バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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追放された大盾使い

 

 あまりにも暑いため、仕事もそこそこにギルドの酒場で飲むことが多い。

 ここは夏はちょっと涼しめで冬は温かいからな。とにかく快適なんだ。

 

「アレックスの顔を見るのもなんか久しぶりだよなぁ。ミルコもだけど」

「いやぁ、最近レゴールから離れてばっかりで……お久しぶりですね、モングレルさん。あ、先日はどうも。お土産美味しかったです」

「クックック……街道警備もこう長く続くと堪えるな……」

 

 “大地の盾”のアレックスとミルコは任務続きで忙しそうにしていたが、今日は非番だったのか珍しくギルドに顔を出している。

 パーティーで世話してる馬も働かせ続けるわけにもいかないだろうからな。人間だって適度な休息が必要だ。

 

「今年はバイザーフジェールをちょくちょく見かけるんですよねえ……別に大変ってわけではないんですけども……」

「大した額にもならんからな……」

「魔物は食えない奴は儲けが渋いからなぁ。肝心の治安の方はどうなんだよ?」

「例年よりは悪いですねぇ。僕たち含めかなり執拗に巡回していると思うんですが、それでも幾つか犯罪者の集団を見かけましたし。小物の犯罪者ばかりでしたけど」

 

 それでもいることはいるのか。勇気のある犯罪者たちだな。

 いや、情報が入ってこないような環境にいるだけか。警備が厳重だって知ってたら悪いことなんてできねえだろう。……いや、短絡的な奴なんてこの世界にはいくらでもいるか。

 

「ま、実際に対人をこなせるのは貴重ではあるからな……ククク、勘が鈍らずに済むのだけは助かるといえば助かるが……」

「僕は何も起こらない方が助かるんですけどねぇ……」

「意外だな。ミルコはこの手の面倒事を嫌うと思ってたんだが。護衛なんてトラブルが起きない方が楽だろ」

「フッ……四足獣よりも人型の方がやりやすいからな」

「ええ、それだけですか……」

「それだけだぞ。あと簡単に倒せる相手でも割増手当が多めだから助かる」

 

 さすが対人戦に長けた“大地の盾”のメンバーだ。

 そこにドライな感性が加わって完璧なギルドマンになってやがるぜ……。

 まぁそのくらいの図太さがないと、この手の任務をストレス無くこなせないんだろうけども……。

 

「しかし、夏場の暑い中を延々と歩くのだけは……しんどいな……」

「まあ、だよな。結局夏はそれが一番しんどいわ」

「僕も同意です……」

 

 そう、つまり任務よりもギルドで酒盛り。これが一番ってことなんですよ。

 夏場の暑い時くらい下手にストイックにならず、適度に力を抜いて活動したほうが長生きできるってもんだぜ……いやマジで。こんな世界で熱中症になったらシャレにならんしね。

 

 

 

「ローサー! 今日限りで君をパーティーから追放する! “葡萄樹の守り人”はこれ以上君のようなお荷物ギルドマンとは付き合っていられないからな!」

「え、ええええっ!?」

 

 そうしてのんべんだらりと飲んでいると、何やら物語が始まっちまいそうな騒ぎが受付前で起こっていた。

 なんだなんだと顔を向けてみると、そこには二十代くらいの見慣れない若者パーティーが言い争っているところだった。

 

 人数は四人。

 今しがた追放宣言した槍使いの男が一人。弓を持った女が一人。杖を持った魔法使いらしき女が一人……。

 そして、追放宣言を受けているらしいローサーと呼ばれた大盾とショートソードを持った男が一人。……いや、違うな。あれはショートソードではない。あれは……バスタードソードだ!

 

「見ろよアレックス。あのローサーって男、バスタードソード持ってるぞ。やっぱ分かるやつにはわかるんだよなぁ」

「あの人今まさにパーティーから追い出されようとしてますけど……?」

「いやいや、バスタードソード使いに悪いやつはいねぇ。いざとなれば俺が助け舟を出してやるぜ……」

「面白い騒ぎだな……ククク、眺めていようか」

 

 この暑い季節になんて暑苦しいやり取りを見せてくれるんだ……俺たちは騒ぎに乗じてエールを追加注文し、成り行きを見守る姿勢に入った。

 

「今まではローサー、君の成長を見守るという温情の意味で置いてやっていたが……二つ目に修得したスキルが“盾撃(バッシュ)”では到底使い物にならない!」

「そ、そんな……! けど“盾撃(バッシュ)”はつい最近発現した俺の主力スキルで……!」

「その通りだな。だが結果どうなった!? 一つ目が“鉄壁(フォートレス)”で二つ目が“盾撃(バッシュ)”……マトモな火力スキルが無いじゃないか! そんなスキル構成の人間を養っていく余裕など、“葡萄樹の守り人”には無い!」

「そうよそうよ! ユージンの邪魔ばっかりして!」

「分け前とりすぎ……」

「う、ううっ……! で、でも俺はパーティーの盾役として……!」

 

 ああ……あのローサーって男、取得スキルで事故っちまったのか……。

 

「“鉄壁(フォートレス)”に“盾撃(バッシュ)”……軍では結構使えるんですけどねえ……」

「ククク……ギルドマンが最初にその二つだと辛いな……」

 

 そう。この世界にはスキルがある。だがこの世界のスキルは一朝一夕で身につくものではない。だいたいギルドマンのように戦闘に身を置く者で、十年に一度くらいのペースで身についていくものだ。

 あのローサーって男はちょうど20くらいだろう……そして最近になって二つ目のスキルを覚えたと言っていた。つまり、ローサーは今後下手すりゃ十年近く、新しいスキルを修得することができないということだ。

 

 スキルにも色々あるが、ギルドマンにとって特に重要なのは“強斬撃(ハードスラッシュ)”を代表とする火力スキルだろう。対人戦ではかなりオーバースペックを誇るものばかりだが、魔物と戦うにはそれくらいの火力がなければなかなか戦闘に貢献できないのだ。

 そして……スキルの取得傾向というものは、まぁ……それまで自分がやってきた戦闘スタイルだとか、相手を仕留めた方法だとかが関わってくる……と、言われている。

 それに沿って考えるとローサーって男は、かなり堅実というか、守り主体で戦ってきたのだろう。タンク役と呼べば聞こえは良いのかもしれないが……魔物相手に決定力が無いってのはかなりキツいなぁ。

 

「君の盾はそもそも大してパーティーに貢献していない! 後衛の二人が援護を通すまでの間は俺一人でだってなんとかなっている! 君のやっていることは横合いから盾で殴りつける程度で、その剣だってロクに振れていないじゃないか!」

「そうよそうよ! 突然射線に飛び込むことがあって良い迷惑だわ!」

「そのくせ魔物の注意も集められない……」

「そ、それは……!」

 

 あーそういう……。タンクとして魔物のヘイトを取れていないと……まぁそれはちょっと……あれですな……。

 

「あとたまに剣を使ったかと思えば、無茶苦茶に突き刺したり切りつけたりで毛皮や肉をダメにする! 大盾の持ち運びを理由に重い荷物を持とうとしない! 戦闘中は連携が取れず荷物持ちすらこなせない奴に分けてやる金なんて無いんだよ!」

 

 槍使いの男の悲痛な叫びであった。ガチモンの言葉である。

 公衆の面前でパーティー追放とか結構キツいもんがあるが、これだけ聞くと確かにつれぇわ。てかタンク役もマトモにこなせないなら荷物くらい持てって……。

 

「わ……わかったよ。パーティーからは抜ける……ユージン、エリカ、フローラ……今まで、迷惑をかけてすまなかった……」

「ふん。このレゴールでなら近くにバロアの森という稼ぎ場もあるから、君でも真面目に仕事すればやっていけるかもな。それすら駄目なら、アイアンクラスの雑務をこなして食いつないでいくことだな!」

「そうよそうよ! あんたみたいなトロい奴には討伐任務は向いてないわ!コツコツ肉体労働でもして堅実に稼ぐことね!」

「今のレゴールには働き口も多い……ギルドマンは諦めるのも、一つの手……」

 

 やいのやいのとローサーに言ってるけども、内容はすげぇまともだし親切だなこいつら……。

 “葡萄樹の守り人”……なかなか良いパーティーのようだな? ローサー君はまぁ抜きにして……。

 

「くっ……わかったよ。これでお前たちともお別れだ……」

「待て、ローサー」

「っ! なんだよユージン……まだ何か、俺にあるのか……?」

「パーティーから脱退する前に、その剣を置いていってもらおうか」

「なっ……!? これは俺の唯一の武器で……!」

 

 おっと、流れ変わったか……?

 さすがにメインウエポンを置いてけってのは不味いだろう。

 タンクメインでやっているとはいえその、バスタードソードは手放せねえよなぁ。

 

「ローサー、君は何を勘違いしているんだ。この剣は“葡萄樹の守り人”の共有資産で買ったものだろう。君は買った時に今度支払うからと言っていたが、常に博打と酒で金欠状態で返したためしがないだろう!」

「なっ……!?」

「そこは“なっ”じゃないだろ本気で怒るぞ」

「ご、ごめん覚えてます。はい……その通りです……」

 

 ろ、ローサー君?

 君ちょっと……いやだいぶクズ入ってませんか……?

 

「武器なしでやっていくのはさすがに無理だろうから、手切れ金として多少の銀貨はくれてやろう! それで自分の身の丈にあった武器でも買って、最初からやり直すんだな!」

「そうよそうよ! 身体強化もまともにできないアンタにその扱いにくい長さの剣なんて似合わないわ! 短槍からやり直すことね! キャハハハ!」

「こっちの返してもらった剣は……武器屋に売り払って今後の私達の活動資金に宛てる……」

「く……くそぉ……っ!」

 

 ローサー君は悔しそうに身を震わせ、そのまま弾かれるようにギルドを出ていってしまった。

 なんという鮮やかな追放劇だろうか。鮮やかすぎて勧善懲悪モノの劇を見終えた気分だぜ……。

 

「……モングレルさん、さっきバスタードソード使いに悪いやつはなんとかって言ってましたよね?」

「諸説は……ある……!」

「ククク……良いものを見れたな……しかしパーティー内でも金払いの滞る奴というのは危険だ。知り合いに“気をつけろ”とだけ声をかけておくか……」

「ですねぇ」

 

 大盾持ちの被追放ギルドマン、ローサー。

 戦闘センスが無いのだけは百歩譲ってギルドマンやめたら? って感じだが、パーティーに代金を立て替えてもらったまま返さずにいるのはマジでギルドマンやめたら? って感じである。

 俺たちギルドマンは繋がりが大切なんだ。その繋がりを、信用をないがしろにするような奴と組むことは絶対にできない。

 この酒場でのやり取りはすぐに広まって、ローサーと組もうって奴はほとんどいなくなるだろう。陰湿に思えるだろうか。残念ながらギルドマンとはそういうものである。命を預けているのでね……。

 

 

 

 余談であるがこの数日後、大盾に安物のショートソードを装備したローサー君の姿がちょくちょくギルドで見られるようになった。

 元パーティーメンバーの誰かさんが言っていた“短槍にしとけ”ってアドバイスを無視する姿勢に無駄な頑固さが感じられるぜ……。

 なかなか他のパーティーに入れてもらえず、一人寂しく任務を受けているらしいが……はてさて。

 真面目に続けて別のパーティーに入れてもらえるようになるのか、それとも腐って闇落ちしてしまうのか。

 

 ローサーがどうなるかは、彼の頑張り次第だな……。

 




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いつもバッソマンを応援いただきありがとうございます。

これからもどうぞよろしくお願い致します。

お礼ににくまんが踊ります。


((((ノ*・∀・)ノ(ノ*・∀・)ノ(ノ*・∀・)ノ フニッフニニッ

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