バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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森の見回りと四人組

 

 ミレーヌさんに「やれ」と言われたので、「はい……」という流れでバロアの森にやってきました。ブロンズ3のモングレルです。

 

 受けた任務は自由狩猟。まぁ適当に常時討伐出てる対象を好きに探して狩っちゃってっていうやつだ。

 具体的な報酬が出るわけではなく、“森に入って規則の範囲内で狩りしていいよ”っていう任務である。まんま猟師だな。妙な表現をすれば採集ツアーと言い換えても良いだろう。

 金儲けにはあまりならないが、明確にターゲットを定めずに五目狩りするにはちょうど良い任務だ。今日もゆるーく適当に森をぶらついてなんかやっていくぜ。

 

 が、目的の一つは新人を遠くで見守ることだ。

 調子に乗って森の奥の方に行ってないか見回ったり、変な違法罠を仕掛けてないか巡回したり。

 あとはまぁ、春によく湧き出る犯罪者の取締なんかも機会があればやっておきたいな。

 とにもかくにも、春は変なのが出てくる季節だぜ。

 

 

 

「みんな、投擲武器用意!」

「おうっ!」

「いけるぜー」

「こっちも!」

「放て!」

 

 まだまだ幼さの残る掛け声と共に、一斉に飛び道具が投げ放たれる。

 飛んでいくのはダートや手斧など、一般的かつ使いやすい道具たちだ。

 

「ギッ」

 

 それが一匹のパイクホッパーに突き刺さり、甲殻の下の組織まで傷つけた。

 特に手斧の威力は凄まじく、硬そうな退化した羽根部分をパックリと割った上で中まで到達していた。

 

「よし、左右から脚を狙って落としていくぞ!」

 

 号令をかけているのは“最果ての日差し”のリーダー、まだまだ青年くらいの歳のフランクだ。

 最初会った時は空気の読めねー奴だなとちょっと距離を置いてたが、こいつがなかなかガキ共のまとめ役として優秀だった。

 今ではそれなりの人数になったって話だ。八人くらいだっけな。ほぼみんな同い年くらいとはいえ、よくもまあそんな人数でパーティーを崩壊させずに運営できるもんだよ。俺には無理だ。

 

「よし。じゃあ解体に入ろうか。肉も忘れずにね! ……ふー……あ、モングレルさん! 僕らの戦い、見てたんですか?」

「おうフランク。なかなか良い連携じゃないか、すごいぞ」

「ありがとうございます! ……みんな、モングレルさんが“良い連携だった”ってさ!」

 

 フランクが解体作業中の少年少女たちに声をかけると、そこでようやく気づいた連中が一気に騒がしくなった。

 

「マジか、まぁ今の上手くいったもんな」

「誰も怪我しないしね」

「ブロンズ2に昇級するのも間近なんじゃない? えへへ」

 

 いやぁ子供は無邪気なもんだな。なんだかんだこいつらは邪気少なめの子供で見てて癒やされるよ。

 見えてないところで犯罪に手を染めてる若いギルドマンなんて俺が知らないだけでかなりの数いるだろうからな。その点こいつらは超正攻法で突き進んでるから見てて安心できる。

 

「お前たちはもうみんなブロンズ1なんだっけ?」

「ええ、そうですよ。まだまだ実入りの良い護衛任務は受けられないですね……」

「ねー、お金足りないよ」

「春の討伐で稼いで遠出できるだけの実力と金を稼いでるところなんだぜ!」

 

 おーおー、希望を見据えて頑張ってるなぁ……。

 俺はチート身体能力があるせいでその辺りの段階を踏まずに生きてきたからちょっと聞いてて心苦しいところがあるぜ……。

 

「あ、けどですね! 最近はレゴールの拡張区画でお得意さんができたんですよ!」

「お得意さん? 拡張区画に?」

 

 拡張区画というとレゴールの城壁を更に外側に作り直し、新たな居住区を作ろうという一大事業だ。そこのお得意さんというと……新区画に店を構える予定の連中ってことか。

 

「拡張区画に大きな食品店を出す予定の人達がいましてね。レゴール在住のハーフたちで集まる互助会があるのですが……モングレルさんはご存知ですよね?」

「ああ、まぁな。ロゼットの会だろ?」

 

 ロゼットの会。レゴール在住のハーフとかエルフとか、まぁそこらへんのちょっと人種的に肩身の狭い連中が集まる互助会だ。

 仕事の斡旋、住居の紹介、葬式、看病、まぁ色々だな。そこまで大規模な組織ってわけではないが、小さいわけでも新興組織ってわけでもない。

 サングレール人とのハーフはレゴールにも結構いるし、そういう人らはこういう互助会を頼りに生きてる奴も多いんだ。メルクリオも一応この互助会に入ってるしな。知り合いも結構いる。

 

「はい。そのロゼットの会が立ち上げたロゼット商会がですね……あ、モングレルさんもロゼットの会に?」

「いや、俺は入ってないよ」

「え!? そうなんですか!? そ、そういえば一度も見てないや……た、大変じゃないですか……?」

「いや俺はハルペリアで一番金を稼げるブロンズクラスのギルドマンだからな。そういうとこ入ってなくても生きてけるってだけだ」

 

 そう、俺は別にそのロゼットの会には所属していない。面倒くさいしな。

 町内会っぽい雰囲気ではあるんだが、どうしてもハーフ目線の連中で固まりがちな組織というか、結束してる分逆に排他的な部分があるっていうかね……。

 入ってたら入ってたで逆にちょっと……っていう部分もあるんだ。それが嫌で俺は所属していない。

 

「入ってると色々と助かるのに……とにかくですね、僕たちはそのロゼット商会から最近色々な仕事を請け負うようになったんですよ。拡張区画の工事の手伝いとか、搬入とか」

「薪割りでも討伐でもなんでもするんだぜ!」

「魔法を使ってお手伝いもします!」

「報酬もちゃんとまとまった額をくれますし、とても助かってます! ロゼット商会からの仕事を足場に、これからもっと色々な人から任務を任されるように頑張っていきますよ」

「おー……」

「……モングレルさん、反応薄いですね? 僕たちの活動に何か問題点がありましたか?」

 

 いや、全くもって無い。

 

「あまりにも問題なさすぎてな……お前たちの活動を陰ながら見守ろうかと思ってたんだが、必要なくてつまんねえなあと……」

「問題がない……なるほど! モングレルさんから見ても僕たちのパーティーは順調だと! 聞いてたみんな!?」

「おう!」

「成り上がるぞぉ!」

「美味しいもの食べたい!」

「クランハウスほしい!」

 

 またワイワイ騒ぎ始めちゃってまあ。

 ……よく見るとこいつらの髪色は、金とか白混じりの奴が多い。フランクとチェルだけでなく、ここに所属しているのは何かしら肩身の狭い連中ばかりなんだろう。

 そんな子供たちでも身を寄せ合って、うまいことやりくりしてギルドマンをやっている。たくましいもんだよな。

 

「その調子で頑張れよー」

「はい、また!」

「またねーモングレルさん!」

「今度何かおごってくださいねー!」

「いつでもパーティー入っていいですからねー!」

「それは断るー!」

 

 終始賑やかな“最果ての日差し”に別れを告げ、俺は森の奥深くへと進んでいった。

 

 

 

 しかしガキのギルドマンがキャイキャイ騒ぐだけあって、この時期のバロアの森はイージーモードって感じだ。怖い魔物が滅多に現れない。

 時々山菜を摘んでる若いギルドマンと出会うくらいで、みんなのほほんとしてやがる。

 ……なんだかんだ冬を越せるくらいのギルドマンだと、春で足元を掬われるってことはほぼ無いよなぁ……。

 

 そんな風にダラダラと歩きつつ、素揚げにすると美味い草をぷちぷち摘みながら歩いていると。

 

「誰かーッ!」

 

 遠くから助けを呼ぶ声が聞こえてきた。しかも女の叫び声である。

 よーし任せろ。俺がすぐに駆けつけてやるぜ!

 

 そう思って走ったはいいが、現地についてみるとどうにも様子がおかしい。

 

 そこには声を張り上げている若い女と、三人の小汚い男がいるだけだったのだ。

 女は別に男たちに乱暴されている様子じゃないし、男たちものんびりとした雰囲気だ。

 

「誰か……あ、来たよ一人。集団じゃない、一人だけの奴だ」

「おー、よくやったぜメグ、あとは任せな。……なんだブロンズか。服と荷物は良さそうだな」

「そこのお前。命が惜しければ装備を全てそこに捨てな。ブロンズ野郎には勿体ない」

「おい、見ればわかるだろ? 少しでも変な動きすればこの矢がてめぇの腹をぶち抜くぜ」

 

 どうやら女が助けを求める声を張り上げ、他の男三人が俺を仕留める要員らしい。弓が一人で二人が剣。つまり……盗賊だ。

 

「良かった。ここに助けを求める可愛そうな女はいなかったんだな……とでも言えば良いか?」

「へへへ。そうだ、ここにはいねぇ。おっと、お前は助けを求めるなよ? 大声を出せば即座に撃ち殺してやる。この矢には毒が塗ってあるんだぜ」

 

 すげーな。久々に見たよ真っ当な盗賊なんて。

 見ない顔ではあるが動きは手慣れてるっぽいし、余罪も結構ありそうな雰囲気がある。去年も似たようなのはいたが、今年も出会うことになるとは。

 

「さあ、何してるの? そこの混じり者、さっさと武器を捨てなさい。従えば命だけは見逃してあげる」

 

 見逃してたらお前たちなんかすぐ捕まってるだろ。生かす気なんてサラサラ無いのによくもまぁぬけぬけと。

 

 どうやらこの女が四人組のトップらしく、男たちを前に出して偉そうにふんぞり返っている。盗サーの姫ってやつか。まぁ確かにそこそこツラは良いけども……。

 

「お前ら、野宿続きで体臭キツそうだな」

 

 挑発しながら剣を構える。

 すると連中の表情が一気に冷たいものへと変化した。

 

「やっちまえ」

 

 その一言とほぼ同時に矢が放たれた。

 目にも止まらない速射。しかし、俺は既にその矢の側面に回り込み、剣を振りかぶっていた。

 

「ハァッ!」

 

 ブンッ。

 バスタードソードが空を切る。

 

「あれ、外した」

 

 野球の要領で飛んでくる矢を真っ二つに……と思ったんだが、ちょっとミートずれてたな。普通に空振ったわ。矢は後ろの樹木にぶっ刺さっている。矢羽に掠ったってこともなく、見事なワンストライクだ。

 

「こ、こいつ!」

「とんでもない動きで避けたぞ」

「落ち着け! 左右から斬り殺してやるんだよ! 私もダートを投げる!」

 

 恥ずかしいところを見たというよりは俺の素早い回避を警戒してか、連中が一気に陣形を変えて攻めてきた。

 本当に手慣れてるな。絶対指名手配されてるだろコイツら……。

 

 だが不幸だなお前たちも。

 

「この俺を獲物にしたのが運の尽きだぜ」

「ぐっ!?」

 

 相手が振り下ろしてきた剣を下から切り上げ、上に弾き飛ばす。そのまま腹に蹴りをぶっ刺して遠くへ吹っ飛ばす。次。

 

「うぁああッ! “強斬撃(ハードスラッシュ)”!」

 

 もう一人は目を赤く輝かせ、渾身の振り下ろしを見舞ってきた。

 スキルによる強力無比な斬撃だ。けどまぁそれも当たればの話。モーションもスキルの恩恵で多少は速くなるが、バカ正直にガードするまでもなくサッと横にずれて避けてしまえばいいわけで。

 

「人に使うスキルじゃねーだろバカ」

「おうぐッ……」

「次」

 

 横合いから股間を蹴りつけダウンさせた。

 残りは弓の男と投げ物の女だけ。

 

「くっ、だったら“(ハード)”――」

「遅い」

 

 のんびりとスキルを使って撃とうとしてきた弓使いに向けて、ポケットに忍ばせていたチャクラムを飛ばす。

 

「ぐあっ、痛……!」

 

 円形の刃は男の構えた弓の上側をスパッと気持ちよく切り飛ばし、弓は解放されたテンションが弾けて男の手から滑り落ちてしまった。修理しても難しい壊れ方だな。

 

「……み、見逃してくれる?」

 

 結局女はダートを一本も投げることなく地面に捨てた。

 そして今度は俺に媚びるような目を向けて、わざとらしく胸元をはだけようとしている。

 

「ごめんなさい……貴方、強いのね。負けたわ……ねえ、見逃してくれないかしら……一晩、貴方に好きなように抱かれるから……」

「俺はな」

 

 交渉の真似事をしようとする女を無視し、一気に距離を詰め、弓を持っていた方の男の顎をぶん殴ってダウンさせる。

 一瞬のことで声も出なかった。残るは女ひとり。

 

「不潔で嘘つきな女相手じゃ興奮できねえんだよ」

「……死ねッ!」

 

 案の定、女は胸元に針のような武器を隠し持っていた。毒針か何かだろう。刺されればやばい。

 

「てい」

「あふッ」

 

 だからまぁ、バスタードソードの腹で頭をゴーンとぶん殴って終わりだ。

 動きの悪い女の超近接武器相手に後れを取る俺じゃない。

 

 これにて全員退治完了だ。

 

「……けど、さすがに人数が多いな……」

 

 土の上に横たわる四人の男女。今はギリ気絶したり痛みでどうしようもなくうずくまっているが、そう時間をかけずに起き上がってくるだろう。

 大捕物といえば大捕物だが、こいつらを連行するのはちょっと面倒くさいな。

 

 

 

「おいこら、ほどけ!」

「降ろせよ!」

「ぶっ殺す! 顔覚えたぞ! ぶっ殺してやるからなぁ!」

「死ね混ざり者!」

 

 全員を紐できつーく縛り、頑丈そうなバロアの大木の横枝から吊るしておくことにした。

 “こいつら盗賊です”という文字と犯罪者の烙印マークを描いた端切れを樹木に打ち付けてあるので、偶然通りかかった奴が無警戒に解放することもないだろう。

 

 既に連中の装備らしい装備は全て奪っておいたので、あとはこれを持って帰りつつ誰かこいつらを連行する応援を呼んでくるだけだな。

 

「ミレーヌさんの言った通りだ。ちょっとは森に来てみるもんだな」

 

 未だギャーギャーうるさい犯罪者達に背を向けて、俺は他のギルドマンを探すことにした。

 

 

 

 幸い、帰り道の途中でブロンズクラスの暇そうに山菜摘みしているパーティーを見つけることができたので、連行のための人手に困ることはなかった。

 連中はそれでも最後まで必死に喚き散らし、俺たちの手を煩わせたのだが……。

 

 降伏するでもなく“見逃せ”と言ったり、連行を死ぬほど嫌がったりしたあたりでなんとなくわかってはいたが、取り調べという名の拷問によって連中を吐かせたところ、こいつらはどうも名のしれた盗賊だったらしい。

 犯罪奴隷をすっ飛ばしてそのまま死刑になるような凶悪な犯罪者集団だったのだそうだ。

 

 ハルペリアは公開処刑するような国ではないので、連中の死に様を俺が見ることはないだろう。

 けどこの国はとてもシンプルな手続きで刑罰が履行されるので、そう何日も生きられないだろうな。

 

 今更人が死ぬことについて、俺はどうも思ったりはしない。これは本当に今更すぎるからな。

 けど犯罪者を引っ立てることで稼いだ銀貨の重みには、まだちょっと慣れていない。

 少なくとも、後味はそんなによろしくねえな……。

 

 

 


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