ディックバルトについて今更語る必要はあるまい。主戦場が夜で寝床な男である。
しかし“収穫の剣”の団長を務めているだけのことはあり、その実力は折り紙付きだ。
普段持ち歩いているグレートシミターは決して飾りではないし、連日連夜の娼館通いの資金をどうやって稼いでいるかといえば、相応の激務をこなしているからに相違ない。
「――ぬぅんッ! 押し込みが弱いッ! 加減はいらんぞッ! 腕相撲の時のように本気で責め立てろッ!」
「は……はいっ……!」
「――お前の弱さはその躊躇にあるッ! 迷いを消せッ! 意志を固めろッ!」
巨大な模擬刀が振るわれ、轟音を立ててぶつかり合う。
時々調子の良いルーキーなんかが片隅に置いてあるグレートシミターの模造刀を握ってふざけ半分で振り回すことがあるが、大抵の奴は力が足りずにすぐに諦める。長いし重すぎるしで、まともに扱えないのだ。
だが今打ち合っている二人は違う。ゴリリアーナさんは軽やかにグレートシミターを操り、ディックバルトの剣を砕かんばかりに叩きつけている。
その音はもはや練習とは思えない。修練場にちらほらといた連中は、二人の戦いを呆然と眺めるだけの観客と化していた。
「――良いぞ! だがもっと力強くッ! 時に緩急を付けながらッ! 単調な繰り返しでは相手が退屈するばかりだぞッ!」
……そしてディックバルトはというと……言葉の使い回しに若干の“ん?”みたいな部分はあるものの、非常に優秀な教官役として立ち回っていた。
普段はスケベな話とスケベな話の戦いの審判しかやってなさそうなディックバルトであるが、いざそれ以外のことをやらせてみると意外なほど普通というかまともなのである。伊達に同じパーティーメンバーから慕われていない。
「――もっと腰を使うんだ腰をッ!」
「くっ……!」
ディックバルトは年齢的にもギルドマンとしての経験もゴリリアーナさんを上回っている。それが同じ武器を扱っているのだから、二人の差は歴然だ。
「――足を地面から離しすぎるなッ! もっと艶めかしく地表を擦るようにッ!」
まぁだからこそディックバルトの指導はそのままゴリリアーナさんのためになるのだろうが……。
「――遠慮をするなッ! 俺に剣を当てるつもりで来いッ! 思い切り痛めつけるその覚悟こそが大事なのだッ!」
……けどやっぱなんかディックバルトが教えてるっていうだけですげぇ心配で目が離せないんだけど……。
いや良い教師だよ? 良い教師だけど紹介した手前なんかこう、万が一何かが起こった時に怖いっていうか……具体的にはシーナにブチギレられそうというか……。
「あ、あの二人……ゴリリアーナ、どうして彼と模擬戦なんてやってるのよ……」
あっ。噂をすれば影が差してきやがった。
俺の後ろからシーナの姿が……お、お仕事じゃなかったんすね。お疲れ様っす。
「……モングレル、貴方何か知ってそうな顔をしているわね」
「え? は? いやいやいや知らん知らん。わからんわからん」
「――ンホォオオオッ! 良いぞゴリリアーナッ! モングレルが紹介するだけのことはあるッ! 良い筋だッ!」
「は、はいっ! ありがとうございます!」
「ちょっと! やっぱりこれ貴方が関わってるでしょ!」
「いやーははは、まぁ待て落ち着け、俺は何も悪いことはしていない!」
実際悪いことはしてないんだ。だからシーナがこんなに怒り状態からスタートして詰め寄ってきてることそのものがおかしいんだ。
……けどディックバルトと関わらせて心配だって気持ちはすげえよくわかる。超わかる。
「……別にあのディックバルトが悪い人とは思っていないけれど。ゴリリアーナはまだ純粋な子なのよ! 彼に近づけたらどんな悪影響があるか……貴方だってわからないわけでもないでしょうに……!」
「い、いやこれは……そ、そうは言ってもだな、今以上の力を望んだのはゴリリアーナさんの方だぜ……? へ、へへ、俺はただ親切心で教えてやっただけだ……ディックバルトに師事すれば強くなるっていう、方法をな……!」
「くっ……!」
「選択したのは他でもないゴリリアーナさん本人だ……! シーナ、お前もここで俺と一緒に眺めているんだな……ゴリリアーナさんが強くなり、変化していく様子を……!」
「ちょっと、強くなるのは良いけどあまりおかしな変化は起こさないでもらえる!?」
「俺に言われても困るわ!」
そんなことを言い合っている間にも、ディックバルトは野太い雄叫びを上げ、ゴリリアーナさんはより鋭く剣を振り回していく。
お互いに身体強化ができるからか模擬刀での遠慮も少なく、時々腕や足にヒットするものの止まる様子はない。
繰り返すうちにゴリリアーナさんの剣戟は鋭くなり続け、彼女の中にあったリミッターのようなものが解き放たれてゆくかのようであった。
「――良いぞそこだァッ! もっと容赦なく! 貪るように! 獣のように責め立てるのだッ!」
「ぅ、ォ、■■■■■■ーッ!!」
やがてゴリリアーナさんの渾身の一撃がディックバルトの持つ模擬刀を粉砕し、遥か後方へとふっ飛ばしていった。
だがしかし、まだ模擬戦は終わらない。
「――さあ最後の仕上げだッ! 己の中の躊躇する弱さを完全に克服してみせよッ! ――そのまま俺の尻に、今日最高の一撃を繰り出してみるがよいッ! “
なにて?
と俺達が疑問に思うよりも早く、ディックバルトは丸腰のままケツを向け、そしてゴリリアーナさんは模擬刀をバットのように振りかぶり……。
「■■■■■■ーッ!!」
「ンッホォオオオオオオオッ!!」
ディックバルトに全力のケツバットを見舞ったのであった。
ゴリリアーナさんの操るグレートシミターが木片となって砕け散り、ハラハラと舞い落ちてゆく……。
両者の模擬刀が砕け散った。これにて試合終了である。
……いやていうかなんだよ今の一連の……何?
「――ォオオ……素晴らしい――……見事、己の限界を超えてみせたな……ゴリリアーナよ……――」
「はあ、はあ……はいッ……!」
「――己の堅い殻を破り、超越する……それこそがお前に足りぬ大きな一つであった――……また剣の道で思い悩むことができた時……あるいは二時間三千ジェリーで休憩しても良いという時……この俺を呼ぶが良い。俺はすぐに駆けつけるだろう――」
そう言い残して、ディックバルトはクールに去っていった。
いやクールか? わからん。わりと最低な言葉をナチュラルに残していった辺り平常運転な奴だ。
……というか模擬刀が二本ともお釈迦やん……これグレートシミターのサイズともなると結構高くつきそうだなぁ……。
「……ゴリリアーナ、お疲れ様。大変……な相手だったわね」
「はぁ、はぁ……あ、シーナ団長……お、お疲れ様です……はい……」
ゴリリアーナさんは長時間に渡る全力の特訓でバテバテであった。
最後の方はさておき、ディックバルトの指導は良かったらしい。疲れ切ってはいるものの、ゴリリアーナさんはどこか晴れ晴れとした表情をしている。
「……私、今の戦いで……強くなれました……ま、また一歩……前に進めたと……思います、はい」
「それは良かったわね……でも大丈夫? ディックバルトに変なことされてないでしょうね……?」
「いえ、特には……」
「何かされそうになったらアレクトラに言いつけるんだぞ。あいつ色々と相談に乗ってくれるからな」
「あ、いえ、大丈夫です……それに、ディックバルトさんくらい強い男性にだったら、私……」
ああそう。大丈夫……んんん!?
ご、ゴリリアーナさんがどこか……ちょっと、わずかに乙女っぽい表情を見せている……!?
「ちょ、ちょっとゴリリアーナ、一体何を……? まさか、あの男と……!? わ、悪いことは言わないわ。考え直したほうが良いんじゃないかしら……だって彼、ほぼ毎日娼館に通っているような男だし……」
「そうだぞゴリリアーナさん。いくら英雄でも乗り越えられる試練と乗り越えられない試練があってだな……」
「……わかっています。私はまだ弱いですから……つ、強くなって、もっともっと強くなって、ディックバルトさんと肩を並べられるくらいの膂力を身に着けなければ…とても振り向いてはもらえないでしょうしね……」
いや……そういうアマゾネス的尺度でディックバルトは女を評価してないと思うけどな……?
「それに……つ、強い男性が色を好むのは当然のことですから……そういうことについては、私はあまり気にしていません……」
「色を好むってもさすがに限度があると思うけどな俺は……」
「ゴリリアーナ……日頃から強い男の人が好みだとは言ってたけれど、まさかあの男でも平気だなんて……毎日別の女と一緒に寝ているのよ……?」
「ま、まあ、そうですね。それが好ましいというわけでは、ありませんが……」
ゴリリアーナさんはニカリと……どこか凶悪に見える顔で微笑んでみせる。
「私にとって、想い人は……それまでがどうであったとしても、最後に私の横にいれば良いものだと、思っていますから……」
……いやもうそれ、漢の中の漢のセリフじゃん……。
「……全くもう。ゴリリアーナったら……貴女みたいな良い子には、もっと良い男と付き合って欲しいものだわ」
「ふ、ふふ。ありがとうございます……」
まあ、なんだ。
ディックバルトは悪いとは思ってないけど、特別ディックバルトにターゲットを絞っているわけではないってことかな、この感じだと。
……もしそうなら俺は、ディックバルト以外の男をおすすめするぜ……悪いことは言わんから……。
エロ漫画的世界観とバトル漫画的世界観じゃ相性良くないて……。
当作品のUAが9,000,000を超えました。
いつもバッソマンを御覧いただきありがとうございます。
これからも応援よろしくお願い致します。
( *-∀-)且 ムフ