バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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モスシャロの調理

 

 ラストフィッシュの調理は簡単だ。適当に内臓取って串打ちして塩でもかけてやれば美味しくいただける。普通の川魚だからな。

 しかしウルリカが釣り上げた方の、こっちのモスシャロって奴はそうもいかないサイズをしている。体型もサイズもナマズに近いので、胴体が太くて丸焼きにするには結構厳しい奴だ。

 

「あー、ぬるぬるしてるな」

 

 ナマズのようにヒゲはないが、魚特有の表面のぬめりは結構強めだと思う。

 このヌメヌメしたのが美味いってことはほぼないので、ぬめり取りもしないとな。

 

 しかしまずは鱗と内臓を取ってからだ。ソードブレイカーの厚い刃でゴリゴリと擦り、鱗を吹っ飛ばす。シンクでやりたくない作業の上位に入る鱗落としだが屋外なので逆に清々しい。で、鱗を取ったら腹を掻っ捌いて内臓を出していく。のだが……。

 

「鱗取ってもまだヌメってるなぁ。先にぬめり落とすか」

 

 鱗を取ってもなんかこいつヌメってて生臭い。

 ヌメヌメしたままでは正直あまり良くないだろうってことで、ここはひとつお湯で洗っておくことにする。本当は大量の塩でもみもみしたいんだけどな。そんな潤沢な塩はねえから……。

 

 石で組んだかまどの中に火を熾し、鍋に川の水を入れて煮立たせる。

 そして出来上がった熱湯を、モスシャロの皮にざぱーっとかける。すると黒い皮の表面に白っぽい汚れが浮いてきた。これでまぁ少しはヌメりが取れただろうか……。

 

 ……うん、まぁこのくらいなら手も滑らないだろう。次に内臓を取り出そう。

 腹側にナイフを入れて、開いたらそこからドゥルンと……。

 

「……いや、内臓でかいなこいつ。意外と可食部少ねえのか」

 

 モスシャロは結構でかい魚だが、内臓を取り出してみると普通の魚よりもずっと大きなそれに少し驚いた。胃袋と……肝かな? でっぷりと太った肝は美味そうに見えるが、よくわからん種でしかも淡水魚の肝とか食ってみる勇気は俺には無い。捨てちまおう。図鑑にも肝のことは書いてなかった気がするしな。

 ……胃袋も中身をちょっと見てみたが、緑っぽいゲロが詰まっていた。草食なんだろうか? 内容物に肉っぽいのは無いように見える。サイズの割には意外過ぎる。

 

「あとは捌いていくわけだが……いいや、三枚におろしちまえ」

 

 そうしたら後はもう身を切り離すだけだ。

 ソードブレイカーで腹骨を……。

 

「かってコイツ……は? お前俺のソードブレイカー舐めんなよ」

「モングレル先輩が魚と会話してるっス」

「見ちゃ駄目だよーライナ」

 

 ソードブレイカーに魔力を流し込んでモスシャロのぶっとい腹骨を強引に断ち切っていく。

 ペキペキと骨が壊れていく音が耳に心地いいような、これ調理法として正しいのかという不安が首をもたげてくるような……。

 

「ふう……お前は強敵だった」

 

 血合い骨もアホみたいに硬かったが、どうにか三枚におろせましたとさ。

 ……しかし背骨と中骨がクソほど硬そうだ。こいつらは高温の油で揚げ続けても骨せんべいになるかどうか怪しいレベルじゃねえかなぁ……大人しく捨てるかダシ取りくらいにしておくかな。

 

「つーかまだくせぇ……おーい、二人とも。ちょっと俺ミルク買ってくるわ!」

「え!? なんでっスか!」

「調理に使うんだよ。しばらくここで荷物見ててくれるかー」

「えーしょうがないなぁー。さっさと戻ってきてよねー」

 

 念のためにこいつらをしばらくミルクに漬けて臭みを取っておこう。

 臭い魚は酒に浸すか牛乳に浸せばマシになる。俺は詳しいんだ……。

 

「二人とも、この辺にミルク売ってるような農家は……無いよなぁ」

「知らなーい。無いと思うよー?」

「ちょっと見たこと無いっスねー」

「しゃあねえレゴールまで走ってくるわ」

 

 横着はできないようなので、やむなしだ。ひとっ走りしよう。

 魚が腐らない内に、急いでな!

 

「うおおおおっ」

「うわ速ッ」

「すごーい、モングレルさん足速ーい……っていうか本当に速いなぁ……」

「素早いおじさんっスね……」

「あははは、まだおじさん呼びはかわいそうだよーライナ」

 

 

 

 レゴールにひとっ走りして、ミルクを購入した。

 ついでに卵とか諸々の食材を買い足して、……宿に戻ってちょいと酒と道具も拝借したりして、予定よりもそこそこの荷物を抱えることになってしまった。

 まぁまぁ……まぁ良いだろこれで。今日は釣れそうな予感しかしねぇからな。大げさな準備をするに越したことはない。

 

「あれ? モングレルさんじゃないか。もうレゴールに戻ってきたんだね。ウルリカたちはどうしたの?」

「おおレオか」

 

 もういっちょシルサリス川まで走ろうかってタイミングで、レオとばったり遭遇した。

 片手にパンを抱えているという生活感のある姿してるくせにどうしてこうも様になるんだろうなこいつは。

 

「いや、まだシルサリス川で釣りやってるとこだよ。ちょっと忘れ物があったから買い出しついでに戻ってきたんだ。また向こうまで走っていくわけさ」

「へ、へぇ……それは結構大変だね……お疲れ様。あ、せっかくだしパンとかどうかな。向こうのウルリカとライナにも分けてあげてよ、はい」

「おー、ありがとうなレオ。すげぇ助かるぜ……なんなら一緒に来るか? 今日は良い魚料理が出来る予定だぞ」

 

 ワンチャン生臭いかもしれんけどな。

 

「あはは、僕は良いよ。今日はちょっとシーナさんと任務に付き合う必要があるから、遠慮しておく。また今度、誘ってね」

「おー」

 

 そういう感じでついでにパンを入手し、俺は再び門を出て走り出した。

 門番の連中がちまちまと往復する俺を見て苦笑いしてたが、俺を笑ったやつには魚のおすそ分けはくれてやらんぞ。気を付けるんだな。

 

 

 

「よう二人とも、戻ったぞーって……うわ、なんか鍋すげぇことになってんな」

「モングレル先輩! いい感じの場所見つけたっス! あの大きな岩が連なってるとこいい感じっスよ!」

 

 川に戻ってみると、ライナとウルリカは同じポジションで釣りをしていた。

 緩やかに蛇行する川の中で、ちょっとした窪みのある地形だ。急流と穏やかな流れが一緒になっている場所で、どうやらそこが爆釣スポットらしい。

 その証拠に、二人の側に置かれた鍋にはすでに幾つかの魚やエビの姿があった。

 

「おーエビも捕れたのか。良いじゃん良いじゃん」

「パイクホッパーの肉ならエビはかかるっぽいスね。あの入り組んだ所なんていい感じっスよ」

「流れのある所も結構釣れるよー。あれからラストフィッシュが二匹釣れたからねー!」

「俺の竿は?」

「一応私達と一緒に移したらエビが一匹釣れたっス」

 

 場所移したのか……ま、まぁまぁ……エビ釣れたなら良かった……。

 

「てかお腹すいたっス! もうお昼っスよ!」

「モングレルさーんお腹すいたー!」

「はいはい作りますよ。とりあえず塩焼きだけ作っておこうか。あ、レゴール戻った時にレオと会ってな。みんなにってパンをくれたんだ。二人でちょっと食うか?」

「わーい、食べるっス!」

「やった。けどエビも食べたいなー?」

「後でな、後で」

 

 はいはい両方やっときますんで。今日はもう俺は料理人で良いよ。

 

 

 

「はいドボン」

 

 さんざんお待たせしたモスシャロの切り身を、ミルクの入った小鍋に投入する。

 別にミルクで煮込むわけではない。ミルクにつけて臭みを取るだけだ。ちょっと勿体ない使い方だとは思うが、まぁいざ手間隙かけてくっせぇ料理ができあがっても困るんでね。念には念をってやつだ。

 

 そして臭みを取っている間にラストフィッシュの処理をやっておく。

 こっちはモスシャロよりも随分簡単で、鱗を申し訳程度にバリバリやって内臓を雑に抜き取るだけ。あとは串打って塩をベタベタにまぶせば完了だ。

 かまどの周りに突き立てておけば、あとは勝手にこんがり焼き上がってくれるだろう。

 

 よし。あとはエビの処理だな。関節部の泥や汚れをブラシできれいにして、胃袋と背ワタを抜き取って、尾鰭と殻をちょっと切って……。

 

「ウルリカ先輩、これエビを餌にしたらなんか釣れないっスかねぇ」

「えー? ちょっともったいなくないー?」

 

 離れた場所では二人が岩場を移動しながら楽しそうに釣りをやっている。

 キャイキャイとはしゃぐ様は、まるで夏休みを満喫する子供みたいだ。

 ああ、なんかノスタルジックだぜ……。

 

「……よし。素揚げ作るかー」

 

 宿から持ってきたチャージディアのラグマットの上に座り、エビの素揚げを作っていく。こういうリラックスした姿勢でのんびりやる調理もなかなか悪くないぜ……。

 

 ……あ、エビの腕もげた。

 あーあ、これはしょうがねえ。取れたもんはしょうがねえもんな。よし、食べちまおう。

 

「うん、うん……やっぱうまいな。あ、もう一本もげてる」

 

 ブクブクと煮立った油の中で、時々ポロリと外れるエビの腕。

 身も詰まってなさそうな貧相な腕だが、こいつがまた不思議と美味いんだよな……。

 

「あー! つまみ食い! つまみ食いしてるっス!」

「ひどーい!」

 

 やっべ二人に見つかった。

 

「い、いや違うんですよこれは。あ、ほら素揚げできたんでどうぞ」

「……んむんむ……香ばしくて美味しいっス」

「あふ、あふ、熱っ……んんー! 美味しい!」

 

 つまみ食いを見られて危うく他人の釣果を食う最低なおっさんになるところだったが、上手く揚がった本体を差し出すことでどうにか誤魔化すことはできた。

 

「……こっちのミルクのやつは、本当に大丈夫なんスか?」

「ミルク味になっちゃうのかなー」

「ま、そっちはできてからのお楽しみってやつだよ」

「っスかぁ」

 

 全ては臭みが抜けるかどうかだけどな。どうしても臭いようなら二度揚げでも三度揚げでもしてみるわ。

 まぁそこまで酷い臭いってわけじゃないから多分平気だろうけどな。

 

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