バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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胡散臭い相乗り客

 

 夏だ! 海だ! 生食できるであろう海水魚だ!

 というわけでね、今回はね、湾岸都市アーケルシア目指して行きましょうというわけなんでございますけども。

 アーケルシア。レゴールからだとアホみたいに遠いんだよな……ただ旅行のためだけに行くのはギルドマンとしてはとんでもなくもったいない。

 だから移動時は馬車の護衛任務を受けつつ移動していくわけなんだが、いや、さすがにアーケルシアまでともなると直通の護衛依頼なんてものは全く無い。途中で立ち寄るベイスンだとか、そこらへんの大きめの街でちょくちょく護衛任務を受け直したりしながら進んでいくことになるわけだ。

 

 が、そういう時にブロンズランクのギルドマンってのはどうしても弱い。

 隊商だって弱っちい護衛をわざわざ雇いたくはねーからな。というかそもそもソロがお呼びじゃない。なので、こういう時こそ箔のついた有力パーティーだと任務が受けやすくて便利なんだ。

 今回の俺は“アルテミス”にくっついてスムーズに護衛任務のおこぼれをいただくことにしている。なぁに、荷物持ちでもなんでもやらせてもらいますぜ。報酬はしっかり一部いただくけどな。グヘヘ……。

 

「あ、モングレル先輩。もう馬車駅来てたんスか。早いっスね……っていうか、荷物ヤバいっスね……」

「ようライナ。長旅になるからな、現地でも道中でも楽しめるように色々必要だろ?」

「引っ越しする人みたいになってるスけど……」

 

 俺の今回の装備は、まぁ一見すると夜逃げ男みたいに見えないこともないか。

 なにせレクリエーション関係の物をこれでもかと背負っているからな。逆にギルドマンらしい物がバスタードソードくらいしかないかもしれん。

 チャクラムは置いてきた。ハッキリ言ってこの旅にはついてこれそうもない。

 

「うわー荷物重いよー……あーモングレルさんおはよ……ってなにその荷物! うわぁー」

「おはよう、モングレルさん。……これはまた、凄いね」

 

 反面、ウルリカやレオの荷物は非常にコンパクトだ。

 

「何だお前たちの軽装は。遠足に行くんじゃないぞ。もっと気合い入れて夜逃げしろ」

「モングレルさん、そのまま門から出ようとしたら衛兵さんに止められちゃいそうだねー」

「ははは……確かに夜逃げしてそうだからね」

 

 その後やってきたシーナとナスターシャは、標準的な量の荷物を抱えていた。

 と思ったら、その後ろのゴリリアーナさんが特にたくさんの荷物を請け負っているらしい。まぁ力のある人が運んだ方がいいってのはその通りなんだが、“アルテミス”はその辺りはっきりと分担しててすげぇな。

 

「……ふむ、大荷物だな。まぁ、馬車に乗せるのであれば問題にはならない、か」

「アーケルシアまでは護衛をするのだから、あまり浮ついた姿をされても困るのだけど……」

「大丈夫だって。むしろ俺が荷物持ちに見えて自然だろ?」

「自分で荷物を増やしておいて……まぁ、良いけどね。今回は貴方のその大荷物をあてにして装備品を整理してるところもあるから」

「お、そうなのか?」

「いざという時の野営装備を削減したくらいだけどね。今回も似たようなものはあるのでしょう」

「ご明察。さすが“アルテミス”の団長さんだな」

 

 シーナは褒められてなさそうな顔でため息を吐いた。

 

「……まぁ、かなり長期間の同行になるでしょうから、よろしく頼むわね」

「おう。荷物持ち、荷物運び、接近戦辺りは任せてくれ。それ以外の時間は好きにさせてもらうけどな」

 

 こうして俺たちは馬車に乗り込み、出発する事と相成ったのである。

 俺、ライナ、ウルリカ、レオ、シーナ、ナスターシャ、ゴリリアーナ。計7人による長い長い旅の始まりだ。

 

「おー悪いねぇ“アルテミス”さんたち。ベイスンまでもう一人乗せてくから、もうちょい待ってくれるかね」

 

 と思ったが、まだもう一人追加する予定があるらしい。

 まあ馬車も貸し切りで動いているわけじゃないからな。積み荷でも人でも乗せられるだけ乗せて利益を出すわなそりゃ。

 しかし顔見知りしかいないこの馬車の中をたった一人だけ他人として乗ってなきゃいけないってのは……疎外感ありそうだな。可哀想に。

 まぁいかめしい男ばかりの荷台じゃないだけ幾分マシか。

 

「やあ、遅れてすまないね。土産物を買っていたせいで少し遅れてしまったよ……おや?」

「あ」

「……あっ」

「……って、最後の一人はお前かい……」

 

 さて誰が乗り込んでくるのかと思っていたら、乗り込んできたのは馴染みのある女だった。

 金の長髪。浅黒い肌。青と金のオッドアイ。古びた魔法使いのローブに魔法使いっぽい杖を装備したエルフ。

 

「これはこれは……まさか少年と一緒の馬車に相席することになろうとは。ウフフ、面白い運命もあったものだね?」

 

 カテレイネ。

 ぱっと見た感じすごい裏設定のありそうなダークエルフだが、実際は日焼けしただけの一般農民エルフ女。

 昔、根無し草だった頃の俺がちょくちょく世話になっていた親切なお姉さん(一歳上)である。

 

 

 

「なるほどね。君たちはアーケルシアまで旅をするわけだ。それは随分な長旅になりそうだ……ギルドマンは大変だね」

「まぁ、今回のは護衛しながらの旅行を兼ねた遠征ってところだけどな。アーケルシアまで着いたら釣りを楽しむつもりだぜ。ほら、竿も用意してあるからな」

「おお、本当だ。へえ、準備は万端というわけだ。楽しんでおいで」

 

 ゴトゴトと馬車が走る中、俺たちは……というか、俺とカテレイネが主に会話をしている。

 “こんなところで居合わせるとはな”と思うところもあるが、別に不意の遭遇をして煩わしい相手でもない。逆にこうして気兼ねなく話せる分、相乗りできて良かったかもしれないな。“アルテミス”の連中にとってはなんのこっちゃだろうけども。

 

「あの……カテレイネさんって、モングレル先輩の知り合いなんスよね……?」

「ん? ああ、そうだよ。君は確かライナだったね。また会えて嬉しいよ」

「あ、うっス」

「そちらの可憐な少女も、お客様だったね。いや、本当に奇遇だよ」

「あーえーとはい……お久しぶりです……」

 

 なんだウルリカも知り合ってたのか。怪しい行商人やってるくせに顔広いなカテレイネ。

 

「ベイスンまでの道連れだから軽く自己紹介をしておこうかな。私はカテレイネ。見ての通り、ただのしがない野菜売りだよ。……といっても、今は商品を売り切った帰り道だから、土産物くらいしか持っていないけどね」

「ふむ……野菜売り、か」

 

 ナスターシャが目を細めて含むようにつぶやいているが、この胡散臭いエルフは実際に野菜売りである。レゴール観光と都市部での買い物を満喫してホクホクで帰るところのただの田舎者だ。手のひらを見ればよくわかる。こいつのは日焼けの薄くなってる農家のがっしりした手だからな。断じて魔法使いとかそういうのではない。

 

「モングレル先輩って、昔はどんな感じだったのか聞いても良いっスか?」

「あ、それ私も気になるわね」

「えっ、あー……聞いちゃっても良いのかなー、そういうの……」

「あーまぁ好きに話のダシにでもしてくれよ。別に隠してるようなことでもないからな」

 

 まぁ嘘をつけばボロが出るかもしれないし、あえて昔話をしてないところはあるけどな。必死になって隠したら後ろ暗いことをしてたみたいに思われやすいから、こういう時がきたら流れに身を任せるのが一番だ。

 カテレイネと過ごした時期なんて、ド健全な便利屋でしかなかったからな。

 

「少年……モングレルとは、そうだね。最初に会ったのは15年以上前になるのかな?」

「そんくらいだな。……けど、もうそんな前になるのか……」

「大昔っス!」

「ウフフ。……昔から私も人の商売というものに興味があってね。その時に少年と出会って、色々とあったのさ」

 

 まぁ色々はあったが……お前んちが行商人の連中にボられそうになったところを俺が助けてやったんだろうが。ボカしてちょっと思わせぶりにするんじゃない。

 

「その頃のモングレルは便利屋をやっていてね」

「便利屋? っスか?」

「そう。まあ、ギルドに所属せずに活動しているギルドマンのようなものだよ」

「……そ、それってあの、大丈夫なんですか……? 危なくはないんですか……」

「どうだろうね。それはモングレルに聞いてみないと。けど少なくとも、当時の私は彼に手伝ってもらいたい仕事が多かったし、彼も仕事を欲していたみたいだったから。お互いに騙し合うことはなかったよ。良い商売相手だったというわけさ」

 

 “アルテミス”の十代連中が感心している。

 ……まぁ、この時はギルドって組織もどうなんだって思いながら各地を回ってたからな。実際適当な仕事でもなんとかなるだけの力が俺にはあったし、そこまで組織の後ろ盾みたいなものが必要なかったのもある。

 ギルドに加入したのはレゴールに来て、バルガーに色々と教わってからだ。正直もっと早く入っとけば良かったと思ってはいる。

 

「作業を手伝ってもらったり……ああ、商売に必要な計算術も教えてもらったりね。彼には助けられたものだよ」

「……随分小さな頃の話よね。その頃に計算なんてできたの、貴方」

 

 おっと、さすがにそこらへんに話が突っ込むと少し痛い腹が見えちゃうぞ。

 

「俺のいた村は計算できる爺さんもいたからな。その人から色々と教わったんだよ。こう見えて俺は今すぐにでも大商人になれるだけの知力を持ったギルドマンなんだぜ?」

「……そういう言われ方をすると、途端に馬鹿っぽいわね」

「計算……商売……うっ、頭が痛いっス」

「あはは、ライナはよくナスターシャさんから勉強を教わっているもんね」

「“アルテミス”に所属する以上、最低限の計算能力は培って貰わなければならん。ウルリカもゴリリアーナも通った道だ。ライナにもやってもらうぞ。当然、今回の移動中にもな」

「うわぁん」

 

 どうやらライナは算数の宿題を課されているらしい。

 けどこの世界で騙されないよう生きていくためには最低限その辺りの技術はあったほうが良いぞ。ちゃんと勉強しておけ、ライナ。

 

「……賑やかで良い友人を持ったね、少年」

「まぁな」

 

 そりゃ昔と比べたら雲泥の差に見えるだろうけどな。

 昔の俺も完全なぼっちってわけじゃなかったが、やっぱ拠点を構えて生活するってのはデカいよ。そういう意味でも、ギルドマンになって良かったと思っている。

 

 たまに昔話なんかして、かと思えば暗算問題を出し合ったりして。

 そんな和やかな雰囲気で、馬車の旅が始まった。

 

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