バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

163 / 423
第五回厚切り牛タン猥談バトル

 

 ライナと一緒にギルドへやってきた。

 今日は精霊祭だ。去年も中は賑わっていたし、果たして今日は席が空いているだろうか。

 

 いや、そもそも中が変なことになってないだろうな……?

 去年はチャックとディックバルトがウイスキーを持ってきて大賑わいだったが……。

 

「まぁ二年連続そんなイベントが起こるわけもないだろう……」

 

 おそるおそるギルドの扉を開けると……向こうから、普段以上の熱気が吹き抜けてきた。

 

「第五回……厚切り牛タン猥談バトルの始まりだァアアアアッ!」

「イヤッホォオオオオオウ!」

「やるぞやるぞやるぞやるぞぉおおおおッ!」

「ドドギュウウーン!!」

 

 うっわ、なんかもう始まってる!?

 

「おいモングレル来たぞ!」

「このタイミングで来やがっただとぉ!? 全て計算済みってことかよ!?」

「良い度胸じゃねぇかモングレルの野郎……!」

 

 ちょ、待て待て。待って。ビール一杯でついていける場の暖まり方じゃねえぞこれ。

 

「まーたみんなスケベ話してるんスか!」

「みたいだなぁ……まぁとりあえず席座ろうぜ席。いきなり巻き込まれるのは嫌だわ」

 

 既にギルドの酒場の中央ではチャックたち“収穫の剣”のメンバーを中心に盛り上がりを見せている。

 他の席も結構埋まってるな……あ、ミルコとアレックスのテーブルが空いてる。そこお邪魔するか。

 

「ようアレックス。ミルコもその席良いか?」

「ええ、良いですよモングレルさん。二人とも今日はお洒落してますねえ」

「っス!」

「ククク……二人とも親子みたいに仲が良いな……」

「親子といえばミルコ、お前精霊祭なのに家族はどうしたんだよ。こういう時くらい嫁さんと一緒にいてやりゃいいのに」

「昼間一緒に回ってきた。それだけだ……俺が酒飲むって言ったらすぐ別行動になってな……」

 

 なんか聞いちゃいけないこと聞いちゃった気分になったな……?

 まぁでも別れそうって話は聞いてないし大丈夫なのか……?

 

「あ、ライナ! ようやく来たぁーずっと待ってたんだよー」

「ウルリカ先輩! レオ先輩も一緒だったんスね!」

「うん。僕らは二人で見て回ってたからね。……こっそりとだけど。他の“アルテミス”の人達はまだ来てないよ」

「ゴリリアーナ先輩は力比べに行くって言ってたスからねぇ。そっちかもしれないスね」

 

 そして隣のテーブルにはウルリカとレオがいる。二人とも既にビールを始めちゃっているようだ。羨ましいぜ。俺もガソリン充填しないとな。

 

「はーどっこいせ。すんませーん、ビール二つとクラゲ二つ、お願いします」

「おーいィ! そこのモングレルさんよォ~! 何しれっと普通の酒盛り始めようとしてんだよテメェ~!」

「ビール楽しみだなライナ」

「っスねぇ」

「無視してんじゃねェよォ~! ……とりあえず先に牛タン二枚やるから参加しとけよォ~!」

 

 チッ……無視してやろうと思ってたが、先に渡されたんじゃしょうがねぇ。

 

「モングレル先輩またスケベ話始めるんスか……」

「人聞き悪いぞライナ。ほら牛タン一枚やるから食べてなさい」

「わーい」

 

 駆け付け一杯飲めたし良いだろう。

 まさに始まる寸前に来たもんだから一切の経緯がわからんけど、要するにあれだろ。牛タン賭けてバトルするんだろ?

 俺は牛タンは大の好みだぜ。なにせタレが必要ねえからな……!

 

「……ウルリカ、本当にモングレルさんがこの……戦い? に参加するの?」

「うん。モングレルさん毎回参加してるよー」

「そ、そうなんだ……なんか意外だな……」

「勝てばお肉とか分けてくれるかもだし、応援しないとねー!」

「えー……」

 

 いやウルリカ、俺は牛タンに関しては分けてやるかどうかは微妙だぞ。

 欲しかったらお前も自分で猥談バトルに参加するんだな……。

 

「――今回の牛タンはボストークの畜産農家の厚意で戴いたもの……――だが、精霊祭を前にしてこの恵みを俺たちだけで独占するのはあまりにも無粋――故に、今日は我々皆でいやらしい話を語り合い、月神を祝うことにしようではないか」

「うぉおおおお! ヒドロア様サイコォオオオ!」

「いやらしい話を捧げていこうぜぇええええ!」

「――審判はこの俺、ディックバルトが担当する……――神に誓って、公平を期すことを約束しよう」

「ディックバルトさんはいつだって正しいからなぁ!」

「もう辛抱堪らねぇ! 誰でも良いからかかってこいやぁッ!」

「よ~し第一試合開始だぜェ~!」

 

 うわぁやっぱり酒を二杯入れたくらいじゃいきなりこのテンションについていくのは難しいわ。

 ……いや、別に普段からこのテンションに合わせているわけではないな? なら別にいいか……。

 

 つーかマジでこれヒドロア様からの天罰とか落ちたりしない? 大丈夫?

 異世界転生した身としてはわりと神の存在を信じちゃってるから怖いんだよな……。

 

「一番槍行くぞぉ!」

「てめぇ槍じゃなくてシミター使いだろ!」

「うるせぇ! 喰らいやがれっ! “傘の暗がり酒場”で靴を半脱ぎにして座っている子は声をかければイける……!」

「な、なんだってぇ!?」

「あの薄暗くてちょっといかがわしい感じの酒場でか!?」

「――ヌゥ……! あの店の暗黙の了解を知っているとは……腕を上げたな……――!」

「有効だああああ!」

「こいつはルランゾにとって厳しい展開になってきたな……!」

「くっ、その程度で……! ならこっちはこれだ! “女神の靴亭”の新館に二年前“女神の納屋”に居たフレミアちゃんがいる……!」

「何ィッ!?」

「誰!?」

「――勝者、ルランゾ!」

「ぐぁああああああッ!?」

「――フレミアちゃんは、良いぞ」

「ルランゾの逆転勝ちだぁあああ!」

「でもこの判定ちょっとディックバルトさんの主観が入ってる気が……」

「ディックバルトさんを疑うのか?」

「す、すまない……そういうわけじゃ……」

「勝者には牛タン三枚あげちゃうぜェ~!」

「うおおおおやったぁああああ!」

 

 相変わらずうるせぇし店舗名と嬢の名前が飛び交ってよくわからんバトルだな……。

 でも勝ったら厚切り牛タン3枚……恥と外聞を捨てるだけの価値はあるな……。

 

「おいおいモングレルさんよォ……お前今日もなんだかんだ俺に勝って3枚貰えるとでも思ってるんじゃねえだろうなァ~……!?」

「チャック……そもそもなんで俺は毎回お前と戦うんだ……?」

「怖いのかァ~!?」

「そのセリフ使い所と使い時結構選ぶんだけど……いやわかったよ戦ってやるよお前と」

「っしゃァ~!」

 

 席から立ち、中央テーブルへと躍り出る。

 既にチャックは靴を脱いで俺を待っていた。……いや靴は履いておけって。……しかもちょっと離れたところのテーブルが上の物を片付け始めている。……あっちに突っ込むご予定が……?

 

「モングレル……てめェはいつだって俺の上だった……! 第一回も、第二回の時も、俺は常に二番手扱い……!」

「俺とお前との間に勝手に変な因縁を作るな。いや事実ではあるけど……」

「だが今日! 俺はモングレル、てめェを超える! スケベ伝道師の薫陶を受けたてめェであってもネタは無限じゃねえはずだァ~!」

 

 スケベ伝道師の薫陶ってなんだよ。やめろよ。確かに恥も外聞も捨てるつもりでこの勝負に挑んでいるけど俺こういう目立ち方をしたいわけじゃないんだよ……。

 

「御託は良い……掛かってこいよ。先手は譲ってやる」

「! ……その余裕、どこまで持つかねェ!? いくぜ先攻ッ!」

「すげえ! モングレルがわざと先手番を譲ったぞ!?」

「カウンターを決めるつもりだ……! 見れるぞ……“誘い受けのモングレル”が……!」

 

 いやマジでその二つ名はやめろ。

 

「カウンターを上からぶっ潰してやらァ! いくぜッ! 今“イングマール玩具店”で売ってる陶器製の棒が一人遊び用アイテムとして人気……! 嬢との道具を使った遊びでも最適ッ!」

「ゲホッ、ゴホゴホゴホッ!」

「決まったぁあああ!」

「モングレルが咳き込んでいる……! チャックの一撃が決まったぞぉ!」

「――有効ッ! 長さ、形、共に一般的であり人を選ばない……そして量産品故に安価――夜の満足感を高めるには素晴らしい道具と言えよう……――仕上げてきたな、チャックよ――……!」

「ゴホッ、ゴホッ」

「咳長くねェ? 大丈夫かァ?」

「み、水飲ませてくれ、水……」

「ほい」

 

 こ、これは予想外だったぜチャック……まさか俺の量産型モングレルが俺の与り知らぬところでそんなことになっていたなんてな……。

 恐るべしモングレル計画は既に俺の手を離れているとは思っていたが……マジでもう誰にも知られるわけにはいかない次元になってきたぜ……。

 

「道具を使った嬢との遊び……チャック、やるな……!」

「あのモングレルをここまで追い詰めたのはあいつが初めてじゃないか……!?」

「そもそもモングレルってチャックとしか戦ってない気もするが、これはチャックが勝つかもしれんな……!」

「嬢でも満足する道具の情報だ、こいつは要チェックだぜ!」

「でも全体的に作り粗いし取っ掛かりの部分が微妙だけどねー……」

「え? ウルリカ今何か言った?」

「ええっ? なになに知らないどうしたの? 何も言ってないよー?」

 

 思わぬところでダメージを負ってしまったが、さて、どうするか……。

 

 ……正直、俺もそろそろネタ切れ感はあるんだよな……。

 チャックの言う通り、無限にネタが出てくるかって言うとそうでもねえし……うーん……。

 

「さあかかってこいよモングレルさんよォ……!」

「……んー……何話そう。チャック、何か“こういうの聞きたい”とかある?」

「俺にリクエストを求めるなよォ~!? ……まぁでもあえて言うならあまり一般的じゃなくていいから珍しいスケベ知識が聞きてェな俺は……」

「チャック素直だぁあああ!」

「自分を不利に追い込んででもスケベ知識への欲求に嘘はつけない……騎士道だぜ!」

「なんて美しい試合なんだ……!」

 

 女神どころか騎士道にすら泥を塗るつもりか? こいつらは……。

 けどそうか、珍しいスケベ知識か……アブノーマルってことだよな……アブノーマル……うーん、まぁ現代人の視点からするとすぐに出てくるアブノーマルっていうと、あれだよな……。

 

「……よし、これにしよう。……ああ、あった。これだ」

「……? なんだァ……? どうして今、そんな蝋燭を……?」

「モングレル、何をするつもりだ?」

「燭台から蝋燭を取って何をするつもりだ? まだ暗くはなっていないが……」

 

 俺が手にしたのは何の変哲もないただの蝋燭だ。

 だがスケベ的な観点で言えば、これも立派な“グッズ”に成り得るのは……現代人の賢明かつスケベな諸君らには詳しい説明も不要であろう。

 

「あまり一般的とは言い難いが……相手の肌を手で叩いたり、軽めに鞭で叩くようなやり方が存在するのは知っているだろう……」

「初めて聞いた……」

「いや、俺は知っている……わかるぞ……!」

「事前知識でそれが必要なのか……!? これから何が飛んでくるんだ……!?」

「――いかにも。俺としては加減が難しいために安易に手出しすることはおすすめできないが……店によってはそれが普通なものもあるし、オプションで実施できる店もある――……だが、モングレルよ。それでは少々威力不足だな。チャックの攻撃を防ぎ、反撃するに足るものではないが――……?」

 

 まぁここまではおさらいだ。

 この世界にもSMっぽい概念はあって良かったぜ。

 

「お楽しみはこれからだ。……実はその亜種として……この蝋燭を使った方法がある」

「なッ……蝋燭を、なんだってェ~……!?」

「まさか……」

「嘘だろう……!?」

「そう……この蝋燭に火を灯し、高い場所から一滴ずつ相手の肌に落としてゆく方法だ……高い場所から落とされた蝋は空中でほどよく冷やされ、相手の肌に熱さと痛みを与える……! これはいわば……“蝋燭プレイ”だ!」

 

 ガタン、とディックバルトが勢いよく立ち上がった。……え、なにこわい。

 しかも目を見開いてカタカタと震えてる……いやなになに、マジでこわい。やめて?

 

「――そ、そのような……そのような、心躍る……やり方があったとはッ……!」

「な、これは……まさか……!?」

「すげぇ、ディックバルトさんも知らないプレイってことか……!?」

「でもどうなんだこれは!? 審判であるディックバルトさんに判断できないんじゃこの技は……!」

「――いや、待て」

 

 騒然とする周囲を手で制し、ディックバルトが悠然とこちらに歩み寄り……俺の足元で腹ばいになった。

 ……え? なになになに、いやだから怖いって。

 

「――モングレルよ……その蝋燭に火を灯し、俺の背中に一滴落とせ……!」

「な、なんだってええええ!?」

「すげぇディックバルトさん……今この場で蝋燭プレイの真偽を確かめるつもりだぜ!」

「自ら危険なプレイに飛び込むなんて……俺、あんたについてきて良かったよ……!」

 

 いやいやいや、やりたくないんだが……。

 

「――さあ、こいッ! モングレル! 一滴でも二滴でも! 蝋燭を使い果たしてでも! この俺に熱さと痛みをくれッ!」

「一滴で勘弁して下さい……」

 

 このまま床の上でディックバルトにゴネられるのは嫌だし、何より言い出しっぺは俺だったので仕方なく蝋燭に火を付けた。

 

「モングレルさん、一本分の蝋燭代は払ってくださいねー」

「はい……」

 

 しかもミレーヌさんから釘を刺された。出費は俺持ちである。これで牛タン貰えなかったら拗ねるぞマジで……。

 

「じゃあディックバルト、今から垂らすんで……」

「――言うなッ! いつくるかわからない不安が俺の精神をより鋭敏にさせる――……!」

 

 いいやもうさっさと垂らすよ。はい、ポトリ。

 

「――フンヌゥウウッ……! 勝者ッ! モングレルゥウウウ!」

「ぐあぁあああああああッ~!?」

「うわぁあああ! チャックが吹っ飛んだぁああああ!」

「蝋燭プレイは本当にあったんだぁああああ!」

「畜生、どこでならやってくれるんだ!?」

「そ、そんなやり方もあるんだー……」

「ディックバルトさんが吼えるほどだ……コイツは間違いねえぜ……!」

 

 チャックが吹っ飛んでテーブルと椅子を巻き込んで倒れ伏し、床の上に寝そべるディックバルトが荒い息遣いで興奮している。なんだここは……地獄か……?

 

「――よもや、この俺の知らないスケベ知識を持っていようとはな……モングレルよ、いずれお前と俺は戦うことになるのかもしれんな……」

「嫌です……」

「――あるいはモングレルよ、お前とスケベ伝道師の間でこのようなプレイを……?」

「いやスケベ伝道師は通りすがりに聞いただけだから知らないです。他人です」

「マジで何者なんだスケベ伝道師……!」

「俺たちはいつかスケベ伝道師と対峙することになるのかもしれねぇな……」

「仮初の平和ってわけか……良いじゃねえか。それまで俺たちは牙を研ぐだけだぜ……」

「あ、チャックさん寝てるんで牛タン3枚取りますね、はいどうぞ」

「おう」

 

 こうして今回の猥談バトルも俺の勝利で終わった。

 色々汚い叫び声とか釈然としないやり取りも多かったが、まぁ肉さえ手に入ればチャラよチャラ……。

 

 

 

「なんかその牛タンが薄汚いものに見えてきたっス」

「料理に罪はねえよライナ……」

「ははは……いつもこんな賑やかなことをやっていたんだね、モングレルさんは……でも凄い、なんだろうね。詳しいんだね」

「レオ先輩、そんな頑張ってフォローすることはないっスよ」

 

 よく出来たやつだよレオお前は。そのままの君でいてくれ。

 

「しかし毎度毎度よく吹っ飛びますねぇチャックさん……」

「ククク……モングレルもよく毎回勝てるもんだ。……俺も食っていいか?」

「アレックスもミルコも参加すりゃ良かっただろうに……とりあえずこっちの二枚は切り分けてやるから、みんなで少しずつわけて食えよ」

「え、いいの? ありがとう、モングレルさん」

「ありがとうございます」

「心の友よ……」

「……私もいただくっス」

「結局食うんじゃねえかライナ。……ウルリカも酔い大丈夫か? 牛タン食うか?」

「えっ、うん食べる食べるー」

 

 こうして俺たちはいつもより賑やかなギルドの酒場で、こってりした牛タンを肴にビールを堪能したのだった。

 




「バスタード・ソードマン」がKADOKAWAファミ通文庫様より書籍化される運びとなりました。
イラストレーターはマツセダイチ様です。
発売日などはまだ未定ですので、続報をお待ち下さい。

ここまで来れたのは、皆様の応援があってのものです。
本当にありがとうございます。

これからもバッソマンをよろしくお願いいたします。

(ヽ◇皿◇)ヤッター (・∀・* )ワーイ


(ヽ◇皿◇)……この回で発表することになるのか……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。