バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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巨大カエル食べ放題

 

 討伐任務。というのは今更このタイミングで説明するまでもなく、魔物や動物をぬっ殺す任務のことである。駆除と言っても良いだろう。

 基本的に討伐対象となるのは人間にとって害となる生き物で、魔物全般であったり、畑や人を襲う動物なんかも含まれている。

 

 とはいえギルドがまともに金を出すのは近場で大量発生しているとわかっている魔物が主であり、常に全ての魔物の討伐に対して金が出るわけではない。

 たとえばゴブリンを一日に百体狩ったからって百体分の討伐報酬がそのまま出るわけじゃないわけ。……いや、実際に百体のゴブリンが町を襲ってるとかだったら出るけどね。

 わざわざバロアの森の奥地に行って魔物を討伐しても、美味い稼ぎにはならないっつー話ね。

 

 けどまぁゴブリンの場合は金にならないだけかもしれないが、討伐する相手がクレイジーボアといった肉が採れるタイプの魔物であれば、そいつを売るなりすれば一定の稼ぎにはなる。

 春から秋にかけてのバロアの森での討伐任務は、そんな食肉系魔物を倒して稼ぐチャンスだ。

 

「というわけでアーレントさん、今日はクレータートードを討伐しようと思う」

「ほほう。クレータートード……とは?」

「知らないんスか? アーレントさん。こーんくらいのでっかいカエルの魔物っスよ」

「ほー」

 

 俺たちはアーレントさんを伴ってバロアの森へとやって来た。北寄りの人が少なめの場所である。

 今回同行することになったのはライナとレオとゴリリアーナさんの三人だ。

 護衛というよりは、クレータートードの肉運び要員に近いかもしれないな。足肉を捌いた奴はそこそこの量になるから、人数はいればいるだけありがたい。肝心の戦闘は地味に終わるだろう。クレータートードもパイクホッパーも似たようなものだ。

 

「動きは緩慢だけど、ジャンプ力だけは強いから油断はできないよ。見つけたら突進や踏みつけをされないよう気をつけて、だね」

「……体幹を上げるスキルなどがあれば、戦いやすい魔物ですね。はい……」

 

 そう。この手の突進を仕掛けてくるタイプは防御系スキルがあると対処が楽だ。

 “盾撃(バッシュ)”なんかもそうだな。相手の突進に合わせてぶつけてやれば、大きな隙を作り出すことができるだろう。

 まぁ、ここにいるメンバーにはあまり関係のない話だが……。

 

「クレータートードは春によく現れる魔物でな。結構な数がいるから肉が良く取れるんだ。初心者ギルドマンなんかはよくクレータートードの討伐で食い繋いでるぜ」

「肉が採れるのは良いねぇ……今日は私も参加して良いのかな?」

「ああ、もちろん良いぜ。せっかくだしアーレントさんの戦い方も見せてくれよな」

 

 今日はアーレントさんも両手に半月型のナックルダスターを装備している。それぞれ四つの穴が空いた、金属製のものだ。

 過剰にゴツゴツしているわけでもなくとてもシンプルな装備だが、アーレントさんが握っていると威圧感は強い。

 なにせただ素の拳を握りしめているだけでも恐ろしげなマッチョだ。その拳が金属になったら尚更物騒である。

 

「うむ、うむ……今の私は力が制限されているからね。一般的なギルドマンが戦う気持ちも理解できるかもしれないな」

「まぁでもクレータートードなんて余裕っスよ。気楽でヘーキっス」

 

 そういうわけでクレータートード探しが始まった。

 

 

 

 が、探すのはそう難しくはない。

 クレータートード自体がでかいし、水辺を好むので開けた場所で探しやすいからだ。

 

「あれ、モングレルか。それと……“アルテミス”と誰だ?」

 

 で、そんな開けた場所で探していると、同じ考えの同業者と遭遇することがある。

 三人組くらいのおじさんパーティーだ。連中は既にクレータートードを討伐し、川で解体作業を行なっているようだった。

 

「よ、久しぶり。こっちの人はアーレントさん、まぁ見学だよ。一緒にクレータートードの討伐を体験してもらうんでな」

「へぇーそうかい。まぁその身体なら大丈夫だろ」

「トードはいるか? 数が少ないようなら場所離れて探すけど」

「ああ気にすんな。ここから上流側はもっといるからな。気にせずやっててくれていいよ」

「お、そいつは助かるぜ」

 

 バロアの森で他のギルドマンに出会ったら、後から来た方が場所を変えるのがマナーといえばマナーだ。

 しかしギルドマンの不文律なのかマナーなのか知らないが、自分より強い奴には場所を譲りがちな風習も結構ある。

 ガラの悪い奴なんかはたまに良い狩場に居座って何日も動かないこともあるし、新人を強引に追い払ったりすることも多い。その辺りはまぁ、レゴール支部でもよくあるんだよなぁ。悲しいことだが……。

 

「お、ライナちゃん怪我しないようにな」

「っス」

「レオもさっさとモングレルのランクを追い抜いちまいなよ。ははは」

「どんどん後輩に追い抜かされてるな!」

「うるせぇ奴らだ。先いこうぜ」

「でも一理あるっス」

「あんな奴らの話を聞いちゃダメだぞライナ。ほら、カエル探しなさいカエル」

「はぁい」

 

 それから川沿いにしばらく歩いていくと、難なく最初のクレータートードは見つかった。

 

「おお、あれが……堂々としているね」

「クレータートードは逃げないんだよなぁ」

 

 川の端の方にギリギリ手足をつけているクレータートードが、時々喉を膨らませながらじっと動かないでいる。

 相変わらず何を考えている魔物なのかはさっぱりな奴だが、肉だけ欲しいこちらとしては好都合だ。

 

「じゃあまず俺が仕留めるから見ててくれよな」

「うん。モングレルさんは剣だね」

「バスタードソードな。まぁクレータートードなんてのは横か背後から近づいて行って……」

 

 俺がそろそろと近づくと、クレータートードはうっそりと向きを変えようとする。だがその都度相手の背後を取るように回り込み、一気に接近する。

 コツは川の方に飛ばさないよう向きを調整することだな。

 

「ほいっ」

「ゲゴッ」

 

 すれ違いざまに頭を刎ねるように剣を振りかぶってやれば、まぁ首を落とすまでは行かなかったが致命的な部分を切断することはできたらしい。

 

 クレータートードは力なく地面に倒れ、首元の傷口から血を流し始めた。跳ばれないと楽で良いや。

 

「とまぁこんな感じかな。狙いは頭だ。それ以外はまともなダメージにはならないから、気をつけてくれ。打撃の場合は更に頭蓋骨を潰すくらいじゃないと決め手にならないかもなぁ」

「お見事、鮮やかだったよ。……ふむ、やるなら頭狙いか。カエルを殴ったことはないが、その下にある岩まで砕くつもりで殴ってみるよ」

 

 アーレントさんがやると普通に岩とか殴り砕きそうなんだよな……。

 

「私もやりたいっス!」

「僕も身体を動かしたいな」

「わ、私も……」

「はいはい順番な」

 

 クレータートード、大人気である。

 まぁでも誰かと一緒に討伐やってると自分も戦いたくなる気持ちはすげぇわかるぜ。魔物を倒して経験値を稼ぐのは俺たちの本能みたいなもんだからな……。

 

 

 

 それからライナは“貫通射(ペネトレイト)”で眉間を撃ち抜いて一匹を仕留め、レオも踊るような双剣捌きで飛び跳ねるクレータートードに難なく追従し、首を切り落としてみせた。さすがにスキル持ちで慣れたギルドマンからしたらサンドバッグみたいな相手だしな……。

 

 そしてゴリリアーナさんは背負っていたグレートシミターで、踏みつけにきたクレータートードを空中で真っ二つにしていた。しかもスキル無しである。

 相変わらずパワーがやべえというか、なんというか……。

 

 ……ゴリリアーナさんは実力はあるんだし、次は昇級できるといいな……。

 

 

 

「ほら、あそこにいるぜアーレントさん。戦い慣れない相手だろうから、一応油断するんじゃないぞ」

「もちろんだとも。……ううむ、まさかこの歳で初めて戦う魔物がさらにもう一匹増えるとは……」

 

 そして最後はアーレントさんの番だ。

 川沿いを歩けばバンバン見つかるので、今日は楽な日だったわ。カエル肉パーティーできるぜ。

 

「では、行ってくる」

「ファイトっス」

「頑張って、アーレントさん」

「き、気をつけてください」

 

 アーレントさんはナックルダスターを両手につけたまま、ひょいひょいと岩場を進んでゆく。

 苔むして滑りやすそうな岩の上を、まるで平地のように素早く飛び移って行く動き。それだけでも既に超人技である。

 

「身軽っスね……」

「あんな体格なのにな」

 

 遠目に見えたクレータートードのもとまで一瞬にして辿り着くと、アーレントさんは最後の数メートルを一気に跳躍して接近した。

 

 横断歩道の白い部分だけを踏むかのような軽やかな動き。

 だがそのステップはクレータートードの危機意識が働く外側から一息に踏み込む脅威の一歩だった。

 

「やぁ」

 

 ペキッと、音がした。

 

 アーレントさんがクレータートードの正面に躍り出て、右手を軽く振り下ろしただけ。その時に鳴った、薄い器が割れるような音だ。

 

 その音を最後に、クレータートードは魂でも奪われたかのように倒れ伏してしまった。

 

「……す、すごいな。今の一撃、僕にはほとんどよく見えなかった」

「無駄の……全くない動きでした。一瞬も……」

「アーレントさん、すごいっスね!」

「ははは。いやぁ」

 

 驚くべきは、今の動きが腕輪装備中にさらっと出てきたことである。

 身体強化が半分封じられててこれかよ。本気出したらどんな動きができるんだアーレントさん。

 

 ……エドヴァルドは白頭鷲が飛ぶとかなんとか言ってたが、あの軽やかなステップを見た感じじゃあながち嘘ではないかもしれないな。

 

「どれどれ。……うお、完全に頭蓋骨が陥没してるわ。バキバキだ」

「多分、上手く仕留められたと思うんだけど。どうだろう?」

「最高の仕事だぜアーレントさん。可食部を傷つけることなくスマートに仕留める……理想的なギルドマンの動きだった」

「理想的なギルドマン……」

 

 ギルドマン扱いされるのはまんざらでもないのか、アーレントさんはハの字の眉を更に緩めた。

 肉体のゴツさはあれだが、顔の愛嬌はなかなかあるおじさんである。

 

「……よし! じゃあせっかくだしこのアーレントさんが仕留めたクレータートードだけ、ここで焼いて食っちまうか!」

「おお!」

「良いっスね!」

「足りなかったら僕らの分も焼いていいからね?」

「た、食べましょう食べましょう」

 

 そして討伐で大量に仕留めた後は、狩人の特権。新鮮な猟師飯である。

 まぁクレータートードの焼肉なんてものは少し長くやってれば飽きるくらいには食えるんだが、アーレントさんにとっては初めてだ。きっと楽しんでくれるだろう。

 

「楽しみだなぁ、クレータートードの肉……どんな味がするのだろうか……」

「鶏肉みたいな感じっス。あっさりしてるけど美味しいっスよ」

「ほうほう……!」

「あ、ちなみにこれな、生肉に塩振りかけるとピクピク動いてキショいぜ」

「おおおっ」

「ちょ、細かくする前に塩かけて暴れさせるのやめてもらって良いっスか!」

 

 ちなみに、アーレントさん初めてのカエル肉は好評だった。

 しかし結局アーレントさんとゴリリアーナさんがすげー食うもんだから、なんと四体分ものクレータートードが胃袋に消えてしまった。健啖家がパーティーに多いとそれだけで維持費が大変だ。

 

 まぁ、こうやって獲物を仕留めて飯を食うってのは良いもんだよ。

 

 サングレールでは……どうなんだろうなぁ。やっぱ向こうじゃ生態系も違うだろうし、安定しないんだろうかね。

 

 

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