バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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肉体労働と肉談義

 

 アーレントさんとバルガーと一緒にレゴールの拡張区画へとやってきた。

 中途半端な時間なもんで、既に作業従事者は自分の仕事に没頭している。ここでいきなり飛び込んで“手伝わせてください!”なんて言ってもとんだハリキリボーイになるだけなので、依頼で受けた作業に従事する前にはしっかりと受注証書を監督事務所に出す必要がある。

 まぁ事務所と言ってもちょっとした小屋みたいなもんだ。管理小屋っていうのかな。人夫の人数を取り纏めて管理する場所で、資材の数なんかもここで数を管理しているわけ。

 

「ギルドから三人、依頼で来たぞ。見ての通り、力仕事が得意だ」

 

 バルガーが紹介状と一緒に俺たちの分の証書もまとめて差し出すと、事務所のおっちゃんは無駄に渋そうな顔でそれらを見つめた。

 

「うーん、危険のない作業とあるが、力仕事なんてどれも危険がつきものだからな……」

 

 アーレントさんが無言でポージングを決めているが、それはあれかい? この身体なら大丈夫ですよ見てくださいってアピールかい? 

 まぁ実際そこらへんの人よりよっぽど頑丈だろうし、俺としても平気だろうと思うんだが。

 

「……あんたら丈夫そうだし、こっちとしても作業は早めたいし、大丈夫だろ。ロドリコの監督している場所に行ってくれ。場所はここだ」

 

 そう言って事務の人が指し示した羊皮紙の地図には、拡張区画の大まかな全体図が描かれていた。

 俺たちの作業場はその端。人の移動も物品の搬入も一番面倒臭そうな場所だ。

 

「そういやアーレントさん、こういう肉体労働はやったことあるかい?」

「うん? まぁ、人並みには……?」

「その筋肉でかぁ? まぁとにかく行こうや。サボるにしても現場についてからってもんよ」

「アーレントさん、こいつの話は聞かないでいいぞ」

 

 

 

 作業現場は物に溢れている。

 建築資材、原料、その他なんのために使うのかもわからない色々……現代人の俺から見てもわからないのだから、まぁこの手の、建築だとかそういう技能は物を見るにしたって慣れとかが大事なんだろうなって思う。

 

「おお、ギルドからの応援か。俺はロドリコ、現場監督だ。あんたらにやってもらう作業は単純だぞ。ひたすら重い物を運んでもらうだけだ。腰が痛くなったら早めに言えよ? 別の仕事を回してやるからな」

 

 が、俺たち単純労働者に求められているのは難しい作業ではない。

 足場組めとも壁紙を貼れとも電気工事しろとも言われない。俺たちの役目はただ一つ、肉体労働だけなのだ。

 

「つーわけでだ、アーレントさん。俺たちはこの石ころを運ぶ作業に入るぞ」

「なるほど」

「だが、ただ土の中の石ころを探して運ぶだけじゃ芸がない。他にも集積所から木材を運んだりしなきゃならん。そういうところまで出来てようやく一人前のギルドマンなわけよ」

「おお……ギルドマン……」

「特に建築作業は働いてるって実感がわりと強めに得られるからなかなか……」

「おらモングレル、アーレントさん、仕事やんぞ!」

 

 上着を脱いで身軽そうになったバルガーが早くも先輩風を吹かせ始めた。

 しょうがねえ、さっさと作業に入るとしよう。

 

 

 

 俺たちに与えられた作業は単純労働だが、身体にはよく響くタイプの作業だ。つまり結構な重労働である。

 いざという時は魔物と切った張ったするギルドマンでも、じんわり続くタイプの労役が得意という奴は少ない。

 

 今回は石運び。工事中に出土した石ころなんかをまとめて運び出し、別の場所に集めておくという作業だ。

 だが街に新たな区画を生み出すという作業で発生する石ころとなると、もはやその量は重機が必要になってくるレベルだ。これを人力でやろうとなると、屈強な男がヒィヒィ言いながら何往復もしなきゃならなくなる。

 

 そこで役立つのが、身体強化を使える人間の存在だ。

 人は魔力を身体に流すことで身体強化を発動させるわけだが、これを発動させていれば二人、三人分の力で働くことができる。一度にたくさんの荷物を動かせるので作業効率が良いのだ。

 しかしこの身体に流すってのを長時間持続させるのがまたなかなか難しく、訓練された軍人でも数十分連続させるのはかなりしんどいという話だ。

 なので短時間で決着する討伐でならばともかく、土木作業としてはちょっと向いていない。

 

「はぁ、はぁ、ひぃー……こりゃキツい、休もう!」

「おいおいバルガー、張り切ってたくせに一番にへばるんじゃねぇよ……」

 

 だからまぁ、大した働きもできずにバルガーみたいになる。

 全身汗だく。からの座り込み。動かないおっさんの完成だ。

 

 まぁこうなるまでに何往復かして重い物を運んだから全く役立たずではないし、常人以上の仕事にはなっているんだが……ダウンする前に重荷の量を減らして最後まで動けるだけの負荷に切り替えりゃいいのにと思わないでもない。

 

「見てみろよアーレントさんを。あんなにイキイキと働いているぞ」

「ありゃ化け物だよ……なんで俺より歳上なのにあんな物運べるんだ……」

 

 作業を開始してから、アーレントさんはプロテインを得た筋肉が如き活躍を見せ始めた。

 どんな重い荷物でも筋肉を見せつけるようなポーズを取りながら軽々と持ち上げ、今では両肩に建材の柱を担いで別部署の手伝いをやっている。

 まさに肩にちっちゃい重機でも乗せてるかのような働きだ。当然、現場での人気は高い。既に子供たちもアーレントさんの後を追うようにして遊んでいる。

 

「で、モングレルよ。結局あのマッチョは何者なんだよ」

「ただのマッチョ……じゃないのはバルガーにもわかるか」

「まぁなんとなくはな。世間知らずな感じとか、エレナの扱いとかを見るにあれか? 貴族関係か?」

「いやー……うーん、説明が難しいんだよなぁ……」

「話せよ。気になるだろ」

「……まぁバルガーだったら大丈夫か。サングレール人に対する復讐心なんて無いだろうし」

 

 せっかくなので俺は、バルガーにアーレントさんの話をした。

 サングレールからの外交官。“白頭鷲”。ギルドでの任務体験。マッチョ。その他いろいろ……。

 

 敵国のエースみたいなもんだし、サングレールと戦場でやり合うこともある俺たちギルドマンにとっては普通に地雷になりかねない人物だ。

 “外交官です”と言って落ち着いてくれる人がどこまでいるかわかったもんじゃない。

 しかしその点では、バルガーは特に問題無いだろうと俺は思っている。だからこれまでのことも、一通り話しておいた。

 

「……なるほどねぇ、冬にそんな面白いことがあったのか。巻き込まれずに済んで良かったわ」

「人助けからここまで面倒なことになるなんて俺も思わなかったよ。まぁ、けど頼まれたからには働くけどな。金も出るし」

「おう、金は貰っとけ。あの筋肉じゃ誰かに狙われても死ぬことはないだろう。護衛するわけでもなし、楽な任務じゃねえか」

 

 まぁ確かにアーレントさんに護衛はいらないだろうけども。

 かといって、サングレール人であることをいつまでも隠し通せるとは思えないんだよな。

 

「なあバルガー。アーレントさんをギルドに馴染ませるとしたら、まずどこと引き合わせるべきだと思う?」

「どこって、そりゃあまぁ……どこだろうなぁ」

 

 バルガーは休憩ついでにコーンパイプを取り出し、煙草をふかし始めた。休憩の長いおっさんだ。

 

「“収穫の剣”と“大地の盾”は後回しにしとけ。特に盾はサングレール軍に恨み持ってる奴もいるだろうしな。連中より先に外で理解者を増やしていった方が良いだろ。“若木の杖”ならあそこ副団長がサングレール人だし、良いんじゃないか」

「ああ、それもそうか」

 

 副団長のヴァンダールは純サングレール人だ。確かにあそこなら偏見も少なくアーレントさんと付き合ってくれそうだな。

 

「かといって、サングレール人ばかりとつるんでもしょうがないからな。モングレルもそうだが、直接肩入れするのはほどほどにしておけ」

「わかってる。ハルペリア人からすりゃいい気はしないだろうしな」

 

 自国内で敵国の人種が集まって居場所を拡大している……そんな光景に危機感を抱く人は多いだろう。

 だから俺もアーレントさんへの大っぴらな協力は控えた方が無難だ。

 

 ライナ繋がりで、“アルテミス”にも頼んでみるかね。

 貴族の意向が反映されてるならシーナも悪い顔はしないと思いたいところだが。

 

「よっし、休憩終わり! おいバルガー、仕事戻るぞ仕事」

「これ吸い終わったら行く」

「のんびり吸ってんなよー」

 

 結局バルガーはこの日の仕事の半分近くの時間をサボり、逆にアーレントさんはフルタイムで重労働に汗を流していたのだった。

 ……すっかり現場のヒーローだし、これ俺たちギルドマンが融和とか考える必要ある? なんかもうそのままでいいんじゃね? 

 

 

 

 という思いもあるが、ギルドマンの仕事は肉体労働だけじゃない。

 次回からはもっと地味で活躍し難い任務も増えるだろう。俺はそういう任務も一通りアーレントさんに体験してもらう予定だ。

 

「よーし、仕事の後は酒だ酒! 酒がないと働く意味がないからな!」

「アーレントさん、これがハルペリアで一般的なダメなギルドマンの姿だぜ」

「なるほど」

「うるせぇ! モングレルだって俺と大差ないだろが!」

 

 しかし今日のところは酒だ。酒を飲もう。

 何故ならギルドマンはその日得た金をパーっと使いがちだからだ。この感覚は悲しいことに多くのギルドマンに共通している。俺も正直そういうところあるしな。

 

「レゴールのギルドマンが仕事上がりに寄る場所といったら、ここ森の恵み亭だ。この店をモングレルに教えたのも俺な。ここはギルドに近いし、バロアの森で取れた肉を安く出してる。美味くて安い良い店だぞ」

「ほほう……確かに、肉のいい匂いがするね」

 

 ギルドに報告を済ませた後は、森の恵み亭で晩飯だ。

 さすがに店内は混んでいたが、どうにかアーレントさんの巨体が店に入った。

 

「働いた後はその分飲んで食う! で、英気を養ったら翌日また働いて金を稼ぐ! 良いもんだぜギルドマンは。おーい、エール3つとボアの串焼き6本くれ!」

「サボりまくってた奴がよく言うぜ……あ、俺はピクルス一つ」

「ふむ。ではポリッジの三人前もよろしく」

「ん? アーレントさん俺たち別に粥は食わないけど」

「いや、私が三人前のポリッジを食べたくてね……」

 

 おお……まぁ今日は重機みたいな活躍してたもんな。それなりの燃料が必要か……。

 

「うむ、うむ……しかしハルペリアは良いね。ご飯がどれも美味しい。お酒も……しかもこの値段だ」

 

 注文でやってきたポリッジや串焼き、エール。店ではありふれたメニューだったが、アーレントさんはどれも美味しそうに食っている。

 食料の乏しいサングレールじゃ、アーレントさんほどの人でも満足な飯を食えないんだろうか。

 

「特にこの肉の脂が良いね……私の故郷では、ヤギ肉以外は脂があまり乗っていなかったから」

「あー虫系じゃそうだろうなぁ」

「ぐぇー、俺虫肉無理」

「前パイクホッパーの肉食ったけど美味かったぜ?」

「マジかよぉー」

「まぁ、あっさりした虫肉でもヒマワリ油で炒めればそれなりの満足感はあるけどね。うーむ、しかしこの獣肉はなかなか……」

「ヒマワリ油か……どんな味なんだろうなぁ」

「俺はいいぜ、いつものメニューでよ」

 

 この日は互いに異国文化の話も聞きつつ、なんだかんだで働いた分以上の飯を食って終わった。

 

 ……うん。まぁ調子に乗って飲み食いしまくれば余裕で足が出る。その程度の給金ですよ。アイアンクラスなんてのは。

 

 

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