バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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水着だらけの海水浴

 

 日が昇り明るくなると、ようやく一日が始まったなって雰囲気になる。人間の活性はここからだ。

 宿でダウンしていたウルリカも正気に戻り……俺たちはようやく、バカンスらしい時間を過ごすのだった。

 いや、何せ昨日は“アルテミス”全員狩りに勤しんでたもんな。仕事熱心なのも良いことだが、遊ぶ時はしっかり遊ぶのも大事だぜ。

 

「じゃーん! ほら見て水着!」

「いやウルリカのは部屋で見たしな」

「後ろに海があるでしょー!? 海と一緒なんだから全然違うよ!」

 

 二日目の昼にしてようやく水着を着ての海水浴と相なった。

 女子たちはおおはしゃぎ……というほどはしゃいでおらず、ウルリカのテンションだけが無駄に高い。

 

「モングレルさん、似合ってる? 可愛い?」

「似合ってる、可愛い」

「……ただの復唱じゃ心がこもってないなぁー。まぁギリギリいいけど。女の子を褒める時はもっと気の利いた言葉選んでよね」

 

 ただでさえ複雑な人生に新しいルールを追加しないでくれ。

 まぁ、新しい服は褒めるってのが大事なのはわかるけども。

 

「昨日は着れなかったもんねー、今日は沢山泳ぐぞー」

 

 ウルリカの姿は前に見た時と同じだ。赤いビキニタイプの水着にパレオを付けたスタイルである。だが、そんなものをつけていても男は男。ここまで露出が多くなると股間の膨らみが隠れていてもなんとなく腰回りや胸周りで男だなとわかってしまう。

 

「日焼け止めのクリーム、本当に効くのかしらね」

「侯爵家の宿が出すものであれば、下手な代物でもあるまい。シーナは惜しまず使っておけ。お前は白いままでいた方が良い」

 

 それに比べて向こうのシーナとナスターシャよ……。

 

 シーナは黒の、ナスターシャは白っぽい色の水着を着ている。

 二人ともスタイルが良いもんだから……こう、眼福だな。特に胸。たすかる。

 この光景は俺の心の中のアミュレットとして保存しておくよ。

 

「てい」

「痛ッて!」

 

 ガン見してたらライナにローキックされた。

 

「女の人の薄着をじっと見るのはどうかと思うっス」

「しょーがねーだろ男はそういう生き物なんだから。むしろ着替えた女の格好はよーく見てやるのが礼儀ってもんだろ」

「じゃあ私の格好……見れば良いじゃないスか」

 

 自分を引き合いに出そうとして途中で“やっぱそれは……”となる辺りなかなかへっぽこな奴である。

 ……まぁ、ライナもあれだな。紺色のなんかこう、まぁ子供向けって感じの露出面積では全然ない水着だけども……。

 体型がね……。

 

「ナスターシャの胸はでけぇなあ」

「ていっていっ」

 

 ライナの連続ローキックは必要経費と割り切って、シーナに睨まれるまでの間しばらくナスターシャの水着姿をガン見。

 まぁこんなもんで補給はOKかとなった辺りで、俺も海に入ることにした。

 もちろん俺も水着である。普通に短パンっぽい感じのやつな。ついでに足ヒレも持ってきたので、ここらでモモの試作品をテストしてやろうかと思っている。

 

「きゃー冷たい! あ、けど結構ぬるいかなー」

「ちょ、ちょっとウルリカ。あまり奥の方に行かないでよ」

「大丈夫大丈夫!」

 

 レオも俺よりは裾の短い黒の海パンを履いているが、上着としてライフジャケットのような簡単なものを羽織っていた。そっちは水着ではない。海に来たけど泳がない奴が上だけ服着てるみたいなアレである。せっかく来たんだから少しくらい行水していけばいいのにな。

 

「ごぼぼぼぼ……」

「違う違う、ライナそれだと溺れるぞ。ほらフロート持ってきてやったから、最初はこれに掴まって泳げ」

 

 浜辺の浅いところで波に翻弄されつつ、体を洗う。

 海の近くは良いな。風呂はないけどいつでも身体を最低限の清潔感に保つことができる。海水だけじゃ乾くとしょっぱいし大変ではあるが、桶一杯分の水でゆすげば完璧に綺麗になれるのだから楽で良い。そして俺たちには水魔法使いのナスターシャがいる。勝ったな、ガハハ。

 

「うわぁー……なんか足元でヌルヌルした変なの踏んじゃった……」

「大丈夫? ウルリカ」

「う、うん。少しベタつくのが出ただけだから……驚いただけ」

「毒のある生き物も潜んでいるかも。気を付けようね」

 

 昨日の夜、晩飯を食ってる時にメイドさんから聞いた話によれば、この辺りに超危険と呼ばれるほどの生き物はいないという。正確には浅瀬の続く砂浜辺りには居ない。

 逆に昨日“アルテミス”達が踏み込んだ島の裏側辺りには、ちょい大型の魚とか魔物がいるとのことだ。けどそこは波も荒いし普通に危ないから、そもそも泳ぐことはないだろう。

 何より岩山の裏面にはかつて大量の海鳥が巣を構えていたらしく、糞やら何やらで汚らしい見た目になっているようだ。

 新たに住み着いたムーンカイトオウルによって海鳥のほとんどは狩られ尽くしたらしいが、島の覇者が消えたと知れれば海鳥も再び戻ってくるだろうな。

 

「ウルリカ先輩! 結構早く泳げるようになったっス! ほら!」

「あっ、競争だなー? 負けないよ!」

「二人とも気をつけてねー!」

 

 ゴーグル無しの海中はぼんやりしているが、完全に見えないってほどでもない。顔をつけているとなんとなくだが、小魚の泳ぐ姿も見られる。

 

「澄んでて綺麗な海だなぁ」

 

 気泡を吐きながら独り言。まぁ綺麗は綺麗なんだが、逆に綺麗すぎても魚が寄らないっていうからどうにもな。この島にはそこそこ魚もいるらしいが、果たして釣れるのやら……。

 しかし、足ヒレはなかなか使い勝手が良くなった気がするな。海流に逆らえるかどうかまではわからんけど、ジャックナイフで潜ってみるとそこそこやりやすい……ような気はする。いや気のせいかもしれん。どうだろ。

 まぁ俺が使えてるならモノとしては良いんじゃないかね。

 

「ゴボボボ……」

 

 そんな感じで気楽に泳いでいると、目の前を筋骨隆々なゴリリアーナさんが泳ぎ過ぎていった。

 彫刻じみた肉体美がすごい勢いで水中を突き進んでいてちょっとビビった。すげぇ存在感だ……魂のサイズが違う……。

 

 

 

「皆様、こちらで冷えた果実酒や軽い食べ物の販売をしております。御用の際は是非お気軽にどうぞ」

 

 浅瀬ちゃぷちゃぷを満喫していると、宿の方でメイドさんの一人がまた新たなセールスを始めていた。

 積極的に営業をかける海の家みたいなもんである。実はあの宿の従業員、昨日の夜にも“楽しむなら水着などいかがですか? ”と売り込んでいたんだよな。俺たちが既に買っていたのを聞いてとても残念そうにしていたのが印象的だった。マジで隙あらば何か買わせようとしてくる。

 

 やれやれ。そんな見え見えの営業に引っかかる奴がいると思ってるのかね。

 困るねぇアーケルシア侯爵家は……。

 

「ブドウ水ひとつください」

「はーい」

「モングレル先輩がまた散財してるっス!」

「あ、じゃあ私もー!」

「……わ、私も飲みたいっス!」

 

 結局みんなジュース飲んだ。

 まぁそうなるわな。海ってのは喉が渇くもんなんだ。

 

 

 

 しかしある程度泳いだりしてると、さすがに飽きも来ようというもんだ。

 となると砂浜でまったりした遊びに興じるのがよくあるパターン。特にシーナとナスターシャとゴリリアーナさんは水遊びも早めに切り上げて、高い金出して宿に作ってもらった貝料理を食べていた。

 砂浜に椅子置いてのんびりバーベキュー。良いご身分である。

 

「ここらへんのサボテンに咲いてる花って食べられるらしいっスよ」

「へーそうなんだー。……でも咲いてないね?」

「あんまり咲かないみたいっス……白くて綺麗らしいっスよ」

 

 カクタス島はその名の通り、サボテンの多い島である。

 島の白い砂浜と土色の地面の狭間あたりでは、結構ポコポコとサボテンの姿が見られる。どこか昆布に似たひょろっとした薄い身体で、棘はほとんどない。ここまで野生化してるサボテンってのもあまり見ないので、ちょっと新鮮だ。

 

「鳥とかコウモリはその実とかも食べるみたいっス。人が食べても甘くて美味しいそうなんスけど、売ってはないみたいで」

「なんだ、そりゃ残念だな。食ってみたかったぜ」

「サボテンって成長が遅いんだっけ? 実ができるのもバロアより遅いんだろうなー」

「バロアの実はすぐにできるらしいね。僕も聞いて驚いたよ」

「マルッコ鳩しか食べないような不味い木の実っス」

 

 俺たちは水遊びの後、水着姿のまま島を散歩しているところだった。

 とりあえず海沿いにだらだらと砂地を歩く感じだな。時々ウルリカとレオがいい感じの流木を拾ったりぶん投げたりして遊んでいる。俺もそれやりたい。

 

「昨日見た岩山の裏面、すごかったなー……海鳥の糞が。木も結構枯れてたしさー……」

「っスねぇ。ムーンカイトオウルがいなくなってもあれじゃ見た目悪すぎっス」

「船長さんは向こう側の開拓がって言ってたけど、あれを綺麗にしようとすると大仕事になるよね。海鳥対策しなくちゃいけなくなるし……」

「そこらへんは俺たちに任務を出すための方便だったのかもな。まぁ、実際にやり難い魔物ではあったみてえだから、討伐してほしかったってのは本当だったんだろう」

 

 お、こっち側はまた少し離れた所に島が見えるな。向こうの小島はなんて名前なのやら。……よく見ると向こうにも城のような、砦のような施設が生えてるのがうっすらと見える。

 やはりアーケルシアの近くにある小島は全体的に管理されているんだろうな。盗賊や海賊が拠点にしないようにってこともありそうだ。

 

「多分ここの海鳥は、ムーンカイトオウルが来るまで天敵がいなかったんスね」

「あーそっか。こういう島だと他の肉食の動物とか魔物とかいなかったりするんだね」

「っス。普通は鳥を狙う生き物って沢山いるもんスけど、海に囲まれてると鳥にとっては楽園なのかもしれないっス」

「泳いでこれる生き物も多くはなさそうだもんね」

「人くらいかもしれないっスね」

「けど植物は色々生えてるんだよねー。考えてみれば不思議だなぁ」

 

 遠くで青白く霞んだ島をぼんやりと眺めながら、俺たちは暫し心地のいい潮風に吹かれていた。

 この辺りが裸足で歩いて来れる限界だな。こっからは足場の悪い磯だ。探検するにはちゃんとした靴を履くべきだろう。

 

「海鳥が本土で木の実なんかを食ってな。それからこっちの離島まで飛んできて、糞をしていくと……鳥が消化できなかった木の実の種なんかが糞の中から発芽する。で、島に植物が増えていく……とも言われているぜ」

「あー、なるほどぉ、そういう増え方もするんスか」

「だからこんなに離れてる島でも植物が沢山あるんだー……モングレルさん詳しいね!」

「そりゃ、俺はハルペリアで一番賢い男だからよ」

「っスっス」

 

 さて、そろそろシーナ達のいる砂浜まで戻るとするか。いくぞ若者組。飯の時間だ。

 

 




バッソマンがハーメルン内の作品で最も評価者数の多い作品となりました。ありがとうございます。
これからもよろしくお願い致します。

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