バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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あの子のスカートの中

 

 その日の夕方もまた釣りに挑んだのだが、結果は奮わなかった。岩場でやっても駄目、桟橋から投げても駄目、浜辺は暗い中でやるにはちょい危険なのでまだやっていないが、どうかね。望み薄な気配しか感じない。

 

「釣れないっスねぇ」

「ほんとな。まさか港町の釣りでここまで手こずるとは思わなかったわ」

 

 薄暗い時間帯。

 場所をちょくちょく変えながら、今は桟橋でライナと二人で並んで釣り竿を振っている。ウルリカとレオは相変わらずどこかで買い物を楽しんでいるらしく、ゴリリアーナさんもシーナ達と一緒に散歩に行ってしまった。二人でのんびりと釣れない夕マズメだ。日も沈んだおかげで涼しくなってきたのがありがたい。

 

「さっき食べたブルーダガーのお団子、すごい美味しかったっス」

「おお、美味かったよな。俺もあそこまで上手くできるとは思わなかったぜ」

 

 さっき岩場でやっていた時、餌つきの竿をぶっこんでおいた間に簡単な料理を作って一緒に食べた。

 アーケルシアン・ブルーダガーをミンチにして作ったつみれ汁である。味もイワシに似ていたのでなかなか懐かしい味がして美味かった。つみれのおかげで小骨の多さもほとんど気にならなかったしな。まぁ大した量はなかったけども。

 

「私もブルーダガー釣ってみたいっス。あの味はきっと焼いても良い感じっスよ」

「だな。……しかしあれだな。やっぱここらへんじゃ釣れないのかもしれん」

「さっきから何も反応無いっスからねぇ」

「やっぱ……明日の離れ島ってところに行ってみるしかねえな」

 

 そんなことを言い終えた途端、灯台に魔法の光が灯り、空がちょっとだけ明るくなった。

 海も暗くなりつつある時間帯だ。漁に出ていた船たちは、あの灯台の輝きを目指して戻ってくるのだろう。

 じきにこの人気のない桟橋も慌ただしくなるかもしれない。

 

「ライナ、そろそろ宿に戻って飯にするか」

「っス。……モングレル先輩。離れ小島っていうのも、結構楽しみっスね」

「おう。けどま、アーケルシア侯爵に感謝するかどうかは、向こうでの釣果次第だな」

「宿も楽しみっスよぉ」

「風呂付きだったら侯爵様に感謝状を書いてやるぜ」

「海があるのに風呂入るんスか」

「海と風呂は別だぜライナ」

 

 さて、納竿して宿に戻ろうか。つみれ団子だけじゃ腹が減るぜ。

 

 

 

 俺たちが宿に戻ると、既に全員が揃っているようだった。

 全員で集まり、今日は宿屋の飯を食うことになったらしい。なんでもこの宿の晩飯もなかなか美味いマリネ的な料理を出すのだとか。マリネなら俺としても楽しみだ。

 

「アマルテア連合国の品も多くて見ごたえがあったわ。レゴールの物流も活発になったとはいえ、やっぱり港町は違うわね」

「連合国の人間も多いが、普通に出歩いているサングレール人も多いな。大道芸を披露している者もいれば、大きな天幕で劇を見せている連中もいたぞ」

「芸もなかなか良かったわね。あの剣を飲み込むやつ、どうやっていたのかしら……」

 

 シーナとナスターシャは買い物というよりは観光に近いことをしていたようだ。

 ……ちょくちょくサングレール人が居るのは知っていたが、そうか。もっといる場所もあるのか。

 国防上の問題は……まぁそこらへんはしっかりしてるんだろうな。港で国際問題が起こるとマジで大変だ。両国とも連合国との関係を悪くさせたくはないだろう。何も起こらないと信じたい。

 

「私たちはねー、買い物とあと服! 服色々見てきたよ!」

「魚や海獣の皮を用いた装備があってね。シンプルなマント一つとっても眺めていて飽きなかったよ」

「うんうん。あと水着! ねえねえ知ってた? 海で泳ぐための専用の装備もたくさん売ってたんだー! 私も気に入ったやつ買っちゃったよ、ほらこれ!」

 

 そう言ってウルリカは自分で買った水着を嬉しそうに見せびらかした。

 ビキニタイプの赤い水着である。下はパレオのようなスカートになっているらしい。……お前それ着るんか?

 さすがに体型が出そうなもんだが……いや、着たいなら良いとは思うけども。

 

 しかし水着も一般向けに売ってるんだなぁ。存在自体は知っていたが……。

 元々露出の多い装備でも特に気にしない連中の多い世界だから、このくらいじゃ恥ずかしくもないんだろうな。

 

「それって下着じゃないんスか……?」

「ふふーん、ライナは勉強不足だなぁー。これはね、海女さんとかも使ってるちゃんとした装備なんだよ。海の中で動きが悪くならないし、水に濡れても駄目にならないし、すぐに乾く! ……って、売ってたお針子の人が言ってたよ」

「はえー……な、なんかそれおしゃれっスね……」

「へえ、良いじゃない。それも海獣の素材を使っているのかしらね」

「濡れても問題ないのであれば、下着よりも便利なのではないか」

「い、いや、あの、さすがにそういった使い方はどうかと……でも、良いですよね。せっかくだし、私も一つくらい……買おうかな……」

 

 わりと皆こういう物に興味津々である。

 まぁ女は特にマッパで泳ぐわけにもいかんだろうからな。せっかく海に来たのだから、買うのも悪くないんじゃないか。どうせ大して荷物にもならない装備品だ。

 

「レオも水着を買ったのか?」

「え、ああ、うん。ウルリカも買ってたし、僕も下に着るやつをね。……明日は小島に行くんでしょ? 泳ぐの楽しみだな」

「なんだお前も買ったのか。じゃあ俺も明日の朝買ってみるかな」

 

 今までは適当な服を着て泳いでいたが、水着があると便利そうだ。水辺ならどこでも使えるし、川でも湖でも用途はある。

 何より俺も男とはいえマッパで水浴びしたくはない。そういう意味でも必要なものだろう。

 

「じゃあ明日は朝から市場で水着を買って、それから船に乗って離れ小島へ向かいましょうか」

「さんせー! あ、ライナの水着選ぶの手伝ってあげるからねー!」

「えー、いやぁ、私は適当なやつでも……」

「駄目だって! せっかくなんだから可愛いやつを選ばないと!」

 

 水着買って離れ小島の砂浜でショアショアしちゃうかー。

 釣れるかどうかはわからんけど、駄目だったら開き直って海水浴に切り替えって手もあるからな。

 

 

 

「ほらほら見てモングレルさん! 私の水着は着るとこんな感じ! どう?」

「どうと言われてもな……良いんじゃねえか?」

 

 その夜。俺は宿の男部屋で何故かウルリカの水着お披露目会に付き合わされる事になった。

 女性用の赤いビキニとパレオ姿である。何が悲しくて男の女装水着をじっくり鑑賞しなくちゃいけないんだ……?

 いやまぁ、胸が絶無で体型がなんだかんだ男っぽさがある以外は振る舞いもあって似合ってはいるけども。

 やっぱ顔が良ければこういうのって半分以上許される気がするわ。

 

「……なんか反応が微妙だなぁー……」

「僕は綺麗だと思うよ、ウルリカ」

「うーん、綺麗より可愛いの方がいいなー」

「ええ……」

 

 その人の褒め言葉を採点する面倒くせえ反応、俺の中で女ポイント高いぞウルリカ。やったな。

 

「モングレルさん、明日他の人が水着に着替えたらもっと褒めなきゃ駄目だからね! 特にライナの水着姿はちゃーんと褒めないと駄目だよ!」

「わかってるって。てか部屋じゃなくて海で着てみせたらお前の格好も褒めてやるよ」

「えー……ほんと? ふーん……じゃあ結構こういうのも好きな感じ? ほーら」

 

 ニヤニヤしながらパレオ捲るな。見たくないものが見えそうだろ。

 

「水着もいいけど、明日はお前も釣りするんだぞ。アーケルシアに来て一匹も釣らずに帰るわけにはいかねえからな……」

「今日も釣れなかったもんねー」

「僕も手伝うよ、モングレルさん。色々教えてね」

「せっかく屋外用の調理セットも持ってきたんだ。全部使えないなんて結果は勘弁だぜ……」

 

 周りから夜逃げしてると思われるほどの大荷物を背負って来たってのに、それ全部無駄でしたなんてのは最悪すぎる。

 ブルーダガー一匹でもいいから釣って調理しておきたいところだぜ……。

 

 

 

 翌朝、早い時間に起きた俺たちは予定通り水着屋に向かい、そこで各々必要なものを買った。

 男女双方とも多様な水着が取り揃えられているが、俺は別にこういうところで迷うタイプではない。適当に暗くて素材が良い感じの半ズボンタイプを買っておしまいだ。男の水着なんてそんなもんである。

 

「ほらこれこれ。ライナはこれ結構似合うと思うんだよねー」

「えー、そうなんスかね……」

「ぼ、防御性能はどうなっているんでしょうか……なるべく、頑丈な水着が良いですね……」

「高級なものとなるとさすがに高いわね……」

「シーナはこっちの落ち着いた色合いのものにすべきだろう。高いなら私も金を出すぞ」

「良いわよ、自分で出すから」

 

 わちゃわちゃと楽しそうに水着を選ぶ女子+女子っぽい男子を尻目に、水中用のちょっとしたアイテム売り場を探検する。

 離れ小島では足ヒレを使って少し泳いでみるつもりではあるが、その際にフロートとやらも使ってみたいところだ。

 フロートは海獣の内臓を使った袋状の道具で、浮力で水面に浮いてくれるので泳いでいる時に掴まることで休憩できたり、ロープを伸ばすことで物を紛失しないといった使い方ができるものだ。この水着の店でも幾つか売っているようで、決して安くはないが買えなくもない額で並んでいる。

 絶対に必要ってわけじゃないが、空気を抜いておけばかさばるものでもないのでちょっと欲しくなるな……一個買っておこう。

 

「さ、港に行きましょう。昨日のうちに話はつけてあるから、すぐに離れ小島まで運んでくれるはずよ」

「結構大きい船に乗れるんスかね!?」

「船かー、小舟とは違うんだろうなぁー……」

「こ、漕いだりできるのでしょうか。漕いでみたいですね……!」

「漕げんのかなぁ。見たところある程度のデカさだと全部帆船のようだが……まぁ乗ってみりゃわかるか」

 

 さてさて。肉眼で見える距離にある小島とはいえ、スクリューを積んでない船でどれくらい時間がかかるのやら。

 船酔いとか大丈夫だろうな……心配になってきたぜ。

 

 

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