった筋肉に包まれている。

 

 それは良い。それだけならただの筋肉モリモリマッチョマンで終わるのだが、問題はそのおっさんが夏の装いレベルの薄着であることだ。

 まだ外気温は冬である。なのに薄着。しかも森の中で。

 こいつはただの筋肉モリモリマッチョマンではない。筋肉モリモリマッチョマンの変態かもしれん。

 

「やあ」

 

 うわ、声かけられた。

 

「突然ですまない。何か……火を貸してくれないか?」

「……火っスか?」

 

 おっさんの足元を見ると……そこには軽く穴の空いた木片や棒が転がっていた。

 何度も錐揉み式着火を試していた残骸だろうか。

 

「昨日から火を用意できなくてね……今にも凍え死んでしまいそうなんだ……」

 

 よく見るとおっさんは薄着でカタカタと細かく震えていた。

 ……変態かと思ったけど話の通じる変態、いや、話の通じる筋肉モリモリマッチョマンのおっさんだったようだ。

 

 

 

 俺とライナはひとまず森に潜るのをやめ、落ち葉と枝で焚き火を作った。

 着火はライナの持っていた着火用のフリントと油布である。火花をカッカッと打ち出して燃やすタイプ。こういうのもなんだかんだ楽で良いよなーと、側で見てて思う。ファイアピストンも悪くはないけど手間を考えると同じくらいかもしれんね。

 

 その後カラカラな落ち葉を燃やし、小枝を燃やし、太い奴を燃やしていく。おっさんが寒そうにしていたので景気良く大きな炎を作ってやった。

 

 やれやれ、狩りの予定が短くなりそうだな。

 

「ああ、生き返るようだ……ありがとう、二人とも。いつもは愛用の着火具を持ち歩いているのだが、今は無くてね……助かったよ」

「なんでそんな軽装で森にいたんスか? よくそんな格好で入ろうなんて思ったっスね」

「いや、私も好きでこんな格好をしているわけじゃないんだよ。……実はここに来るまでにギルドマンに護衛を頼んでいたのだが、野営中に彼らが全員、私の荷物ごと姿を消していてね。私は水場で身体を清めていた時だったから、持ち物が何も無かったんだよ」

「うわぁ……持ち逃げされたのか。そいつは災難だ。どこ所属のギルドマンです?」

 

 俺が聞くと、おっさんは力なく首を振った。

 

「ベイスンで雇ったギルドマンだけど、詳しくは知らない。“月の騎士団”と名乗っていたが、私はギルドマンの組織に詳しくないんだ。心当たりはあるかい?」

「無いっスけど……そいつら最低のクズっスね」

「俺もよそのパーティーまでは知らないな。レゴール支部のギルドで問い合わせてみよう。まぁ、そいつらが本当のパーティー名を名乗ったかどうかもわからんが……殺すつもりで置き去りにしたなら、馬鹿正直に名乗った可能性はある。辿れるかもしれないな」

 

 ギルドマンはならずものの集まりだ。

 悲しい事だが、こういった事件は珍しくはない。ブロンズ以上になっても犯罪に手を染める連中はそこそこいるのだ。だから馬車の相乗りも歓迎されなかったりするんだが……。

 

「レゴールかい? おお、レゴールはもう近くに?」

「近くも何も、すぐそばですよ」

「おお……私の目的地もレゴールなんだ。どうだろう、よければ私をレゴールまで送って行ってはもらえないだろうか? ……あ、けどもうお金もないな……」

「いや、構わないよ。俺らと一緒についてくりゃ良いだけさ。金なんかいらない。で、良いよな?」

「もちろんっス! あ、お腹空いてるなら保存食でよければ渡せるっス。しばらくは暖まりながら、ごはんを食べてると良いっスよ」

 

 ライナから干し肉とナッツを受け取ると、おっさんは静かに涙を流した。

 

「……ありがとう。君たちはとても心の清らかな人達だね……うん、私はしばらくここで火に当たらせてもらうよ。まだまだ昨日の寒さが抜けないみたいだ」

「それでいいです。……ああ、そういえば名前は?」

「私はアーレント。仕事でレゴールまで来た……まぁ、世間知らずだよ」

「アーレントさんか。俺はモングレル、ブロンズ3のギルドマンだ。剣士をやってる」

「私はライナっス。シルバー1の弓使いっス」

「モングレルさん、ライナさん、ありがとう。……二人は森に、何かの討伐に来たのかな? 私はまだしばらく温まっているから、何か用事があれば私を気にせず行くと良いよ。火のそばで少し寝たくもあるしね……」

 

 よく見ればアーレントさんはとても眠そうな顔をしていた。

 具体的には、彫りの深い顔立ちの上にモサモサと茂っている白い眉毛が、力なくハの字に垂れている。

 震えながら火もなく一夜を過ごしたのだとすれば、まぁそりゃ眠かろうな。

 確かにレゴールは近いっちゃ近いが、歩いて帰るには厳しいコンディションだろう。温かい火に当たって仮眠する必要がありそうだ。

 

「……ライナ、何か獲ったらアーレントさんに食わせてやろうか」

「私もちょうどそう思ってたところっス」

「アーレントさん、夕方ごろにまた来ますよ。そうしたら美味い飯を……まぁどうにか獲ってきますんで、それ一緒に食べましょう」

「……遠慮するほど、自分の身に余裕がないのはわかっているのでね。お願いしてもいいだろうか? この恩はいつか必ず返すよ」

「気にしなくて良いですって。……よし、そうと決まればさっさと探しに行くか」

「っス! 三匹くらいは仕留めたいところっスね!」

「気楽に狩り、ってわけにもいかなくなっちまったなぁ?」

 

 達成しなきゃいけないノルマが生えてきたが、なに、狩りをするならそんくらいの方が楽しいってもんだ。

 

 

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