バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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聴いたことのないヒット曲

 

 スリに襲われるトラブルこそあったが、それ以降は平和なもんだ。

 いつもより割高な屋台の菓子を買って、アホみたいに高いわりにそこまでパリパリしてないクロワッサンを食って、たまご入りスープを飲んだりした。

 いや、飲み食いしてばっかだな……。

 

「美味しいけどお酒ないから物足りないっスね」

「わかるわー」

 

 けど祭りなんて買い食いしまくる日みたいなもんだしな。それもまた良いだろう。

 むしろ俺とライナの場合、メシに酒が無いことを嘆くタイプだ。そろそろクラゲの酢の物と一緒にビール飲みたくなってきたぜ。

 

「……あ、今流れてるこれ、聞いたことある曲っス。向こうでなんか演奏してるみたいっスね?」

「大道芸人たちのお披露目通りだな。この曲は……“春の草刈り歌”かな」

 

 豊穣への祈り、そして草刈り作業に前向きに取り組む農夫たちをテーマにした明るい曲だ。

 畑作業してる人らが歌っていることの多いのんびりした曲だが、それをリュートの演奏と一緒にリズム早めに歌っている。この世界でのアレンジってやつだな。

 

 演者を囲んでいる人達もエールを持ち、一緒になって歌っている。

 みんなが知ってる歌ってのはこういう時に強いよな。……まぁこの世界の音楽はどれも単調で、あまり好みではないんだが。

 

 音楽は世界を超えるとはいうが、なんだろうな……素人が聞いてても“洗練されていない”ってのがわかるんだよな、音楽って。

 俺も文化を尊重しようとは思っているんだが、どうにもなぁ。

 

「こういう時は、俺も演奏して一躍時の人になるしかねえよなぁ?」

「なんスかそれ」

「まぁ見てな。千年先の流行をひた走る俺の演奏テクでこの通りをぶらついてる客を全員ここに釘付けにしてやるからよ」

 

 お披露目通りは大道芸を自由にやって良い通りだ。そこらへんに演奏家やらジャグリングやってる人がいるのでどこも賑わっている。普段はこんなに人いないし普通の通りだが、さすが祭りだぜ。

 

 近くの果物の屋台から適当な木箱を借りてきて、そいつを適当な空いてる場所にドンと置いて椅子代わりに腰掛ける。

 リュートと呼ぶにはちょい大きめな俺特製のアコギを構え、チューニング。……まぁ適当だけど。

 

「あ、向こうでお酒売ってるみたいっス!」

「ちょちょちょライナさん。今から俺の演奏をですね」

「モングレル先輩の分も買ってくるっスけど……精霊祭限定ホップ増し増しビールらしいっス」

「よしライナ。演奏は俺に任せろ。お前はビールをどうにかするんだ。コップこれで頼むな」

「おっスおっス」

 

 ホップ増し増しビールとあっちゃしょうがねえ。サクラやってくれそうな聴衆が一人減ってしまったが、ここからは俺の自力で盛り上げてやるさ。

 とはいえ、普通に演奏してても客なんて立ち止まることはない。じっくり時間を掛けて足を止めさせてやらないとな。

 

「えーまぁ誰も居ないし格好つけてても意味ねぇから一曲目さっさといくぜ。……“学生街の喫茶店”」

 

 異世界語翻訳版。歌詞の途中で謎のボブ・ディランがそのまま登場するが、音の感じが良いのでそのまま異世界の学生街にご登場願っている。

 まぁ、弾き語りバージョンだから盛り上がるところも抑えてで静かなもんだ。

 けど哀愁のあるメロディは異世界人の心をも掴むのか、結構立ち止まってくれる人が増えた。

 流石だぜガロさん。すまねぇな、俺この曲しか知らなくて……。

 

「貴族の歌かな」

「さみしげだがいい曲だ」

「良いぞおっさん!」

 

 お、前に置いておいた深皿の中に小銭が投げ込まれてる。

 さすがだぜ精霊祭! みんな財布の紐が緩いなぁ!

 

「……ふぅー……以上、“学生街の喫茶店”でした。おひねりサンキュー! これでビールが買えるぜ!」

「はははは」

「良かったぞー」

「聞いたことなかったな」

「酒飲む前にもう一曲頼むぜおっさん」

 

 おっさん呼ばわりがローキックのように心に効いてくるがまぁいいだろう、ライナの並んでるビールの屋台は盛況しててまだまだ時間かかりそうだから、もう一曲弾き語りしちまうか。

 ……んーけどまぁこのくらいの人数いれば適当な曲でも平気だろ。

 

「えー、じゃあ次は……俺のもといた村では三千万人くらいは知ってた有名な曲です……」

「多いなぁ!」

「ははは、とんでもねえ村だ」

「けどその歌の歌詞が俺もよく知らない言葉で出来てるもんだから、歌えはするけど歌詞の意味とかは全く知らねえんだ。悪いな」

「なんだそりゃー」

「適当に歌うのかぁ?」

「いやいやちゃんと歌うって! 歌自体はすげー良い歌だから! 意味はわからないかもしれないが、まぁ聴いててくれよ。あ、それと歌の名前だけはわかってる。だからこのタイトルだけでまぁ内容をイメージしてもらうってことで……じゃあいきます。……“故郷”」

 

 故郷。まぁ、日本じゃアホほど有名な童謡だ。

 学校に通えば必ず一度は歌うし、教育番組を付けていれば一度くらいは流れているのを聞く曲だろう。

 

 “うさぎ美味しいかの山”とか言ってクスクス笑うことくらい、誰しも一度は経験してるんじゃないかね。

 

 そんなゆったりした、ある意味で退屈なテンポの曲を、そのまま日本語で歌っていく。

 歌詞の内容なんて誰にも伝わらないだろう。伝わるのは牧歌的な、ちょっとノスタルジックな旋律だけ。

 

 しかし、それでも俺の弾き語りはそれなりにこの世界では芸としての価値があったのか、足を止める人がちょくちょく増えている。中には歌詞がわからないせいで退屈になって去っていく人もいるが、おかげで観衆の数もちょうど良い。

 

 ふーるーさーとー。ってな。はい終わり!

 

「以上、故郷でした。ご清聴ありがとう! おひねりも嬉しいぜ!」

「良いぞ良いぞー」

「いい曲だったわねぇ」

「どこの言葉か全然わからなかったなぁ」

「しょうがねえ、飲みに行っていいぞおっさん!」

「すまねえな!」

 

 よしよし、おひねりも貰ったしこんくらいで良いだろう。

 さーてライナはどこに行ったかな。もう既にビール買えたと思うんだが……あれ、どこだろう。

 

「ライナー、どこだー」

 

 リュートを背負い、ライナを探す。しかし人混みがすごいせいでわからん。ちっこいライナのことだ。誰かに踏み潰されちまったのかもしれん。

 俺がライナの短い一生を儚んでいるその時、

 

 

 ビョ~~~~

 

 

 ……と、なんとなく間抜けな笛の音が聞こえてきた。

 この力の抜けるような気持ち悪いホイッスルの音……間違いない! 俺がライナにやった笛だ!

 

 

 ビョ~~~~

 

 

「おーおー、そこにいたかライナ」

「……っス」

 

 音の鳴る方へ行ってみると、そこでは両手にビールのコップを手にしたライナがホイッスルを吹いているところだった。

 シャチの牙で作った自作のホイッスル。控えめに言って音が間抜けである。

 本当はもっとなんかこう、ライナがピンチの時に吹いて俺が颯爽と駆けつけるって感じの使い方をして欲しかったんだけどなぁ。

 

「人混みが凄いせいで流されそうになったっス……」

「マジかよ。災難だったなライナ……あ、ビールありがとうな。……うーん、ホップのいい香りだ」

「お金は後でもらうっスからね?」

「もちろん。弾き語りでちょっとばかし稼いだからな、ライナの分も払ってやるさ」

「え、そんなにいい演奏してたんスか」

「お前なぁ……俺にリュート弾かせたらラグナルの赤ら顔なんて速攻で身体とおさらばだぜ?」

「なんなんスかねそれ……」

 

 弾き語りで喉を使った後に飲む苦みの強いビール……うん、最高だ。いいねビールは。もっとキンキンに冷えてればなお良しだったが、贅沢は言うまい……。

 

「あーうめぇ……」

「うまー……」

「外で飲むビールはうめぇなぁ……」

「わかる気がするっス……」

 

 大道芸人たちの賑わい。そして量り売りの美味い酒。気分は既にビアガーデンだ。

 

 ……なんか飲んでたら本格的に酒場に行きたくなってきたな?

 

「よし、ギルド行くか!」

「っス! ギルドで酢の物とビール飲みたいっス!」

 

 それはライナも一緒だったらしい。この酒飲みめ。

 まぁけど祭りの日のギルドはこれはこれで良い賑わいを見せてるから、楽しいんだけどな。

 

「今年もウイスキー配られたりしてな」

「どうなんスかねぇ……うわっ、っとっと……」

「おいおい大丈夫かライナ」

 

 人の多い中では背の低いライナがよく流れに飲まれかけてしまう。

 これじゃまたホイッスルに締まらない役目を担ってもらうことになっちまう。

 

「ほら、手繋いでいくぞ。はぐれないようにな」

「あっ……はい……」

 

 俺はライナの手を取って、引率気分で人混みの中を突き進んでいった。

 本当は肩車でもしてやりたいところだが、まぁライナも大人だしな……。

 

「……モングレル先輩、もっとゆっくり歩いてほしいっス」

「おー? そうか、悪いな」

「ん……」

 

 通りの上をぷかぷか浮かぶ色とりどりのジェリースライムたち。

 それを見上げて立ち止まる呑気な観光客をひょいひょいと躱しながら、俺たちはのんびりとギルドへの道を歩いていった。

 

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